駆ける銀牙
――― レウス ―――
ホクトさんの御蔭で、俺たちは予定よりずっと早く湖を渡る事ができた。
ここまでくれば後は自分の足で向かえるけど、ホクトさんはロマニオの町の手前で急に進む方向を変え、町の港とは違う場所に上陸していた。
「ホクトさん、町はあっちだよ?」
『お前の目的地は町ではなく彼奴だろう? 向こうから魔物の匂いがするからついでに送ってやろう』
「それはありがたいけど、兄貴が待っている筈じゃあ?」
『お前たちを降ろしたらすぐに戻る。言っておくが、魔物退治は一切手伝わないぞ』
「……これは俺が決めた事なんだ。アルの所まで連れて行ってくれるだけで十分だよ。それよりホクトさんが兄貴に怒られないかが心配だ」
俺が真剣な表情でそう返せば、ホクトさんも満足そうに口元を緩めていた。
『それでこそご主人様の弟子よ。なに、こちらの心配は必要ない。お前たちを乗せていなければ全力で戻れるからな』
ホクトさんは出発前に荒っぽいと言っていたけど、俺たちに気を使って走っていてくれているのはわかる。
もし本気を出していたら俺たちは何度も振り落とされていたと思うし、この湖なんか兄貴が簡単な料理を作るよりも速く渡れるだろうな。
目的地である戦場へ向かって走るホクトさんだが、アルを見つけやすいように戦場を見下ろせる高台に登っていた。
そして高台の頂上に到着すれば、ロマニオの人たちが魔物と必死に戦っている光景が広がっていた。
「アルは……」
「兄上は……」
「「あそこだ(ね)!」」
俺とマリーナが同時に指した場所には、他の集団から外れて魔物に囲まれている人たちが見えた。
確証はないけど、俺の勘とマリーナの勘が合わさった場所だ。マリーナから聞いた通りの状況みたいだし可能性は高い。
『うむ、僅かだが匂いを感じる……間違いあるまい。しっかり掴まっているのだぞ』
そして切り立った崖のような高台から、ホクトさんは躊躇なく飛んだ。
飛ぶと言うより落下しているようなものだけど、ホクトさんは途中で岩を蹴って勢いを殺しながら落下し続け、俺たちへの負担を抑えてくれる。
そしてある程度の高さになったところで大きく崖を蹴り、俺たちは魔物との戦いが続く戦場へと降り立った。
周囲が呆然としている間にホクトさんは戦場を駆け抜け、目指した場所の近くまでやってきた。
ホクトさんの勢いなら魔物なんか軽く突破できそうだけど、勢い余ってアルも一緒に吹っ飛ばしてしまいそうな気がする。
ここは……。
『飛ぶぞ。下りる準備をしろ』
ホクトさんは俺のやろうとした事を理解してくれていたらしい。
俺はハーネスに取りつけていた相棒を取り外し、いつでも振れるように準備をする。
「マリーナ。俺は飛び降りるけど、お前はホクトさんに運んでもらうんだぞ!」
「と、飛ぶ!? 」
「真ん中で飛び降りるんだよ。ついでに……」
「って、あんた何してるのよ!?」
目を閉じて集中し、体内で炎を燃やすようなイメージをすれば……俺の姿は狼の姿に変身していた。
今回は最初から全力で行かせてもらう。
町を襲おうとするお前等がいなければ、俺は兄貴に反抗する必要はなかったんだからな。俺の八つ当たりに付き合ってもらう!
