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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

十四章 女神教

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思いがけない再会

十四章開始です。
「流石にもう追ってこないか……」
「ホクトさんが牽く馬車に付いてこられる人なんてそういませんよ」

 フィアと再会し、闘武祭で優勝したガラフから旅立とうと準備を済ませた俺達は思わぬ敵と出会っていた。
 宿から出た瞬間、俺達が旅立つのをどこからともなく嗅ぎつけたビューテを筆頭にして、俺とレウスのファンが押しかけてきたのである。
 中には俺達の仲間になろうとしたり、自分のメンバーに組み込もうとした冒険者がいたので、俺達は逃げるように町の外へ飛び出したのである。

 町の外に出ても俺の弟子になりたいと言って追いかけてくる奴もいたが、今は旅で見聞を広めている最中なので、本格的に弟子や教え子を増やすつもりはないのだ。なのでホクトに頑張ってもらい、通常の馬車や馬ではありえない速度で街道を走り続けた。
 ほぼ無尽蔵な体力によって休むことなく走り続けるホクトにかかれば、馬に乗った冒険者だろうが追いつける者はいなかった。
 数時間に亘って走り続け、背後に誰も付いてこないのを確認した俺達は通常の速度に戻してからのんびりと街道を進んでいた。

 そしてエミリアと一緒に御者台へ座りながらのんびりとホクトの背中を眺めていると、馬車内で休んでいたフィアが現れて俺の肩に顎を乗せてきた。

「見た目は普通なのに、凄く居心地が良い馬車ね。こんな馬車、どこの王族だろうと持っていないわよ」
「当然です! シリウス様が設計した馬車ですから」
「作ったのはガルガン商会だよ。あそこの技術は大したものだと思う」

 まるで自分の事のように自慢気にしているエミリアに苦笑しながら、俺はこの馬車を作った頃を思い出していた。
 ガルガン商会にサスペンションの技術を売り、その対価として俺の思いつく限りの機能を組み込ませてもらったからな。
 馬車の革命となる技術にガルガン商会のザックは笑って喜んでいたが、好き勝手な要望を出して作ってもらったりと、色々苦労を掛けたものである。

 一部を除き、本来馬車とは移動用であってどれだけ人や物が積めるかが重要な筈だ。
 しかし俺の旅は商人といった物ではなく、見聞を広める為の……つまり旅行みたいなものだ。快適に過ごす為に貴族や王族のような馬車を作るのは当然だろう。

「兄貴ー、俺腹が減ったよ」

 面倒な冒険者達から逃げる為に急いで走らせていたので、馬車の上で逆立ちしてバランス感覚を鍛えているレウスの腹が盛大に鳴っていた。
 太陽の位置からしてそろそろ昼前だし、レウスだけでなくリースも空腹を訴えてきそうなので、俺はホクトに命じて見晴らしの良い場所に馬車を停め、全員で手分けして昼食の準備を始めた。

 レウスとホクトは肉の調達。エミリアにはハーブや山菜の確保を頼み、リースとフィアは料理をしている俺の手伝いだ。
 そして確保してきた素材による肉と山菜の炒め物に、出発前に作っておいた生麺を使った塩焼きそばモドキを完成させてから昼食となった。

 そういえば、ガラフでこの麺料理を作っていた時、ベイオルフが護衛を辞めて今日中には剛剣ライオルを探しに出ると報告しにきたので、送別の意味も兼ねて振舞った麺料理に夢中になっていたな。
 他にもジキルとジークはすでに町を出たと教えてくれたが、レウスが食べる量が減ったと言わんばかりに睨んでいたので、何とも微妙な別れとなったものである。

 ベイオルフはいつライオルの爺さんと会えるのかと考えながら食事を続けていると、フィアが焼きそばを食べながら遠い目をしているのに気がついた。

「どうしたフィア。口に合わなかったか?」
「そんなわけないじゃない。ちょっと考え事してただけで、料理はとっても美味しいわよ」
「シリウス様の料理は愛情がたっぷり込められていますから当然ですね。ところで何を考えていたのですか?」

 エミリアが放った質問にフィアは苦笑してから料理に目を落とし、続いて俺達を見渡しながら口を開いていた。

「シリウス達と旅をしていると、もう一人で旅が出来なくなりそうだなー……って、思っちゃってさ」
「それ凄くわかりますよフィアさん。まあ……私は一人で旅なんか出来ないでしょうけど」
「そういうものか?」
「だって美味しい食事に、快適な馬車、楽しくて頼もしい仲間達と一緒だもの。人は苦痛を我慢できても、一度贅沢を味わってしまうと中々抜け出せないものなのよ」
「「確かに!」」

