第二話
いつもお読みいただきありがとうございます!
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
(*˘︶˘*).。.:*
それから、
幾度目になるのかも分からないほど、
番の輪廻を見送り続けた頃。
その生で、
秋人と番の運命は、
大きな転機を迎えることになりました。
番は、
由緒ある武家の嫡男として生まれたのです。
秋人
「今世も……
人間なんだね」
ほんの少しだけ、
寂しさが胸をよぎる。
それでも、
元気な産声を上げる赤子の姿を見た瞬間、
秋人の表情は柔らかくほどけた。
秋人
「でも……
無事に生まれてきてくれて、よかった」
秋人は、
天空からそっと指先を向ける。
淡い光が、
生まれたばかりの小さな身体へと降り注いだ。
秋人
「病に負けない健康な身体を。
怪我をしても、
生きて帰れる丈夫な身体を。
今世もどうか――
実り豊かな人生を、あなたに」
それは、
決して番の前に姿を現さないと決めた秋人が、
愛しい番へ贈ることのできる、
ささやかな祝福でした。
その頃の地上は、各地の武家がそれぞれの領地を治め、領土と繁栄を求めて争いを繰り返す時代となっていました。
【森羅万象の神】美咲
「秋人の番が今世は、
武家の嫡男として生まれたみたいだね!」
【断罪の神】真
「それは良い兆しなんじゃないの?
だってこの先民を守り、
領地を豊かに治めることができれば、
死後に人々から祀られることだってある。
そうなれば――」
真は、
期待を込めるように秋人の空庭の方を見た。
真
「今世こそ、
神格を得られるかもしれないね」
その言葉に、
兄弟たちの表情も明るくなる。
何百年ものあいだ、
待ち続けてきた末の妹。
ようやく、
その隣に番が立てる日が来るかもしれない。
誰もが、
そう願わずにはいられませんでした。
けれど、
その希望は、
思わぬところから崩れることになります。
地上に潜んでいた写し人が、
彼の魂が“神の番”であることに気づいてしまったのです。
写し人は敵対する武家へ近づき、
その当主をそそのかしました。
やがて番は、
敵方の手によって攫われ、
人質として囚われてしまいます。
秋人
「…………どうして」
遠く離れた空から、
秋人はそのすべてを見ていました。
助けたい――
今すぐ、
番のもとへ行きたい。
それでも、
何百年ものあいだ守り続けてきた誓いが、
秋人をその場へ縛りつける。
番には、決して会わない。
けれど、敵将の手に握られた刃が、
番へ向けられた瞬間。
秋人
「――っ!!」
考えるより先に、
身体が動いていました。
一筋の閃光が、
地上へと走った。
何百年ものあいだ、
ただ遠くから見守り続けてきた神が。
その瞬間初めて、
愛しい番のもとへと降り立ったのです。
番へ振り下ろされた刃が、
間一髪の所で秋人に弾き返され、
甲高い金属音が響いた次の瞬間。
秋人の蹴りが敵将の腹部へ叩き込まれ、その身体は勢いよく地面を転がった。
突然現れた秋人へ、
残った兵たちが一斉に襲いかかる。
けれど秋人は、
槍の柄を地面へ叩きつけただけでした。
凄まじい衝撃が周囲へ広がり、
兵たちは次々と地面へ倒れていく。
ただ一人を除いて。
倒れた兵たちの中で、
一人の人間だけが、
何事もなかったかのように立っていました。
秋人
「……お前は何者?
どうして意識を保っていられるの?」
その人間は問いには答えずに、
秋人を見て、歓喜するように目を細めました。
???
