37_神聖魔法を求めて8
「キョロキョロしてどうしたんですか?」
「いや、一晩考えてたんだけど、やっぱりトビーのやつ助けた恩をちゃんと理解してないだろうから、また出てきたらしっかり締めてやらないとと思ってな」
「そうそう同じ魔物に会うことはないですよ。というかまた出てきたら危険なので次は倒しますよ」
結局その後の二日間も森の浅いところまでの探索だったので魔物は出てこずに護衛訓練は終わってしまい、週末を挟んでようやく視察旅行の日になった。
2週分の勉強詰め込みのほうだが、そっちもなんとかなった。
三角メガネババアがマジで2倍速で喋りだした時はどうなるかと思ったけど、こちとら前世で受験勉強だって乗り越えてきてるんだ。勉強の仕方がわかっているのでなんとかなった。あの早口言葉ぶっ続けはやるほうも絶対疲れるだろ。。
「よし、こんなもんか」
「もう準備はいいですか?」
今日は朝から護衛騎士の3人も城にきている。ここからの予定だが、私の希望のエルフと会いたいっていうのは一応考慮してくれるが、あくまでも州内を回ってどのような地域なのかを勉強しておくことが本命とのこと。まあ、さすがにしかたない。
乗っていく馬車は先週オーガ跡に乗って行ってたやつと同じ靭馬だが、車体の方は別の大きいものが付けられている。長距離用の運転手はついておらず今回はあくまで視察ではなく、視察練習みたいなものであって正式な公務や任務というわけでもない。ただの旅行の延長だからということで護衛騎士3人とメイドのアニーに私だけだ。
「それでは行ってらっしゃいませ」
ラブロフに見送られて旅が始まった。わくわく。
「今日はほぼ移動なんだよな。どういう日程でいくんだ?」
「説明しておくわね。まず、今日はドーモレネまで行きます。途中、休憩しながらだと着くのは夜でしょうね。行先はカッシュ、知ってる? 着いたらそのままホテルにいきましょう」
シャチがプランをちゃんと練ってきてくれているようだ。他の二人と違ってできる先輩だな。
一応、ドーモレネについての予習もローレッタに叩き込まれている。ドーモレネは緩やかな丘陵地となっていて様々な果樹の生産、そしてそれを使った果実酒の生産も盛んな場所だ。山と呼ぶほどではないが南西のウカトリ州との境が丘になっているらしい。今回いくカッシュはドーモレネ地方の中でも大きい街だ。森自体はカッシュよりさらに南西にあり、州境に近いが、森のほとんどはウィンガーラ側に属しているようだ。ドーモレネ自体の大きさが東京都よりちょっと小さいくらいはあって、森として定義されている区画としての区切りは別に明確なものがあるわけではないのだが、地図で見る限り森地帯はその三分の一くらいはありそう。つまりかなりでかいし広い、森の周りにも街が点在しているし、一体全体どうやってそこからエルフを探せばいいかはわからん。
「カッシュは聞いたよ。ドーモレネで一番でかい街だろ。そこを拠点にするのか?」
「ええ、そうよ。二日目からは市場の散策と名産の果実酒の工場見学、果樹の農産地の視察ね。あとは市役所で挨拶周りをして、五日目はロングサンドへ帰る移動日よ」
「おい、肝心のエルフ捜索が入ってないぞ」
「一応、市役所で住民登録がないか確認するわ。もし登録があったら会いに行きましょう」
これ、探す気なさそうだな。仮に本当にエルフがいたとしても絶対、住民票とかきちんと移してないだろ。
「おいネス子、冒険者ギルドだと依頼出せるんだったよな。前に探すなら冒険者ギルドへ依頼だって言ってただろ」
「ああ。出せると思うぞ。人探しの依頼などは時折でているし。だが、今回は実質滞在が三日間しかないので難しいと思う」
「そうよ、将来の公務に慣れるのが目的なのだから、そっちを優先しないと」
「アポはとってるのか?」
「ええ、カッシュの市役所の観光課には連絡済よ。市役所から視察は手配してもらうわ」
「さすがシャチ姉さんですね!」
クソ、シャチのやつは無駄に仕事できるな。ネイアとネス子だったら、とりあえず行ってから考えましょ~っとかのはずだったんだけど、シャチがきちんとフォローしてるから外堀が埋められてしまっている。
実質動けるのが三日しかないとなるとかなり厳しい、まずは初日の今日、カッシュに到着次第、冒険者ギルドに顔をだして捜索依頼する、すぐに見つかったとして二日目と三日目は挨拶回りと見学を一気にこなして四日目に捜索くらいしかないか・・・
「わかった、挨拶回りも視察もしっかりやるから依頼だけは今日のうちにカッシュの冒険者ギルドでさせてくれ」
「まあ、一応短期依頼を出すくらいはかまわないけど。そもそもエルフがいるっていうの自体、多分デマだから期待しすぎないようにしてね」
