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閑話 その後……

 ――― ノエル ―――






「今日は野菜炒めだ。簡単に見えるが己の腕前が明確に表れる料理だ。気を引き締めなさい」

「はい!」


 今日も今日とてノワールちゃんの料理修行が始まりました。

 エリナ食堂を閉店した後、ディーさんとノワールちゃんが調理室で料理を作っています。

 ディーさんが見本を見せて、次はノワールちゃんだけで作らせてみたり……とってもスパルタな修行が続いています。


「うむ……上達したな」

「本当!? ふふ、またレウス様の従者に近づけたよね!」


 そんな頑張っている我が娘の姿を、私はノキアちゃんとアラドと一緒に物陰から見守っていました。


「今日も頑張っているわね。もう料理に関しては、お姉ちゃんより上手じゃないの?」

「失敬ですねノキアちゃん。ノワールちゃんはまだ子供なんですよ。エリナさんの教育を受け、大人である私に勝てるなんてー……」

「でもこの間ノワールが作った卵焼きは、姉ちゃんが作ったのより崩れてなかったし美味かったぜ?」

「……成長しましたね、ノワールちゃん。お母さん嬉しいわ」

「誤魔化すな! 負けを認めなさい!」


 妹と弟が騒がしいですが、娘の成長を喜ばない親はいません。私より上手なのは些細な事なのです。

 それにノワールちゃんはレウ君のお嫁さんだけじゃなくて、もう少しでお姉さんになりますから凄い張り切っています。

 暖かい気持ちになりながら、私は干し肉を取りだして齧りました。


「もぐもぐ……この調子ならレウ君のー……もぐもぐ……胃袋を掴めー……もぐもぐ」

「食べるか喋るかどっちかにしてよ」

「だってお腹が空くんだから仕方がないでしょ。お母さんになればわかるわよ」

「くっ!? わ、私には何も言い返せない……」

「姉ちゃん、姉ちゃん。あまり騒ぐとー……」

「すでに騒がしい」

「「お疲れさまでした!」」


 ノキアちゃんとアラドが逃げるように走り去りました。

 見守ってる私たちが騒がしくて、ノワールが集中できないからとディーさんに何度も叱られた事があるからです。だってディーさんは料理になると本気だもの。それがまた格好良いんですけど。