そしてホクトさんが地を蹴って大きく飛び上がれば、魔物たちが群がっている中心が見えた。
『いたな。しかし不味い状況のようだな』
ようやくアルを見つけたが、アルは大きな人型魔物に囲まれて襲われそうになっていた。
あいつなら十分倒せそうな魔物だけど、囲まれている上に数が多いし、戦っている別の人たちを気にしているのか動きが悪く見える。
ぎりぎりだけど間に合った。
かなりの高さだけど、俺は迷いなくホクトさんから飛び降りる。
「ウオオオオオオオ―――――ッ!」
魔物たちの注目を集めようと、俺は落下しながら全力で吠えた。
変身した影響でちょっとホクトさんっぽい咆哮になったけど、魔物たちは俺の存在に気付いた筈だ。
そして落下した勢いも加え、俺はアルを襲おうとしていた魔物に相棒を全力で振り下ろした。
かなり肉厚な相手だったが、相棒はほぼ抵抗なく魔物を真っ二つにした。
「どらっしゃああぁぁ――っ!」
剣の届く範囲にもう一匹いたので、体を捻る勢いを乗せた相棒を振るって魔物をぶった斬る。
更に近づいてくる魔物を相棒で斬りながら、俺は呆然としているアルに向かって叫んだ。
「ここは俺が押さえる! アルはあっちを何とかしろ!」
「レウス……なのか?」
レウスなのかって、俺は俺ー……ああ、そういえば変身した姿をアルに見せたのは初めてだったな。
ったく、兄貴の凄さを知っているくせに俺の姿程度で動揺するんじゃねえよ。
「何してんだ! 兄貴の訓練を受けた奴がぼさっとしてんじゃねえ!」
変身のせいでいつも以上に興奮しているせいか、口調が荒くなってしまう。
けどアルはそれで気付いてくれたらしく、呆けた顔から真剣な顔に戻っていた。
「すまない! 少し待っててくれ!」
「ああ! 全滅させる前に終わらせろよ!」
そして勢いのまま返事した俺は、魔物たちへ怒りを叩きつけるように相棒を振り回し続けた。
マリーナがアルと合流してからしばらくすると、ホクトさんは魔物の集団に向かって衝撃波を放ち、多くの魔物を吹っ飛ばしながら出来た道を通って堂々とパラードに帰っていた。
魔物退治はしないって言っていたけど、これは魔物が邪魔だったから排除しただけだ……と、いう事らしいのでホクトさん的には問題ないらしい。
訓練では全く容赦しないけど、やっぱりホクトさんは優しい。
周囲の魔物を集めつつ、自分の背中を守りながら相棒を振り回しているせいで、中々魔物の数が減っていかないな。
さっさと全滅させて兄貴を追いかけたいけど、兄貴が何度も言っているように油断は禁物だ。
だから焦らず確実に、そして無駄な怪我をしないように気を付けながら……全滅させる!
「レウス!」
「おう!」
ようやくアルも準備が整ったようだ。
しっかりとした呼びかけに応えながら走り、俺はアルと背中合わせになって周囲に集まる魔物へ相棒を向ける。
うん……魔物に囲まれている状態だけど、アルが背中だと安心できるな。
もちろん兄貴が守ってくれるのが一番安心だけど、兄貴の場合は全体を眺めながら見守り、俺に色々と経験させるように動くので、背中を守っているとは少し違う。
まあ結局、俺はまだ兄貴に背中を預けられるような男じゃないって話だ。
だからこそアルを無事に助け、魔物たちを全滅させて町を救う最高の結果を出したい。
再会した兄貴たちにどんな目を向けられようとも、胸を張って報告する為に。
「で、どうするんだ?」
「いつも通りだ。レウスが全力で薙ぎ払い、私が補助だ」
「私も頑張るからね」
「頼んだぞ。だが、無理はするんじゃないぞ」
「そうだぜ。守ってやるから、俺の後ろから絶対に離れるんじゃないぞ」
「う、うん……」
マリーナの御蔭で俺はアルを助けに来られた。
例えそれがなかったとしても、今ではマリーナを守ってやりたいと心から思っている。
だから……守る。
「来るぞアル! 背中は頼んだぞ」
「任せておけ」
そして俺とアルが同時に叫ぶと同時に、魔物が襲いかかってきた。
「どらっしゃああぁぁ――っ!」
「はあああぁぁぁっ!」
