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24/42

24_かかしマシーン

 馬車に揺られながら今日も訓練場に向かっている。


 午前中はいつも通りの家庭教師付きお勉強タイムで「お嬢様は数学と違って歴史は苦手なんですね」なんて言われたけど、こっちの歴史なんて知るわけねーだろって感じ。

 孤児院では歴史とかより実生活や仕事で使えるような勉強重視だったけど、さすがに貴族とかの上流階級だと歴史が重視されるんだとか。これに関しては誠に遺憾ながら受験まで勉強するしかないし、今後の付き合いとかも考えると必要かぁ~。


「そういえば、魔法の訓練も座学からなんじゃなかったのか?」

「昨日は病院で遅くなってしまったので教科書を売っている書店がもう閉まっている時間だったんです。明日は休みの日ですから適当に買っておきますよ」

「今日はちゃんとした模擬戦をやるからな、お嬢も気合いれていきましょう」


 きちんと勉強した方がいいのだが、教科書が買えてないのなら仕方ないか。っていうかもう模擬戦はいいんだけど。


「また模擬戦やるのかよ。どうせ負けるしもうやらなくていいだろ。素振りとかで体動かせばいいんじゃないか?」

「お嬢、大丈夫です。昨日のあれは模擬戦じゃなくて対人訓練みたいなものです。今日はちゃんと模擬戦です。」

「ネッシー、普通の人はそれじゃわかんないわよ。お嬢様、昨日は正確に伝えていませんでしたが本来の模擬戦は訓練用かかしマシーンを使うんです。かかし相手に打ち込んで訓練することを騎士団では一般的に模擬戦と呼んでいるんですよ。」


 なんとなく言い回しからわかったが、こいつら私のことを騙して実力をみてたってことか、子供相手に大人げなさすぎる。そもそも二日ほど接してわかったが、こいつらやっぱりかなりのポンコツでいいように指示出されて左遷されてるっぽい。


 ネイアの方はぱっと見、真面目そうなんだけど気が回らなくケアレスミスが多いし、ネス子に至っては脳筋で考えなしだ。多分、貴族に顔が売れるとか言われていいように言いくるめられたんだろうなあ。


 ここに来るときにタカダーイアについていたグランツは言葉遣いから何からかなりしっかりしていた記憶がある。あれが水月の一般的な基準だとするなら、こいつらは明らかに底辺だろうな。


「お嬢、そんな悲しいものをみるような目で見て何かありましたか?」

「いや、私なんかの世話係を任されてお前ら将来(キャリアプラン)をちゃんと考えてるのかなって思ってな」

「お嬢様、もちろん大丈夫ですよ!お嬢様と一緒に成長させてもらいますからね!」

「うむ、団長からもしっかり顔を売っておくように言われているのだ。お嬢に何かない限り我々は安泰だな!」

「チェンジ!」

「お嬢!チェンジは速すぎないか!? 昨日だって強さを見せたじゃないか!」


 やっぱりという感想しかない。ただまあ、二人とも別に悪いやつじゃないんだよなあ。ネイアは素直すぎ、かつ実直な感じだし、ネス子は・・・こいつ裏表がないというか、表だけで何も考えてないというか・・・


 しばらくは一緒にいるんだし、育ててやるかあ。


「そもそも私の家庭教師をやってお前らは実績になるのか?」

「もちろんですよ!お嬢様はきっと大成しますから私たちの株もあがります!」

「そうだそうだ、団長だって貴族との付き合いは大事だと言っていたんだから大丈夫なはずだ」


 こいつらマジで考えていなかった。よく大学卒業できたな。というかこの感じだと別に勉強しなくても大学はいれるんじゃね。特に私が行く予定の王大はネイアの母校でもある。そう考えるとある意味でわたしの方は余裕がでてきた。


「ネス子はもうちょっと自分で考えた方がいいぞ。団長とやらには何も約束とかはしてもらっていないんだろ? まず私が大成する保証なんてないだろ、それに私は今まで貴族と縁のない生活をしてたんだ。ここから貴族社会で成功するのは厳しくないか?」


「いやいや、マリアンヌ様には正式な後継者がいないのです。お嬢様がウィンガーラ本家をお継ぎになればバッチリです! 先日の感じでも、このままいけば確実に後継者ですよ!」

