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三番目

十六章……開始です。

 街道を進んでいた俺たちはフィアの案内で道を外れ、道なき森を進んでいた。

 当然ながら馬車では進めなくなるので、途中で降りてしっかりと隠蔽してからである。

 荷物は出来る限り少なくしているし、重たい荷物はホクトが運んでくれるので、俺たちは無理なく移動が出来ていた。

 何より俺たちには森の民でもあるエルフのフィアがいるので、森で迷う事は一切無い。

 時折襲ってくる魔物を撃退しながら、彼女の案内で森を進み続けて二日が過ぎた頃……俺たちは森を横断するように伸びる川へと出ていた。

 川の周辺は木々が生えていなくて見晴らしが良いので、ここで一旦休憩をする事にした。

 そして各々が自由に休憩をしていると、フィアが近くの岩に座って俺に笑みを向けてきた。


「ねえシリウス。ここ、覚えているかしら?」

「ああ、ここだったか。懐かしいものだ」


 俺とフィアが互いの能力を話し合い、友達となったのがこの場所だ。

 あれからもう十年近く……時が過ぎるのは早いものだ。

 そしてフィアと再会したのは最近なのに、もう何年も連れ添っているような感覚がするな。


「何だか不思議ね。貴方と再会してまだ半年も経ってないのに、何年も一緒にいた気分よ。それだけ楽しい日々を過ごしていた証拠よね」

「奇遇だな。俺も同じ意見だよ」

「ふふ、まあ私たちの人生はこれからよね」


 気付けばエミリアとリースがこちらを興味深げに眺めていた。


「あー……ごめんね。皆を置いてきぼりだったわね」

「いいえ、思い出に浸るのは仕方がない事だと思います。特にシリウス様との思い出なら尚更ですね」

「シリウスさんとフィアさんはここで出会ったの?」

「正確に言うと森の中だけど、お互いの秘密について話し合ったのがここなのよ」


 そしてフィアはエミリアとリースに、俺たちとの出会いについて語っていた。

 すでにある程度は話しているが、現場ではまた違うものである。

 空を飛んで感動し、精霊が見えるのがばれ、俺の特殊な魔法について教えてもらった時の事をフィアは楽しそうに語っていた。


「ここでワイバーンをあっさりと倒したシリウスの後ろ姿に私は呆然としてたけど、釘付けになっていたわね」

「わかります! 私がシリウス様と初めて出会ったあの時……飛び込んできたシリウス様の背中は絶対に忘れられません」

「わ、私も……迷宮や結婚させられそうだった時に助けにきてくれた姿を忘れられないな」

「そして大きな力を持つのは私一人じゃないんだって、そう気付かせてくれたシリウスに惚れちゃったみたいなのよね」


 彼女たちの惚気話を聞き流しながらお湯を沸かしていると、隣に座っていたレウスが興味深そうに聞いてきた。


「なあ兄貴。初めてフィア姉に会った時、兄貴はフィア姉をどう思っていたんだ?」

「ふむ……美人だとは思っていたけど、当時は子供だったから、恋人だとかそういう対象とは思っていなかったな」

「そっか……俺と同じようなもんか」

「……同じ?」

「いや、マリーナやノワールへの気持ちがわかったからなんだけど、あの屋敷に住んでいた頃の俺ってノエル姉に恋をしていたんだなって最近になって気付いたんだ」

「何だと?」


 ここにきて衝撃の事実が飛び出してきた。

 思い出してみれば……ノエルの方が本当の姉じゃないかと思うくらいに懐いていた。しかしレウスはそんな素振りを全く見せなかったし、本人ですら気付いていなかったので俺たちも気付けなかったようだ。


「だったら、ノエルがディーと結婚した時はどう思っていたんだ? 悔しかったんじゃないのか?」

「それが全くないんだよ。ノエル姉とディー兄はお似合いで結ばれてほしいと思っていたからさ、結婚した時はとにかく嬉しくてそれ以外に何も無かったなぁ」


 中々複雑な状況のようだが、つまりレウスはノエルだけじゃなくディーも同じくらいに好きだったのだろう。本人の気付かぬ内に失恋もしているわけだが、持ち前の天然と恋への無知ゆえに歯痒い思いすらしなかったようだ。

 こちらとしては複雑な気分だが、嫉妬するレウスを見るのも何だか嫌なので良かったと思っておくか。

 いや……待てよ?