マリーナを中心に俺とアルは前後に分かれ、互いの背中を守りながら迫る魔物を薙ぎ払っていた。
さっきまで戦っていたアルの疲れが気になるけど、兄貴の訓練と模擬戦で体力だけはしっかり鍛えてあるし、この様子ならまだ大丈夫だろう。
それにお互いに背中を気にせず剣を振れるし、グルジオフみたいな大きい魔物はいないので、俺たちは問題なく戦えている。
「レウス!」
「わかった!」
アルの剣だと難しい魔物や、手数が必要な小さい魔物が多ければ、俺たちは一息で場所を入れ替わりながら戦い続ける。
「あんた達の狙いは向こうにもいるわよ!」
更にマリーナが俺とアルの幻を離れた場所に生み出し、魔物が一気に攻めてこないようにしてくれていた。
それにしても……今までマリーナが出してきた幻ってどこかぼんやりとしたけど、今見えているのは凄くはっきり見える。俺の幻を見ていると、俺がもう一人いるみたいで不思議な気分だ。
「私はわかるが、レウスのもよく作られているようだな。それだけ彼を眺めてきた証拠かな?」
「あ、兄上! 今はそんな事を言ってる場合では……」
何か急にマリーナが顔を真っ赤にしてるけど、幻だけじゃなく炎の魔法も魔物へ放っているから大丈夫そうー……って、ちょっと火力が強すぎないか? 俺みたいに八つ当たりしているみたいだぞ。
それから俺たちはしばらく戦い続けた。
とにかく近づく魔物を斬り続け、時折魔物の死骸を壁にしたり、積み上がって邪魔になれば移動と、お互いの癖を知っている俺たちは状況に合わせて動き続ける。
そして斬った魔物の数が百を超えたところで、周囲を囲んでいた魔物たちは数える程しか残っていなかった。
「ふう……終わりが見えてきたな。二人は大丈夫か?」
「私は無事よ。兄上は?」
「大丈夫だ。この調子なら何とか無事に乗り越えられそうだが……妙だな」
アルが何か気にしながら剣を振るっているが、俺も同じように気になる点がある。
「ああ、俺もそう思う。行動も変だけど、逃げる様子が全く見えないぜ」
俺に飛びかかってきたゴブリンを反射的に殴り飛ばしたけど、こいつが良い例だろう。
だってゴブリンは頭が悪く本能で生きているから、普通なら女性であるマリーナを狙ってくる筈なのに、さっきから手当たり次第に襲ってくるんだ。
それにこれだけ一方的にやられれば逃げてもおかしくないのに、さっきから逃げ出そうとする魔物が一匹もいない。
「こんな状況になった時点で色々とおかしい話だがな。私の予想だが、魔物を扇動する指揮官のような存在がいるのかもしれない」
「ありえそうだけど、ここにはいないようだな……っと!」
俺が最後の魔物を斬った事により、周辺の魔物は片付いた。
他の場所ではまだ戦いが続いているけど、少なくともアルの安全は確保できたと言っていいだろうな。
「片付いた……か。それにしても本当に助かったよ」
「気にするな。俺は周囲を警戒しているから、お前は少し休んでいろよ」
「ああ、そうさせてもらうよ。それより師匠はー……って、レウス?」
兄貴と姉ちゃんの顔を思い出したくないので、俺は説明せず逃げるようにその場から離れていた。
それにとにかく数を減らすように倒していたから、まだ完全に死んでいない魔物がいる筈だ。
最後まで油断するなって言われているので、俺はそういう魔物を探し、剣を突き立てて止めを刺していく。
「ふう……これで全部みたいだな」
血の匂いで鼻がほとんど利かないけど、周辺から気配は感じないので大丈夫そうだ。
それにしても……怒りのまま暴れていたせいで体が魔物の返り血で真っ赤だ。とても兄貴には見せられない無様な状態だけど、アルは助けられたから……別にいいか。
相棒を地に突き立ててから深く息を吐いていると、真剣な表情をしたアルと、困った表情のマリーナが俺の傍にやってきた。
「……レウス」
「ん? どうしたんだよ、そんな顔して?」
「マリーナから聞いたよ。私を助ける為に、師匠との誓いを破ったそうだな」
「……アルが気にする必要はねえよ。マリーナにも言ったけど、これは俺が決めたことだからな」
謝ったら……許してくれるかな?
