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39_神聖魔法を求めて10

 いよいよエルフに会える。どんなやつなんだろ。昨日の話だと男性だっていうことだったし、やっぱ顔は整ってるのかな。カッコよかったら彼氏にしちゃおっかな。


 早起きして馬車を飛ばす。アニーはカッシュに置いてきていて市役所に連絡してくれるよう頼んである。なのでネードに行くのはわたしと護衛騎士の4人だ。

 依頼を受けてくれた冒険者パーティのシルバープラスのメンバーとはネードの冒険者ギルドで待ち合わせをしている。今回、人探しの依頼だったが、既に彼らは知り合いだったとかで案内の依頼に切り替えてネードで再発行するためだ。


 ネードまでは馬車に揺られて1時間くらいで到着、カッシュと比べる明らかに田舎ではあるが村というほどではなく、しっかり街だ。トラクーンよりは小さいかな。


 ネス子とシルバープラスのリーダーであるコリーヌが依頼の手続きをして戻ってきた。


「ご依頼ありがとうございます。改めてですが、あたしはパーティ、シルバープラスのリーダーをしているコリーヌです。あたしがEランクで他の3人はFランクです。道中はたまに魔物がでますが、あたしらで対処させていただきます。とはいえ、森の中を通りますのでお気をつけください」

「私たちも見ての通り戦えるから大丈夫よ。マリィちゃんの護衛は私たちがするから、あなた達は特に気にせず道案内をお願いね」


 さすがに騎士団として田舎町の冒険者と比べるとかなり自信があるのだろう。シャチは冒険者に頼るつもりはないらしい。


「この辺の森で出るのはどんな魔物がいるんだ? 森ペンギンとかか?」

「森ペンギンはいませんね。ボアやそれを狙うウルフとかが出ます。あとはたまにですけど満月熊やハードビーも出ることがあります」

「どれが出ても私たちは問題ないわ」

「さすがは騎士様ですね。大抵は何かしら1回くらい遭遇しますので、そのおつもりでお願いします。では向かいましょう。ラングインさんの家までは森に慣れた冒険者が何も遭遇せず急いだ場合2時間くらいで着くのですが、お嬢様の足だと半日くらいでしょう」


 子供だって考えればそれが普通だが、私は訓練をしてきたので早く歩けるはず。ただ、今日は装備もつけていつもより若干重いし、初めて入る場所だから素直に従って着いていこう。


 ここの森は先週行ったオーガ跡とは少し雰囲気が違っていた。林になっているが元が丘陵地なので高低差も多少あるし、木の種類も違うのか1本1本も大きい。木の間の草が低いものしかないのは一緒のようだ。

 最初は林道を進んでいたのだが、途中から完全に森に入っていく。獣道と呼ばれるような一応踏み固められているというだけの道だ。


「こちらで合っているんですよね?」

「ええ、かなり迷いやすいので必ず私たちに着いてきてください」


 コリーヌ達が前を歩いて私たちはひたすらそれに着いていく形だ。道中で話を聞いたが、元々ここに住んでいるエルフとコリーヌ達はほぼ専属契約のような形らしい。カッシュに来ていたのは偶然だったとか。

 エルフの家までは途中がすごく迷いやすいらしい。おそらくこの辺のことだろう。もう周辺の景色は普通に木だけしかないし見分けがつかない。


「ちょっと変ね」

「どうしました?」


 シャチが止まれの合図をしてきた。確かに、この辺りは何か魔力の感覚がおかしい気がする。迷いやすいというのはこれが原因か?


「もしかして、魔力の感じが少しおかしいか?」

「あら、よくわかるわね。ダンジョン認定されている場所だとこういう地面の魔力がおかしくなっている箇所は結構あるのよ。あなた達もいつもこんな感じなの?」


「ええ、特に私は何も感じませんが、いつもこんな雰囲気ですよ」

 コリーヌはここの往復が10回や20回じゃなく、もっとやっているが特におかしいことはないということだった。


「もしかすると、あえてそういう場所を選んで住んでいるのかもね。エルフがこんなところにいる理由もわからないし」


 コリーヌ達に事前に聞いてはみたが、彼女たちもエルフがなぜここにいるのかは知らないそうだ。単純にエルフ族だから森が好きな変わり者なんだろ、くらいに思っていたらしい。


 そこからさらに奥に進んでいく、最初は子供がいるからということで、ゆっくり歩いていたのだが私が十分着いていけるからスピード上げろと言うと素直にあげてくれた。そういえばこの冒険者パーティは私が子供だからって色々言ってくることなく騎士三人じゃなく、私から意見を言っても素直に聞いてくれる。依頼主に対しては礼を尽くすいいパーティのようだ。


