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『その神様の番は人間でした。』  作者: 稲荷寿司
『その神様の番は人間でした。』

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第五話

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*






父神の作戦通りに番の墓前へ降り立った秋人《あきと》は、

冷たい墓石の前で泣き崩れていました。



そこへ、番を殺した女がなに食わぬ顔で話しかけて来たのです。



番を殺した女

「あの、夫の知り合いですか?」



秋人は怒りに任せてその女を殺そうとしますが側にいた側近に止められます。



側近

「いけません!

 秋人様!こらえてください!」





秋人の凄まじい殺気を向けられた女は気を失いその場に倒れてしまいました。



側近は、

倒れた女を近くに待たせてあった駕籠へ運びました。


すると、

女に付き従っていた従者の一人が、

沈みかけた空を気にするように見上げました。



従者

「申し訳ございません。


 もう間もなく、

 日も暮れてしまいます。


 女ばかりでの帰り道は、

 何かと不安もございますので……


 お屋敷はすぐ近くです。

 よろしければ、

 途中までお送りいただけませんでしょうか」



そう言って、

従者は側近へ深々と頭を下げる。



側近

「…………」



あまりにも、

都合のいい申し出でした。



番の命を奪った女。

その女に付き従う者たち。



これが偶然であるはずがない。



側近は、

わずかに秋人《あきと》へ視線を向けました。



秋人《あきと》もまた、

何も言わず側近を見つめ返す。



それだけで十分でした。



二人とも、

とっくに気づいていたのです。

この出会いも写し人による策略だと。



神はいかなる理由があろうとも人間を殺してはいけない。



写し人はそのルールを知っていたのです。

そして、秋人が本物かどうかを確かめるためにわざと番を殺した妻を差し向けたのでした。




側近

「……分かりました。


 それでは、

 お屋敷までお送りいたしましょう」



従者

「まあ……!