 とにかく私も逃げたいところですが、ここが我が家である以上は逃げても無意味です。私は観念して飛び出し、ノワールちゃんの料理の出来を確かめてみました。


「お、美味しそうな野菜炒めね! ノワールちゃんは天才だわ!」

「……全く。ノエル、一緒に食べよう」

「うん! お母さんも食べて食べて!」

「あなた。ノワールちゃん……うん、お母さんもいただくわね」


 もう少しで臨月を迎えるお腹を擦りながら、私はノワールちゃんの野菜炒めをいただきました。

 美味しいけど……これはレウ君の為に作った料理。私の為に作ったわけじゃないのが寂しいな……なーんて思うのは我儘ですよね。

 ちょっと複雑な気分だけど、美味しいから……別にいいか。




 数日後、その日は食材の在庫が少なくなったので少しだけ早く閉店の看板を下げました。

 ディーさんもお疲れですし、偶にはこういう日も良いものです。

 そして片付けの前に全員で食堂内のテーブルで休憩していると、看板を下げているのに人が入ってきました。


「よう! 今日は早く閉めたんだな」

「……ガッド?」

「あれ、珍しいですね?」


 ガルガン商会の従業員が定期的に食材を運んでくれますが、ガッドさんは最近どこか遠くへ足を運んでいるのか、ここへ来る頻度が減っています。

 なので珍しがっていると、ガッドさんは疲れた様子で用意した椅子に座りました。


「アドロードを何度も往復してっから忙しくてな。やれやれ、やっぱりお前等といると落ち着くぜ」

「お前の家じゃないんだがな。何か食うか?」

「おう、頼むぜ。食材はいつもの所に降ろしておくぞ。あと……俺がきた本題はこいつだ」


 ガッドさんは懐から手紙が詰まった袋を取り出してテーブルに置きました。

 あれ? この手紙の字は……。


「旦那たちからの手紙だ。直接会ってねえが、伝手を通して俺の所へ来たってわけだ」

「シリウス様から!?」

「おお!」


 すでに遠い地ですから手紙なんて無理かと思っていましたが……思わず感動してしまいました。

 シリウス様の分にエミちゃんの分。そしてレウ君にリースちゃんの分と、皆が別々に出してくれるので嬉しい。これは読むのが楽しみです。


「……一枚多くないか?」

「あれ、そうですね。えーと……シェミフィアーって誰でしょう?」

「あの人たちの中にそんな名前の人がいたかしら? 狼はホクトさんだし」

「ああそれな。聞いた話によれば、旦那たちの仲間にエルフがいたらしいぞ。その人のじゃないか?」 

「「エルフ!?」」


 そういえば、シリウス様は子供の頃にエルフの方と会ったと言っていましたね。

 もしかしてそのエルフじゃあ……。 


「美人でした?」

「だから俺は見てねえって。まあ、知り合い曰く……凄い美人だったそうだ」

「ふむ、シリウス様らしいです。早く帰ってきてほしいですね」

「全くだ」

「おっと、ちょっと待ちな。実はもう一つあるんだ」


 もう一つ?

 首を傾げている私たちを置いて、ガッドさんは小さな木箱を取りだしたのですが、私とディーさんじゃなくてノワールちゃんに渡したのです。


「ガッドさん、何これ?」

「そいつはお前さんの分だ。愛しのレウス様からだぞ」

「レウス様!?」


 ノワールちゃんの目が輝き、木箱を開けてみれば……中には手紙と赤い宝石が付いたペンダントが入っていました。


「わぁ……綺麗!」

「そ、そんな!? レウ君が……贈り物をしてくるなんて!」

「ど、どういう事だ!? ノワール、手紙を読んでくれ!」

「うん。えーとね……」


 レウ君に一体何が!?

 焦る私とディーさんを気にせず、ノワールちゃんは満面の笑みで手紙を読み始めました。


「えーと……ノワールは俺にとって大切だからこれを送る……だって。えへへー……」

「こ、これは……あなた!」

「うむ……」


 私はそれぞれのシリウス様たちの手紙を読み、少しでも情報を探しました。

 そして……レウ君が精神的に大きく成長し、新たな恋人が出来たのが判明しました。


「マリーナちゃん……ね。まさかレウ君にー……ううん、別におかしい話でもないかな?」

「そうよお姉ちゃん。シリウスさんの陰に隠れているけど、レウスって結構町でもてていたわよ」

「俺も聞いた。シリウスさんたちが滞在中、町の女性からレウスさんの事を何度も聞かれたぜ?」


 マリーナちゃんは狐尾族フォックステイルの可愛らしい女の子らしいけど、ちゃんとこっちにペンダントを送っているから、ノワールちゃんの事をきちんと考えてくれているみたいね。

 それにレウ君なら女の子の一人や二人くらいいたって大丈夫でしょう。シリウス様の弟子ならそれくらいは当然かもしれません。

 ちょっと複雑な気分ですが、レウ君の成長を喜んでいると、ディーさんがゆっくりと立ち上がりました。

 あれ……何か急に寒くなってきたような……。


「ガッド。マリーナより家のノワールが一番の恋人だよな?」

「はぁ? 何を言ってんだ。恋人だとか一体何の話だ?」

「そのマリーナって女の子はどんな子だった!? 勿論、ノワールの方が可愛い筈だろう?」

「だから知らねえよ! お前は子供出来て変わり過ぎだっての!?」

「調べてきてくれ!」

「無茶言うな!」


 う、うーん……確かにマリーナちゃんには興味がありますが、さすがにディーさん程じゃないかなぁ?