「あぁ……やっと会えた。
ずっと追い求めていた……
創造神様……」
その言葉と、
自分を通して父神を見つめる異様な眼差し。
その瞬間、
秋人はすべてを悟りました。
秋人
「……写し人」
その声は、
とても静かなものでした。
番が攫われたことも。
命を奪われかけたことも。
すべて、
この者が招いたのだと。
けれど、
そこに込められた怒りに、
辺りの空気さえ震える。
写し人は秋人の怒りを気にすることもなく、
自らが追い求め続ける神によく似た神を、
今度は自らのものにしようと襲いかかりました。
けれど、
所詮は神の手によって生み出された人間の写し。
写し人との戦いに、
勝負と呼べるほどの時間はかかりませんでした。
写し人
「な……んで……」
息絶える寸前、
写し人は切なげな瞳で秋人を見つめました。
けれど秋人は、
冷たい視線を一瞬だけ向けると、
すぐに背を向けました。
もはや、
写し人などどうでもよかったのです。
秋人は、
すぐさま番のもとへ駆け寄りました。
そして、
気を失ったその身体を、
壊れ物に触れるようにそっと抱き上げます。
秋人
「…………温かい」
何百年も見つめ続け、焦がれた番が、
今、自分の腕の中にいる。
初めて知る、
番の身体の温もり。
胸へ伝わってくる、
確かな鼓動。
秋人
「……生きてる……」
それだけで、
涙が溢れました。
秋人
「よかった……。
本当に……よかった……」
秋人は、
何百年もの時間を埋めるように、
愛しい番を胸へ抱き寄せました。
これまでの長い神生の中で、
一度として感じたことのないほどの幸福が、
胸いっぱいに広がっていきました。
秋人
「……連れて帰ろう」
秋人が番を空庭に連れて帰ろうとしたその時。
慌てて追いかけてきた側近が、静かに話し出しました。
側近
「秋人様、
いきなり飛び出すのはお辞めください。
それに番様をどうするおつもりですか?」
秋人
「もう二度と、
こんな目には遭わせたくない。
私の空庭なら守れる。
ずっと……
私のそばにいればいい」
そう言って、
番を抱く腕に力を込める。
側近
「……秋人様。
番様は、まだ人間です」
秋人の表情が、
苦しそうに歪む。
そんなことは、
ずっと前から分かっていました。
だからこそ、
何百年ものあいだ会わずに見守ってきたのです。
側近
「……秋人様」
側近が、
優しく諭すようにもう一度その名を呼ぶ。
けれど。
一度知ってしまった温もりを手放すことが、
こんなにも苦しいなんて思わなかった。
秋人
「……分かってる……」
声が震える。
秋人
「分かってるよ……」
ぽろぽろと涙を零しながら、
秋人はもう一度だけ、
番を強く抱きしめました。
そして秋人は空庭ではなく、
番の生家へと送り届けたのです。
秋人は、
番を生家の縁側へそっと横たえました。
そして、
眠ったままの彼の額へ、
触れるだけの口づけを落とす。
秋人
「……さようなら」
背に、
淡い光の翼が広がり、
己の空庭へと飛び立とうとしたその時でした。
番
「……誰?」
その小さな声に、
秋人の身体がびくりと止まりました。
恐る恐る振り返る。
そこには、
いつの間にか目を覚ました番が、
不安そうな瞳で秋人を見つめていました。
初めて聞いた番の声。
初めて、
自分へ向けられた眼差し。
それだけで、
何百年も押し殺してきた想いが溢れ出しそうになる。
――連れて帰りたい。
――ずっとそばにいたい。
抗えないほどの衝動が、
胸の奥から湧き上がる。
秋人は、
ぎゅっと拳を握りました。
番
「貴方は……
妖かしなのですか?」
秋人
「…………」
答えたい。
けれど、
言葉を交わしてしまえば、
もっと離れられなくなる。
秋人は何も告げないまま、
光の翼を羽ばたかせました。
番
「っ……待って!」
その瞬間。
飛び立とうとしていた秋人の身体が、
強く引き戻されるように止まりました。
――行かないでほしい。
番から向けられた、
初めての願い。
たったそれだけの願いに、
秋人の魂が応えようとする。
番のそばへ行きたい。
今すぐ抱きしめて、
もう二度と離したくない。
秋人
(……だから……)
唇を噛みしめる。
秋人
(だから私は……
会わないって決めたのに……)
秋人は、
振り返りませんでした。
番の伸ばした手が届くより早く、
光の翼を大きく羽ばたかせる。
その姿は、
夜空の彼方へと消えていきました。
それから幾年もの時が流れました――。
少年だった番は、
立派な青年へと成長していました。
けれど、
どうしても忘れられない人がいました。
あの夜、自分を救い、
縁側へと送り届けてくれた、
光の翼を持つ“妖かし”。
あの夜一瞬だけ見た顔も、
時とともに少しずつ曖昧になっていく。
それでも……。
胸の奥に残った、
あの人を求める感覚だけは、
どうしても消えてくれませんでした。
番
「……また、会えるだろうか」
人なのか、
妖なのかさえ分からない。
それでも。
もう一度あの人に会えたなら、
きっと一目で分かる。
なぜか彼には、
そんな確信だけがありました。
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
次回もお付き合いいただけたら幸いです。
(人´∀`).☆.。.:*・゜




