第三話
いつもお読みいただきありがとうございます!
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
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写し人による番誘拐事件を機に、
秋人は番を見つめることが少なくなっていました。
一度、その手に温もりを感じ、
その声を聞いてしまったことで、
自分の中にある番への執着が、
秋人自身、恐ろしくなってしまったのです。
側近
「……秋人様。
番様は今日も、
何事もなく楽しそうに、
過ごされていましたよ。」
秋人
「ありがとう……。」
他の兄たちは、
写し人が秋人の番を誘拐した事件を機に、
本格的に写し人を捕らえるため動き始めていました。
そんな最中、
秋人にとって嬉しい知らせが届きました。
番と共に生きるために人間となっていた咲夜が、
番と共に空庭へ帰還したのです。
人間として一生を終えたあと、
再び空庭へ帰ってこられるなんて。
しかも――番も一緒に。
秋人はもちろん、
他の兄たちも思いがけない帰還に驚いていると、
咲夜を迎えるため、
父神と長兄も皆のもとへやってきました。
【元、巻き取る神】・咲夜
「父様!兄様達!」
咲夜は、
もう二度と会うことはできないと思っていた
父や兄弟たちとの再会を喜び、
溢れる涙を止めることができませんでした。
咲夜
「でも、どうして……。
私は番と生きるために人間になったはず。
どうしてまた、
空庭に帰ってこられたのでしょうか?
しかも……彼まで一緒に」
咲夜の問いに答えたのは、父神でした。
【現・紡の神】父神
「咲夜は、すべての条件を満たしたからだよ。
神から人間となり、
番と共に生きる道を選んだ神が、
再び空庭へ帰るための条件があるんだ」
咲夜
「条件……ですか?」
父神が教えてくれた条件は、
一、自らの権能と神座を預かり、
維持してくれる神がいること。
二、人間として生きた土地で子孫を残さず、
死後、その功績を民に称えられ、
神として祀られること。
三、父神と同じ権能を持つ神ではないこと。
その三つでした。
【断罪の神】真
「すごいですね……。
咲夜はすべての条件を満たした。
ですが、
番の彼までどうして?」
【現・紡の神】父神
「それについてはね。
彼と咲夜は夫婦仲睦まじく、
共に力を合わせて治めていた土地を豊かにした。
そんな二人の姿を見ていた領民たちが、
死後、二人を夫婦神として共に祀ったんだ。
本当に――
奇跡のようなことが起きたんだよ」
咲夜
「民たちが……。」
【森羅万象の神】美咲
「そんな条件があったなんて……。
全部成し遂げた咲夜はすごいですね。
そして、人間だった番も、
共に祀られたことで神格を得て、
咲夜と一緒に帰ってこられた……と」
父神や兄たちは、
咲夜の帰還を大いに喜びました。
もちろん、秋人も。
ですが同時に――
番が同じ人間である秋人は、
自分たちではこの三つの条件を
満たすことができないことも知ってしまいました。
胸の奥には、
どうしても複雑な思いが残ります。
それでも秋人は、
自分のことで皆が咲夜の帰還を
心から喜べなくなってしまうことのほうが嫌でした。
秋人
「咲夜姉様――
おかえりなさい」
だから秋人は、
誰よりも嬉しそうに姉を迎えたのでした。
秋人は預かっていた神座を姉に返すと、
いつもの日常に戻りました。
ですが、
嬉しいことがあれば、
心を乱す悲しいことも起こるもの。
それは神も例外ではないようで――
側近
「秋人様……その、
大変申し上げにくいのですが……」
その日も秋人の代わりに、
番の様子を見守っていた側近が、
初めて言い淀みながら報告してきました。
番の家に、
同盟婚の話が舞い込んできたのです。
番の家は立場上、
その話を断ることはできず――
番は、
相手方の娘を妻として迎えることになった。
側近からそう告げられた秋人は、
しばらく何も答えることができませんでした。
秋人
「そっか……。
いつか、そんな日が来るかもしれないとは
思っていたけど……。
実際にその日が来ると、
こんなにも苦しいんだね……」
それでも秋人は、
愛しい番が幸せになれるのなら――と、
祝言の日、
そっと祝福を授けました。