 それにシリウス様やエミちゃんもいるんだし、悪い子じゃないと思うからね。というか、レウ君は悪い子に心を許さないし。

 ディーさんが興奮している横で、私たちのノワールちゃんは……。


「えへー、似合う?」

「うんうん。似合ってるぞ、ノワール」

「ほら、こっち向いて私にもよく見せてちょうだい」


 幸せそうにペンダントを着けていました。


 うん、今日もエリナ食堂は平和ですね。



「こうなったら、エリナ食堂の支店をアドロードに……」

「冷静になれっての! そんな金と余裕があるか!」


 ……一部を除いて。




※その後、ディーはノエルが宥めることにより落ち着きました。






 おまけ



 レウ君から手紙を貰ったその日、ノワールちゃんは意を決した様子で言いました。


「お父さん! お父さんの必殺料理を教えて!」

「……どっちだ?」

「どっち? 沢山あるの?」

「父さんには二つある。美味しくて夢中にさせる料理と、中毒性のある素材を使って自分以外の料理が食べられなくなるのがある。どっちだ?」


 えーと……前者はわかるんですけど、後者のがちょっと……。

 そもそも何でそんな料理を知っているのでしょうか?

 後に知りましたが、シリウス様に食べ物の毒について詳しくなっておけと教わっていたので、その途中で編み出した料理だそうです。

 幸いにもノワールちゃんはあまりわかっていないし、後者の方は不穏な雰囲気だから止めてくれるとー……。


「うーん……両方!」

「わかった」

「あれぇっ!?」


 お母さん、ノワールちゃんがちょっと心配になってきました。






 おまけ2 ※先に謝っておきます、ごめんなさい。




「ねえお姉ちゃん、シェミフィアーさんって人からの手紙って何が書いてあったの?」

「ちょっと待っててね。えーと……」




※ケース1


『初めまして、私はエルフのシェミフィアー、皆からはフィアと呼ばれています。私は数年前にシリウスに助けられて惚れてしまい、この度再会できまして恋人になることにー……』


