41_神聖魔法を求めて12
「朝の森の空気はやっぱうまいなー」
特にやることもないので、ログハウスの周りを見て回っている。ラングインさんも早起きなのか着いてきて、この辺のことを教えてくれる。あれが噂の黒ハーブか、真っ黒な葉っぱの植物が大量に植えられていた。
「今更だけど、ここって森の中だけど大丈夫なのか? ドルントは入ってきてなかったみたいだけど」
「この辺り一帯は元々魔力の流れ的に少し外れているからな。魔物は入ってこん。頭のよい魔物だったら別なんじゃが、この辺にはそういった魔物は生息しておらんようじゃし、さらに念のため妻が結界魔法を張っているんじゃ」
「特に結界なんてみなかったけど」
「コリーヌに専用の魔道具を渡しておるから、それで一緒に入ったんじゃろう」
そんな魔法もあるんだな。
結局やることもないので、支度をして朝ごはんを食べたら出発だ。帰りはラングインさんも一緒に街にいくとのことでそのまま同行して森を歩く。
「エルフって森の民だろ? 森がないと生きていけないとかあるのか?」
「それは昔の話じゃな。今は発展しておるぞ。わしも別に森が好きで住んでおるわけじゃなく、ハーブ栽培のために住んでおるだけじゃ」
「そうなのか、森信仰とかじゃないのか」
「一応、本国には世界樹もあるが、信仰されておるというほどではない」
「世界樹とかあるのか!」
「ああ、いっぱいあるぞ」
「いっぱい? それだとありがたみなさそうだな」
帰りは魔物に遭遇せず順調に森を後にしてネードの街についた。
「報酬は本当にいらないのか?」
「はい、さすがにあれだけのドルントを倒してもらって報酬なんていただけないですよ。あたしたちも後で毛皮を売ればかなりの収入が見込めますし、本当にありがとうございました」
今回の案内依頼は完了届だけで報酬は毛皮が換金できるからいらないということになった。どうせ依頼に使ったのはじじいの金だからいいんだけど、その分はお土産を追加で買って帰ろう。
「何か聞きたいことがあればいつでも来て良いからの、来るときはコリーヌ達に連絡するとよい」
「ああ、またエルフの知識を頼らせてもらうこともあるかもしれないし、その時は遊びにくるよ」
「妻にも会うことがあったら、よろしく言っておいてくれ」
「では、カッシュに戻りましょう」
その後、コリーヌ達とラングインさんは買い物をして、また家まで運ぶんだということで冒険者ギルドでお別れし、わたし達は馬車でカッシュに向かう。
カッシュには昼前に着いて、とりあえずホテルに到着。アニーはホテルに待機してくれていたようで、市役所にも連絡はしておいたとのことだった。
「明日は朝から帰るわけだし、市役所に行っておきましょう」
「もう観光して帰ればいんじゃないか」
「お嬢、視察にきたこと忘れてないか?」
「だって、目的は果たしただろ、視察も一応初日にやったし、神聖魔法も習得できたし」
「マリィちゃんは貴族なんだから役所の付き合いもちゃんと考えないとだめよ」
「わあーたわあーた、ちゃんとやるから任せとけ」
「大丈夫かしら・・」
・・・・・・・・・
「シュミットさん、この度は、わたくしの我儘でネードの視察に切り替えてしまい大変申し訳ございませんでした」
「いえ、急でしたがネードもカッシュも同じドーモレネですから」
「ええ、向こうではレモンの栽培も盛んだったようで、こちらとの違いや運航している馬車の違いも見られて考えさせられましたわ。最初にこちらで視察を手配してくださったお陰でより地方の現状に対する理解が進むことができましたの。シュミットさんのお陰ですね」
「そこまでのことでもないですけど」
「それよりも、魔導列車の運行状況と今後の展望はどのようになっていらっしゃいますか」
「まだ開通したばかりで観光課ではほぼ何も」
「それはいけませんわ。ネードも観光できるところはございましたし、貨物だけでなく旅客も視野にいれるべきです。ここは農業と加工が主ですが、体験型の観光なども考えるべきでは?」
「マリィ様、ちょっと部長を呼んでまいります!」
その後も色々と前世のツアー旅行体験を元に観光関係のアドバイスをしていたら、最後は市長が挨拶だけと言って出てきた。