いや、許すも何も関係ないや。今はとにかく魔物たちを全滅させて、早く兄貴を追いかけよう。
「それより休んだら他の魔物を倒しに行こうぜ。アルはまだ戦えるだろ?」
「レウス!」
俺の声をかき消すように叫んだアルは、肩を軽く叩きながら俺を抱き締めてきた。
「お前は……師匠に反しながらも、私を助けにきてくれたのだな」
「当然だろ。アルは友達だからな」
「あんなにも尊敬し、目指していた人に反抗してまで……馬鹿者が。私はお前にどう償えばいいのだ」
「何もいらねえよ。それに兄貴たちは強いから心配いらないけど、アルの方は心配だったからな」
「そう……だな。師匠に比べたら私の方が心配だよな」
そして肩に手を乗せたまま体を離し、少し弱気な目をしながら俺の目を覗き込んでいた。
「私は本当に危ないところだった。勿論諦めるつもりはなかったが、パメラを残して逝ってしまう……そんな恐怖を何度も感じていたよ」
「けどさ、もう大丈夫なんだろ?」
「ああ、お前に助けられたからな。まだ戦闘は続いているし、全て終わってから言おうと思っていたのだが……今すぐ伝えなければ気が済みそうもない。レウス……君の御蔭で私は救われた。本当にありがとう」
その言葉を聞いた瞬間、俺の心に何か暖かいものを感じていた。
……そうだ。
兄貴や姉ちゃんたちの事で後悔はしているけど、俺は間違った選択をしていなかったんだ。
「あの……勝手に言ってごめん。でもね、兄上は知っておいてほしいと思ったから」
「別にいいさ。その御蔭で少し楽になったし……ありがとうな」
「何を言っているのよ。礼を言うのは私たちだけだってば」
ようやくいつもの調子に戻ったアルとマリーナに安心していると、遠くから馬に乗った連中がこちらに向かっている事に気付いた。
「アルベルト殿ーっ!」
「あれは……良かった、無事に合流できたんだな」
アルの名前を叫びながら集団の先頭を走っているのは、俺が一人で戦っている時にアルが逃がしていた男たちの一人だ。
あの男はロマニオの貴族で俺たちより年上らしいけど、気さくで話しやすく、剣の腕も立っていたので頼りになったとアルが教えてくれた。
せっかく魔物から離れられたのに、アルを心配して仲間を集めて戻ってくるような奴だ。信頼して良さそうだな。
そしてアルの前で止まった二十人程の集団は、周囲を見渡しながら呆然としていた。
「これは……まさかあれだけの魔物を本当に倒してしまうとは」
そして男たちの視線が俺とマリーナに向けば、急に顔が引き攣ったようにー……いや、俺たちを怖がっているのがわかった。
考えてみれば……今の俺って変身している上に、体が返り血で真っ赤だ。
そしてマリーナも幻を作るのに集中していたから、いつもなら一つに見せている幻を消して尻尾が三つに見えている。そして男たちは狐尾族が大半だから、怖がられるのも仕方がない……か。
「レウス……」
その視線が嫌なマリーナが俺の背中に隠れようとしたが、俺は首を振ってそれを止めた。
「気にするな。俺たちはアルを助けに来ただけなんだから、堂々としてればいいんだよ」
「そう……よね。うん、私たちは悪くないもの」
兄貴や姉ちゃんに嫌われる痛みに比べたら、こんな知らない連中の目なんか痛くも痒くもねえ。
堂々としている俺を見てマリーナも落ち着いてきたようだが、さっきまで笑みを浮かべていたアルの目が鋭い目に変わっていた。
「……皆の気持ちは分からなくもないが、ここにいる二人は私の大切な妹と友だ! 恐れる必要は一切ない!」
「で、ですが……」
「それともロマニオの町を守る者たちは、迷信や見た目を恐れる心弱き者だったのか?」
これ……怒ってるよな?
