28_母の事情
「う~む、意外とできてるザマスね。マルカナトから習っていたの?」
「いえ、独学ですわ」
「テーブルマナーは独学でできるようなものではないと思うのだけれど・・まあ、確かにマルカナトが教えれるとも思えないし・・」
テーブルマナーの集中特訓だとか言われヤバいと思っていたが案外なんとかなった。というのも地球でのマナーとそこまで変わらなかったからだ。言葉遣いとかはそもそも言語が違うから戸惑ったし、今後教わるらしいダンスだのお茶会だのは難しいかもしれないが食事だけであれば前世チートでそれっぽくするだけでいい。食材はわからないが料理自体はほぼ日本で食べていたものと変わらない。ちなみにナイフ、フォーク、スプーンだけなのかと思いきや普通に箸も使う。むしろ日本人じゃなかったら箸で詰んでいた可能性がある。日本人でよかった。
「お嬢様、今日は念入りに洗えとのことでお世話させていただきます」
「いや、風呂くらい大丈夫だぞ?」
その言葉も虚しくアニーが一緒に入ってきて丸洗いされた。ローレッタが一通り叱ってからはメイドのアニーとデイジーもかなり真面目に働いている。そして私の言葉を信用してくれない。ちくしょう。風呂くらいゆっくり入りたいのに。
ここウィンガーラでも孤児院の時と同じく、しっかり湯船に入る文化らしくクソでかい風呂が城に設置されている。使用人の大浴場はもっと広いらしいが作りはこっちの方が凝っているとか。ライオンではなく鷹のようなオブジェの口から湯が注がれているのはなんか新鮮だな。さすがに露天風呂はない。温泉入りたいな。この国にもどっかあるのかな?
先日デパートで買ったドレスの一着を着せられメイドたちに仕上げられて食事用の部屋に入った。
「マリィ! やっと時間が取れたわ! 寂しくさせてごめんなさいね」
「おばあさま、お食事の時間をいただきありがとうございます。お会いできてうれしいですわ」
部屋に入ると先に到着していたらしいマリアンヌが立ってこっちにきた。好感度は大丈夫なようだ。
部屋は長いテーブルで奥にマリアンヌ、手前に私、間にタカダーイアとローレッタが座っている形だ。もちろん全員正装している。というかタカダーイアもローレッタも普段から正装もしくは準正装みたいな恰好だ。疲れないのかな。さすがお貴族。
何の話をしようかと考えていると早速食事が運ばれてきた。マナーについては指摘がこないから今のところは合格しているようだ。
「マリィ、いきなりの城暮らしは大変でしょう。どうですか、慣れてきましたか?」
「はい、皆さま大変よくしてくださっていて心配事もございません。おじい様にはこちらのドレスも買っていただきましたし、ローレッタ様の教育も大変わかりやすく、いっぱい学ばせていただいておりますわ(じじいは毎度毎度めんどくさいし、三角眼鏡ババアはブラック労働詰め込み教育でいい加減にしてほしいですわ)」
「まあ、それはよかったわ。本当は私が直々に色々と手ほどきをしてあげたいのだけれど仕事を代われる人がいませんからね。ローレッタ、勉強の方はどんな感じで進捗しているの?」
「ええ、とおっても順調よ。孤児院に預けられていたとはとても思えないわ。特に数学はもう大学卒業レベルといってもよいかもね。貴族としての淑女教育はまだまだですけれど。ここまで頭がいい子供は私でも初めてよ。今度こそ正しい道を進んでくれることを祈るわ」
「本当!? ローレッタが生徒を褒めるところなんて初めて聞いたわ!」
「いや、さすがに大学卒業レベルってことはないじゃろ?」
まあ日本で大卒なんだから当然なんだよなあ。
「わたくしもラブロフから引き継いでびっくりしましたが本当のことでした。さすがにマルカナトが教育したということもないと思うし・・・孤児院ではよほど優秀な先生がついていたの?」
「どうでしょうか、私は普通の先生の基準がわからないので」
「いや、田舎の孤児院じゃったぞ。トラクーンだったからな」
「確かに一緒に来たシロッコさんはその辺の子供と大差なかったわね」
じっと私の方をみてくるが、さすがに転生の話はできない。まあ詰めてくる感じではないからスルーでいいだろう。何か話題そらさなきゃ。
「お母さまとは4歳の時に別れたきりですから」
あまり踏み込みすぎない程度にだが、それっぽいしんみりした顔をして両親の話題をだしてみた。何か聞けそうか?
「確かにそうね、ある意味しっかりする前に離れてよかったわ」
「そうじゃな、きっとわしに似て元がよかったんじゃろ」
「いいえ、きっと私だわ」
「そこまで幼いころに分かれていたのね、だとするとマルカナトたちのことはほとんど覚えていないでしょう」
「はい、村で亡くなったものだと思っていました。生きているんですよね?」
「・・・・・・・」
やはり歯切れが悪い。距離感ミスったかな?っと思っていたら横から援護射撃が飛んできた。
「マルカナト達のことは話していないの?」
「そうね、もう少し大きくなってからと思っていたけれど」
「この子はとても賢い子よ。教育のためにも早くからきちんと知っておいたほうがいいわ。そうやって放置した結果があの二人なのよ」
たぶん母親と城にきた初日に会った叔母のことだな。このまま成り行きを見守るか。
「マリィ、あなたの両親は普通に暮らしているわ。今住んでいるのはあなたが住んでいた村とは違う村だけど。そしてあなたが最初からここにいなかった理由だけど、マルカナトが駆け落ちして出奔してしまったの」
なんかそんな気はしていたけどやっぱりか!