 フィアの言葉にエミリアとレウスが激しく頷いていた。一人で旅を続けていただけあって、俺達の異常さがよくわかるらしい。
 苦笑しながら説明しているフィアだが、そこで急に落ち込みだして手で顔を覆っていた。

「だから何でもいいから役に立とうと思ったんだけど……見事に玉砕よ。一番役に立ってないじゃない……私」

 落ち込んでいるフィアには悪いが、はっきり言うと料理に関してはあまり役に立たなかった。
 俺とリースの手際に入る隙が無かったのもあるが、フィアはあまり料理の経験がないらしいので当然だと思う。

「それは仕方ないだろ。ならフィアさえ良ければ、これから皆と一緒に色々と教えていくが、どうだ?」
「お願いするわ。年上なのに、このままだと貴方達の仲間として恥ずかしいもの」
「そこまで真剣に考える必要はないさ。追々覚えていけばいい」

 無理して自分を変える必要もないが、本人が望んで覚えたいなら教えるべきだ。
 覚える必要があることは無理強いしても覚えさせるが、それ以外は比較的に自由にさせてやるのが俺の方針である。今の弟子達は自ら考えて選び、望んで俺についてきているからな。

「他にも貴方達と同じ訓練も受けないと駄目よね。足手纏いになりたくないもの」

 ガラフに滞在していた頃に全員で走った結果、フィアは冒険者をやっていただけあって体力はそれなりにあったが、俺達に比べたら低かった。
 彼女の場合は精霊魔法を使って近寄られる前に相手を倒すし、移動は風で飛べばいいので体力がそこまで必要ってわけじゃない。
 しかしありえない可能性だろうが、精霊が力を貸してくれない、または貸りれない時があるかもしれない。
 そんな最悪の状況になっても対応できるようになるべきだと伝えると、フィアはしっかりと頷いてから鍛えてほしいと俺に言ってきたのだ。過去の出来事や、俺に助けられた失態を思い出したらしい。

「さっきまでは移動に集中していたから止めていたが、昼から交代で走るぞ。とりあえずフィアは限界までな」
「う……が、頑張るわ」
「あ、あはは……その、シリウスさんは無理な事は決してさせませんから、頑張ってください」
「訓練が大変なのは最初だけです。シリウス様の為になると思えば全然辛くありませんよ」
「慣れると凄く充実感あるぜ!」

 不安そうな顔で頷いたフィアに、弟子達は各々の訓練に対する捉え方で応援するのだった。





「ペースが落ちてきているぞ。よし……その調子だ」
「はぁ……はぁ……き、きついわね」

 その後、昼食を食べ終わって出発した俺達は、先程の言葉通り馬車から降りて走っていた。
 俺とレウスはフィアに合わせて並走していて、エミリアとリースはすでに今日のノルマを終えて馬車内で休んでいる状態だ。
 一方、フィアだけはペースを変えながらずっと走らせていた。今は一定のペースを保たせる走り方を教えていて、そろそろ次の段階へ行こうかと考えているところである。

「き、鍛えるのは嫌いじゃないけど、想像以上だわ」
「よし、あそこの丘を越えたら一端休憩しよう。その代わり全力で走りきるぞ」
「ああ……もう! こうなったらとことんやってあげるから、終わったら褒美が欲しいわ。膝枕がいいわね!」
「俺の膝で済むなら安いもんだ。さあ、一気に行こうか」
「先に行くぜ兄貴!」

 今のレウスは、鉄より遥かに重い鉱石で作ったグラビライトで作った腕輪と足輪をつけているのだが、俺達どころか馬車を追い抜いて丘まで走っていく姿にフィアは呆れ気味に呟いていた。

「私と同じ時間を走って、かつ重りを着けてあれなのね。貴方達って本当に普通じゃないわ」
「世間から見て普通じゃないのは認めるさ。だけど、そんな俺に教わるって事はフィアも同じって事になるぞ?」
「そんなの今更よ。エルフの中で変わり者だった私が、世間の変わり者になるだけじゃない。その程度で貴方達といられるのなら、いくらでもなってあげるわ!」

 真剣な表情でそう口にしたフィアは、最後の力を振り絞って馬車を追い越していった。
 そんな彼女の言葉を馬車から聞いていたエミリアとリースは、穏やかな表情でフィアの後ろ姿を眺めていた。