そういえばアルの怒っている姿を見たのは初めてかもしれない。
「そして二人は私たちと共に魔物と戦ってくれる心強い仲間だ。周りを見ろ。ここに転がる魔物のほとんどは、大剣を持つ彼……レウスが斬ったものだ」
そこでアルが視線を送ってきたので、俺が相棒を振り回してみせれば……。
「おお! あんな巨大な剣を軽々と……」
「なあ、あれって相当な重さじゃないか?」
「やはりあの強さは見間違いではなかったのか」
さっきまで怖がっていたくせに、急に頼られるような目を向けられていた。
いや、アルがそう思えるように誘導したんだ。こんな状況だから、強い仲間がいるってわかれば安心するもんな。
「レウス、まだ戦えるな?」
「当たり前だ。アルこそ疲れてるんじゃないか?」
「師匠の訓練に比べれば楽な方さ。マリーナは……」
「まだ魔力は十分です兄上!」
そして俺たちに確認をとり、心配して戻ってきた男に全体の戦況を聞いたアルは、剣を地面に突き立てながら高らかに吠えていた。
「私たちはこのまま右翼へ向かって突き進み、道中にいる魔物を薙ぎ払う予定だ!」
確か右翼にパメラさんの兄ちゃんがいるんだよな?
そっちに目を向けてみればまだ戦いは続いているらしく、激しい戦いの音が聞こえる。
「私とレウスが正面を受け持ち、道を切り拓いてみせよう! 皆にはそこから溢れた魔物を抑えるのをお願いしたい!」
「ちょっと待て! これだけの魔物を倒した後なんだ。君たちは一度戻って休んだ方がいい」
「私たちなら問題ない! そして少しでも早く戦いを終わらせる為、私たちと共に戦ってほしい!」
俺たちより年上が多いけど、アルの堂々とした姿を見た男たちは感心するように頷いていた。
そういえば……兄貴がこんな事言ってたっけ?
『アルベルトは上に立ち、人を指揮する事にも長けているかもしれないな』
俺もアルの合図で動いている時もあるし、男たちの反応を見る限り、アルは指揮官としての能力もあるようだ。
するとあの男が前に出てくるなり、アルと同じように剣を地面に突き立てながら笑みを向けてきた。
「いいだろう。アルベルト殿に助けられた命だ。私は付き合うぞ」
「……そうだな。何の為にここまで来たのかわからなくなっちまう」
「俺も戦おう」
「皆さん……ありがとうございます!」
そして次々と剣が地面に突き立てられ、男たち全員快く頷いてくれた。
仲間が増えたところで、俺とアルを先頭にした陣形を組む事になったけど、俺たちが乗る馬が余っていなかった。
だから数人ほど相乗りをさせて、先頭を走る俺たちの馬を確保しようとしたけど……。
「俺は自分で走るからいらない」
「駄目だレウス。次の場所まで遠くはないが、少しでも体力の温存をするべきだ」
「俺の剣は重いから馬が潰れちゃうんだよ。それにこの姿なら多少走ったって疲れねえから平気だ」
馬が潰れるのもあるけど、そもそも馬が俺を怖がって乗せてくれそうにない。
それに誓いを破った罪悪感を少しでも忘れたいから、今はとにかく全力を出し切りたいんだ。
体力もまだ十分残っているし、魔物なんて二百でも三百でも軽く斬れる自信がある。
「私からもお願いします。聞いてあげてください兄上」
「マリーナ……わかった。レウス、先頭を頼んだぞ」
「任せろ!」
「よし、では行くぞ! 我が友に続け!」
変身して強くなっているのもあるけど、毎日重りを背負って鍛えていた俺の足は馬と同じ速さで走ることができた。
何か背後から男たちの驚いている声が聞こえるけど、俺はアルが指示する方向へ真っ直ぐ走り続けるだけだ。