 森に入ってから凡そ3時間近くたった時だった。シャチが再び止まれの合図をしてきた。


「どうしましたか?」

「全員その場で待機して」


 シャチはそう言うと前に森ペンギンと戦った時のようにタタっと大きい木の上に登って周囲を確認し、すぐ降りてきた。


「どうでした?」

「静かに、何かに囲まれているわ」


 一応、耳を澄ましてみるが、森は不気味なほど静まり返っている。むしろ静かすぎる。さっきまで聞こえていた鳥の鳴き声とかパルーンの跳ねる音が一切聴こえない。


「ネッシー、ネイア、マリィちゃんの左右に展開。私は魔物を警戒するから、そのまま止まっていて。あなた達も固まって待ってちょうだい」


 私の前にはシャチ、コリーヌたちは私たちの前に固まっている。

 少し待っていると10mくらい先の木の横から何かが出てきた。


「ウキョッ」


 魔物っぽいが、事前に聞いていた魔物のどれも該当しない。

 猿だ。見た目はいつだったか動物園で見たワオキツネザルのような感じの顔と縞々のぶっとい尻尾をしているが、体つきはゴツい。ゴブリンの手足を少しスラっとして長くした感じだ。毛はそこそこふさふさだけど。

 今見えている奴の大きさは人間の子供くらい、わたしより少し小さいくらいかな。


「まずいわね。ドルントよ。こんな浅いところにも出るなんて」

「この辺りでは、ドルントなんて出たことないのに!」


 コリーヌ達もかなり驚いている。普段と一緒の森じゃなかったのかよ。


「ドルントっていうのはどういう魔物なんだ?」

「見ての通り猿の魔物よ。それなりに賢いけどゴブリンみたいに道具を使ったりできるレベルじゃないわ。ただ、ああいうのは群れるのと森の中だとすばしっこいし立体的な動きをしやすいから厄介なの。普通に人間も襲って食料なんかを奪ってくるわ」

「倒せるのか?」

「1匹2匹なら瞬殺できるけど、何匹いるか次第ね。安心して、いくらいたとしても流石にマリィちゃんに近づけないようにくらいはできるわ。こっちよりもあの人たちね」


 なんだろう、こう、こないだの森ペンギンといい、わたしは群れる魔物に狙われやすい体質か何かなんだろうか。蟻の魔物とかキモイから絶対こないでほしい。

 それはそうと目の前のコリーヌ達だ。シャチの感じからするとFランには厳しい魔物なんだろうと思われる。かといって、この状況でわたしの守りを薄くしてもいいから、とは言いにくい。数が少ないことを祈ろう。


「ウキャ」

「ウキョ」

「ウッキー」


 こちらは固まって相手の出方を窺っているが、ドルント達は最初の一匹を皮切りに次々と姿を現してきた。向こうも、こちらの出方を見ているのかいきなり襲ってはこない。


「30匹はいますね。私の魔法で先制しますか?」

「そうね。固まっていないからあまり数は減らせないでしょうけど、あいつらも魔法には慣れていないだろうから火魔法はいい牽制になるわ。木に燃え移らないようにしっかりコントロールしてね」

「大丈夫です。コントロールは得意ですから。」


 そういうとネイアは短剣を片手に持って詠唱を始めた。杖の方を使っていないということは、実際の所はそれほどピンチっていうところまではいっていないのだろう。

 詠唱と同時にネイアの魔力が剣の魔石を通じて空中に広がっていく。


「根源たる元素の炎の力、燃やし焦がし照らす、その力を、今我が前に顕現し矢となりて戦いの律動を成せ、ファイアーボルト!」

「ウキヤー!?」


 猿どもとの戦いの火蓋が切って落とされた。

 まず、ネイアのファイアーボルトは凄かった。10連射されて、そのうち6発が命中、残り4発も木を避けて消えた。命中した6匹は全て倒れて動かない。恐らく倒せたのだろう。この時点でドルントはコリーヌ達よりもこっちがヤバいと感じ取ったのか一気に向かってきた。


「とりゃー!」


 こっちに向かってきたはいいが、むしろこっちからも前に向かっている。ファイアーボルトが打ち終わると同時にタイミングを合わせて、ネス子はファイアーボルトをかろうじて避けたやつと呆気に取られているやつを次々と倒していく。この二人の初撃の時点で合わせて10匹以上が一気に倒された。