「確かに気に入られた感はあったが、その場のノリだけだしっていうか、結局あれ以来おばあ様には一度も会えていないんだぞ」

「お忙しいのでお気軽に会える方ではないですからね」

「というわけで、お嬢には我々の将来がかかっているのです。頼みます。他の仕事は全然こないから渡りに船だったんです」


 何が頼みますだよ。こっちは子供だぞ。


「はぁ~、やっぱり騎士団員の中でも下っ端だったか」

「いやいや、我々は“正式な”三等騎士ですよ!水月にはそれより下に補助団員もいるのです。実力自体は認められていますから!」


「三等騎士っていうのはどのくらい偉いんだ?」

「組織的には一番上は団長ということになっていますが、同じ位置に筆頭騎士が1名、その下に一等騎士、二等騎士、三等騎士、補助団員と続く感じですね。三等であっても正式に騎士を名乗れるのですごいんですよ! もちろん上の人たちはもっとすごいんですけど・・」

「我々は入団して間もないし、実績が足りないだけなのだ。この後、実力以外に実績を積めば、二等まではなんとかあがれるんじゃないか?」

「で、家庭教師専門でどうやって騎士の実績を積むんだ?」


 二人とも、あ!っという顔をしている。やっぱり考えなしだこいつら。


「コホン・・・コネ・・・ですかね?」

「チェンジ!」



 そうこうしているうちに訓練場に到着、二人は外への影響を防ぐ防護壁を起動しに制御室の方へ行き、私は入口の横で待っていた。


「ん?子供がこんなとこで何してんだ? ここは騎士団の訓練場で公園じゃないから入っちゃだめだぞ、さっさと外にでな」


 待っているとトボトボと肩を落として歩いてきたおっさんに注意された。

 昨日、ギャンブルで勝ったって言ってたおっさんだ。昨日も横の方に私はいたのに勝って浮かれていたからか気づいてなかったのか。


「おっさん、私は訓練で来てるんだ。向こうにネイア達もいるぞ」

「え?こんなおちびちゃんが入団したの? うちの人手不足やばくない?」

「いや、子供が入団してるわけないだろ、稽古つけてもらってるだけだよ。おっさん昨日も見かけたけど昼間からまた回してきたのか?」

「ああああああ!そう!めちゃくちゃすったんだったあああああ」


 急に大きな声をあげたから何事かとネイアとネス子がすっとんできた。


「お嬢!何かありましたか!?ってローモンドさんはなんで泣き崩れてるんですか」

「いや、どうも大負けしたらしい」

「またですか・・・」

「うわあああん」


「お嬢様、ローモンドさんは時折見かけるかもしれませんが、喋らないようにしてください。教育に悪いので」

「うむ、関わる必要はないからな」


 おっさん・・この二人からどういう評価もらってるんだよ。


「ローモンドさん、邪魔なんでさっさと寮に帰ってもらえますか」

「流石に慰めてくれよ!20万!20万だぞ!」

「じゃあ、これでしばらく真面目に働けますね」


「はぁー、で、そっちのちびっこはなんなんだ? お前らが面倒みてる近所のがきんちょか?」

「こちらはマリアンヌ様のお孫様のマリィお嬢様ですよ」

「は、ははぁー貴族でやんしたか! これはこれは! 先ほどはお見苦しい姿をお見せしました。わたくし三等騎士のローモンド=チャップマンでやんす。以後お見知りおきくださいませぇ」


 態度急変して揉み手で擦り寄ってきやがった。あ、ネイアとネス子もゴミを見るような目で見てる。


「お前ら、こんな楽で美味しそうな仕事やってんのかよ。いいなー、俺にもおこぼれくれよ」

「先ほど、我々の将来的に厳しい仕事だと話していたのだが、同じ騎士でも考えに差があるのだな・・・」


「やっぱ三等ってこのレベルってことか」

「ローモンドさんが特殊なだけですから!」


 その後、とりあえずローモンドのおっさんは追いだされてようやく訓練となった。

 端の方においてあった機械的な人形を一体だけ訓練場の広いところにもってきてネイアがコントローラーのようなものをいじっている。


 一応、昨日と同様に短めの木製片手剣を持った状態の私とネス子は待機している。


「大学受験の時も戦闘系の科を志望する場合は、これと同じように模擬戦で実力が計られますので、そのためにも戦闘魔法系の科を目指す場合はこうやって訓練するのがよいでしょう。冒険者あがりの人たちは実践で鍛えて受験することが多いですけど」