 丘を越え、限界を迎えて倒れたフィアを馬車へ回収した俺は、約束通り彼女に膝枕をしてあげていた。
 実は約束しなくても、再生活性を施す為に膝枕をしてやるつもりだったのだが、フィアは俺の膝へ頭を乗せて嬉しそうにしているのでわざわざ言う必要もなさそうだ。
 しかし再生活性を施そうにも、体力の回復に関しては眠っていないと効果が薄い。なのでフィアが眠るのを待っているのだが、彼女は俺の顔を眺めながら微笑み続けているのである。

「どうしたフィア。寝ないと回復しないぞ」
「わかっているけど勿体なくてさ。膝枕してもらうなんて、こういう時じゃないと出来ないでしょ?」
「俺の状況にもよるが、してもらいたいなら遠慮なく言えばいいだろ」
「してもらってる状況で言うのも何だけど、私は膝枕をしてあげたい側だもの。貴方達もそう思うでしょ?」

 近くに座っていたエミリアとリースは同意するように頷いていた。
 特にエミリアは膝を軽く叩きながら、何時でもどうぞと言わんばかりに笑みを浮かべている。その慈愛に満ちた笑み……エリナ母さんに似てきたな。思わず向かいそうになったぞ。

「そうだな……いつかしてもらおうとは思っているが、今はフィアの回復を優先だ。疲れているんだから無理はするな」
「ふふ……そうね。疲れたし、少しだけ眠らせてー……」

 言い終わる前にフィアは寝息を立てて眠りについていたので、フィアの頭に手を乗せて魔力を流す。
 眠りを妨げないように魔力を流していると、その光景を眺めていたエミリアとリースは静かに溜息を吐き……。

「……フィアさんはずるいです」
「だよね。こんなにも無防備なのに……」
「何がずるいんだ?」
「「寝顔が凄く色っぽいです!」」
「あー……」

 羨ましそうに口を揃えて言った。
 男なら思わず見惚れる、色っぽい寝顔を自然と見せられる彼女が羨ましくて仕方がないらしい。
 エミリアは子供のように無邪気な寝顔で、リースは涎が今にも垂れそうな無防備過ぎる寝顔だったからな。
 目覚めた時にそれを教えると、二人は顔を真っ赤にしながら慌てていたものだ。

「別にフィアみたいになろうとしなくても、二人には二人の良さがあるんだ。無理に真似しようとせず、自然体なエミリアとリースが俺は好きだよ」

 手招きして二人を呼んだ後、片手でフィアに処置を施しながら二人の頭を撫でてやるのだった。





 その後……訓練を続けながら街道を進み続けた俺達は、日が落ち始めた頃に街道から少し外れて野営の準備に入った。

 俺達は慣れた手つきで夕食の準備を進めていく中、訓練の疲労によって碌に動けないフィアは申し訳なさそうにしているが、昼にも言ったように追々慣れていけばいい話だ。
 そして調理の途中でエミリアとリースに代わってもらった俺は、フィアに体調確認も兼ねたマッサージをしていた。

「筋肉痛以外に痛みはあるか?」
「ない……わね。ん……そこ……いいわ」
「艶めかしい声を出すなよ」
「だって、足を揉んでもらうのがこんなに気持ち良いなんて初めてだもの。皆もこんな風にしてもらってたのかしら?」

 フィアの質問にスープを掻き混ぜていたエミリアとリースは少しだけ頬を赤くしながら頷いていた。

「そうです、私達もシリウス様にマッサージをしていただいてました。最近は減りましたけど……初めてしてもらった時の感動は忘れられません」
「うん、あれは凄く気持ち良いよね。でも、凄く眠くなるけど」
「俺はすぐ寝たぞ!」

 少しでも長く噛み締めたいのと、申し訳ない気持ちでマッサージを受ける女性二人と違い、レウスは即行で眠っていたな。

「あー……その気持ち……わかるわねぇ……」
「おいおい、寝るのは早いぞ。夕食まだだろ?」
「うーん……食べられるかしら? 疲れでお腹が受けつけないかも……」
「だよな、やっぱりそうなるよな?」

 寝ぼけ眼だったフィアはお腹を触って苦笑しているが、普通はあれだけ走れば胃が食事を受けつけないのは当然だと思う。
 だというのに……。

「そんな事あるのか? 俺達の時は腹一杯食べられたよな?」
「シリウス様の作ってくれたご飯がとても美味しかったから、私はお腹一杯食べられたわ」
「沢山訓練したらお腹が空くのに、ご飯を食べられないんですか!?」
「……私がおかしいのかしら?」

