35_神聖魔法を求めて6
午前の授業が終わる少し前、いつも通りネス子とネイアが部屋に入ってきた。別に変らないつもの恰好をしている。
今日から遠出の練習って話はいってないのか?
あとシャチもきてないんだけど。
そのままお昼になっていつも通りマナー訓練を兼ねて三角メガネババアと一緒に食事。最近はマナーもだいぶ身に着いたおかげで無心になって食べることができるようになってきた。
食事中の世話は普通にメイドがしてくれているからか騎士2名は一緒にいない。食堂で食べているんだろう。いつものことだ。
食事が終わって自室に戻ると途中でシャチが待っていた。
「マリィちゃん、今日からしばらくよろしくね」
「ああ、こっちこそよろしく頼むよ」
そのまま部屋に入って打ち合わせをすることにした。
ん?あとの二人はどうした?
「午後は護衛の騎士が付いてるって話だったけれど、まだ来ていないの?」
「もう来てるぞ、昼前には見たし。そろそろ来るんじゃないかな」
「護衛なのに離れてていいの?」
確かに。あいつら護衛任務やってるんだって絶対忘れてるだろ。
少し雑談をしていたら外から声が聞こえてきた、やっと来たか。
コンコン
「お嬢、入りますよ」
ノックと同時に二人が入ってきた。
「「え! シャチ姉さん!?」」
「あら、護衛ってネッシーとネイアだったの?」
シャチは私の護衛騎士のことは聞かされてなかったのか。
「知り合いだったのか? 私の護衛をやってもらっているネス子とネイアだ」
「知り合いも何もシャチ姉さんは私たちのOJTだったんです。久しぶりですね!」
「なんでシャチ姉さんがここに?」
こっちの世界にもあったんだ。オンザジョブトレーニング制度。まあ、そんなこと、今はどうでもいい。
「今日からしばらく一緒に護衛をするのよ」
「お前ら聞いてないのか? 今日から遠出の訓練するんだよ。例のドーモレネに行くって話は州内視察の名目でOKが出たから、そのためにまずは護衛練習するんだと」
「そんな話になっていたんですか、それでシャチ姉さんが」
シャチは二人の2個上の先輩で斥候の能力が強いらしい。それで、今回来てくれたのか。護衛としては重要ポジションだもんな。元々知り合いで先輩ならやりやすいだろう。姉さんとか呼んでるくらいだから仲もよさそうでなによりだ。
「そういえば、なんで二人はシャチと一緒に来なかったんだ? というかネス子とネイアはいつも昼前には来てるよな」
「ええ、我々は勤勉ですからね、時間には厳格なんです」
「その割に、昼食中は一緒にいないじゃないか」
「あなたたち・・・」
どうやら、この二人は城の食堂だと無料でご飯が食べれるからっていう理由で本来は午後からの護衛なのに少し早く来ていたらしい。ただのせこいやつらだった。
「それにしても随分久しぶりですね。最近ずっとみてませんでしたけど」
「半年くらいはロングサンドから離れていたからね。ついこの間戻ってきたところよ」
「任務って毎回そんな長いのか?」
「2等騎士より上だと結構長い任務も増えるわね」
「ふむふむ、シャチはこれまで、どこに行ってたんだ?」
「ウルズまで行って色々調査をね」
「また、遠くまで大変でしたね」
「それどこだっけ、確か地図でみたような」
「王都の南ですよ」
この半年くらいは魔物生息域の調査をしていたらしい。そんなのを任せられるくらいだから信用してもよさそうだ。と言っても一人で行ったわけではなくチームで動いていたみたいだけど。
「で、今日から遠出向けの護衛訓練ってことだったけど、何をするんだ? 馬車に乗って悪路を行くとかか?」
オフロードで遊ぶみたいでちょっと楽しそう。魔物馬車は自動車と違って結構無理できそうだし。
ちなみに魔物馬車は手綱で指示を出すわけではなく魔道具の首輪みたいなのが魔物につけられていてかなり細かい指示が伝達できる。一応、壊れた時のために教習所では手綱による指示出しも習うってきいたけど。あと、品種改良を重ねて省エネ+専用のエサだから全然トイレにいかないらしい。
「森の中に入るかもしれないっていう話だったわね。まずは対魔物も想定した訓練よ。視察先でそんなに危ないところに行くことはまずないと思うけど、護衛の連携訓練とマリィちゃんは守られるための位置取りね」
「じゃあシャチ姉、近くの狩場にいく想定ですか?」
「そうよ。オーガ跡に行く予定よ」
「久しぶりの狩り任務か! 燃えてきた!」
「やる気になっているところ悪いけれど、魔物が本当にでるような深いところまでは行かないわよ。そもそも日帰りだし。あなた達は準備できてないみたいだから一回、寮によらないとね」