「市長、今回は本当に充実した視察になりましたわ。ご協力感謝いたします」
「こちらこそ、お越しになられていることを把握できておらず、ご挨拶が遅れましたことお詫びします」
「おばあ様にもこちらのカッシュについて、よい進言ができると思います。ぜひ、また訪問をさせてください」
市長室から出ると、後ろからは「なんで、すぐに手配してなかったんだ!」って怒られている声が聞こえるがわたしたちはそのまま市庁舎を後にした。
「いやー、いつ見ても、お嬢の外向け対応はすごいものがあるな。さすがさすが。とても同一人物とは思えん」
「それ褒めてんのかどっちだ」
「ほんとに、すごかったわ。まるで大人というか、かなり高等な教育を受けてきた人間にしか見えなかったわ。こんなことだったら、ほんとに正式な視察として準備した方がよかったわね。あくまで見学だけって伝えてたから悪いことしちゃったわ」
「まあシュミットについてはちょっとヨイショしておいたし大丈夫だと思うぞ。市長まで話をエスカレーションするのもうまくいったしな」
「やっぱり、あれってわざと市長がでてくるように誘導してたんですね・・・シャチ姉さんは初めてだとビックリしますよね。普段からローレッタ様との受け答えはこんな感じですよ」
「それにしても、ネードなんて冒険者ギルドと森にしか行ってないのに、よくスラスラあれだけ比較とか観光方針とか出てくるわね。魔導列車も実物は見たことないって言ってなかった?」
「ああ、見たことないぞ、でも列車だろ。だいたいどんなもんかは想像できるよ」
当たり前だ、前世の日本だと列車どころか新幹線が走ってたからな。
「魔導列車の駅もみていく?」
「いや、いいよ。それより冒険者ギルドにいこう」
冒険者ギルドに行って受付に話をするとすぐ個室に案内してくれて、ギルマスのバチルドがきてくれた。
「ドルントが出たんですか!」
「ええ、普段は出ることがないと言っていましたが」
「森の奥だと確かに生息しているという情報がありますが、浅いところに出てくる魔物ではないですね。情報ありがとうございます。念のため、間引き依頼を受ける冒険者に注意喚起します」
「あと、無事にエルフの方とはお会いすることができました。バチルドさんの迅速な対応のお陰です。ありがとうございました」
「え、ああ、はい」
これでよし、ドルントはFラン冒険者だと厳しいようだから、ちゃんと情報共有しておかないとな。何年かに一回くらいは出てくることがあるらしいし、あの倒した群れだけで全てかどうかもわからないし、気を付けてもらおう。
「これで、やることはだいたい終わったし、お土産買いにいこう!」
「初日にワインをいくつか買いましたよ」
「ネス子はばかだな。三角メガネババアがワイン貰ってうれしいわけないだろ、あれはじじいとかの分だ。今回、授業も無理してもらってるしフォローしなきゃいけないのはローレッタの方なんだよ」
「そうでしたか、でもローレッタ様が欲しいものってなんでしょう」
「わからん。わからんが、どうせああいう奴は高級なのを買っておけばいい。とりあえずカッシュの高級なお菓子か何か売っているところに行こう。じじいの金だし大丈夫だ」
「マリアンヌ様はいいのですか?」
「そっちはいいよ、どうせ会えないし、カッシュに行ってることすら多分知らないだろ」
中心街に行って高級菓子店に入った。正解だったな。こういうところだからフルーツの加工品やワインを練りこんだものなどが中心に色々あった。適当に高そうな菓子折りを購入してホテルに戻る。
「最終日くらいは地元の美味しいものが食べたいな」
「ホテルのレストランじゃだめなの?」
「ホテルだと普通のメニューじゃん。こういう出張の時は地元の物を食べなきゃだ。アニーは昨日どうしたんだ?」
「私ですか、お嬢様が帰ってくるかもしれなかったので、ずっとホテルにいましたから、ここのご飯を貰いましたよ」
ぞろぞろとホテルをでて近場で店を探す。だれも土地勘はないが、この辺は市内でも栄えている区域のようでお店もたくさんあった。
「ワインを使った料理だったら煮込み系かな」
「あれとかどうだ」