 弟子達は揃って首を傾げているが、訓練後でも平然と食べられるお前達がおかしいのだ。
 種族が違うエミリアとレウスは頷けない事もないが……リースは本気で謎である。

「フィアは正常だから安心してくれ。とりあえず具の少ないスープを用意したから、少しでもいいから食べてくれ。栄養を摂らないのが一番不味いからな」
「わざわざ作ってくれたの? それなら頑張って食べてみるわ」

 エミリアが注いでくれたスープを苦笑しながら受け取ったフィアだが、スープを口に含むと少し驚きながら二口目へと手を伸ばしていた。

「うん……薄味だから何とか食べられそう。お腹に優しいわね」

 銀狼族の集落で手に入れた魚で鰹節に似た物を作ったので、その出汁をベースに作ったスープだ。フィアの胃を考えてかなり薄味にしているが、他の素材と一緒に煮込んでいるので栄養は十分な筈だ。

「余ったら皆で食べるから、欲しい分だけ食べてくれ」
「シリウス様、私達の分も完成しました。そろそろいただきませんか?」
「そうだよ兄貴。俺、腹減ったよ」
「お腹空きました」

 子供達ー……じゃなかった、弟子達が空腹で騒ぎ始めたので、俺達も夕食にする事にした。
 フィアのより濃い目に作ったスープに、肉や野菜にオリジナルのソースをかけた色とりどりのサンドイッチを食べていると、フィアが納得したように呟いていた。

「ふふ……大変だけど、こんなにもしてくれるから頑張れるわけね。強くなれる筈だわ……」




 食事が終われば、次は風呂である。
 温泉なんかある筈も無く、普通はお湯に浸けた布で体を拭く程度なのだが、工夫をすれば風呂に入る事も可能だ。

 馬車に仕舞ってある熱伝導の低い特殊な鉄塊をとり出し、それを外の地面に置いて魔力を流し込むと、鉄塊は大きく広がりながら形を変えていった。
 この鉄塊には『土工クリエイト』の魔法陣を描いてあるので、魔力を流す事によって決められた形に変形するようにしてあるのだ。つまり形状記憶合金みたいなものだな。
 そして鉄塊が広がって出来たのは……三人くらいは楽に入れる浴槽である。
 後はリースの精霊魔法で水を注いでもらい、レウスの手を浴槽に入れてから『炎拳フレイムナックル』を発動させ続ければお湯が沸くわけだ。
 そして馬車と近くの木をロープで繋ぎ、布による仕切りを作れば即席の野外風呂の完成である。

 まずは女性陣を先に入らせ、馬車を挟んだ反対側で俺は本を読み、レウスは剣を振って時間を潰していた。ちなみにホクトは仕切りの近くで見張りである。
 風呂に入っている時は無防備なので、俺は何かあった時に備えてあまり離れないようにしているせいか、女性陣の会話が聞こえてきた。

「はぁ……さっぱりするわぁ。それにしても、こんな所でお風呂に入れるなんて思わなかったわね」
「私達って本当に贅沢していますよね」
「シリウス様も一緒であればなお良かったのですが。久しぶりに背中を流して差し上げたいです」
「あら、それもいいわね。ねえシリウス! 一緒に入らない?」
「ええっ! ちょっとフィアさんまで!」
「いや……行かないから」

 最近、事あるごとに三人がかりで俺を狙っているような雰囲気を感じるので、無闇に突撃するのは非常に危険である。
 そのまましばらく問答が続き、エミリアとフィアはようやく諦めてくれた。ちなみにレウスは無心で剣を振っているので、会話すら聞いていないと思う。

「…………いいなぁ……」
「どうしたのリース? フィアさんの体に何かあるの?」
「え……あ、うん。綺麗な肌だから羨ましいなぁ……って」
「そうね、エルフってずるいです」
「あら、そういう貴方達だって私にないものを持っているじゃない。まだ若いのに、その胸の大きさは反則よ」
「わ、私は別に狙って大きくなったわけじゃ……」
「シリウス様に満足してもらう為に大きくしましたから」

 ……やはり耳栓をしておくか。
 これ以上聞いたら、何か不味い気がするからな。





 そんな風に訓練を続けながら俺達の旅は続き、三日が経過した。
 フィアは訓練に少し慣れてきたのか、今では食事をある程度食べられるようになっていた。
 現在は街道から外れて野営の準備後に夕食を食べている最中だが、今日は早く準備が済んだのでまだ空は明るく日が高い。しかし偶にこういう時もあるので、俺達は気にせず食事を続けていた。