 操作が終わったのか機械の人形は淡い黄色の光を全身から放出しながら溶けるように形がかわっていき、スライムの魔物のパルーンに変化した。


「すご!本当に魔物だ!」

「変化魔法が込められた魔道具で非常に高価なんですよ。登録された魔物であれば、ああやって変化させられます。魔物の能力も製造元で設定されていて、魔物によっては魔法もしっかり使ってきます。設定されている体力を超えるダメージを与えるかコントローラーで解除すると元の機械に戻ります」


「お嬢は魔物との戦闘経験はありますか?」

「さすがにないよ」

「ですよね。あれはパルーンと言ってぴょんぴょん飛び跳ねて体当たりするくらいしか能のない雑食の魔物です。」

「見たことはあるよ」

「生息域が非常に広いし亜種が多数いますからね。まずはお手本を見せます!」


 そういうとネス子は高速での1撃をパルーンに食らわせてスっと跳ねるようにバックステップして戻ってきた。パルーンの方は淡い黄色の光を放ちながら機械の人形に戻っていく。


「それでは、お嬢もやってみてください。パルーンは最弱の魔物と言われていますから子供でも倒すことはできます。ただ、あの緑のやつは毒を持っているので触れないように注意を」


 同じように人形が再度パルーンに変化した。スライムと言ってもドロドロしているようなのではなく、弾力のある半透明な水風船みたいなイメージだ、ただし目がついている。


「毒以外に、そもそも触れたら消化されちゃったりするのか?」

「いえ、そういうタイプもいるようですが、パルーンごときの魔力では他の生物の魔力を突き破って取り込むことなど無理です。というかよく見ると口がありますから普通のパルーンは口から食べますよ。表面から取り込むタイプがいるとかよく知っていましたね」


 確かによく見ると口がある、ただし鼻はなさそう。まずは小手調べにちょっと叩いてみるか。というかなんで毒のあるタイプなんか出したんだよ、最初は普通のノーマルタイプでいいだろ!


 そう思いながらとりあえず剣先で軽く叩く、ぽよーんと弾力のある感じで跳ね返された。今持っているのは木剣なのでそもそも切るというより打撃を与える感じなのでこの程度の力だと跳ね返されるみたいだ。


「お嬢! 昨日やったみたいにもっと強く打たないと効かないですよ!」


 その後もちょっとずつ強くして叩いていく、何度か叩くと堅めのゼリーが割れるようにパルーンが飛び散った。


「とりあえず倒せたな」

「最後の破片にあたっても毒がかかるので注意してください」

「先に言えよ!」

「じゃあ、もう一回いきますね」


 その後も数回パルーンを倒した。緑以外に別の色のも倒したがたいして強さは変わらなかった。


「今日はこのくらいにしますか」

「これからも模擬戦中心で訓練していきますからね」

「こいつはどんな魔物でも変化させられるのか?」

「最新式ですから結構な種類をだせますよ」

「強いやつもいけるのか?」

「魔道具としての力を超えるものは無理ですけど、それなりに強いのもいけますよ。でないと訓練になりませんから」

「その割にはあまり使ってる感じしないけど、あれとかピカピカじゃないか?というかこの二日間で私たち以外に訓練している人みていないけど」

「じ、実践重視だからな!うちの騎士団は!訓練以外にもいろいろな仕事があるのだ!」

「これらは去年買い換えたばかりですからね」


 まあ、魔法の訓練をしたいと言い出したのは私だしな。こうやって安全に経験を積めるシステムを使えるのはいいことか。本当の魔物と戦うとなると安全面において絶対ということはないわけだし。


「戦闘系の科に進むのであればお嬢様も受験までに徐々に難易度を上げましょうね」

「別に戦闘系に進みたいわけじゃないぞ。王立魔法大学には色々な科があるんだよな?」

「え!?ウィンガーラ貴族ですから戦闘系以外だとマリアンヌ様がお許しにならないと思いますよ」

「そうですよ、ウィンガーラですから、お嬢は強くなってもらわないと」


 そういえば、来る途中にタカダーイアがウィンガーラは武力が好まれるから自分は苦労したとかなんとか言っていた気がする。ゲームの学院だと別に戦闘系というわけじゃなく貴族コースだったはず、大学になってるけど貴族コースとかあるのか?なさそうだよなあ。


