34_神聖魔法を求めて5
翌、日曜日に部屋で待っているとメイドのアニーが人を連れてきた。
茶髪のショートで片目が隠れがちな感じの髪型をしていてモデルのようなスラっとした体系のお姉さんだ。服がネス子やネイアがいつも着てるのと同じ感じのやつだから水月の人だな。
「聞いていたけれど、ほんとに小さなマリアンヌ様みたいでかわいいわね。初めまして、私はシャチ=ゼキアーン。水月の三等騎士よ。よろしくね」
「水月の騎士か。マリィだよ。よろしくな。今日の話は聞いてるの?」
「ええ、マリィちゃんのお洋服を一緒に買いに行くのよね!」
なんか前に着せ替え人形させられた時と同じ雰囲気がするぞ。
「聞いていると思うけれど普通の服じゃなくて装備品を買ってもらうっていう話だからな。魔物と出会っても大丈夫なように鎧や靴と、あと武器かな?」
「かわいい服があったら一緒に買っていいって話だったけれど、まずは本来の目的の鎧とかを買いにいきましょうか。マリィちゃんくらいの体格だとあまり選べないと思うけれど魔法がかかったやつであれば多少は調整できると思うわ」
城から馬車に乗ってお店へ向かう。一応メイドのアニーも普段着に着替えて付いてきてくれていて馬車には三人だ。今日の運転手は城で雇っている人がやっている。
「なんで今日はゼキアーンさんが来てくれたんですか? たまたま空いてた?」
「シャチでいいわよ。明日から護衛訓練をするっていうことだけど、私も一緒にいく予定よ。だから、準備から一緒にするの。マリィちゃんはかなーり期待されてるみたいね。本当は休日だったのに頼まれちゃった」
「それは悪かったね。ってことは、シャチは護衛が得意で呼ばれたとかなのか?」
「いや、別にそういうわけじゃないわよ。昨日たまたま本部に行ったら声をかけられたのよね。ちょうど大変な任務が終わったところだったから、ゆっくりしてきていいってことかなって感じ。まあお買い物の付き添いなんて休みの延長みたいなものよ」
着いたのは武器・防具を扱ってるっぽい店なのだがトラクーンでみたような個人商店ではなく大型店だ。馬車を停める駐車場もかなり広い。看板には冒険王ロングサンド店となっていた。
「ここは冒険者向けの大型店ね。ほら、ちょっと向こうに高い建物が見えるでしょ、あれは冒険者ギルドよ」
「ギルドって冒険者向けと普通のが一緒になってるんじゃないのか?」
「あら、よく知っているわね。たしかに田舎だとそういう形態が多いわ。ここは人口が多いから冒険者ギルドだけで独立してるのよ」
目の前の幹線道路に面した店舗もなかなか大きい、2階建てで左右に分かれて作られている。人もそこそこ出入りしていて、どの人もたしかに冒険者っぽい服装だ。
「こっちね。まずは防具を見繕いましょうか」
区画ごとで売っている商品が分かれているようでシャチは特に迷うことなく進んでいく。
「これとかどう?」
「わたしはよくわかんないからシャチに任せるよ」
「じゃあ、試着してみましょう」
明らかにサイズは二回りくらい大きい皮鎧だ。
「これはね。こう着てっと、調整できるのよね」
そう言われて、とりあえずガボッと被っていくつかベルトを締めた後についている魔石を触った。
シュルルル
「うお!」
皮の主要部分は特に変わっていないのだがベルトと一部のつなぎの部分が縮んで体にフィットした。おおー謎技術だけど便利だな。メインの部品はそのままだから耐久性とかにも影響が無いように配慮されているっぽい。
「なんとかサイズはギリギリ大丈夫そうね。マリィちゃんが年齢の割に大柄でよかったわ。さすがにこれ以上に小さいサイズになると特注になっちゃうから時間がかかるのよね。もらってる予算的には全然オーダーできるんだけど」
「うん、ちょうどいい感じになった。これなら全然動ける」
そう言って脱いだ時に値札のタグが見えた。27万円だった。たかっ!