「はぁ……食事が美味しいわ。それにしても、こんなにも早く慣れるとは思わなかったわね」
「フィアが頑張った証拠だよ。お代わりいるかい?」
「貰うわ。このうどんって本当に美味しいわね」
「お代わりお願いします」
「俺も欲しい!」
「シリウス様、私も欲しいです」

 最近凝り始めて作っているうどんを茹で、其々の器に入れてやったところで、近くで座っていたホクトが急に立ち上がったのを見た俺は反射的に『サーチ』を発動させた。
 するとこちらに迫ってくる反応を幾つか捉えたので、手早く調理道具を片付けていると、そんな俺を不審に思っていた弟子達が接近する反応に気付き始めていた。

「何か来るぞ兄貴。敵か?」
「そうね。でも勝手に前へ出ちゃ駄目よレウス」
「フィアさん、これって……」
「ええ、精霊も騒いでいるわ。二人の言う通り、何かこっちに近づいているようね」

 エミリアとレウスは匂いや勘で、リースとフィアは精霊が教えてくれる事により接近する相手に気付いたようだ。大抵の場合、例外である俺やホクトが先に気付くが、実はこの四人の感知能力は結構高かったりする。
 そんな四人の表情は真剣そのものだが、揃ってうどんが入った器を持ったままなので締まらない。

「……そこら辺に撒くか、さっさと食べなさい」
「「「ご馳走様!」」」
「熱っ!? ……ちょ、ちょっと待っててね!」

 フィアは若干苦戦していたが、一気に食べ終わってから片づけを終わらせた頃、丘の向こうから走ってくる人物を肉眼で捉えた。

「若い男の子と女の子の二人組ですね。私達より少し年下くらいでしょうか?」
「なんだろう、あの男……どこかで見た事があるような気がするんだよなぁ。兄貴もそう思わないか?」
「そうだな、俺もそう思うよ。しかしあの二人ー……」
「ええ、何だか追われているみたいね。精霊によると、あの二人の後方に五人程迫っているみたいよ」

 男の子は女の子の手を引っ張りながら、こちらへ向かって必死に走っていた。
 このままだと面倒事に巻き込まれそうな気がするが、どうも男の方は見覚えがあるし、向こうはこちらに気付いて走ってきているので無視できそうにない。
 弟子達は俺が何も言わず立っている時点で察したのか、戦闘の準備を整えながら待機していた。

「盗賊にでも追われているのかな? だったら助けてあげないと駄目だよね?」
「それは相手の出方次第だ。前以て言っておくが、顔見知りだからといって油断はするなよ」
「はい! 敵か味方かどうか見極めてから……ですね?」
「冒険者の基本ね。あの子達ってシリウスの知り合いなの?」
「女の子は知らないが、男の方はおそらくー……」

「先生ーっ!」

 息を乱しながら大声を出しているのは、俺達がエリュシオンを旅立ってから、ノエル達の住む村へ向かっている時に一緒だったクリスフィート……クリスだった。
 ガルガン商会の丁稚で、元締めであるガッドの下で商人の修行をしていた筈なのだが……何故こんな所にいるのか?
 商人だから違う大陸に渡る可能性もあるだろうが、碌に荷物も持たず怪我をしているし、どう見ても商売をしにきたようには見えなかった。
 首を傾げながら走ってくるのを待っていると、クリスに手を引っ張られていた女の子が石に躓いて転んでいた。

「兄貴! クリスが危ないぜ!」
「シリウスさん!」
「…………」
「見ちゃいられねえよ兄貴!」
「私もです!」
「……好きにしなさい。その代わり、自己責任だぞ」
「わかった!」
「はい!」

 我慢できなかったレウスとリースはクリス達の下へ駆け出していた。知り合いだろうと、脅されたりしてこちらに武器を向けてくる可能性もあるのだ。
 そして追ってくる反応もまだ距離があるから、クリスを見極める時間はまだあるというのに……困ったものだ。
 その真っ直ぐな二人の後ろ姿を眺めていると、隣に立っていたフィアが苦笑しながら俺の肩に手を置いてきた。

「若いわね。けど……優しい子達だわ」
「まあ、それは長所だから見守ってやらないとな。ところで、エミリアはいいのか?」
「私はシリウス様の従者ですからお傍にいます。本当は私も行きたいところですが、レウスとリースが向かいましたし、後ろから様子を見るのも必要かなと思いまして」
「そうか。しっかり考えているようだな」

 エミリアの頭を撫でてやりながら、俺達は少し距離を保ちつつゆっくりと二人を追いかけた。本当は動かない方がいいだろうが、離れ過ぎていると何かあった時に対処が難しくなるからな。
 そして足の早いレウスがクリスの下へ着くと同時に、残った五つの反応が丘の向こうから姿を現した。
 ふむ……以前ならそのまま相手を背中に庇っただろうが、レウスはクリスと追手らしき奴等が両方見える位置で止まっていた。エミリアもだが、レウスもちゃんと考えているようだな。

