38_神聖魔法を求めて9
ホテルでは流石に一人部屋というわけではなく、メイドと護衛一人に私という3人部屋でアニーとシャチが一緒に、後の下っ端二人はランクの落ちる別の二人部屋だった。
今日は朝から市役所にいくらしく服も着替えて馬車に乗り込む、アニーは特に仕事がないので留守番らしい。
「観光課のシュミットです。ようこそお越しくださいました」
「こちらこそ、よろしく頼む」
市役所にいくとシュミットという女性が迎えてくれた。事前に連絡がされていたため、本日の予定も決まっているとのことだった。
「今回、マリィ様にご視察いただくところですが、午前は総務部長との顔合わせ、果実酒の蒸留所の見学、午後は市内に近い果樹農家の訪問の予定です。明日以降については決まっていませんがご希望ございますか?」
「明日以降も任せる形でいいと思うけど、どうかしら」
一応聞いてみるか
「この街にエルフの住人がいると聞いておりまして、可能であればぜひお会いさせていただきたいです」
エルフを見たことがないから一回見てみたい。子供らしい好奇心からのお願いだということを言うと、住民課に確認してくれるらしい。
ちなみに冒険者じゃないほうのギルドは労働と、そこに伴う税を管轄しているが、市役所の方が総合的に色々なものを管轄しているらしい。住民関係もその一つだ。
確認を取っている間に総務部長と挨拶をした。貴族、いや今は華族なんだったな。部長も華族らしく、その繋がりから挨拶をということだった。挨拶と言っても本当に自己紹介をして軽い雑談、カッシュをぜひ見て行ってくれという話だけだった。そして入れ替わりでシュミットが帰ってきた。
「確認させていただきましたが、エルフの住民は登録されていないとのことでした」
「わかりました。明日以降の予定については少し考えさせてください。本日の見学を元に絞りたいと思います」
その後は果実酒の蒸留所へ行った。
ここで作られているのはスパークリングワイン、いわゆるシャンパンだ。ただこの世界にシャンパーニュ地方なんて存在しないので普通に発砲果実酒としてそれぞれ銘がつけられて売られている。銘柄も多くあり果実酒と言いながらアルコールフリー、ただの炭酸ジュースもここで作っているとのことだった。
ここに来る前にアドバイスを貰った酒好きの友人のお土産用にいくつか購入しててもらった。この国でお酒が飲めるようになるのは、やはり成人とされる15歳かららしい。ちなみに護衛騎士は3人とも普段は飲まないとのことだった。
午後に行った果樹園で育てられていたのはナシだ。いわゆる洋ナシのほう。別にもぎとり体験をするとかでもなんでもなく、普通に農家のおじさんからナシの作り方の話を聞いて終わった。近郊はナシが多いが、地方全体で見るとブドウ、オレンジ、レモンと割となんでも作っているようだがバナナのような南国系はなかった。
そんなこんなで視察初日は終了、一応、情報がきていないか市役所からの帰りに冒険者ギルドに寄ることにした。
ギルドに入ると受付の人が、あっ、という顔をしてこっちにきた。
「騎士様方、お待ちしておりました」
「ん? 昨日の依頼状況を確認にきただけだが」
「はい、ご所望の情報が見つかっております。二階のお部屋にご案内します」
「え、昨日の今日で本当に見つかったのか!?」
住民登録もなかったのによく探せたな。その場で依頼完了報告でもいいのに、わざわざ部屋に案内された。
部屋にいくと昨日話をしたギルマスのバチルド以外に4人、冒険者と思われる服装の人たちが揃って待っていた。
「騎士様方がお求めの情報かどうかは判断しかねますが、こちらの冒険者パーティ“シルバープラス”がエルフの情報があるとのことで準備いたしました」
「あら、書類でよかったのに、わざわざ待たせちゃってすまないわね」
「いえ、本日再度来訪との話を聞いておりましたので、先ほど来て貰ったばかりです。問題ございません」
ギルマスは慣れているようだが、他の冒険者4人は明らかに緊張しているな。そこまで騎士との話が緊張するのか?騎士っていってもこいつら三等だぞ。
「はじめまして、シルバープラスのリーダーをしていますコリーヌと申します」
「テオです」
「ヤニックです」
「サージです」
ギルマスの横にいる女性がリーダーらしい。ギルマスと同じ赤髪だ。残りの三人は男性で、3人とも変わった感じはない普通の冒険者だ。めちゃくちゃガタイがいいとかでもない。
「では、依頼していた内容について教えてくれ」
「はい、騎士様。この辺りに住んでいるエルフをお探しとのことですがラングインさんのことでよろしかったでしょうか」
「ラングイン? 我々も名前を知っているわけではない。そいつがエルフなのであれば問題ないぞ。続けろ」
「あたしら、ラングインさんからよく依頼を受けてるんです。エルフだと本人からは聞いていますし、長耳なのであっているかと。うちのパーティはここから少し行った先のネードの街を活動拠点にしてます。ネードから森の中に入って半日くらいのところに住まれてますよ」
