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『その神様の番は人間でした。』  作者: 稲荷寿司
『その神様の番は人間でした。』

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第一話

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*






この世界には、

世界を創造した夫婦の神がいました。



二柱の間には五人の子がおり、

それぞれが世界を維持するための神座についていました。



神の能力を次代へ受け継ぐためには、

その神の子を成さなければならない。



そのため神々には、

それぞれ定められた“番”がいました。



けれど、

たとえ神々の世界であっても、

時に理から外れた出来事は起こるものです。



創造神が司るのは、

世界のあらゆるものを繋ぎ、ひとつに紡ぐ力。



その力を正統に受け継ぐ子は一柱のみ。



すでに後継となる神は生まれ、

さらにその次代を担う孫まで誕生していました。



本来なら――もう、創造神の力を継ぐ子が生まれることはないはずでした。



ところが、その年。



創造神の番が、

三つ子を産み落としたのです。



しかも三つ子の内の二柱には、

“新たな権能”が授かっていました。



一柱には、“断ち切る力”。



一柱には、“巻き取る力”。



ですが、

最後に生まれた一柱には、

創造神と同じ“紡ぐ力”が宿っていました。



本来なら、

もう受け継がれるはずのなかった力。



それが、

三つ子の末に受け継がれていたのです。



けれど三つ子の神が生まれたことで、

神々による世界の統治はより強固なものとなり、

長い平穏が続いていきました。




やがて三つ子も成長し、

それぞれに“番”が現れ始めます。



最初に生まれた【断ち切る神】――冬人《ふゆと》の番は、

別世界に生きる一柱の女神。



そして二番目に生まれた【巻き取る神】にも、

ほどなくして番が現れました。



けれどその相手は、

神ではありませんでした。



どこにでもいる、

一人の人間だったのです。



神が、

神のまま人間の番と結ばれることは許されない。



番が人間であった場合、

神に許される選択は二つ。



神座を降り、

自らも人間となって、

番と同じ一生を歩むか。



あるいは、



番の魂が輪廻を重ね、

いつの日か神、もしくはそれに等しい存在へと至るまで待ち続けるか。



どちらかを、

選ばなければなりませんでした。



二番目に生まれた【巻き取る神】――咲夜は、

迷った末、神座を降り、

人間になる道を選びました。



愛する番と、

同じ時を生きるために。



けれど神座を空位にすることはできません。



誰かが、

その役目を引き継がなければならない。



そのとき名乗り出たのが、

三つ子の末――【紡の神】秋人《あきと》でした。



まだ自分には番が現れていない。



だから大丈夫だと。



姉が愛する者と生きられるのならと、

秋人《あきと》は笑って、

その神座を引き受けたのです。



それから秋人《あきと》の日課になったのは、

地上へ降り、人間となった姉の暮らしを眺めることでした。



愛する番と笑い、

穏やかな日々を送る姉。



その幸せそうな姿を見ることが、

秋人《あきと》は好きでした。



その日も、

いつものように姉を見守っていると、

姉のすぐ近くを、一人の人間が通り過ぎました。

 