「大丈夫かクリス!」
「レ、レウスさん! あいつ等はこの子を狙ってー……」
「よくわからねえけど、敵なんだな! 倒していいんだな!」
「待ってください!」

 レウスは剣を抜きながら前へ飛び出そうとしたが、クリスが連れていた女の子は体を起こしながら叫んでいた。

「一人なんて危険です! 私はまだ走れますから、クリス君と皆さんは逃げてください!」
「大丈夫! レウスさんなら、あんな奴等束になっても平気だ」
「だけど相手は五人だし、あの人達はただの兵士じゃあー……」

 クリスの言葉で女の子が戸惑っている間にレウスは前へ飛び出し、追手と思われる五人の前に立ち塞がっていた。
 馬に乗った五人は騎士のような全身甲冑を装備しているが、兜だけは外して馬の馬具に吊り下げているので、全員人族の男なのはわかった。
 突如立ち塞がったレウスに男達は馬を止め、リーダーと思わしき男が握っていた槍の矛先をレウスに向けてきた。

「何者だ貴様! 我々は女神ミラ様の信託を受け、重罪人を裁く女神ミラ様の使徒である! 邪魔するなら容赦はせんぞ!」
「みら様だか何だかよくわからねえけど、その使徒ってのはたった二人の子供を追い詰めるような小さい奴等ってのはわかるよ」
「何だと貴様! 女神ミラ様を知らぬ愚か者が! 邪魔するのなら構わん。重罪人共々、我々が裁いてくれよう!」
「違います、女神ミラ様はそのような事を決して望みません! だから戦いを止めてください!」

 女の子は必死に叫んで止めようとしているが、どこか目がおかしい男達が止まる筈もなく、レウスに向かって槍を構えながら突撃してきた。
 自分より高い位置にいる馬上の男達にどう戦うのか見守っていると、レウスは剣を構えずに大きく息を吸い……。

「かかってこいっ!」

 大声と共に放たれた威圧と殺気によって男達と馬が怯んだ。先日俺が放った殺気の真似だろうが、殺気の放ち方が俺よりライオル寄りで、まだ迫力が足りないようだが……奴等には十分のようだ。
 怯んで足を止めている隙を突き、レウスは地を蹴って前へ飛び出した。

「なっ!?」
「どらっしゃーっ!」

 リーダー格の男へ向かって飛び上がったレウスは相棒の大剣を振るい、横から殴り飛ばして落馬させていた。
 その空いた馬の背を足場にして再び飛んだレウスは大剣を素早く振り回し、驚愕していた敵二人を馬から叩き落としていた。

「おのれ! たかが獣人が女神ミラ様に逆らうか!」
「何も知らない俺に言うなっての!」

 レウスが地面に着地した隙を狙って二人の男が槍を突き出していたが、レウスは避けながら片方の槍を掴み、逆に槍ごと相手を持ち上げていた。

「ば、馬鹿な!? 何て力ー……」
「そんで、お前が最後だ!」

 そのまま相手ごと槍を振り回し、馬に乗っている最後の男へぶつけて叩き落とす。
 全ての男達を叩き落としたレウスは、まだ動ける男達に向かって剣を構えていた。

「さてと、これで対等だよな。どこからでもかかってこいよ」
「くっ! たかが獣人一人、馬が無くとも……」

 落下の衝撃で一人は気絶していたが、残った四人は槍を構えて再びレウスに突撃していた。

「クリス君……あの人は一体?」
「味方だよ! 先生の弟子でー……」
「私達の仲間よ。久しぶりねクリス。こうなった理由を説明して欲しいけど、今はこの場を切り抜けてからにしましょうか」
「お久しぶりです、リースさん! 理由は……後で必ず説明します」
「貴方の事だから悪い事じゃないと信じているわ。それより傷を負っているみたいだから、私に見せてくれる?」

 リースがクリスと女の子の怪我を確認している間に、レウスの戦闘は終わろうとしていた。
 レウスの剣が直撃した男が水平に吹っ飛ばされ、鎧を砕かれて白目をむいている姿を男達に見せつけて戦意を喪失させているからである。
 残っているのは三人だが、すでに槍を構えるだけが精一杯で完全に腰が引けていた。