 同時に激情し、真っすぐこっちに向かってきたドルントが4匹いたがシャチが高速で切り刻んでいる。


 問題は向こうだ。4人固まっているが全員が前衛のようだ。コリーヌは長斧を持って戦っているが、こちらの騎士のように動きは速くなく躱されている。

 最初はこっちに向かってきていたドルントだったが、シャチとネス子が明らかに各上だとわかるや否や、何匹かは向こうをターゲットに変えて走っていく。


「みなさん避けてくださいね! ファイアーボール!」


 ネイアが詠唱すると大きい火の玉が出現した。ファイアーボルトと違って大きく直径1m以上ある火球だ。そのまま火球はコリーヌ達に向かって進みドルントを後ろから焼いた。

 コリーヌ達はタイミングを合わせ全員避け、火球は空に消えた。


「あ!」


 地面を4足歩行で低く走って行ったドルントに火球を撃ったせいで一部の地面に燃え移ってしまったようだ。


「消火だ!クリエイトウォーター!」


 とっさにわたしはクリエイトウォーターで水を生成、できるだけ大きい水球にして燃えはじめた箇所に落とすと同時に、手のひらから放水した。

 その時だった。


 シュッ


 一瞬の油断。シャチも水魔法にビックリして動けなかったようで、その隙を狙って一匹の小さい子供と思われるドルントが地面の枯れ葉の下を潜るようにこっちに飛び出してぶつかられた。


「盗られた!」


 やられた!

 先日買ってもらったばっかりのポシェットをパクられた。目の前のドルントは、やってやったぜとばかりに、わたしのポシェットを掲げてこっちを吠えた。


「ウッキキー!」


 そして、そのまま背を向け、お尻ペンペンしてきやがった。


 ブチッ


「このやろお! わたしのポシェット返せ!」


 完全に頭にきたわたしは、そのままダッシュしてクソザルを追う。


「ちょっと!マリィちゃん!」


 神速、ライトニングボルトのマリィさんを舐めるんじゃねーぞ!


「ウ、ウキッ!?」


 クソザルは4足歩行で逃げていくが怒りにまかせて身体強化した私の方が速い、ついに大きい木の前に追い詰めた。


 そして、わたしは短剣を抜き、足の裏に魔力を込めた。

「トビー、お前から受け継いだ技を使わせてもらうぞ」

 そして先日の森ペンギンのように爆発的に飛んだ。


「オラァ!」

「ウキャー!?」


 一瞬でクソザルに突撃し剣で殴打した。相手も子供だったからか耐久力もなく、わたしのパワーでもなんとか一撃で仕留めることができて、無事にポシェットは取り返した。


 その瞬間、一瞬だけだが自分の中の魔力がジュワっと沸騰したような感じがした。


「な、なんだ!?」


 一瞬だけで特に何もなかった。


「マリィちゃん! 大丈夫!?」


 シャチがこっちに走ってきた。

 いけね。絶対動くなって言われてたのに、頭にきてクソザルを追いかけてしまった・・・


 戻ると既に討伐は終わっていた。

 ドルントは30匹くらいいたようだが、全てを倒し切ったようだ。大半がこちらの騎士3人が倒し、コリーヌ達も数匹倒したらしい。

 私も護衛騎士3人も目立った怪我はなくポシェットだけがひったくられて破れてしまった程度だ。コリーヌ達もひっかきキズくらいで大きい怪我はしていない。見た目はボロボロにされたみたいだけど。


「はぁー、本当によかった。マリィちゃんがドルント追いかけて行った時は心臓が止まるかと思ったわよ」

「ごめんなさい」

「私も水魔法にビックリしちゃって、とっさに動けなかったのが失敗だわ。こっちもごめんなさいね。でも本当によかった」


 先週の護衛訓練が生かせなかったな。反省反省。


「まあ、お嬢だし、ドルントくらいは大丈夫だろう。別にいいんじゃないか。実際、一匹仕留めたんだろう?」


 ネス子はわたしのことをなんだと思ってるんだ。か弱い子供だぞ。


「それにしても、マリィちゃんが水魔法を使えるなんて。二人は知ってたの?」

「知ってましたけど、言うの忘れてました」


 いつものやつだな。

 反省会をしていたが落ち着いたようでコリーヌがこっちにきた。


「あたしたちだけだったらヤバかったです。さすが騎士様ですね。助かりました。ここまで来たらラングインさんの家はもうすぐですけど向かいますか?引き返しますか?」

「確認できたドルントは全て撃退したし、他の気配もなさそうだから向かいましょう。念のためコリーヌさんと私が前を一緒に歩くわ。私はサーチに集中するから、早く歩きすぎないでね」

「了解です」


 倒したドルントだが、毛皮は売れるらしい。ただこんな数を台車もなしに全部持って帰ることはできないし、解体している時間もないからとりあえずその場でささっと埋めた。この辺は魔力も強そうだからすぐに地面に吸収されるとは思うが、帰りに何匹かは掘り出して持って帰れるように目印の杭を立ててある。


 その後はここまでより少しゆっくり歩いたが、それでも20分もしないうちに森の一部が開けた場所にでた。

 かなり広い空き地の先にポツンと一軒家、大きいログハウスっぽいのが見える。一人暮らしということだったが、明らかに一人用にしてはでかい。まあ、この世界の建物が無駄にでかいのは今に始まった話ではないけど。

 周りは畑だろうか。絵にかいたようなスローライフの光景だ。


「あれが、ラングインさんの家です。行きましょう」



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