第84話 宿の自室で情報整理 ひとりで考え込むよりもここは元暗部に相談しよう
俺のために用意された一人部屋、
いやスイートルームとかいうのがあるにはあったが、
大きいベッドに新旧ハーレムの四人を侍らせて眠る訳にもいかない。
(メイド部屋とかもあったが、そこへ他の四人を押し込めるのも違うし)
なので普通の個室、
いやこれ身体のでかいやつ用だろう、
居るんだよたまに規格外の説明不要なヤツが!
(そういう奴は、イビキもでかい)
なので壁もドアも分厚い、まるで隔離部屋だな、まあいいか風呂もでかい、
いやぁほんと個室に浴室部屋まであるなんて贅沢だな、きっと過去に何かあったのだろう、お湯全部流れたとか。
でだ、夕食も終わって各自部屋で朝まで休むってタイミングなのだが、どうしても酒場での話が気になった。
『エミリはエルフにハメられて結婚したようなもの』
いや俺も三十代中盤になって、
ハメられると聞いて変な想像がよぎったが、
そうじゃなくてだ、とにかく話を整理したいが俺だときっと、まとまらない、そこで……
「すまないナタリ、寝る前に呼び出して」
「いえ、酒場での話は背中で聞いていましたから」
「さすが元暗部の諜報部員」「今はラスロ様の婚約者ですよ」
扉に背をもたれさせて立っている、
誰かが聞き耳を立てに来たら、すぐわかるようにだろう。
「あのリンダディアさんの話を聞いて、どう思う」
「リークした理由ですか」「それも含めてナタリの考えを聞きたい」
「ふたつのパターンが考えられます、まずひとつがハルラ氏がエミリさんを愛していない場合」
やはり、そういうこともあるのか。
「愛さずとも子供を」
「貴族同士の政略結婚であれば半分はそうですよ」
「そんなにか」「まあ、『まったく愛していない』もあれば『さほど愛していない』もあるでしょうが」
でもそれなら、
結婚後にボロが出ても良いはずなんだけどなあ。
「エミリにそれが見破られないのかな」
「エルフと言うのは長寿です、人間の四~五倍は生きます、
ですから我々の十二年が三年前後だと考えると」「騙せ続けてもおかしくない、と」
あとはエルフってドライなイメージがある、
情念を持って愛し続ける『演技』が出来るとしたら……
子はそれには気付かないのか? このあたり俺にはよくわからん。
(いや、子もグルってこともあるのか)
でもそれは……
「確かハーフエルフって寿命は」
「ええ、人間とさほど変わらなくなりますね」
「だとすると子供達は」「あの子供達は見た感じ、素直に母を求めている感じです」
子供に罪は無い、か……
それを捨てて俺の所へ真っ先に来るっていうのは、
俺をよっぽど愛していた、もしくは夫やその生活に実は不満が……
「あの子達と俺が、話をするというのは」
「ヨランさんの時に解決した方法ですね、ということは」
「い、いやその、復縁すると確定させる訳では」「解決したうえで捨てるのですね」
残酷な作戦はナタリも賛成らしい。
「ちなみにもうひとつのパターンは」
「はい、『エルフを超えた弓使いをエルフの国へ奪う』という作戦を、
ハルラ氏が利用してエミリさんを手に入れた、これ幸いにといった感じで」
じゃあ逆にラッキーというか、
それだとハメたとか騙したとかいうことにはならないと言えそうだ、
むしろエルフ国側を納得させるのに使っていても、おかしくは無い。
「つまり本当に愛していた場合か、どっちだと思う?」
「今のはあくまでも二案です、それ以外の可能性もありますし、
ただリンダディア様がわざわざ教えて下さった事を考えると」「うーん」
それはそれで別って気もするが、
愛している愛していないどうこうより、
この事実を上手く使えばエルフ相手でもちゃんと離縁させられる、と。
(あっ、エルフの正式な離縁方法について聞いておけば良かった)
エミリが知っているか、
いやエミリが飛び出すまでまったく離縁を考えてなければ、
知らなくても無理は無いか……そもそも俺は離縁させたいのか?
「まあいいや、エミリ抜きでこれ以上考えても、
同じことを頭の中でグルグル回させるだけな気がする」
「そうですね、それに今は魔界封印や陛下からの依頼が最優先ですから」
ゆっくりと俺に近づいてくるナタリ。
「ありがとう、整理はついたよ、いや、余計にこんがらがった気もしないでもないが」
「……ではこれからは、勇者ラスロ様とその婚約者との時間、ということで」「いやいや何を脱ぎはじめて」
「夜の宿、しかも一人部屋に呼ぶということは」「そうじゃないから! 婚前交渉はちょっと、まだ早いから!」
うん、十二年前を思い出すよ!
「ではこうしましょう、お風呂でお身体を」「一緒だから!」
「お身体を洗うだけですよ」「……思い出した、エミリも同じことを十二年前」
「どうなりましたか?」「寸前の所で逃げたが」「ラスロ様が」「うん、俺が逃げた」
ふうっ、とため息のナタリ。
「わかりました、ではいつか、エミリさんの前で見せつけましょうね」
そう言って脱ぎかけた服を直し、
部屋を出て行った……意外とあっさり引き下がったな、
エミリと同じことをしたくないって事なのか、なんなのか。
(十二年経っても、女性はわからん)
とにかく今は、
風呂に入って落ち着いて寝よう……
明日はいよいよ大森林、ってその前に情報収集をしないとな。