「うっし……で、まだやるか? 大人しく投降すれば、そこに転がっている奴みたいにならなくて済むぞ」
「わ、我々にこのような事をしでかしたのだ。貴様には女神ミラ様の裁きが下るぞ!」
「だからミラなんて知らねえって。もし俺が悪い事をして裁きを下せるとしたら、それは兄貴だけだ!」
「くそ……一度引け! 体勢を立て直すのだ!」

 はっきりと言いきったレウスが残りの男達を気絶させようと剣を振り上げた時、男達は分散して逃げ出していた。
 目と言動がおかしい連中だが、敵わないと知って逃げを選択し、分散して生存率を上げようとする姿勢だけは褒めてもいいかもしれない。
 ただ……。

「逃さねえぞ!」
「その通りです! 『風玉エアショット』」
「風よ、お願いね!」

 これは試合ではないし、こっちには仲間がいるのだ。
 分散して三方向に逃げようが、一人は走って追いついたレウスの剣で、残りの二人はエミリアとフィアが遠距離から放った風の玉で脳天を叩いてきっちりと気絶させていた。

 こうして全ての男達を沈黙させた俺達は、リースの治療を受けているクリスと女の子の下へ向かった。
 追手を倒し、治療を受けて安堵しているところで悪いと思うが、敵か味方かはっきりとさせる為にまずは状況の説明をしてもらわないとな。

「久しぶりだな、クリス」
「先生……お久しぶりです。そして助けてくれてありがとうございます」
「礼は俺よりレウス達に言ってくれ。それよりこんな所でお前と再会するとは思わなかったよ。何だか妙な事になっているようだな?」
「はい。色々とありまして、一体どこから説明するべきか……」

 あまり良い状況ではないのだろう、説明に悩んで頭を抱えているクリスの袖を女の子が引っ張っていた。

「クリス君。この人達がクリス君が言っていた人なの?」
「そうだよ、俺に強くなる方法を教えてくれた先生だ。なあアシェリー……先生達なら信用できると思うから、相談してみないか?」
「でも、関係のない人達を巻きこむなんて……」
「近衛を差し向けた時点で、あいつ等は本気で君の命を狙っているんだ。それに今の俺には何もかも足りないから、このままだと俺達は確実に追い込まれる。だから恥だとしても、迷惑をかけるとしても希望のある方法を選ぶべきだ!」

 クリスは女の子の肩を掴み、目を覗き込みながら真剣な表情で語りかけていた。
 その悔しくも必死な形相による説得に、女の子はクリスと同じように悔しげにしながら頷いていた。
 レウスとホクトに男達を縛るのを任せていると、ようやく話が纏まったクリスと女の子が顔を上げて俺達を見た。

「先生、実は相談したい事がー……」
「色々と複雑な事情があると思うが、急ぎじゃなければお互いの紹介から始めないか?」
「そう……ですね、その通りです。初めての人もいますので、改めて……俺の名前はクリスフィートです。気軽にクリスと呼んでください。そしてこっちにいるのが、えーと……」
「クリス君、後は私が……」

 クリスからの紹介を遮り、ゆっくりと立ち上がった女の子は俺に向かって優雅に頭を垂れていた。
 十三歳のクリスと同い年に近い女の子は、リースと同じ青い長髪を二つに分けて側頭部で纏めた、所謂ツインテールというやつだった。
 そして薄汚れた法衣を着ているみすぼらしい格好だが、その鮮麗されたお辞儀は上級の貴族を連想させた。

「私の名前はアシェリー・ミラ・ローデンハイドと申します。この度は私とクリス君を助けていただき、本当にありがとうございました」
「クリスにも言ったが、礼ならあそこで男を縛っているレウスと隣の彼女達に言ってくれ。それにしても、ミラ……か」

 胸元に太陽を象ったペンダントを着けているので、女神ミラ様という女神を信仰している信者なのはわかるが、名前にミラという部分が入っている以上、ただの信者ではあるまい。嫌な予感がするな。
 この時点でほとんど察したが、次に放たれた彼女の言葉に俺は内心でこっそりと溜息を吐いた。

「そして……私はフォニアにある、女神ミラ神殿で聖女をしていた者です」

 フォニア……そこは今から俺達が向かう予定だった町の名前だ。


 教え子でもあるクリスもいるので、これから俺達は面倒事に首を突っ込む事になるだろうと確信するのだった。


※ 忘れている人もいるでしょうが、クリスは十章の『衝撃の再会』で登場した男です。

おまけその一


 今回の戦闘中、なんとなく没となった会話。


女神ミラ様に逆らう不届き者が!」

「へ……なら俺は兄貴に逆らう不届き者がって言ってやらぁ!」
「その通りよレウス! シリウス様のシリウス様によるシリウス教に逆らう愚か者は、死あるのみです」
「そんな宗教ねえから! そもそも逆らってねえよ!」