シャチ的にはエルフなんて国で見たことないから絶対ガセ情報だと思っているとのことだった。仮に観光などで来ていたとしても王都だろうとのこと。
ドーモレネに向かって馬車は西に進んでいく、多少あれている部分もあるもののきちんと舗装された道路が続いている。アスファルトと違い少し柔らかめの舗装で魔物馬車が激しく揺れるとかはなくそこまできつくない。周りの景色もロングサンドの都会の街並みから既に田舎になっている。
途中、ダンザンという大きな街で休憩を挟んで南西方面へ向かっていく。ダンザン付近では岩切場なんかもあって建材の生産が盛んなようだった。
そこからさらに進むとだんだんと森や林のような景色が増えてきた。畑も小麦から低木の果樹と思われるものが徐々に増えてきた。
「あれが、カッシュか」
ダンザンもそうだったがカッシュも十分都会だ。馬車の通りも多く、建物も孤児院のあったトラクーンなんかよりどこか近代的に見える。ウィンガーラの街は他の州より発展している感があるな。大きい工場チックな建物や選果場と思われる建物も郊外には多くあった、あれのどれかを見学にいくのだろうか。
「着きましたね」
「運転お疲れさま、ありがとな」
アニーは免許をもっていないから、シャチとネス子とネイアが交代で運転してくれた。
ひとまず泊まるホテルにチェックインする。宿屋というよりホテルという表現の方がしっくりくる感じだ。看板娘が受付をやっている家族経営の安宿が異世界の定番のはずなんだけど、普通に正装をしている受付がフロントにいて手続きした。
元々予約はしていたらしく、スムーズだ。私たちは冒険者ギルドへ行くということで荷物の移動はアニーに任せてホテルから冒険者ギルドへ向かう。
冒険者ギルドは街の中心付近ではなく、少し外れた方にあるらしい。ここも大きい街だからロングサンド同様に普通のギルドと冒険者ギルドは物理的に分かれているようだ。
冒険者ギルドに向かう途中に見える街並みは中型の貨車が多いように思う。
「向こうのあれ、魔導列車の駅舎ですよ」
最近、開通したらしい魔導列車の駅だが、かなり大きく立派なのが見える、一部はまだ工事が続いているようだ。そういえば、じじいが見せたがっていたがまだ見てなかったな。
魔導列車はロングサンドからトールランドまで通じていてここは中継箇所として停車駅になっているようだ。
この街には郊外に空港もあると聞いている。内陸であるが、果実やそれを元にした酒などの生産が盛んなこの街の主な取扱品は水分が多く重いものが中心だ、しかも地産地消というより外向けの商品が多く生産される。そういった経緯もあり北部の物流拠点としての機能がこのカッシュには求められ、発展してきた経緯があるらしい。
未だ魔物馬車による流通網が主流であるが、魔導列車の駅が作られたこれからは一気に列車による貨物輸送の時代に取って代わるのかもな。
そうこうしているうちに冒険者ギルドに到着した。街の都会具合とは裏腹に建物の大きさこそでかいが、ぶっちゃけ綺麗な建物というより古い感じだ。きっと相当長い間建て替えがされていないのだろう。
「依頼料とかは大丈夫なのか?」
「人探しの依頼であれば、そこまで高くないと思いますよ。旅費の中で十分工面できるでしょう」
そのままぞろぞろと4人で受付に向かう。でかい街だけあって受付も12レーンある。ただ、時間はもう夕方から夜に差し掛かろうとしている時間だ。それほど混んでおらず受付も半分しか開かれていないようだった。代表してネス子が前にでて受付に声をかけた。
「いらっしゃいませ」
「依頼を出したいんだが」
「依頼ですね・・・水月の騎士様!? 少々お待ちを」
受付は若い新人だったらしく、騎士の威圧感からか別のおじさんがでてきた。流石にここもウィンガーラ州内だからか水月の権力はかなりのもののようだ。
「これはこれは、騎士様方、冒険者ギルドにどのような御用でしょうか」
「人探しの依頼をだしたい。ただし、三日間しか滞在しないから二日のうちに情報がでなければ引き上げる」
「承知しました。詳細をお聞きしますのでご案内します」
普通はこの場で受付の人に書類提出して処理されるはずなのだが、別室送りになった。
「3人できちゃったから、緊急任務だと勘違いしちゃったかもね」
「まあ、急ぎの依頼という点では違いがないから融通して貰えるなら別にいいのではないでしょうか」
2階にある応接室に通された。それほど大きい部屋ではないが個室になっていて、とりあえず4人同じ側に座って待つと、おじさん以外にもう一人入ってきた。
「はじめまして、ギルドマスターのバチルドです。水月の皆様、ようこそいらっしゃいました」