「こんなにするんだ。予算は大丈夫なのか?」
「予算は貰ってるから心配しなくてもいいわよ。まあ、この鎧も安物ってわけじゃないけど、すごい高いわけでもないわ。魔法のかかってる装備なんて上はほんとに天井なしなんだから。まあ、そんなのはこんなチェーン店じゃ売ってないけどね。今回は一番小さいサイズだし結果的には安い方よ。このタイプの鎧は一通りの防御の魔法も付与されていて頑丈だしいいと思うわ。冒険者にとって装備は魔物を相手にするときにも使うわけだから、商売道具って考えるとそこまでじゃない高いってわけじゃないって思えないかな?」
確かに命を預けるわけだからいいものを使いたいよな。でも物価を考えると日常で使う服を買うくらいの気分で買えるものじゃない。
「安めでもこんなもんか。鎧なんて消耗品なのに。これより高いやつをポンポン買えるって冒険者ってそんなに儲かるの? 私が前に見たのはそんなに儲かってるイメージなかったけど」
「そこそこ強かったり、効率よくやっていたりする人は儲かってると思うわよ。魔物を狩れるランクの人たちね。とはいってもやっぱり下の方は悲惨ね。どんな仕事でもそうだけど、上もいれば下もいるってところよ。特に冒険者は登録の敷居自体は低いから魔物狩りもできないで街の便利屋みたいなことをやってる大して稼げない人が多いっていうのは実態としてあるわね」
Fランのベイスとナッツが魔物狩りできるんだぜって自慢してた理由はこれか。あいつらそこそこ強かったのかな。警察には勝てないとか言ってたけど。
「特にウィンガーラは私たちみたいな騎士や州軍を志望する人が多いっていうのもあって大きく稼げてる冒険者は少ないでしょうね。冒険王も1店舗しかないし」
最初はやっすい装備でスタートして成功するまでは高い装備も買えず・・・となると、やっぱり冒険者って危険だな。
その後は丈夫そうな肌着や手袋に靴と小物を選んでいった。鎖帷子とかプレートアーマーなんかも売ってて初めて見たからちょっと気になったけど流石に子供には無理だな。
「あ、これってもしかしてマジックバッグか!?」
カバンやリュックまでは子供だしいらないだろうけど、ポシェット的なやつがあればと思って荷物入れコーナーに行ったが、わざわざショーケースの中にいれてあるバッグが並んでいた。値段もどれも、そこらのバッグに比べて高くて一番安いやつでも20万円で高いやつは125万円のやつもある。形も昔の旅行鞄のようなものからリュック型だったり様々だ。
「そうよ。もしかして初めて見た? 魔法で内部を拡張させているし、軽量化の付与もかかっているからとっても便利なのよ。私も持ってるわよ。そこまで大きいやつじゃないけどね」
「拡張ってどのくらいできるの?」
「ピンキリよ。ここにあるやつでも元のバッグの10倍くらいの容量はあるわね。重さ対策も普通は容量と合わせて作られてるからパンパンに入れたとしても、元のバッグをパンパンにしたのと同じくらいの重さになるのよ。でも入口の大きさは変えられないから口を大きめにできるこういうパカッっと開くやつが冒険者には人気ね」
「そんなに入るなら便利だなあ。高くてもバッグなら長く使えそうだしいいな。これが量産できれば物資輸送とかもすごい楽だろうに」
「量産されてるわよ」
「え? こんな高いのに?」
「バッグみたいな薄くて軽いやつには魔法付与が難しくて一点物になっちゃうから高いんだけど、金属や魔物素材の拡張コンテナは安くできるから普通に使われてるわ。人間が持って歩くのは流石に無理だけどね。馬車輸送は大抵が拡張コンテナよ。魔物素材で軽いやつはちょっと高くて飛行船輸送でよく使われてるわ」
それでか! 街で見る魔物馬車で大型だとバスみたいな乗合タイプはそこそこ走ってるのに大型トラックみたいなのは全然走ってないと思ってたんだよな。中型くらいで十分運べて効率的だったんだ。
そう考えると物流網が魔物馬車と拡張コンテナ、飛行船のお陰でかなり社会コストが抑えられるみたいだ。
この世界って不便なんだか便利なんだか、よくわからなくなってきた。
「あとは武器ね。とりあえずナイフがいいかな。でも慣れてないとさすがに危ないかしら。どうしましょう。何がいいとかある?」
武器か、いつもの訓練の時はとりあえずネス子に習ってる関係で一般的な剣を使ってるんだよな。
魔法だと何がいいんだろ、ネイアの奴が魔法を撃つときは別に杖とかもってなくて素手で撃ってたな。普段はナイフ?小剣?みたいなのを帯剣してたと思う。
ゲームの時のわたしは確か職業的にはプリーストで錫杖装備だった。まだいらないだろうけど。
「普段は剣を使って訓練してるけど、木剣だからなあ。最終的には魔法を使うつもりだからそっちの武器がいいんだけど。魔術師ってどういう武器を使うのが普通なんだ?」