それから俺たちは近くで戦っている集団へ向かって走り、魔物たちの背後を突きながら進む。
「兄上、あちらの集団が追い込まれています!」
「ああ! 背後から一気に攻めるぞ!」
「了解だ。行くぜ!」
魔物の集団へ俺が槍のように突撃して道を作り、後ろから続くアルと他の男たちがその道を広げていく。
「限界の近い者は町へ戻れ! そしてまだ戦える者は私と友の大剣に続けっ!」
そして魔物を片付けた後は、アルが生き残った奴等にそう叫んでから次の集団へと走る。
中にはアルの事を無礼だとか、若造に任せておけるかと指揮官の座を奪おうとしたアホもいたけど、アルの迫力と俺の睨みによって引き下がって町へ帰っていた。
「いいのかアルベルト殿。あんな連中だが戦力だぞ?」
「戦えるのに、戦うのを放棄するような者に背中を預けたくないでしょう? それに、今の私たちの士気と戦力は十分ですから」
「はは、それは言えてるな。それじゃあ次はどちらへ向かいますかね?」
「向こうでも戦っているぞ! 先に行くぜアル!」
「よし、全員続け!」
「「「「はっ!」」」」」
そんな風に俺たちは戦場を駆け続け、気付けば七十人以上の集団になっていた。
「そろそろ中央の集団が見えてくると思うのだが……」
「兄上! あちらを!」
ようやく到着した中央の集団は、最も魔物が攻めてくる地点だったので、最初から多くの戦力が配置されていたらしい。
だから他と違って魔物を押しこんでいて、俺たちが突撃する必要はなさそうだ。
「どうやら中央は問題なさそうだな。よし、私たちは右翼と合流してからー……」
「危ねえアル!」
そこで仲間たちに指示を出そうとしたアルに、突然小さな魔物が一匹飛んできたのだ。
俺が反射的に相棒で叩き落としたけど、何か様子がおかしい。この魔物はアルを攻撃しようとしたんじゃなくて、普通に飛んできたようだった。
「助かったよレウス。一体どこから……」
「っ!? 兄上あちらを!」
マリーナが指した先は俺たちがさっき確認した中央の集団だ。
激しい戦闘なのだろう。アルに飛んできたように沢山の魔物があちこちに飛ばされているけど、よく見れば魔物だけじゃなく人も飛んでいた。
「……何だ!?」
あそこから……凄く嫌な予感がする。
「アル!」
「ああ、行こう!」
俺の視線に頷いたアルは、仲間に声を掛けて突撃準備に入った。
そんな中、嫌な予感が止まらない俺は先に飛び出し、魔物と戦っている冒険者達の頭上を飛び越えてみれば……。
「近接は下手に攻めるな! 離れろ!」
「中級魔法が通じない!? 上級魔法を使える奴はいるか!」
「詠唱の時間を稼げー……ぐあああっ!?」
俺たちはここに来るまで色んな魔物を倒してきたが、そんな魔物たちを無理矢理くっ付けたような……。
「レウス! 一体何がー……なっ!?」
「何よ……これ?」
本当に生き物なのかと思いたくなるような魔物が……そこにいたのだ。
シリウス視点まで……書けなかった。
本当なら、アルベルトを助けた後ですぐに戦闘が終わる予定だったのですが、もうちょっと二人の成長と、広げた風呂敷を畳む過程を書きたいと思ったので、戦闘が続く事になりました。
レウスとアルベルトが部隊を仕切り、先頭を一騎駆け(レウスは走ってるだけですが)するようなものを書きたかった……というのもあります。
とまあ、御蔭で色々と考える羽目になり、今回はおまけが浮かばず少し話も短いです。
話が進まねえなと思った方には申し訳ない。もうしばらくお付き合いください。
次の更新は……六日後です。