いやー、なんかあっさり見つかったな。あれだけ探すの大変だなんだ言っておきながら1日かからなかった。わたしめっちゃラッキーじゃね。
そこから具体的に話を聞いたところ、ラングインというのは男性のエルフで森の奥っていうほどでもないが、結構入ったところに住んでいるらしい。で、時々冒険者に運搬作業などの依頼を出すのだが、こいつらはお得意様でよく依頼を貰っているんだとか。
「さっそく明日行こう! 具体的な場所を教えてくれ!」
わたしが話すとなぜかギルマスと冒険者4人がひきつった顔をしている。子供相手に何びびってるんだ。
「困ったわね。本当に見つかると思ってなかったから明日も視察するって言ってあるし」
「でも明日の予定は具体的に決めてなかっただろ、アポ取りをしているわけでもないからいいじゃん」
「しょうがないかしら。正式な公務でもないし、なんとかなるでしょう」
「よし! で、そのラングインさんとやらの家は知ってるんだよな?」
「あ、はい。もちろん知ってるんですが、森の中で迷うので教えてもたどり着くのは難しいかと」
「お前たちを案内役として明日、雇うことはできるか?」
「それであれば問題ありません」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「では、明日の朝にネードの冒険者ギルドで依頼を出すから来るように」
「はい」
はー、緊張した。これだからリーダーは嫌なんだよな。
「コリーヌ、応対の言葉遣いとしては赤点だ。あたしじゃなくて私と言え、相手が子供だったから何もなかったが、将来のためにもっと場数を踏むんだな」
「そうは言っても、ネードじゃそんな依頼滅多にこないからいいんだよ。別にこっちに移るつもりもないし」
「まあ、こっちでも貴族の依頼なんて滅多にくることはないんだが、社会人としてだ」
バチルドはかなり遠いが親戚なので、ギルマスだけどこうして気軽に会話ができるのはありがたい。カッシュにはそうそう来ることないけど。
今回の依頼を受けたのはラッキーだったのかなあ。結局、明日も貴族と一緒に行動だろ?大丈夫かな。
昨日、たまたまカッシュの冒険者ギルドに来て見つけた依頼だ。私たちはネードを活動拠点にしているが、こうしてカッシュのギルドにくることも年に数回ある。カッシュの冒険者ギルドは大きく、周りの街にはない事務機能もあってネードでできない手続きがあるときだけ、こっちに来るのだ。
元々手続きの翌日に書類を受け取る必要があったため、泊まり想定で来ていたこともあり夕方までギルドにいて帰り際になんとなく依頼ボードを見た。別にネードからここはそんなに遠いわけではないし、割のいい依頼があるんだったらこっちで受けたっていい。が、実際に受けるつもりがあるというより、おもしろい依頼があったりしないかという好奇心だ。カッシュは大きいから色々な依頼が出ているからな。
「これ、ラングインのじいさんのことじゃねーのか?」
「ん?どれだ?」
人探しの依頼の中に詳しく書いていないものがあった。簡潔にドーモレネに住むエルフ族を探しているというものだ。
「確かに、あのじいさんはエルフだったな。今日来てラッキーだったぜ。探すどころか知り合いだから報告して金だけ貰えるじゃねーか!」
ラングインのじいさんはわざわざ森の中に住む変わり者だ。結構な頻度で依頼もくれる。主に荷物運びとか買い出しみたいな便利屋業務だ。ただ森の中に行くからFランク以上の冒険者じゃないとできない。
そこそこ依頼を出しているが、かといってネードでも別に有名人かというとそういうわけではない。多分一部の冒険者しか知らないだろう。というのも同じパーティに仕事を頼むからだ。あたしらの前に頼んでいたパーティは実力が上がったからロングサンドに挑戦すると言って出て行った“亡者の牙”という意味不明なダサい名前のパーティが担当していて、実質そいつらから引き継いだ。別に本人も隠れ住んでいるかというとそんなわけではなく、普通にネードの街に一緒に出ることもあるし住んでいることを秘密にしているとかも言ってなかったから報告していいだろう。
ただ、場所が場所だから地図で示しても行くのは厳しい。あそこはかなり迷うんだよな。引き継いだ時も何回か迷いそうになったし。迷わないように魔道具まで持たされている。案内までの依頼にしてもらい、一緒にいくのがいいか。
早速あたしは依頼表を外して受付に向かった。こんな美味しい依頼は速いもの勝ちだ。あたしらはじじいのほぼ専属のようなものだが、別に隠れているわけでもないし、亡者の牙と親交のあった他のネード出身の冒険者だって普通に知っている情報だから、依頼に気づけば、すぐ受けるだろう。もう営業時間の終わりで受付も閉める準備をしているようだが、今日のうちに依頼を受けることは手続きしておきたい。
「終わり間際にすまん。よさそうな依頼があったので受けたいんだ」
「はいはい、カードと依頼表ですね。あ、これ、さっきの」
「どうした?」
「少々お待ちを」
もしかして、もう誰か先に報告していたとかか?