秋人《あきと》

「…………そんな」



秋人《あきと》の胸が、

これまで感じたことのないほど強く震えました。



見間違えるはずがありません。



魂そのものが、

告げている。



“番”だと。



秋人《あきと》は呆然と、

その人間を見つめました。



自分にもようやく現れた、

たった一人の“番”。



けれど、

秋人《あきと》の番もまた、

姉の番と同じく人間だったのです。



自分の番が人間だと知ったその日から、

秋人《あきと》は悩み続けました。



姉と同じように神座を降り、

人間となって番と生きるか。



それとも――



番が輪廻の果てに、

神、あるいはそれと同等の存在へ至るまで待ち続けるか。



悩み抜いた末、

秋人《あきと》が選んだのは後者でした。



そして秋人《あきと》は、

その選択とともに、

もうひとつのことを自らに禁じました。



――番には、決して会わない。



神にとって“番”とは、

ただ愛するためだけの存在ではありません。



番から向けられた願いは、

神の理すら超えて叶えようとしてしまう。



もし、あの番が願ってしまったら。



もしその願いが、

世界の理を壊すほど大きなものだったら。



自分はきっと、

拒むことができない。



ならば、

最初から関わらなければいい。



秋人《あきと》はそう決めました。



他の神々も、

秋人《あきと》に何度となく言葉をかけました。



けれど、

その決意が揺らぐことはありませんでした。



こうして秋人《あきと》は、

決して番の前に姿を現すことなく、

ただ遠くから見守り続ける道を選んだのです。



番が生まれ変わるたび、

秋人《あきと》はその魂を見つけました。



けれど、

新たな生を受けるたびに、

その番はまた人間として生まれてくる。



それでも秋人《あきと》は、

待ち続けました。



十年が過ぎ、

百年が過ぎても――



生まれ変わる番を見つけては、

その生涯を遠くから見守り続けました。



そうして気づけば、

何百年もの時が流れていたのです。



【森羅万象の神】・美咲

「秋人《あきと》がかわいそうだよ。

 番が人間だったなら、

 もう神の庭に連れてきちゃえばいいのに」



【断罪の神】・真

「いやいや。

 本人の意思を無視して連れてきたら駄目でしょ。


 それに普通の人間では、

 神の庭の環境には耐えられないよ」



【断ち切る神】・冬人《ふゆと》

「兄様の言うとおりですね。

 それに秋人《あきと》の庭園は、

 今やこの世界にとって必要不可欠です」



美咲

「そうなんだよねぇ……。

 あらゆる世界から流れ着いた、

 輪廻から外れた者たちの救済の場所、か」



真

「本当に不思議な現象だよ。

 別の次元で輪廻の理から外れてしまった者たちが、なぜかこの世界へ流れ着くなんて」



【森羅万象の神】・美咲

「今のところ、

 みんないい子だから助かってますけどね」



冬人《ふゆと》

「まあ、危険な存在が流れ着いたとしても、

 秋人《あきと》の庭なら大丈夫でしょうね」



美咲

「なんで?」



冬人《ふゆと》

「だって――

 戦力だけなら、

 空庭最強の神の庭ですから」



真

「まぁ……確かに。」



冬人《ふゆと》

「それに僕と咲夜は、

 新たな権能を司る者として生まれましたが、

 秋人《あきと》は父様や夏織《かおる》兄様と同じ、

 “紡ぐ権能”を受け継いでいます。


 言ってしまえば……

 万が一の時のための、

 スペアみたいなものでしょう?」



真

「こら。

 そんなふうに言わないの。

 君たちは僕たちの大切な兄弟なんだから」




冬人《ふゆと》

「……ふふ。

 僕たち三つ子は、

 本当に家族には恵まれましたね」

 