これから先、
この土地がずっと、
実り豊かな土地でありますように――と。
その頃――
祝言を終えた番もまた、
複雑な思いを抱えていました。
嫡男である以上、
家のための同盟婚は仕方のないこと。
頭では、そう分かっていました。
それでも番は、嫁いできた娘を愛しいと思うことができませんでした。
やがて夜も更け、
初夜の時を迎えます。
けれど番は、
どうしても彼女と契りを交わす気にはなれず、
どうしたものかと思い悩んでいました。
そんなとき――
先に床についていた妻が、
番との初夜を拒んだのです。
妻には故郷に、
心から愛する者がいました。
だから、
その人以外と契りを交わすくらいなら、
自害する――。
そう告げられた番は、
思いもよらない言葉に驚きながらも、
胸のどこかで安堵していました。
番
「……あなたの気持ちを、
一番にしたい」
こうして二人は、
互いに契りを交わさないことに納得し、
夫婦としての日々を送ることになったのでした。
それでも番は、遠い土地へ嫁いできてくれた妻を粗末には扱わず、できる限り彼女の望みに応えました。
秋人の祝福を受けた番の領地は、
その年、近年稀に見るほどの豊作となりました。
田畑には豊かな実りが溢れ、
領民たちの暮らしも、
目に見えて豊かになっていきました。
そんなある日――
妻は、
番の領地が近年稀に見る豊作となったことを、
婚姻によって結ばれた実家へ知らせました。
その結果――
領地がそれほど豊かになったのなら、
民から徴収する税を増やし、
その利益をこちらへ寄越せ。
そんな要求が届いたのです。
しかし番の家は、
その要求をきっぱりと断りました。
豊かな実りは、
領民たちが懸命に田畑を守り、
育ててくれているからこそ得られたもの。
ならば、その恵みは、
まず領民たちへ還元するべきだと考えたのです。
しかし――
その返答を、
欲深い妻の実家は受け入れず、
番の領地へと兵を差し向けました。
あまりにも突然の襲撃。
領内は瞬く間に混乱へと陥り、
多くの領民たちが命を奪われていきます。
番もまた、
領地と大切な民を守るため、懸命に戦いました。
けれど――
そんな番の背後から、
一本の刃がその身体を貫きました。
番
「…………っ?」
何が起きたのか分からないまま、
番がゆっくりと振り返る。
そこに立っていたのは――
番のもとへ嫁いできた、あの妻でした。
番
「どう……して……」
妻は答えません。
そのまま刃を引き抜くと、 番の身体は力を失い、 ゆっくりと地面へ崩れ落ちていきました。
そう……すべては、
最初から仕組まれていたことでした。
妻の実家が狙っていたのは、
初めから番の治める領地そのもの。
そして、
番のもとへ嫁いできた妻もまた、
その企みに加担していたのです。
故郷に愛する者がいるという話も。
番と契りを交わすくらいなら、
自害すると告げたことも。
すべては――偽り。
領地を奪ったあかつきには、
より地位の高い者との再婚が、
妻には約束されていました。
だからこそ妻は、
いずれ捨てることになる番との間に、
子を成すことなど望んでいなかったのです。
それでも番に怪しまれることなく、
その懐へ入り込むためには、
契りを拒む理由が必要だった。
だから妻は、
番の優しさを利用したのです。
番が彼女の気持ちを尊重し、
できる限り大切に接していたその裏で――
妻は密かに、
領地の内情を実家へと流し続けていたのでした。
番に幸せな日々を送ってほしい。
ただそれだけを願って授けた、豊穣の祝福。
その祝福によって豊かになった土地が、
欲深い者たちの目に留まり――
結果として、
愛する番の命を奪うことになってしまった。
少なくとも秋人には、
そうとしか思えませんでした。
そしてそれは、
秋人がこれまで見送ってきた番の生の中でも、
最も凄惨な最期でした。
秋人は悲しみに暮れました。
自分のしたことが、 番を不幸にしてしまった。
そう思い込んだ秋人の心を挫くには、
それだけで十分でした。
そしてついに秋人は、 空庭にある自室へと閉じこもってしまったのです。
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
次回もお付き合いいただけたら幸いです。
(人´∀`).☆.。.:*・゜