受付は「ギルマスってまだいる?」っと聞いているようだ。バチルドが関係している依頼か?
依頼は無事に受けることができたが、ギルマスと話してほしいから明日また来てほしいとのことだった。まあ、どうせ明日も書類を取りに来るから問題ないのだが、じじいの紹介になんでギルマスが関係するんだ?
翌日、ギルドに行ったが午前のこの時間はやはり混んでいるな。昨日もカッシュには午後からきたので空いていたがさすが都会だ、午前はなかなかの混みよう。
とりあえず並んで昨日の書類を受け取った後、依頼の件で呼ばれていることを伝えた。ギルマスの業務は混んでいようが関係ないからか、すぐに呼ばれた。
「コリーヌのパーティだったのか」
「昨日たまたまこっちに来ててね。で、なんでわざわざバチルドおばさんは呼びだしたんだ?」
「その依頼な、貴族の依頼なんだよ」
「マジ!?」
「マジだよ。マジ。昨日さ、水月の騎士の護衛付きで子供が来たんだよ。貴族だとは明確に言ってこなかったんだが、間違いなく貴族だ」
「まあ、水月の騎士が付いているとなりゃあ、一般人じゃないよな」
「しかも髪が金色だったからな」
「うへぇ、ウィンガーラ家の子供かよ。貴族の中の貴族じゃん」
「で、その依頼受けるって、当てはあるのか? さすがに貴族の依頼を失敗して欲しくないんだけど」
「ああ、依頼の方は大丈夫だと思う。探している本人かどうかは知らないけど、エルフの知り合いがネードにいるんだ」
「ネードに?危ないやつじゃないでしょうね?」
どうやらバチルダはわざわざ騎士がきているから不法入国の捜査か何かをしているのではないかと思っていたようだが、じじいはずっと前から住んでいるはずなので違うと思う。ということはもしかすると貴族が探しているのは別の人だったりするのかもしれない。
そのことをバチルダに伝えたが、情報があるならギルドとしても水月にはできるだけ便宜ははかりたいとのことで報告は行おうとのことだった。急ぎの依頼らしく恐らく夕方ごろには騎士と貴族がくると思うからその時間にもう一度こいということだ。貴族相手だから言葉遣いには注意しろとのこと。
「美味しい依頼かと思ったが貴族絡みだったとはなあ」
「あのじいさん、もしかして指名手配犯だったとかか?」
「俺が生まれる前からいるんだぜ。指名手配だったとしても時効だろ」
「貴族と話すのはコリーヌでいいんだよな?」
「いやだよ。誰か変わってくれよ」
「頼むぜリーダー」
こういう時はリーダーしたくないな。このパーティだとあたしだけがEランクまで上がっているから自然とリーダーなんだ。他の三人はFランクだが、あたしもこいつらも今のランクが限界だろうからリーダーは交代できそうにないな。
さすがに貴族を待たせるわけにはいかないので、夕方というよりも少し早くギルドに戻ってきた。流石にもう混んではいない。
応接室に入って待っているとバチルダと依頼主が入ってきた。
やべー、本当に金髪だ。マリアンヌ様は以前に遠目に見たことがあるけど、あんな感じだったな。本物の貴族だ。発言には気を付けよう。
・・・・・・・
「コリーヌ、案内依頼受けちゃってよかったのか?」
「しょうがないだろ、迷って魔物に貴族が襲われでもしてみろ、紹介したあたしらまで何言われるかわからねーぞ」
「いや、水月の騎士様がついてるから魔物は絶対大丈夫だろ」
「そう言われると確かにそうじゃねーか! テオ、お前さっき言えよ!」
「無理無理、緊張して何も考えれなかったよ」
「まあまあ、騎士様はともかく、あの貴族の子供はそんなに礼儀を気にしてる感じはなかったし大丈夫じゃねーか?」
明日が心配になってきたなあ。