おまけその二


 風呂にて、ありがちな展開を文章で表現してみた。


「ああ……気持ち良いですね」

 エミリアが両手を伸ばして大きく体を伸ばせば、その存在感のある(湯気によるガード)が大きく揺れていた。

「ねえエミリア、背中の洗いっこしない?」

 スポンジのような物を持ち、浴槽から出たリースの(異常に発生する湯気によるセービング)が映る。

「ふふ……仲が良いわね。後で私もお願いしてもいいかしら?」

 浴槽から立ち上がり、エルフ特有のその美しい(意味もなく前を横断するホクト)が惜しみなく晒された。



 いわゆるサービスシーン。
 湯気で見えないからサービスじゃない?
 読者様のイメージ力で湯気を払ってください。
 ホクトは……要相談。






 今日のホクト


 今日もご主人様達と旅を続けるホクト君。
 夕方となり、野営の準備に始めたご主人様は、ホクト君とレウス君にお肉の調達を命じました。

 そして一緒に森へ入って獲物を探していましたが、途中で別れ、別々に獲物を探すことにしたのです。
 ホクト君が獲物を探していると、自分と同じような体毛を持つ小振りで兎のような魔物を見つけました。
 以前聞いた情報によると、あの兎モドキの毛皮は高く売れるそうなので、早速ホクト君は仕留めました。

 しかしこの魔物は死んでから時間が経つと毛皮が劣化する特徴があるのを、仕留めたところで思い出しました。
 肉はあまり美味しくないらしいので、諦めて捨てようとホクト君は思いましたが、そこで閃いたのです。

 自分で毛皮を剥ぎ取れば良いのだと。



――― はじめてのはぎとり ―――

 ※子供に初めてのお使いをさせる時に流れるテーマ曲を脳内再生してください。



 ホクト君は剥ぎ取り用のナイフを持っていませんが、自慢の爪があります。
 その鋭利な爪を慎重に動かし、ゆっくりと毛皮を剥いでいきました。

 予想以上に上手く進む剥ぎ取りに、ホクト君は上機嫌となりー……。

『おお! まさか剥ぎ取りまで出来るなんて凄いぞホクト! 流石は俺の相棒だ』

 脳内でご主人様に頭を撫でてもらえる妄想をしてしまい、知らず尻尾を振っていました。
 しかしホクト君、油断は大敵です。

「ギィッ!」

 剥ぎ取りに夢中で、接近するゴブリンに気付くのに遅れたのです。

 実際ホクト君ならゴブリンに何をされようが全くもって平気ですが、奇襲を受けて汚れるのだけは避けたいので、普段から気配を研ぎ澄ませているのです。
 何故なら、ご主人様に汚れた体をブラッシングをさせるのが忍びないからです。ホクト君は綺麗好きなのです。

 遅れてゴブリンに気付きましたが、距離はあったので奇襲はされませんでした。
 ですが、予想以上に接近されて身構えてしまったのか、つい手元が狂ってしまったのです。
 それに気付いた時……順調に剥ぎ取れていた毛皮は真っ二つになっていました。重ねて言いますが、ホクト君の爪は鋭利なのです。

「…………」
「ギ……ギギッ!?」

 その時……ゴブリンは修羅を見ました。

「グルルルルッ!」




 きっちりとゴブリンを掃除したホクト君は目に見えて落ち込んでいました。
 落ち込んでいる理由は、剥ぎ取りの失敗と、ゴブリン程度に八つ当たりしてしまったホクト君自身にです。
 ホクト君だって生きています。
 時には落ち込んだり、苛ついて八つ当たりする時もあるのです。

 一応ですが、途中で現れた猪みたいな獲物を確保できたので、ホクト君はご主人様の命令を果たしています。

「クゥーン……」

 いつまでも落ち込んでいられないと、やる気を取り戻したホクト君は獲物を咥えて立ち上がりました。
 次こそは綺麗に剥ぎ取ってやると決意し、ホクト君はゴブリンと一緒に埋めた兎モドキの墓を背にします。


 実は隠れた努力家であるホクト君でした。








 この章はちょっと宗教関係のような話になりますが、宗教関係の表現って色んな所から突っ込みが多そうなイメージが作者にはあります。
 なるべく頑張ってみますが、加減がわからず、変な表現が出るかもしれませんので予めご了承ください。

 次の更新は六日後になります。
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