ここのギルドマスターは赤毛を後ろでまとめている切れ長の目をした女性だった。わざわざギルマスがでてくるとはVIP待遇だな。
「水月、三等騎士ネッシーだ」「同じくネイアです」「同シャチよ」「マリィです」
「それで今日は人探しということですが、具体的に教えていただけますか? もしかしてそちらのお嬢さんに関係が?」
「いや、お嬢とは関係はない。ドーモレネ周辺でエルフを探しているのだが、心当たりはあるか? もし見つかればコンタクトを取りたい。我々は黒曜日にはロングサンドへ戻るため情報提供可能かどうかというだけの依頼になると思うが」
「エルフですか? すいませんが、私も把握しておりません。何か依頼にあたり提供できる情報はお持ちでしょうか?」
「すまんが、エルフということとドーモレネ周辺ということ以外の情報はない状況だ。ここに来たのもダメ元で、ということで来ている。最悪、情報がでてこなくても問題ない」
見つからなかったら問題あるだろ。と思ったが、任務とかじゃなくてわたしの頼み事くらいの感じだし、ここはしょうがないな。そもそも水月の任務だと思ってもらってVIP待遇してもらっているだけでもよしとしよう。ギルマスまで出てきたからには冒険者へさっさと周知することくらいはできるだろうし。
「わかりました。一応、人探しの依頼で、情報提供を求むとして受付します」
その後は書類を書いて手続きをして終了だ。
「それではお預かりします。ご確認は営業時間内であればいつでもお越しいただいて大丈夫です」
「それでは、恐らく明日の同じくらいの時間に確認にくることになるはずだ。よろしく頼む」
帰り際に依頼の張り出し表を見ていく、トラクーンの昔ながらの冒険者ギルドのように乱雑に紙に書かれた依頼が張り出してある感じではなく、整理され掲示してある。討伐系の依頼もそれなりにあるようだが、個体の討伐というより常時依頼として魔物の間引きが多くあるようだ。
「この辺りは魔物が多いのか? 場所ごとの間引き依頼がいっぱいあるけど」
「特別魔物の数が多いというわけじゃないわよ。来るときに見たと思うけど、果樹園も多い地域だからね。丘陵地の一部は森になっていて境目も曖昧だし、魔物が果物を狙って降りてきやすいんでしょう。野菜とかだとそこまでこないけど、果物は割と狙ってくる傾向があるわ」
「昔から、この辺は魔物による農作物被害が多い地域みたいですね。冒険者の数も多いので森から離れたこの冒険者ギルドもこれだけ大きいんですよ」
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珍しいこともあるものだ。
ギルドマスターのバチルドは書類を整理しながら考えていた。先ほどきた客についてだ。
冒険者というのはなんだかんだ荒い仕事でもあり、時にはギルド内でトラブルも、まあまあある。なのでギルマスは比較的常駐していることが多く、今日も普段通り仕事をしていたが、水月の騎士がきたということで応対した。
この辺りは国の中でも下っ端冒険者の数が比較的多い地域だ。なにせ魔物による作物被害が多く、需要がある。そのような中で騎士というのは非常に目立つ。王都や州都ならまだしも、ここに一体何の用があるんだと思ったが、さすがに水月を蔑ろにすることはできないので急いで第2応接室へ向かった。
応接室に入ると水月の騎士三名以外にももう一人子供が一緒にいた。しかし、見た瞬間わかった。髪が金色だ。おそらくウィンガーラ家に連なる貴族の子女だろう。水月が連れているということは何か事件か?と思ったがただの人探しらしい。子供については気になるが聞くと藪蛇になるかもしれない。貴族がらみの事件はもうこりごりだ。
「サアル、あとは任せた」
「この依頼どうしますか? 何か特別待遇が必要でしょうか?」
「いや、特に指示してこなかったし別にいいだろう。ただ、滞在期間が少ないようだから張り出しだけは今日の内に頼む」
事務員のサアルに後の処理は任せることにした。
営業時間が終了し、時間外窓口だけが開いているが基本的には店じまいだ。帰りの際に依頼ボードをみたが、さっそく先ほどの人探しの依頼は貼り出ししてくれたようだ。
それにしてもエルフか。この街に住んでそこそこ経つが聞いたことはない。わざわざ水月が探しているということは、もしかすると国際指名手配かなにかの不法入国者なのかもしれない。来ていたのも三等騎士だったから、ここにいるという確かな情報があるわけでもなくローラー作戦でもしているのだろう。
うちのギルドで厄介事にならないといいなあ。実はこの街に潜伏してました~なんてやめてくれよ。
他の職員も帰り支度を始めている。私もさっさと出よう。扉から出ようとした時に依頼ボードの前で騒いでいるパーティが見えた。