「エレメンタルの魔術師志望なの? 魔術を強化するなら強化魔石を使って魔道具として機能する武器ね。相手を殴ったりして壊す心配がないのなら大きい魔石をあしらった杖とかが一番能力は高いのだけれど、とてもじゃないけど実践向きではないわ。軍で陣を組んで運用するときとか用ね。冒険者の魔術師だと小さめの魔石のついた短剣や小型のメイスかな? 私も冒険者じゃないし、魔術師っていうわけでもないから細かいところはわからないわ」
「まだ魔法を本格的に使えるわけじゃないから護身用の武器ってことでいっか」
「そうね、攻撃魔法を使う冒険者でも強化魔石の武器をわざわざ持っていない人も結構いるわ。高いけど壊れやすい上に小さい魔石だとそこまで魔法の威力があがったりするわけでもないし。あと魔術師といっても攻撃魔法を使えるくらいの人は元々それなりに身体能力も高くて武器で戦っても強いからね」
今度、ネイアにちゃんと魔術師のこと聞いておくか。脳筋騎士コースに進むつもりはない。
神聖魔法でも多分装備は普通の魔法向け武器と一緒だよな。シスターバッキーは普通に仕事中?の姿しかみていないから武器はもってなかったし。
「それじゃ、この辺のやつでいいか」
流石にナイフだと心もとないからということで結局は使い慣れた剣にすることにした。とはいってもかなり短くて全長50cmないくらいの大きさの短剣に分類されるやつだ。
「そうそう、私は神聖魔法を使えるようにする予定なんだ。それ用の武器とかここには売ってるのか?」
「神聖魔法? エレメンタル魔法の方が使い勝手がいいわよ。神聖魔法ってアンデッドとか夜行性の魔物とかには強いけど、それだけよ」
「攻撃だけじゃなくて補助の魔法も覚えたいと思ってるからね。回復魔法とかも」
「回復魔法だと医者にならなきゃいけないと思うけど。医者の魔法だとやっぱり魔石が大きいのがいいわね。回復系の補助ができるのは高いし、ここじゃ売ってないわ」
「アンデッドを倒す方だとどう? 聖職者ってどういう武器か知ってる?」
「聖職者と組んだことはないから知らないわね。店員さんに聞いてみようかしら」
「すいませーん、聖職者用の武器ってありますか?」
「聖職者用ですか、ここの支店では取り扱いがないですね。具体的にお決まりでしたらお取り寄せもできますが」
やっぱり冒険者もやってる聖職者、野良巫女みたいなのは全然いないみたいだった。
この辺はアンデッドの魔物が出ることも全然ないってことだったし、別に出たとしても普通に倒せばいいだけらしいからな。
アンデッドっていうくらいだから死なないのかというとそんなことはなく、魔力が乗った攻撃であれば消滅させられるらしい。誰でも自然と魔力自体は纏っているから特に問題ないんだとか。魔物によってはかなりダメージを負っても時間をかけて復活する不死系のもいるとからしいのでトドメはしっかりするっていうのは最初に習うらしい。
「これで一式揃ったわね。お会計お願いします」
「お支払いはどうなさいますか?」
「カードで」
ん?カード!?
「カードで払えるの!?」
「最近はどこもキャッシュレスが進んでるから、大きい買い物は大抵カードよ。ああ、大丈夫大丈夫、このカードは水月のカードだから建て替えじゃなくて直接経費で落ちるから心配しなくていいわよ」
そういってカードを見せてもらった。わざわざ丸の中に三つの三日月が書かれた水月のマークが入ってるが聞きたいのはそういうことじゃない。
「カードで支払いってどういう仕組みなの? 初めて見たんだけど」
「あら、お嬢様なのに、いつもニコニコ現金払いだったの?」
「わたし、お嬢様になったの最近なんだよ。で、そのカード払いってどうなってるの?」
「私も詳しいことは知らないけど提携している銀行の口座と魔法通信されるようになっていて、最近じゃ屋台でも使えるわ。微弱な魔力登録がしてあるから本人しか使えなくて落としても盗まれても大丈夫で安心だからいいわね。田舎だと使えないんだけど」
めちゃくちゃ便利じゃねーか。って思ったけど魔法通信の範囲があって提携銀行がカバーしている場所じゃない場合は大きい魔道具が別途必要らしい。なので田舎の開拓村みたいなところでは使えないんだと。とはいっても大抵の街では使えるらしいので十分だ。
魔法の精度がどんなもんかわからんけど個人をしっかり判定できるのならセキュリティ面でいえば前世のクレカより上だな。
孤児院じゃ金を使う機会なんてなかったし、引き取られる前も開拓村だったから知らなかったわけだ。
「私も最近は1000円札くらいしか持ち歩いてないもの。そうそう医者を目指してるのならこの1000円札の人は知ってる? 世界で一番すごいお医者様らしいわよ。世界医師会会長のシャバナ先生なんだって」
「知らないし、別に医者志望っていうわけじゃないよ。でも歴史の勉強ででてくるんだろうなー」
「今も現役らしいから歴史じゃでてこないかもね」
「じゃあマリィちゃん、また明日ね」
城まで戻って、その場でシャチとは別れてアニーと自室まで今日買ったものを持って帰った。装着していない状態だと鎧が結構でかい。畳めないし、これ部屋のどこに置きゃいいんだ。