その後、城の馬車乗り場で馬車を借りた。いつも乗っているのとは違うやつだ。今日の馬車の魔物は足が八本あって馬を大きくしたようなやつだ。靭馬という種類らしい。体は大して毛がないが髪の毛がやたらフサフサだ。
まずはネス子とネイアの装備を取りに寮というかいつもの訓練場に行って二人は着替えてきた。普段着ていたのは水月の制服だが街中向けのものらしくて、寮で着替えた後は軽めの戦闘も可能な装備だ。とはいえそこそこ露出してるけど大丈夫なのだろうか。冒険王で見た装備も体を完全に覆うのはアーマー系くらいだったから、こういうのがトレンドなんだろうけど。
「その服って水月のマークが入ってるけど、支給品なのか?」
「そうですよ。正規の騎士だと服は支給されるんだ。新人にとっては装備品の支給は非常にありがたい。それなりに給与が高いとはいえ消耗品だしな」
「礼装として正規服、準正規服、あとは個々のスタイルによってある程度は自由に提供してもらえます。ネッシーみたいな剣士系だとプレートアーマーとかも貰えるのよね」
「ああ、貰っているぞ、場所を取るから困りものだが・・・」
「私は軽装が多いから、そういう心配はないわね。寮から出てるから家も広いし」
「そうだ、ネイア」
「はい、なんでしょうか」
「ネイアは分類的には魔術師?になるんだよな。武器ってどうしてるんだ? こないだ魔法を撃った時には何も持っていなかったけど」
「ああ、私は二つ用意してますよ。これとこれです」
見せてくれたのは短剣と小さい杖だ。
短剣の方は私が買ったのと同じくらいで50cmくらいだろうか。私が買ったのは普通に刃の幅もあるものだがネイアの短剣は刃の幅は細めだが柄の一部がぼこっと大きくなって魔石が埋め込まれているのが見える。
もう一つの杖も同じく全長50cmくらいの長さだが手元の持ち手部分に魔石が入っているのとその先の棒部分も半面が刃物のように光っている。
「メインは短剣ですね。これは魔力制御を補助してくれる機能が魔石にあります。さらに魔力を込めると刃物の切れ味がかなり上がるようになっているんです。なので大抵のものは切り裂けますよ。石ころとかでも切れます。それなりに魔力を消費しますけどね」
「まじか!」
「こっちの杖はいざという時用です。高くて壊したくないので。手元の魔石は同じように魔力制御の補助なんですけど杖の先端まで長細く魔石が加工されていて、こちらは魔法増幅ができるんです。でも衝撃には弱いので使うとしてもこの専用の鞘に入れた状態で増幅なしで使う感じですね。ほんとにやばいときは出して魔力増幅までかけますけど」
おおー、杖も高級品っぽいけど、確かにその性能ならいいな。持たせてもらったけど軽いし、私も同じスタイルにしようかな。今度バッキーにも聞いてみよう。
「二人の武器も一応聞いておくか」
「私は普通に剣だな。何種類か持っているが今日もいつも持ってるやつだ」
「私は色々使えるけど多いのはナイフかしら。遠距離だと弓も使えなくはないけど嵩張るから任務次第ね。今日はナイフよ」
ネス子はいつもの長剣にシャチは双剣スタイルのようで曲がったナイフを2本持っている。とりあえず準備は整った。
「それじゃ出発だな」
再び魔物馬車に乗って移動する。運転はシャチだ。
行先のオーガ跡は別にオーガが出るわけではないらしい。その昔オーガがいて討伐されたという伝承がある場所だとか。今はただの郊外の森らしい。
しかしながら魔物の出現ポイントではあるらしく、開拓できないながらに存在しているんだとか。
「どう? 馬車は大丈夫そう?」
シャチが運転席から話しかけてくる。この馬車は高級車ではなくオフロード向けなのか運転席と座席は一緒の空間だ。
「前にも長距離移動したことあるから全然大丈夫だよ。前乗ったのは高級そうなやつだったけど」
「お嬢はトラクーンから来たんだったか」
「結構遠いわね。だとすると車酔いとかは大丈夫かしら」
「今のところ大丈夫」
「今日はオーガ跡に行ったらどうするんだ?」
「特に決めてないけど、ちょっと森に入って歩くくらいかしら。もし車酔いするようなら途中で帰ろうかと思っていたし」
「魔物はでない可能性が高いな。護衛訓練としては物足りないが・・・」
ネス子は残念そうだ。
「まあ、入り口付近ではでないとしても、オーガ跡にはどんな魔物がいるんだ? ゴブリンとかか?」
「ゴブリンはいないと思いますよ。この辺りでメジャーなのだとアルキダケとかボア系に、あとは森ペンギンくらいでしょうか」
アルキダケは名前からしてキノコの魔物か?