ネス子が指してるのは鉄板焼きやステーキの店だ。こいつ、煮込みの話してたの聞いてなかったのかよ。お前がステーキ食いたいだけだろ。
ただ、他にこれといった店もなかったので結局ステーキ屋に入った。わたしが子供なのでさすがに居酒屋とかは入れない。冒険者とかがワイワイしてる酒場みたいなのも結構おもしろそうだし、いつか行ってみたいな。
どれどれ、メニューはっと。一応、ステーキメインだが創作料理などもあるようだ。さすがにここまで内陸に来ると海鮮はほぼないな。クマ肉の赤ワイン煮込みというのがあったのでわたしはそれにした。
「これ、うまいなー」
クマ肉はどうかなと思ったが、熊の手カレーとかもあるくらいだし大丈夫だろと頼んでみたがホロホロで美味しい。値段が高い店だけある。
「クマは内陸側にしかでないからね。ロングサンド周辺にはいないから、よかったんじゃない?」
わたし以外のメンバーは普通に酒も飲んでる。って護衛騎士全員飲んでていいのかよ。明日は帰るだけだしまあいいか・・・
ドンッ
めちゃくちゃでかくて分厚いステーキがきた。さすが異世界。
これはピンクボアじゃなくグレートボアらしい。よくわからんが身が引き締まって食べ応えがあるんだと。みんなでシェアして食べたから、わたしも一口食べたが、いつものピンクボアとあんまり違いはわかんないな。美味しいのは美味しかった。魔物を食べるのも慣れてきたもんだ。
翌日はいよいよカッシュを出立してロングサンドへ帰る。一週間、長いようで短かったな。来週からまた勉強に戻るのか~。行きと同様に丸一日かけて移動したものの、特になにもなくロングサンドの城に戻った。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
ラブロフに迎えられて、そのまま自室へっと行く前に一応お土産渡しておくか。
「ラブロフ、ローレッタ様はいらっしゃいますか?」
「はい、在城されております。お呼びしますか?」
「時間がとれるようであればお願いします。お忙しいようであれば報告は後日しますので確認をしてください」
部屋で待っているとローレッタがやってきた。
「ローレッタ様、お陰様で無事戻ってまいりました」
「元気そうでなによりザマスね。カッシュはどうでしたか」
「はい、とても有意義な視察でした。エルフの方ともお会いできましたし、果樹園や加工場の見学に、市長ともご挨拶させていただけました」
「そうですか」
「こちらがお土産です。どうぞ」
高級菓子折りなら文句ないだろ。
「まあ、及第点ですね」
よし、3カ月くらいかかったが、ここでの攻略法がわかってきた。
要はこいつら金持ち貴族だっていう部分を根底に置くのが重要だ。生まれながらに高級品にしか接してないやつにとっての当たり前を提供してやればいいのだ。その辺が庶民感覚で少しケチると噛み合わない。これからもうまく躱しつづけるぞ。
「なに、ニヤニヤしてるザマスか」
「ほほほ、何でもありませんわ。視察を振り返って自然と笑みが零れてしまいました」
その後は自室に戻って今日は終わり、明日からはまたいつもの日常だ。だけど神聖魔法は使えるようになった。これは大きな一歩だな。
「じゃあ、反省会をはじめましょうか」
夕食前まで、護衛訓練の反省会をさせられた。主にわたしとネス子の立ち位置がよくないという話が主だった。
「ちゃんと聞いてる?」
聞いてなかった。これから神聖魔法で一気に強くなる予定だから、今の形で練習しても意味ないよなって考えてたところだ。
「多分聞いてた!」
「やっぱり聞いてなかったわね。水月に入るまでは、ほどほどにしておくのよ。そもそも大学に行ってからが本番なわけだしね。まあ今回みたいな魔物と遭遇する機会なんて今後はなさそうだし大丈夫かな」
「来週からの訓練は?」
「いつも通りだな」
「そうね、私は今日までだから、二人ともしっかりやるのよ」
「え!シャチって今日までだったのか」
「当たり前じゃない、護衛訓練のために呼ばれたんだもの」
なんか2週間も一緒にいたから、普通にずっと居てくれる気分でいた。これ、またポンコツ二人に戻ったらかなりの痛手じゃないか?
