22_大人げないネス子
このお嬢様、賢いと聞いていた通り確かに頭は良さそうだ。数学の問題も凄かったし。
だが、無駄に弁がたち、大人をなめている感じがする。
特に私たち二人は確かに水月では、まだ三等騎士だし下っ端と言われればその通りではあるが、あの水月の現役騎士だ。もっとリスペクトがあるべきなのだ。これだから貴族は。
そう思っていたら意外にもお嬢様は魔法の訓練には乗り気なのか模擬戦を言い出した。勉強とコミュ力だけの頭でっかち口だけ貴族かと思っていたんだが。
本来の模擬戦はかかしを使うので人同士で行うことはほぼないのだが、これはチャンスだ。ここで水月現役騎士の凄さを見せると同時に、力が圧倒的に上であり護衛と言っても舐められないように叩きのめして上下教育してやる。
このお嬢様もマリアンヌ様の隠し子でウィンガーラ本家の直系だから何もなくても年が来たら水月に強制的に入ることになって後輩になるのだ。たしかに貴族ではあるが、水月内では貴族という部分はそれほど強くなく序列が重視される。
そういう意味でも別にここで叩きのめしても大丈夫!怒られない!多分・・・
「獲物はどうしますか?持てそうなものはありますか?」
一応、このような団員同士の模擬戦というか型訓練のためのものだが木製の武器は色々と用意がある。
倉庫の中でネイアとお嬢様が選んでいる横から私は長めの木剣をとった。少し大人げないかもだが逆に手加減で子供のチャンバラ的な接待しても無礼というものだろう。私は重い武器の方が得意なので素直に得意武器を選んだ。
お嬢様は悩んでるな。恐らくこのような訓練とは無縁の環境で育ったのだろう。興味しんしんだし、好奇心旺盛なのはいいことだが挫折も経験してもらわないとな。
「う~ん、特に武器は使ったことないからなあ。どれがいいかなあ」
「初心者だと、とりあえず短剣でしょうか?」
「ネッシーは剣か、なら私も剣にするかな」
初心者にありがちだな。自分の腕力を理解していないと自然と大きく長いものの方が強そうに見えて選んでしまう。が、実際は重すぎて碌に扱えない。まあ、お嬢様くらいの子供の体格ではどれを選んでも碌に扱えないだろうが。
お嬢様は8歳と聞いていたが普通より発育はいいようで10歳くらいの大きさに見える。だとしても私の6割7割くらいの大きさだ。まずその時点で普通は勝負にすらならない。
魔法で逆転する可能性はもちろんあるが、魔法は才能だけでなく修練が必要だ。子供時代から才能で特殊な魔法を使えるものというのはいなくはないが、総じて非常に低いレベルで使えるだけであり決して強さと直接結びつくことはない。まして8歳であれば生活魔法すら使えない年齢だ。
「よし、こいつなら戦えるかな。ぶっ飛ばしてやろう」
お嬢様は私より少し短い剣を選んだ。とはいっても普通に剣だ。木剣とはいえ、この騎士団練習場にあるものだから、決して軽くなどなく訓練用として使えるものであり、とても子供では扱えまい。もって振り回すだけで精一杯かな。
「それでは決まったようなので実際にやってみましょう」
「おう!」
「ネイア!頼む」
「わかってますよね!お貴族様で子供ですからね!手加減きちんとしてくださいね!」
ネイアが管理部屋の操作盤でオンにしたのだろうブウウウンという音と共に訓練場の周囲に水色の半透明な壁があがる。
かかしを使った模擬戦時もそうだが、周囲への被害や騒音を通さないための配慮だ。今回みたいな場合は必要ないが、かなり激しい訓練をするときもあるし少し距離が開いているとはいえ民家もあるからな。
「なんだこれ!」
「魔法の防護壁だ。周囲への衝撃や騒音をある程度防ぐことができる優れものだ。訓練には必須でどこの訓練場にも大抵あるぞ」
「では、はじめましょう。いつでもかかってきてください」
さすがに先手はゆずってやろう。
私はその場で長剣を両手で持って構えを取る。
「とりゃー!」
はやい!
意外にもお嬢様はきちんとした打撃を繰り出してきた。
型こそ全くできていないが剣自体は振り回せている。
なんという身体能力!