 以下、自分の紹介と近況が続く。



「昔『エルフに惚れたんですか?』って、シリウス様に質問しちゃったけど……逆だったんだね」

「エルフかぁ……私は遠目でしか見た事ないなぁ」





※ケース2


『私たち、結婚しました』


 二人は正装に身を包み、教会前で祝福されているシリウスとフィアの写真が同封。



「……色々と過程をぶっ飛ばしたのがきたっ!?」

「エミリアさんとリースさんを差し置いてるわ!?」





※ケース3


『借用書 ワイン三樽 ワイン瓶5本 金貨○枚を○○店に振り込んでください』



「……何で家にこれが?」

「うーん、間違えたのかな? とりあえず大酒飲みなのはわかるよね」





※ケース4


『次の満月、あなたの家のワインを盗みにまいります。 シェミフィアー二世』



「「予告状!?」」









 ホクト働く ‐冒険者ギルド編‐






 これは町に魔物の大群が襲った数日後の話である。


 この日、ロマニオにて新人も含めた冒険者が十人近く集められ、とある依頼が行われようとしていた。


「というわけで、今日も町の周囲を探索し魔物を殲滅する依頼だ」


 あの事件によってほとんどの魔物は倒されたが、僅かだが逃げ延びた魔物もいる。

 そういう隠れた魔物を探し、退治するのが今回の依頼だ。

 事件以降、毎日行っている依頼であるが、すでに町周辺の魔物は駆逐されつつあるので大した魔物はいない。

 それゆえに現在では、新人冒険者たちの練習用として使われているので、本日集まった内の七割が新人冒険者である。


「いいか、新人は個人で戦おうとするなよ。それじゃあ、名前を呼んだら返事するように」


 そしてこの中で一番の熟練冒険者である人族の男が、名簿に書かれた依頼参加者の名前を呼んで確認していた。

 新人らしく緊張した面持ちである若者たちの名前を呼び続け、最後に仮面を着けている参加者の名前を呼んだ。


「お前で最後か。へぇ……立派な従魔だな。本人より従魔の方が強いんじゃねえか? まあいい、ホクト」

「オン!」


 男は呆れていた。

 仮面を着けた獣人の若者を呼んだのに、何故この従魔が返事をするのかと。


「……従魔に返事させてどうすんだ。呼ばれたら本人が返事しろって言っただろ?」

「オン!」

「返事してる……ってさ」

「いや、お前ふざけてんのか?」

「オン!」

「ふざけてねえよ。なあおっちゃん、勘違いしているぜ?」

「勘違いだ?」

「こっちにいる従魔がホクトさんだ。俺はホクトさんの通訳としているだけだよ」

「…………」


 男が名簿を確認すれば、よく見れば下の方に小さく追記されているのに気づいた。


『特例として、百狼様は一人の冒険者として扱ってください』


 そういえば、今日の受付担当は狼の獣人だったのを思い出した。

 そしてこの従魔は立派なので、獣人たちから崇められてもおかしくないし、無理が通ってもおかしくないだろうと、男は長年の経験から理解し……諦めた。


「……まあいい、じゃあそこのお前さんは冒険者として数えなくていいわけだ。報酬も出ないってことでいいんだな?」

「おう。戦闘に参加しないから、俺はいないと思ってくれ」


 色々と気にはなるが、この男に報酬が出ないとわかればそれで良かった。


「じゃあ出発するぞ。新人は前に出過ぎるなよ」

「「「はい!」」」

「オン!」




 一時間後……。




「魔物だ! 新人は下がって、先輩の動きをよく見るんだぞ!」

「オン!」


 ホクトの攻撃……魔物は倒れた。




「そこの陰に潜んでいるぞ! 常に周囲に気を張ってー……」

「オン!」


 ホクトの爪による薙ぎ払い……魔物は始末された。




「なっ! こんなにも隠れていやがったのか! 新人はー……」

「オン!」


 ホクトの体当たり、爪、尻尾のコンボ発動……魔物の群れは全滅した。




「あのー……お願いですから、帰ってもらえないでしょうか?」

「オン!」

「仕事はしているのにどういう事だ……ってさ」

「いえ。あなたが活躍し過ぎて新人教育にならないのです」

「オン!」

「私も冒険者としては新人だ。べんごしを呼べー……って、べんごしって何だ?」

「そんな強い新人なんて聞いたことないです。そもそも貴方は特例ですから、冒険者の新人は無理があるかと……」

「ガルルルル!」

「じゃあ報酬はどうなるんだ! 兄貴へのプレゼント代が稼げないだろ……だとさ。わかるぜホクトさん。初めての報酬金はそう使いたくなるよな?」

「もうホクトさんは十分活躍されてますし、報酬金は出ますからどうか……」


 逆らっては駄目だと理解しているが、男も熟練者としての意地があった。

 そして報酬金が出るとわかったホクトも、男の懇願を受けて大人しく引き下がる事にした。



 更に一時間後……。



「よーし、新人ども。倒した後は剥ぎ取りだぞ。先輩のやり方を見て覚えろよ」

「「「はい!」」」


 魔物の退治を終え、続いてギルドで売却できる素材の剥ぎ取り練習になった。


「オン!」

「そうそう、その皮の内側に上手く刃を通せば綺麗に剥ぎとれるってさ」

「はい! こうですね!」

「ホクトさん。こっちの新人もよくわからないらしいので、追加で教育お願いしていいですか?」

「……オン」

「仕方ないな……だってさ」



 ……ホクトは教える側になっていた。





 本日の成果。



 依頼達成の報酬……銅貨四枚。


 剥ぎ取った素材売却……銅貨二枚。




 臨時講師代……銀貨三枚。





 ホクト働く ‐冒険者ギルド編‐ 完




 以上で十五章の終わりになります。


 書籍作業もあり、最近増えて申し訳ないですが……次の話は七日後になります。


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[一言] 弁護士も呼べる従魔とかほしすぎる
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