「王大は貴族コースみたいなのあるのか?」

「帝王学みたいな感じのことでしょうか? そういったものは個人の家庭教師でやるもので大学だと魔法別の科以外だと数学、工学、文学が主ですね。医学部は専門の大学なので王大にはありません。お嬢様だと経営とかも必要ですし、お得意ですから数学がいいような気がしますけど」

「経営学は数学の中なのか?」

「そうですね、経営や経理は数学知識が必要ですから数学科の領分ですよ」

「いやいや、お嬢はもう生活魔法を使えるくらい魔法の素質があるのだから魔法の戦闘系にいくべきだ。ウィンガーラですからね」

「まあ、すぐに決めなくてもいいか」

「ですね。魔法の才もどれに適性があるかは子供のうちだとほぼわかりませんし」

「水適正ではないのか?昨日も水の生活魔法を使っていただろう?それにしてもその年で生活魔法が使えるとはすごいな」

「水以外の生活魔法も使えるけど、確かに水の適正がありそうとは言われたな」

「魔法は大学で学ぶのが普通ですから、それまでに基礎の方をしっかりやっていきましょう」

「そうだぞ、身体強化は私の得意魔法だからしっかり教えれるし、騎士団としての動き方なんかもここなら学べるしな」


 その日はそのまま城に帰って二人と別れてトレーニングは終了。部屋に戻る前にラブロフが一応、顔を出してくれた。


「お嬢様、明日明後日の週末は休日ですから特に予定はありませんのでご自由にお過ごしください」

「そういえば、こっちにきた日以来おばあ様には会えていないけれど、次はいつ会えますか?休みの日は会えたりします?」


 一応、色々情報収集したいし元締めのマリアンヌに聞くのが一番だろう。何かあれば鶴の一声で無理もしてもらえるみたいだし。意向も聞いておきたいところだ。


「どうでしょうか、私の方では把握していませんが、一応秘書の方に話はあげておきます。週末の空曜日、日曜日もイベントなどの公務があるはずなので難しいと思います。タカダーイア様の方であれば様子を見にいらっしゃるかもしれません」


 やはり統治者というのは忙しいんだな。土曜日が空曜日になっているのは未だになれないが週末が二日休みというのは日本と一緒だから感覚は狂わなくていい。

 タカダーイアはこれるかもということだが、別にそっちは権力ないっぽいし適当でいいか。


 自室に戻った後、今日の訓練について少し考えた。

 ゲームだと雑魚モンスターを倒して経験値を稼いでレベルアップっていう感じだったが、訓練用かかしマシーンでの模擬戦でも経験値は入っているのか?


 これまで聞いた話を総合すると魔物を倒すと強くはなれるが命の危険を冒してまで経験値を求めるようなことはしないらしいし、そもそも強くなれるのは人に寄りけり、才能で大きく違うみたいだった。レベルの概念もあるにはあるが曖昧なものでなんとなくそれくらいの強さだなというものみたい。


 以前に鑑定魔法を受けた時も正確に数字で見えるわけじゃないっていうことだったし、あとからギルドで聞いた鑑定できる魔道具的な奴も正確に数字で出るわけじゃなく、なんとなくそれくらいというのを数値化しているという話ではあった。今のところたいして鑑定できないけど自分の鑑定魔法でもレベルとかはでてこない。


 そうなるとレベル上げっていうのはやった方がいいのかどうかっていう話になる。ゲームと違って正確な指標もないなか、なんとなく強くなれるらしいというだけで魔物と戦うのは厳しい。


 そこで今日の模擬戦だ。あれで経験値が入っているのであれば、あれをこなしていくだけでいい。

 あのマシーンはトラクーンのギルドの訓練場みたいなところには置かれていなかった。値段も高いということだったから置いていなかったのか、実際に魔物と戦うための訓練としてはそれほど重視されないのか、もうちょっとその辺を確認して方針を立てたいな。あと、私の得意魔法のはずの神聖魔法について聞くの忘れていたから、どっかでそれも確認だな。


 週明けの赤月曜日からはまた勉強と訓練だろうし、とりあえず週末は街とか出ていいなら見てみよう。ロングサンドの街はトラクーンよりかなり広いし、こちらも治安はよさそうだった。色々見るところありそうで楽しみだ。


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