美咲

「確かに、

 秋人《あきと》の庭に流れ着いた子の中には、

 元いた世界で神の位だった子もいるみたい。


 その世界では、

 他者に無関心な神もいれば、

 世界の掌握や支配権を巡って、

 争い続けている神々もいるって聞いたよ」



真

「そうみたいだよね……

 僕たちの世界は野心に溢れる者がいないけど」



冬人《ふゆと》

「でも……

 秋人《あきと》の番が人間である以上、

 写し人には気をつけないといけませんね」



美咲

「……あの人、

 まだ神の力を諦めてないの?」



真

「諦めるどころか、

 今でも地上のどこかに潜んでるみたいだよ」



冬人《ふゆと》

「そんな執念深い者に、

 秋人《あきと》の存在を知られたら、

 何をするか分かりません。


 ましてや――

 番が人間だと知られれば……」



美咲の表情からも、

先ほどまでの笑みが消える。



美咲

「……人質にされる可能性がある」



真

「だからこそ、

 秋人《あきと》が番に会わないという判断も、

 正しいのかもしれないね……。


 まさか、長き時を生きる神の幸せと、

 心の安定のために定められた“運命の番”が、

 秋人《あきと》にとって枷になるなんて……」




冬人《ふゆと》

「……写し人は、

 父神様に最初に恋した人間が

 作り出した存在でしたよね?」



【次代の紡の神】夏織《かおる》

「その通りだよ。


 写し人は、

 父様が作り出した“始まりの人間”が、

 いつか、

 父様を手に入れるために生み出した存在。

 自らの寿命を乗り越えてまで、

 父様を追い続けるためにね」



全員

「夏織《かおる》兄様!」




冬人《ふゆと》

「父様もまさか、

 自分が作り出した始まりの人間に

 恋焦がれられるとは、

 思ってもいなかったんでしょうね。


 しかもその人間、

 密かに父様を手に入れるために、

 色々と作り出していたなんて……。


 流石、父様が作り出した人間。

 能力もすごいけど、

 それ以上に執着がすごいですよね」




夏織《かおる》

「そりゃあね。

 地上を治め、繁栄させるために作られた、

 最初の人間だから。


 父様から、

 それなりの能力を与えられていたんだよ。


 手に入らないからこそ欲しくなり、

 支配できないからこそ支配したくなる。


 そして父様が手に入らないのなら、

 その力を受け継いだ子孫へと執着を向ける……


 もう父様の愛が欲しいというより、

 強大な神の力を、

 その欠片だけでも手に入れたいんだろうね。



 現に、

 番のために人間となった神たちには、

 興味を示していないみたいだから」




真

「だからこそ、

 秋人《あきと》の存在は、

 写し人に知られるわけにはいかない」




美咲

「今の秋人《あきと》は、

 “巻き取る力”と“紡ぐ力”、

 二つの権能を担っている。


 神の力を欲しているのなら、

 何としてでも手に入れようとするでしょうね。


 もし、

 秋人《あきと》の番が人間だと知られたら……


 その人を利用して、秋人《あきと》を動かそうとするかもしれない」

 


そんな兄たちの心配をよそに、

その日も秋人《あきと》は、

番の元気な姿を見て幸せな気分になっていた。




けれどその日。



番が思いを告げられている姿を目にした瞬間、

胸にちくりと痛みが走った。




秋人《あきと》

「……また、断った」




秋人《あきと》

「……また、断った」



想いを告げていた少女は、

涙を拭いながら番のもとを去っていく。



その姿を見送りながら、

秋人《あきと》の胸には、

小さな安堵が広がっていた。



けれどすぐに、

そんな自分を嫌悪するように眉を下げた。




秋人《あきと》

「……最低だ。


 あの子は泣いてるのに……

 私は、ほっとしてるなんて……」




次代の紡の神・夏織《かおる》

「悪くないから安心しなさい。」




突然聞こえた声に、

秋人《あきと》は目を見開いた。




秋人《あきと》

「夏織《かおる》兄様!?」




夏織《かおる》は、

秋人《あきと》の隣へ並ぶと、

地上を歩いていく一人の人間へ視線を向けた。




夏織《かおる》

「秋人《あきと》は、

 気付いていないのかい?」




秋人《あきと》

「……何がですか?」




夏織《かおる》

「秋人《あきと》の番のあの子も、

 ずっと待っているんだよ」




秋人《あきと》

「…………え?」




夏織《かおる》

「神だけじゃない。


 番に選ばれた魂もまた、

 自分の運命の番以外を、

 心の底から愛することができない」



秋人《あきと》は、

言葉を失った。



何百年も。




自分だけが、

待っているのだと思っていた。



けれど、使いもまた、

愛する者を知らないまま。



何百年ものあいだ、

運命の相手を、待ち続けていたのだ。



夏織《かおる》

「だから、

 安心した自分を責めなくていいんだよ。


 秋人《あきと》が怖かったのは、

 あの子が自分以外の誰かを

 愛してしまうことだったんだろう?」



秋人《あきと》

「…………はい」



兄の言葉を聞いてから、

秋人《あきと》の表情は、

少しずつ明るさを取り戻していった。



そして長兄と並んで番を眺めながら、

番がどんなふうに生きてきたのかを、

嬉しそうに語り始める。



そんな末の妹の姿を見ながら、

夏織《かおる》は静かに願う。



どうか一日でも早く、

あの番が秋人《あきと》の隣へ

来られる日が訪れればいいと。



――その頃番は。



秋人《あきと》の番

「すみません、

 お気持ちにはお答えできません」


 

先ほど思いを告げてきた相手に断りの返事をして帰路についていた。



番

「……好き、か」



口にしてみても、

その言葉が自分の中の何を指すのか、

やはり分からなかった。



友人たちは言う。



誰かを見た瞬間、

胸が高鳴った。



この先もずっと、

一緒にいたいと思った。



この人しかいないと、

運命のように感じた、と。



けれど自分には、

一度としてそんな相手に出会ったことがない。



番

「……運命の相手、か。


 もし出会えたら、

 それは一体、

 どんな気持ちになるのだろう」



ふと、

空を見上げる。



なぜだろう。 



まだ一度も会ったことのない誰かを、

ずっと待っているような気がした。

 


名前も知らない。



顔さえ知らない。

 


それなのに、

心の奥ではずっと、

その誰かを探し続けている。



そんな不思議な感覚だけが、

昔から消えずに残っていた。



番

「……変なの」



そう呟いて、

彼は再び歩き出した。



自分を見つめる神が、

遥か遠くにいることなど。



知るはずもないまま。




最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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