 ありがとうございます」



安堵したように微笑む女たち。



けれど、

側近はその笑みを黙って見つめていました。




あえてその誘いに乗ったのです。

こうして側近は、番の命を奪った女と、

その従者たちを連れ、彼女たちを屋敷へと送り届けることになりました。



番の墓前には秋人が一人残され泣いていました。

しばらくの静寂の中その姿を遠くから見つめる者が一人。



そう……写し人でした。



写し人は慎重に周囲を見渡し、

ここには自分とあの神しかいないと確信しました。



けれど、

写し人はまだ知りませんでした。




自分が側近を秋人《あきと》から引き離し、

全てが計画通りと高揚していたその時。




秋人《あきと》のもとへ、

一柱の神が降臨していたことを。




淡い光が地上へ降り注ぎ、

その中心から、

ゆっくりと一人の男が姿を現す。




秋人《あきと》

「……父様」



かつて、

始まりの人間をその手で生み出した神。



そして――



写し人が、

何百年、何千年もの時を越えてなお、

追い求め続けてきた創造神。



すべての執着の、

始まりとなった存在でした。



その姿を目にした瞬間。

写し人の思考は、完全に止まりました。



ずっと探していた。



何百年、何千年と。



どれほど長い時を重ねても、

決して諦めることのできなかった存在。



自分を生み出した始まりの神。

そして何より――



この世で初めて、

自分が欲しいと願った神。



その神が今、

秋人《あきと》のすぐそばに立っている。




写し人

「…………あ……」



身体が震える。



歓喜なのか、

興奮なのか。


それとも、

ようやく見つけたという安堵なのか。



もはや写し人自身にも、

分からなかった。



写し人

「やっと……

 やっと見つけた……!」



その口元が、

ゆっくりと歪んでいく。




もはや、

罠も計画もどうでもよかった。



秋人《あきと》をどうするつもりだったのかさえ、頭から消えていた。



ただ、

ずっと追い求めていた目の前の神が欲しい。



何百年、何千年と押さえ込まれていた執着が、

一気に理性を呑み込んでいく。



そして写し人は――



自らが姿を隠していたことさえ忘れ、

本能に突き動かされるまま、

秋人《あきと》と創造神の前へ姿を現しました。



写し人は、

迷うことなく駆け出しました。



その視線の先にいるのは、

ただ一柱。



何百年、何千年ものあいだ、

恋い焦がれ、追い求め続けてきた創造神。



写し人

「私の神様……!」




父神だけを見つめたまま、

秋人《あきと》の脇をすり抜ける。



秋人《あきと》は、

それ以上その行く手を阻みませんでした。



そして写し人は、

そのまま父神の胸へと飛び込みました。



けれど、

写し人の身体は父神をすり抜け――



その勢いのまま、

地面へと転がりました。



写し人

「……え……?」



倒れた写し人は、

震える手をもう一度、

父神へと伸ばしました。



けれど。



その指先は、

父神の身体へ触れることなく、

すり抜けていく。



写し人

「……なんで……?」



もう一度。



何度手を伸ばしても、

その指先が父神に触れることはありませんでした。



写し人

「どうして……?


 私は……

 神様に作られた存在なのに……。


 だったら、

 触れられるはずなのに……」



誰かに問いかけるというより、

自分自身へ言い聞かせるような声でした。



そんな写し人へ、

父神は静かに視線を落とします。



そして、

幼い子へ教えるような優しい声で答えました。



父神

「それはね。


 今の君が、

 “写し”だからだよ」



写し人

「…………え?」



写し人の瞳が、

わずかに揺れる。



父神の声は、

どこまでも穏やかでした。



父神

「でも今の君は違う。



 今のその身体は、

 君が作った身体から、

 さらに写し取られたもの。



 そしてそれを、

 何度も何度も繰り返してきた。



 もう今の君には、

 僕が最初に与えたものは、

 ほとんど残っていないんだよ」




写し人

「…………そんな」



父神

「君は僕を追い続けるために、

 自分を写し続けた。



 でも――



 “写し”では、

 本物の神には触れられない」



写し人

「…………」




父神

「君が捨ててしまった、

 最初の身体なら――



 それか、

 その身体の一部を使って最初に作った、

 君の“本体”なら。



 まだ僕に、

 触れることができるかもしれないね」



父神の言葉を、

写し人はただ呆然と聞いていました。



写し人

「……最初の……身体……」



その言葉を最後に。



写し人の瞳から、

ふっと光が消えました。



伸ばされていた腕が力なく落ち、

その身体が完全に動かなくなる。



秋人《あきと》

「…………」



静寂が訪れた――

その直後。



ガサッ――!



林の奥で、

激しく枝葉が揺れました。



秋人《あきと》

「……っ!」



秋人《あきと》が振り向く。



木々の陰から飛び出してきたのは、

一人の女でした。



けれど。



秋人《あきと》

「……まさか……」



その者は、

秋人《あきと》など見ていませんでした。



ただ一人。



父神だけを見つめて、

真っ直ぐに駆けてくる。



原初の写し人

「――神様……!」



秋人《あきと》

「父様!」



止めようとした秋人《あきと》より先に、

父神が静かに片手を上げました。



そして。



自らへ飛び込んできたその身体を、

父神は拒むことなく、

その胸で受け止めました。



原初の写し人

「…………っ」



今度は、

すり抜けなかった。



伸ばした腕も。

縋りついた指先も。

頬に伝わる温もりも。



すべてが、

確かにそこにある。



原初の写し人

「…………あ……」




何百年、何千年。



ただ、

この神にもう一度触れたいと願い続けた。



その願いが今、

あまりにも簡単に叶ってしまった。



ぽろりと、

一粒の涙がこぼれました。



それをきっかけにするように、

次から次へと涙が溢れ出す。



原初の写し人

「…………ぅ……っ」



何かを伝えようと、

何度も唇が震える。



けれど、

言葉にはなりませんでした。



父神の衣を掴んだまま、

原初の写し人の身体から力が抜けていく。



そのまま、

膝から崩れ落ちました。



それでも、

父神から手だけは離さない。



しばらくの間、

原初の写し人は泣き続けていました。



父神の衣を握りしめ、

その胸に額を押しつけたまま。



何百年、何千年と求め続けた温もりを、

確かめるように。





















最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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