 もしかして嫉妬と失恋を味わっていれば、レウスはこんなにも天然な男に育たなかったかもしれない。


「クゥーン……」

「……よしよし」


 まあ、たらればを今更考えても仕方あるまい。

 今はマリーナとノワールがいるし、きちんと気持ちに気付けるくらいに成長したのだからそれでいいだろう。

 とりあえず、近寄ってきたホクトを撫でて心を落ち着かせるのだった。






 更に数日掛けて森を進み続け、俺たちは遂に目的地へと到着した。

 鬱蒼とした森が突然途切れ、草原が広がるこの場所こそ十年前にフィアと別れた場所に間違いない。


「ありゃ? 突然木が消えたぜ?」

「本当。不思議な草原だね」

「里を覆う森が出来た影響らしいわ。あそこに見える森の奥に私の故郷があるのよ」


 フィアが指した草原の先には、今まで通ってきた森とは明らかに違う雰囲気を醸し出す森が見える。

 確かあの森には侵入者を瞬時に感知し、エルフ以外を迷わせる結界が張られていたと言っていたな。

 そして結界の影響か『サーチ』を放っても反応が鈍い。森の中は魔力が常に流動していると言うのか、とにかく魔力の反射波が正確に返ってこないのだ。

 まあ『サーチ』に頼らない気配察知も身に着けているし、今のところ森に入る予定はないから問題はないだろう。


「あの時も思ったけど、本当に不思議な森だな」

「森には入らない方が良いんですよね?」

「そうよ。森に入ったら迷うだけじゃなく、すぐ皆が駆けつけてきて襲ってくるわ。今の私だと声すら聞いてくれないと思うから、絶対に入っちゃ駄目よ」

「シリウスさんとフィアさんは飛べますよね。空から入る事は出来ないんですか?」

「木々が邪魔で里が見えないから無理よ。実際に私が試したからね」

「面倒な森なんだな。それで、ここからどうするんだフィア姉?」

「精霊に声を届けてもらって、父さんに森の入口まで来てもらおうと思っているんだけど……」


 フィアはエルフの上位種であるエルダーエルフに見初められ、結婚を迫られたので逃げ出した。

 つまり故郷では犯罪者でもあるので、家族を呼び出す事に抵抗があるようだ。


「まあ焦って決める必要はないさ。今日はもう遅いし、ここで野営をしよう。その間にじっくり考えてくれ」


 空を見上げれば日は沈み始め、そろそろ野営の準備を始める時間帯であった。

 今から呼べば夜も遅くなるし、今日はじっくり休むべきだろう。

 フィアの父親を呼んだのに仲間を連れて襲ってくる……そんな万が一にも備えて逃げ出す可能性も考えておかないとな。


「ええ、明日までには決めておくわ。皆もごめんね。本当なら家に招いて歓待してあげたいんだけど、エルフって余所者には厳しいし、何より今の私は里に入れないから」

「私たちの事は気にしなくて結構ですよ。それに家族の無事が気になる気持ちはわかりますので」

「ここに来るまで色んな景色が見られたし、私たちは来て良かったと思っているよ」

「ふふ、ありがとうね」

「それじゃあ、手分けして準備をするか」


 俺の言葉に全員が頷き、ホクトの背中に乗せていた野営道具を下ろしてから役割分担を決める。


「途中で見たあの美味そうな鳥……まだいるかな?」

「川はないけど精霊が活発ね。木が水を蓄えてる御蔭かな?」

「そっち、引っ張ってくれ」

「このくらいかしら?」

「シリウス様、本日使用する分はこれくらいでしょうか?」


 レウスは通ってきた森へ再び分け入り、リースは調理や片付けで使う水として携帯式の浴槽に水を注いでいる。

 残ったメンバーで何度も組み立ててきたテントを設置し、料理の準備を始めるのだった。


 それから手分けして準備を済ませ、食事が終わった後はくじで見張りの順番を決めてから就寝となった。

 寝ていても感知力の高いホクトがいるので見張りなんて意味がない気もするが、理由が無い限りは持ち回りで行うようにしている。何よりホクトに甘えていたら駄目だろう。


「じゃあ、先に寝るぜ兄貴」

「ああ、おやすみ」


 先程まで見張りだったレウスと交代して焚火の前に座れば、テント前で寝ていたホクトが俺の背中にくっ付くように寄り添ってきて寝転がった。俺が見張りの時は、必ずこうして背もたれになってくれる可愛い奴だ。