「おらおらあ」
ガキンガキンと訓練用に強化された木剣同士がぶつかり合う。私はお嬢様の攻撃をその場で受け止めるが、お嬢様はずっと連撃してくる。
確かに剣を持てることはすごいし、それを振り回せるのも年齢の割にはすごすぎるが、やはり体つきはごまかせない。一撃一撃自体は軽く、もちろん私もすべて反応し打ち返す。
「やるなあ。やっぱ騎士ってだけあって剣さばきはちゃんとやってくるね。はぁはぁ」
「そちらこそ、お嬢様が剣をここまで繰り出し剣戟になるとは思っていませんでしたよ。さすがに私をこの場から動かすようなことまではできないでしょうけど」
既に息が上がっているし、もう終わりか。
始まる前に想像していたように、お嬢様は剣も持てずにボコボコにしてやって終わるというようなことはなく、少し消化不良だが。
むしろお嬢様がここまでの才能があるならば、ある意味鍛えていくのも楽しいかもしれない。
そんなことを考えていたがお嬢様はまだやる気のようだ。
何かぶつぶつ言っているが詠唱ではなさそう。
だがその瞬間少し空気が変わる。お嬢様の周りから魔力光が揺らめいた。
「身体強化したか!」
「やあー!」
先ほどよりさらに速度を上げて正面からお嬢様が突っ込んでくる。
スピードも乗って攻撃力が上がる。
先ほどよりかなり重い!しかし!
ガキン
こちらも身体強化魔法を発動し、その場で立ったまま受け止めてはじき返した。
肉体に対する強化魔法はいくつも段階がある。
実際は子供であっても、誰しもが自然と強化魔法は薄く使っている。生きているものは全員だ。そしてそれらは強弱もあるのだが無意識に自然と使うもの。そして次の段階が意識をしての任意による強化になる。
お嬢様は詠唱もしていないし、おそらく自然強化の延長で任意強化に近いことをやったのだろう。
「相当な魔法センスだ!おもしろい!」
「やっぱ正面からは無理か、それなら・・・クリエイトウォータアアア!」
お嬢様と私の間に生活魔法の水球が生成される。8歳で生活魔法を会得しているのか?ありえない、こいつ、どれほどの才能が!?
しかし水をどうするつもりだ?私にぶつけたとて所詮は生活魔法、水の攻撃魔法とはわけが違う。たしかに濡れて嫌な気持ちにはなるが・・・
水球に向かい構えたが水はあらぬ方向へ飛んでいく。制御ができなかったのか?
水がすべて飛んで行ったと同時にお嬢様が動き出し、地面をけり上げだす。
「ぐっ」
勢いよく砂ぼこりがあがる。なぜこんなに砂が!?
まさか、さっきのクリエイトウォーターは、魔力で作り出さずに周囲の水を吸って乾燥させたのか!?そんな細かい制御を生活魔法でやれるのか!?
次々と上がる砂ぼこりにお嬢様が見えなくなる。
「そうか、目つぶし!」
これまで一貫して正面から当たって無理だったから不意打ちで倒そうというわけか。考えたな。
さすがに無防備の箇所に全力で打ち込まれた場合は倒れるかもしれない。
私は詠唱破棄のまま身体強化をさらに上昇させると同時に五感もかなり強化していく。
私は子供のころから強化魔法が得意だった。というか強化魔法と剣技しかできないといってもいい。
得意魔法は人によって様々あれど、最後はシンプルなものほど強い。
そういう意味では私の強化魔法の練度の高さはシンプルであるがゆえ、前衛の戦闘では間違いないものだ。
「どこからでもかかってこい!」
どこからくる?恐らく砂埃の巻き上がり方からしてお嬢様は高速で私の周りをぐるぐる回っているようだ。
一方の私は構えたまま動いていない。そうなるとスピードで攪乱し、狙ってくるのは・・死角か!
右利きの私は剣の構えも右前方向に向いている。
頭のいいお嬢様なら狙ってくるのは。
「左後ろからくるよな!」
やはりだ!砂埃の中からお嬢様が現れる。しかし、こちらもわかって剣を振る。剣を合わせてふきとば・・
間合いが合わない、お嬢様の速度が速すぎる。
「こいつ、剣を捨ててやがる!!!」
私の剣は空振りし、お嬢様が懐に入ってくる。
「ぐぐ!!」
繰り出された至近距離での4連撃で私の方が吹き飛ばされる。
それでも打撃の一撃一撃は強化されているとはいえど、子供のもので軽くはあり、ダメージそのものはたいしたことない。
立ち上がろうとした瞬間、猛スピードでお嬢様がこちらに追撃に来るのが見える。
ガキン!
さっき捨てていた剣をもう拾って打ち込んできやがった。
私もかろうじて反応し、片手で剣を振り打ち返す。
「小細工じゃ、ここまでだああ!」
身体強化を限界までひきあげて立ち上がりながら構えなおし両手で下段から剣を振るう。
お嬢様はかろうじて反応し、持っていた剣で受け止めたものの吹き飛んでいった。
「こんな子供、みたことない・・・おもしろい!」
お嬢様は吹き飛んでしりもちをついている。剣も別の方に吹き飛んでしまった。
ネイアも出てきたしこれで終わりだな。
「いい試合でした。やりますね!」
私は興奮しながら手を伸ばすとお嬢様もしっかり握ってくる。
「そっちもな!さすがの騎士団だったよ!」