「残れないのか?」
「あら、残ってほしいの? でもだめね、来週からは別の任務を割り振られてるから。また、どこかの視察が入ったら一緒にいくかもね」
この後のレベルアップに向けた立ち回りはシャチ抜きだと、ちょっと慎重にいかないとまずそうだな。
今回、魔物が出た時の指示とかも全部シャチがやってたし。
残念ながら引き留めもむなしく、じゃあね~っと3人は帰って行った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「それじゃ、お疲れ様でした!かんぱーい」
二週間にわたった任務が終わって後輩二人と女三人で居酒屋にきた。全員私服に着替えているから当然だが水月の騎士だなんて周りの人からはわからない。
「シャチ姉が来てくれてほんと助かりました。貴族案件だし、どっかから推薦だったんですか?」
「本当にたまたまよ。本部に戻った時に、ちょうど誰かいないか探してたみたい。タイミングね。でも、私もひさびさに二人と一緒に仕事できて楽しかったわ」
「お嬢はどうでした? なかなか強くなりそうじゃないですか? 神聖魔法を使いたがっているのはよくわからないですけど剣術に特化してもらった方がいいと思いませんか」
「私はエレメンタル魔法をちゃんと習ってほしいですね。絶対強くなれますよ~」
マリィ=ハル=ウィンガーラ、不思議な、いや・・・不気味な子供だった。
二人はうまく付き合っているようだし、私も最初は何のことはない、ちょっとやんちゃなお嬢様の子守だと本気で思っていた。昨日までは。
たしかにウィンガーラ本家の血筋であれば魔法の才は頷ける。まだあれで8才だったか。発育がいいから、もうちょっと年上に見えてしまうけれど。本当に8才だとすれば歴代ウィンガーラ家の中でも上澄み中の上澄みだろう。だが、怖いのはそこじゃない。
昨日の市役所だ。あれは8才が教育されたからと言ってできるような応対ではなかったし、普段の彼女とは全くの別人に成り代わっていた。確実に子供ができるような演技の範囲を大きく超えている。二人はいつものことだと言っていたが才能とかの話ではないと思う。
よくよく振り返ってみると理解力も異常に高いし胆力もおかしい。
世間を知らないのか、あれこれ説明をするとすぐに理解し話を返してくる。まるで他の国から来て、この国の常識を知らないだけの優秀な大人と話しているような感覚だった。
そもそも子供なんて魔物がでようものなら泣きわめいてパニックになるものだ。たしかに魔法も使え身体能力が高いとはいっても普通は恐怖に勝てる精神力はない。
それがどうだ、森ペンギンの時もドルントの時も、彼女が恐怖している様子は一切なかった。行動自体は子供らしく無茶苦茶だったが・・・
その後、二人からさらに話を聞いたが余計意味がわからない。彼女がウィンガーラ家にきたのは、ほんの3か月くらい前のことで、それまではトラクーンの孤児院で育ったらしく引き取られてきたとか。確かに今まであんな子供がウィンガーラ家にいたら目立って知っていただろう。それにしてもたった3か月を城で勉強したらあれができるようになるのか?
不気味ではあるが、才覚は間違いなく本物だし髪の色からも本家以外の何者でもない。さらに政治手腕もあるとなれば近い将来はマリアンヌ様の後継者候補の中で頭一つ抜けるだろう。これからのウィンガーラは彼女に振り回されていくのかもしれない。
これまで接した限りでは不気味なだけで悪い要素は何もない。むしろ相手を見て話すことができる、とても良い子ではあった。
ふいに、あのエルフが言っていた言葉を思い出した。
少し酔ったかしら。
また来週からは任務でロングサンドを離れるし、あまり考えても仕方がない。かわいい後輩二人がうまく時流に乗れて出世してくれるならそれもいいかな。