 そんなホクトを撫でながら、俺は思わず星が輝く夜空を見上げていた。


「異世界だろうと星の輝きは同じ……か。けど位置が全然違うものだな」

「クゥーン……」

「ああ、別に寂しいわけじゃないさ。星座が少し気になっただけだよ」

「ふふ、星が綺麗ね……」


 星座以外にも残してきた弟子たちも気になったが、誤魔化すように薪を焚火に放り込んだところで、フィアがテントから出てきた。

 フィアの順番は俺の後なんだが、出てきた様子から何か話したい事があるのだろう。俺が手招きすれば、フィアは笑みを浮かべながら隣へとやってきた。


「ごめんねホクト、ちょっと体を預けるわね」

「クゥーン……」


 ホクトに許可を貰って隣に座ったかと思えば、フィアは俺の右腕にくっ付いて肩に頭を乗せてきたのである。

 彼女は偶にこういうスキンシップをしてくるので、どうしてほしいのか何となくわかる。右腕をフィアの肩に回して抱き寄せてあげれば、フィアは満足そうに笑いながら頬を擦り寄せてきた。


「ふふ……うん。やっぱりこうされるのって安心するわね」

「それで、何か言いたい事があるんじゃないのか?」

「うーん……別にないかな?」

「おい」

「冗談よ。ちょっとだけ……不安なのよね」


 彼女はぽつぽつと心情を語ってくれた。

 父親の御蔭で里から逃げる事は出来たが、その後父親は無事なのか?

 そして碌に別れも言えなくて去る事になった事が気になっているらしい。


「父さんは里の族長でもあるから、逃げ出した私を受け入れちゃ駄目な立場だからね」


 エルフの上位種であるエルダーエルフに反抗してまで逃がしてくれた点から、父親がフィアを愛してくれているのはわかる。

 ただ……明日になって無事だった父親を呼んで、立場のせいで仕方なく攻撃される可能性を考えると寂しいらしい。


「だからって、エルダーエルフに嫁ぐ選択は絶対にありえなかったわね」

「君らしい言葉だな」

「それに貴方たちと旅をするのは楽しいから、里から逃げた事は後悔していないわ」

「……そうか」


 こればかりは気持ちの問題なので、彼女自身が整理して受け入れなければならない事だ。

 だから俺はなるべく言葉を挟まず聞き手に回り、彼女が少しでも楽になれるようにと、肩に回した手で頭を撫でていた。


「エルフって長命だけど出産率が低いでしょ? だから孫なんて滅多に拝めないから、私たちの子供を父さんに見せてあげたいと思っているの。でも……堂々と里に行ける時には貴方が隣にいないのよね」