ボアはイノシシだ。食卓によく出るピンクボアというのが品種改良されて畜産されている豚だったはず。それの原種か。
あと、森ペンギン・・・ペンギン?
「森が付いているから森にいるんだろうけど、ペンギンって海の生き物じゃないのか?」
「海ペンギンと森ペンギンがいますよ。森の方がメジャーですね」
「きちんとした名前はビートだな。森ペンギンは群れるから間引く必要性も高い魔物だ。増えると人里に餌を求めて降りてくることもある」
「強いのか?」
「我々からしたら雑魚ですよ。所詮はちょっと大きい鳥なので群れたところで大したことはない。心配しなくても大丈夫だ」
「森で気をつけるとしたらアルキダケくらいかしら? 毒をもっているやつがいるかもしれないからね。まあ痺れるくらいだけど」
「毒の種類によっては高く売れるアルキダケもいるぞ」
「それ違法なやつじゃないわよね・・・」
アルキダケも愛称らしく、正式名称は魔キノコらしい。全然略してないじゃん。
そんなこんなで雑談をしていると少し道がガタガタしだした。どうやら郊外にでたらしく、窓を開けると都市の風景からだんだん畑も多くなってきている。ここからでもまだ城は見えるな。
「オーガ跡はどのくらいで着くんだ?」
「もうちょっとあるわね」
「思ったより遠いな」
「遠出で馬車慣れの練習もしてるからね。単に魔物が出るっていうだけだと、この辺でも森ペンギンくらいならいるんじゃないかしら」
・・・・・・・・・・
「まだ着かないのか?」
「疲れちゃった? もうすぐよ」
「いや、疲れてはないんだけど・・」
最初は窓から見える景色を見て楽しんでいたのだが流石に飽きた。だいたい1時間くらいは走ってるかな?
前にウィンガーラに引っ越してきた時はもっと速度が速かったしシロッコとあーだこーだ喋りながら外を見ていたから新鮮でずっと楽しんでたんだけど。とはいえ、この馬車もオフロード向けのようだがそこそこ早い、体感30km/hくらいは出てると思う。ずっとこれで走り続けれるって魔物馬車やっぱすごいな。じじいの高級なやつだとこの倍の速度は出てたと思うし疲れないのかよ。
外の景色は既に本格的な田舎になってきている。晴れているが気温も暑くなくてちょうどいい行楽日和って感じだ。外でびょんぴょん跳ねているパルーンも増えてきた。あとバカでかい蝶々も結構いる。多分魔物なんだろうな。
「あ、もうすぐみたいです」
“オーガ跡、次の交差点を右に曲がって1km”
ありがたいことに案内板が立っている。
そしてそれで気づいた。これ本格的な狩り練習とかじゃなくてほんとに行って帰るだけの観光だったりしないか・・・
・・・・・・・・・・
「着きましたね~」
「ん~~」
とりあえず車から降りて伸びをする。大きな森の手前まできていて空気も美味しい気がした。
駐車場に馬車を停めたが私たち以外にも何台もとまっている。他のは鳥だったり、普通の馬っぽい魔物だったり、安物が多いようだ。
駐車場エリアの先にはいくつか建物が森の前に並んでいる。その横に大きく開けた林道の入り口のような部分があり、開けた部分のさらに横には「オーガの里へようこそ」の文字とオーガと思われる魔物の絵が描かれた色あせた看板があった。
「う~~ん、観光地!」
「とりあえず受付にいきましょうか」
「受付とかあるの!?」
「こういうところは大抵ありますよ。遭難したら危ないですからね」
どうやら入山届みたいな感じらしい。ここはダンジョン認定されているわけではないので危険度は低いとはいえ、魔物がでる森なので入る前に登録をして、指定の時間で帰ってこなかったら警察に届け出されるようだ。他にもいわゆるダンジョンと呼ばれる場所は大抵こういうのがあるらしい。
一番大きな建物に入ると受付と休憩所のようなスペースがあった。
「向こうの建物は売店になってるのか」
ネイアがまとめて受付をしている間に少し見て回っていたが、たしかに冒険者向け?のお店のようで休憩所以外に装備やポーションを売っている売店に小さい買取所とかもある。