「マルカナトも留学する前までは華族としての考えを持っていたみたいだったのだけれど留学から戻ってきたころから主張が激しくなっちゃってね。元々ウィンガーラ本家としては才能もそれほどではなかったことも影響して「私は家を継がない」と言い出したの」
その後は結構具体的に教えてくれた。私の母親のマルカナトは武を重んじるウィンガーラとしての戦の才には恵まれていなかったらしい。それもあってなのか家は継がないというし、留学して見聞を広めたからなのか、そもそも貴族社会に対し思うところがあったようだ。かといってウィンガーラ家を継ぐためには強さがあれば何でもなるかというとそんな時代ではない。妹のマーガレッタの方は強さがあったものの粗暴すぎるし、こちらも貴族社会に対してあまりいい感情を持っていないらしい。それでもマルカナトには箔つけできる婿を貰って家を継いでもらおうとさせた結果、駆け落ちという名の家出を決行、その時はまだ妊娠しておらず家を出てから妊娠して私が生まれたらしい。
「そういった経緯よ。さすがに罪を犯したとかではないから投獄したりはできないのだけれど、監視下にはおいているの。あなたの存在を認知できていなかった失敗もあるからできるだけ遠くにいかせないようにという措置よ。あとさっき言った通りマルカナトは華族のことをあまりよく思っていないの。だから今あなたと会わせると力づくでは取り戻せないから、あることないこと吹き込んで動かそうとすると思うわ。それもあってマリィがもう少し大きくなるまでは会わせられないの。マリィには今度こそ私の後継となれるよう教育をする必要があるのです」
「そのためにわたくしが王都からわざわざきたのですよ」
「わかりました。私は立派な華族として王大に通わなければいけませんので、これからも頑張りますわ!」
「マリィ!信じていたわ!」
「わしのかわいいマリィィィ」
マリアンヌは涙を浮かべている横でじじいはガチ泣きしてんじゃん! まあゲームの追体験には絶対魔法学院に行かないとだし、攻略対象も貴族だから今更平民に戻されても困る。それはそうと村の話はここに来た馬車の中でグランツは何か知ってそうな感じだったけど聞けるのかな、今思うとグランツって水月の制服だったし騎士団絡みか?
「私の住んでいた村はどうなったのでしょうか。よくしていただいた方もいらっしゃったので」
「マルカナト達が駆け落ちした後だけれど、正直もうウィンガーラ家としては見限っていたの。だから捜索も本気では行っていなかったのだけれど、たまたま南西の開拓村で見かけたっていう話が出てね。その時にあなたの存在もわかったのよ。見限っていて孫の存在は全然考えていなかったからビックリしたわ。それですぐ連れてくるように指示をだしたの」
「結果として先行していた水月の隊が功を焦りマルカナトを説得しようとして失敗したことで少し過激じゃが脅しのつもりで魔物が封じられた魔道具を使ったそうじゃ。その時にマルカナトがマリィは絶対に華族として取られまいと逃がしたと。魔物自体は水月の後続隊が間に合ってすぐに倒したらしい。何軒か家や畑が破壊されたがそれらは全て補償済じゃ」
「その後もマルカナトは逃がした先についてずっと口を割らなかったわ。華族にするくらいなら何も知らず親なしでも育ってもらうんだと。迎えに行くのが本当に遅くなってごめんなさいね」
「んまあ、水月の不祥事じゃない! 許されないわね」
ローレッタは詳細を知らなかったらしい。王都で教授をやっているくらいだしな。それにしてもじじいが迎えに来るまで4年近くも追いきれなかったって、そんなわからない逃がし方だったか?普通に役所の人っぽいのに連れていかれた気がするんだけど、たしかにあの時もかなりの距離を移動していてちょっとおかしいと思ったんだよな。村の近くの街とか全部素通りしていたし。でもまあ村の人が無事でよかった。あんまし覚えてないけど。
「やったのがブロンドの隊だったのよね。それもあったので仕方なく謹慎とドーヴァー家からの金銭保証で済ませたわ。幸い物的被害だけだったしね」
「ブロンドが? 知らなかったわ」
「普段はそれなりに優秀だと聞いておるんじゃがな」
どうやら、やらかした奴のことはローレッタのババアも知っているってことは貴族絡みっぽいな。
「村が無事なのであればよかったです。私が最後に見たのは魔物が暴れているところでしたから」
「おおーマリィ、怖かったじゃろう、今夜はわしと一緒に寝るか?」
「あらあら、おじい様、まだ寝言を言う時間には早くてよ」
「そういえば、水月の騎士に魔法教育を依頼したのだったわ。そっちは問題ないかしら? 人事については口出しをしていませんが、まさかブロンドと会わせるようなことはしていないわよね」
「ブロンドがどなたかは存じませんが、ネイアさんとネッシーさんという3等騎士に教わっております。護衛も兼ねていただいておりますので大丈夫ですわ」
「ネイア、ネッシー、・・ああ! この間まで私のそば仕えをちょっとだけやっていた若い子ね」
ネイアまともに覚えられてないじゃん、どんまい!
「そろそろ時間だわ、名残惜しいけど近いうちにまたお話ししましょう。そうだわ、スミレ!」
「はッ!」
「おわっ」
どこからともなく秘書っぽいお姉さんが出てきた。いたのかよ! 全然気配なかったし食事中見てない気がするぞ。
「マリィは魔法を勉強したがってたわよね、はいこれ、会った日にすぐ買って渡しそびれていたの。最後の一冊だったらしいから運がよかったわね」
「おばあ様ありがとうございます。大事に読みますね」
そう言って本を貰った。二冊目のゴブわかを。