「俺も君の父さんにはしっかりと挨拶しておきたいが、ままならないものだな」


 確かフィアの罪状は里から百年近くの追放なので、それが解ける頃には間違いなく俺は生きていない。子供を連れて挨拶に行けるのは不可能だろう。

 それからしばらくエルダーエルフに対する愚痴やら、最初は男の子が欲しいと脱線しつつも話し続けたフィアの表情は満足気だった。


「はぁ……スッキリしたわ」

「そりゃあよかった。ところで明日はどうするか決めたのか?」

「ええ、決めたわ。色々迷ったけど、無事を確認できればいいから父さんを呼ぶ必要はなかったわね」


 君がそう決めたのならそれでいいので、俺は黙ってフィアを抱き寄せてやった。

 さて、そろそろ見張りの交代が近づいてきたが……。


「フィアは眠らなくて大丈夫か? まだ交代まで時間はあるぞ?」

「そうね……何か安心したら眠くなってきたわ。軽く眠るから時間がきたら起こしてね」

「わかった。そのまま寝るといい」

「うん……ありがとう……ね」


 今日一日歩き続けた疲れと、色々と抱えていたものが解消された御蔭か、フィアはすぐに寝息を立て始めた。

 抱き付いたままあどけない寝顔を見せてくれるフィアを起こさないよう、俺は再び薪を焚火へと放ってからホクトを撫でた。


「見張りは延長だな。ホクト、もうしばらく付き合ってくれ」

「オン」






 次の日、俺の隣で寝ていたフィアを羨み、エミリアが俺の肩を噛んでくる事件はあったが、全員起きたところで朝食となった。

 今朝のメニューは様々な野草と香辛料を入れて煮込んだスープに、小さいパンを一人当たり三個といったメニューである。

 全員へ配膳が終わり、いただきますと号令を掛けたところで、レウスは自分のパンが一個減っている事に気付いた。


「……あれ? おかしいな。さっきは三個あった筈ー……って、兄貴か!」


 そして少し遅れて、レウスは俺のパンが四個になっている事に気付いた。

 俺が隙を突いてレウスから盗ったのだが、別に食べたかったわけじゃないし、意地悪をしたかったわけでもない。

 これはレウスへの新たな訓練の一環なのだ。


「油断したようだな。手元が留守だったぞ」

「くそう……難しいなぁ」


 食事時だろうと、最低限の警戒と気配を行う訓練である。

 勿論、常に気を研ぎ澄ませていたら疲労が取れる筈がないが、俺が言うのは完全に気を抜く一歩手前の感覚で、薄皮一枚のような気配察知の話だ。

 それを体に覚え込ませるわけである。


「これに慣れれば、休みながら自分を守れるようになる。ゆっくりでもいいから、確実に身に付けるんだぞ」


 常人からすればかなり無茶苦茶な話ではあるが、それで俺は何度も生き延びてきたのだ。

 最終的に、自分の周囲に迫る敵意には無意識下でも反応し、防御……または迎撃できるようになってもらいたい。


 それに俺はまだ優しい方だ。何せ師匠は食べ物だけじゃなく、ゴム弾を装填した銃で狙ってきたからな。風呂でゆっくりとしていた時に撃たれたあの痛みは、転生しても忘れられない。

 色々と言い聞かせてからパンを返そうとしたが、レウスは首を横に振って断った。


「いや、そのパンは諦めるよ兄貴。俺の油断だからさ、もっと危機感を覚えないといけないし」

「お前がそう言うなら。だけど俺は四つもいらないから、昼にでも回すか」

「そうだ! 良かったら姉ちゃんたちもやってみてくれよ。少しでも感覚を覚えたいからさ」

「良い心掛けですねレウス。わかりました、私も手を貸しましょう。ですが食べ物を粗末にするような事はしませんよ」

「楽しそうね。私は精霊に頼んでみようかしら? 静かに浮かせる練習として……うん、私の訓練にもなるかも」

「もぐもぐ……」

「…………あれ?」


 レウスのパン……残数無し。

 そしてリースのパンは三つ。

 つまり……。


「……リース姉?」

「油断しちゃ駄目よレウス。食事は時に戦いなんだからね」


 実は盗む現場を見ていたのだが、見事としか言えない早さー……いや、気配の殺し方だった。

 そんなリースの真剣な表情に、レウスは何も言い返す事ができなかった。


「……ほら」

「……兄貴!」


 余りにも可哀想だったので、とりあえずパンは返しておいた。


「はい、私からも返すね。今度は気を付けるんだよ」

「……リース姉! おう!」


 返してくれたパンを受け取ったレウスは、尊敬するように目を輝かせていた。二人の上下関係は絶対だと思わせる光景である。


 後日行われた家族会議の結果、食事時の訓練は俺だけという事に決まるのだった。

 レウスの分が食い尽くされる可能性もあったので。




「スープだけより、パンを浸けて食べる方が何倍も美味しいわ」


 ちなみにこの世界でパンをスープに浸けて食べる場合は、硬くて食べ辛い保存食用のパンを食べ易くする為だ。しかし俺が作ったものはパンに合う味も含め、少し濃い目に作ることによってちょうど良い感じに仕上げてある。