「冒険者ギルドで依頼を受けてくるんだったらギルドの出張所とかないのかな」
「よほど魔物が増えた時は間引き依頼が出るかもだけど、こういう魔物が多いところだと普通の依頼じゃなくて常時依頼として普通に狩りをして素材や肉を売って生計をたてている冒険者が多いわね。だからこういうところでは買取所しかないのが普通よ」
大した店もなく一周して戻ってきた。ネイアも受付が終わったようだ。
ふと横を見ると壁に大きな絵と文字が描いてある。この場所の説明なのかな。
むかーしむかし、このウィンガーラの地におじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは趣味のバードハンティングを、おばあさんも趣味の魚釣りを楽しんでいました。
「う~ん、なかなかアクティブな老夫婦だな。」
森の恵みを貰いながら暮らしていた二人と一緒に、多くの人もまた同じように暮らしていました。
「じじいとばばあはどこいったんだよ! 趣味の話をして終わりかよ!」
ある日、森がざわつき始めました。凶暴な魔物たちが集落まで降りてきたのです。
村人たちは必死に抵抗しました。
これまで何の苦労もせずに暮らしていたのに!
魔物たちはなんなんだよ!
「いや、こっちがなんなんだよ! 多少は苦労して暮らせよ!」
そんな日が幾日も続きました。
村人たちは疲弊していきましたが、わかったこともありました。
オーガ、あのオーガです。オーガですよ!
オーガが森の奥に現れたということがわかりました。
そう、加害者だと思っていた森の魔物たちはオーガに追われる被害者の立場だったのです。
「いや、その魔物かわいそうみたいなくだりいる!?」
それから2年がたちました。
「結構時間流れたな」
オーガは勢力をどんどん広げました。実は一匹ではなかったのです。オーガ達はチームで動いていました。
そして森が支配されました。取り返しのつかないところまできてしまったのです。
「取り返しがつかなかったら、これで終わりか」
そしてついに、おじいさんとおばあさんは重い腰をあげました。
「今更かよ! もう取り返しつかないんだろ!」
おじいさんとおばあさん、そして村人たちはギルドと冒険者に助けを求めました。
多くの冒険者が立ち向かいましたがオーガは強い! 全然勝てません。
「さすがにそうだろうな、強い魔物らしいし」
そんな時です!
颯爽と金色の髪を纏った麗しき女騎士がこの地に多くの騎士を連れやってきました。
「流れ変わったな」
金色の髪のマセリカンナ様は突撃を慣行、見事オーガの一族を倒し、平和な森をと取り戻しました。
おじいさんとおばあさんはマセリカンナ様に感謝を伝えました。
「2年も引っ張ったくせに、あっさり倒しすぎだろ」
おじいさんは言いました。「あなた様がいなければ、この島は今頃“鬼ヶ(オーガ)島”になっていたことでしょう」
おばあさんは言いました。「あなた様ほど強いお方は見たことがありません。一体、何者なのでしょうか」
マセリカンナ様は言いました。「名乗るほどのものではないわ。私はこのウィンガーラの民が平和に過ごせるように剣を振るうのみ!」
そういうとマセリカンナ様は金色の髪を輝かせ、騎士たちと颯爽と去っていきました。
「やたら金色の髪を強調するあたり、嫌な予感が・・・」
村は復興し、再びこの地に豊かさが戻りました。
それからほどなくしてウィンガーラの地に新しい領主が誕生しました。
人々はそれを見て驚きました。
そう、マセリカンナ様の真の姿はウィンガーラの姫君だったのです!
身分関係なく人々の、民のことを真に守ってくれる素晴らしき領主の元でおじいさんとおばあさんは長く趣味を続けることができました。
ウィンガーラ万歳! ウィンガーラに栄光あれ!
「これ、ウィンガーラ家のプロパガンダじゃねーか!」