 俺が欠伸を噛み殺しつつ食事を続けていると、先に食べ終わってエルフの里の方角を眺めていたレウスがフィアへと顔を向けた。


「なあフィア姉。結局これからどうするんだ? 確かフィア姉の父ちゃんを呼ぶ筈だろ?」

「そうね、父さんだと面倒事になるかもしれないから、私の友達を呼んでみようかと思っているの」

「フィア姉に友達がいたのか?」

「失礼ね。友達くらいちゃんといるに決まってるじゃない」


 失言によりフィアから軽い拳骨をもらっているが、俺も少しだけ思ってしまったのでレウスを咎める権利はなかった。

 それにしてもフィアの親友か……。


「大らかで器の大きい人か、面倒見が凄く良さそうな人だろうか?」

「……わかる気がします」

「私も」

「何でそんなに断定するの?」


 とにかく自由奔放なフィアだからな。

 面白いものを見つけては突撃し、突拍子の無い事に付き合わせられて振り回されそうなので、そういう類の人じゃないと付き合うのは厳しいと思うわけだ。


「まあいいわ。さっき精霊に声を届けてもらったから、そろそろ来ても良いと思うんだけど……」

「その子は森を出て大丈夫なのか?」

「私より年下の子で、仕来りの旅にまだ出ていないの。近場くらいなら少し出てきても大丈夫よ」


 フィアが大丈夫だと言うなら問題あるまい。

 それにしてもフィアとロードヴェルに続いて、また新しいエルフか。

 性格は想像したものの、一体どんなエルフなんだろうかと考えていると、フィアが俺の隣に座って体をくっ付けてきた。


「少し思いこみの激しい子で暴走をよくするけど、素直で良い子よ」

「おい、暴走という言葉が出てくる時点で怪しいんだが?」

「シリウスの凄さに比べたら軽いものよ。あ、ついでなら恋人にしちゃっても良いわよ。懐いてくれたら凄く可愛い子だから」

「おい、勝手に決めてー……」


 本人の意志を全く無視するフィアが俺の腕に抱き付いたその瞬間、俺は『ブースト』を発動させながら顔の前で腕を振るっていた。


「兄貴!」

「オン!」


 俺の手に握られていたのは一本の矢であった。

 それを確認すると同時に、森の方角から再び矢が放たれるが、レウスとホクトが前に飛び出て全て叩き落としてくれた。


「シリウス様!」

「敵なの!?」


 エミリアはナイフに手を伸ばしながら俺の横に控え、リースは驚きながらも水の玉を生み出して戦闘態勢を整えていた。

 そして俺の腕にくっ付いたままのフィアは……。


「……何をやっているのよ!」

「きゃっ!?」


 フィアが腕を振れば強風が巻き起こり、森から何かが飛び出してきて俺たちの前に転がってきたのである。

 それはフィアと同じ特徴を持つエルフの女性であった。

 何度も地面を転がり、ようやく止まった時には目を回していたようだが、すぐに立ち上がったエルフは先程の無様な転びっぷりを取り繕うように弓を構えてきた。


「そ、そこの人族! すぐにエルフから離れなさい!」

「いや……俺じゃなくて彼女からくっ付いているんだが……」

「言い訳は無用です! 人族はエルフを凌辱し、ペットのように飼うのが当たり前だと私は知っているのです! そのエルフを飼うのは決して許しません!」

「はぁ……少し冷静になりなさい」

「人族に飼われるくらいなら私がー……むぎゅ!?」


 再びフィアが腕を振れば、相手の上空から圧縮した風が降ってきてエルフを地面に叩きつけていた。加減はしていたようだが、顔面から地面に倒れたので痛そうだ。

 その間に観察してみたが、少し黄色が混じった緑色のショートヘアーのエルフでリースよりも背が小さい。まだ子供だと言っても通じそうな子だった。

 しばらくして顔を上げたエルフは涙を浮かべながら、恨めしそうにフィアを見上げていた。


「お、お姉様……どうして?」

「少しは落ち着いたかしら? ほら、私は自分の意志でこの人にくっ付いているし、他の子たちは皆仲間よ」

「う……うう。お姉様が……男に……」

「ああ……聞いてないわね。また暴走しているわ」

「フィア……もしかして彼女が」

「ええ、この子の名前はアーシャ。私の友達で、里では妹分だった子よ」


 地面に伏し、悔しそうに涙している姿がちょっと情けないが、これが俺たちとアーシャとの出会いだった。




 今日のホクト



 夜の見張りがご主人様の時は、ご主人様の背もたれになるのがホクト君の習慣です。


 こうしていれば撫でてもらえるし、何よりご主人様の役に立てると実感できるからです。

 更に尻尾を差し出せばブラシで梳いてくれる時もあるし、ホクト君にとって至福の時間でもありました。


 そんなホクト君ですが……現在、無心でソファーに徹していました。


 何せご主人様とフィアさんが自分にもたれながら仲良く談笑していて、とっても良いムードだからです。

 自分が激しく動いてこの空気を壊すわけにはいかない……ホクト君はソファー役に徹し続けていた。


 それからしばらくして、見張りの順番が回ってきたエミリアが二人を見て驚いていました。


「シ、シリウス様!? それにフィアさんまで……」

「すまん。少し疲れているようだから、寝かせてやってくれ」

「ず、ずるいです……」

「ほら、お前もおいで」

「……はい! ホクトさん、私もよろしいですか?」

「……オン」


 結果、ご主人様の両手にエミリアちゃんとフィアさんが寄り添う形となりました。


「よしよし……もう少し頼むな」

「……オン!」


 ホクト君は我慢の子。



 ※ちなみにホクトは同じ姿勢がちょっと辛いだけで、三人乗ったって重いと思っていません。







 諸事情により、今回は短くなっています。

 続きは明日投稿します。




 今日中に重版記念について活動報告を挙げます。



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