第83話 実はエルフにハメられていた?! 傷心のエミリを口説き落とした、そのエルフとしての理由とは!
「すみませんラスロ様、こんな所で」
「いや、この街の酒場にこんな場所があったなんて」
目的地である『ラグラジュ大森林』へ向かう途中の大きな街、
名前はどうでもいいか、とにかくそこで宿を手配して貰った、
俺はどうやら個室らしい、そんなことより酒場に呼び出して恐縮しているのは……
「それで話しておきたいことってなんですか、リンダディアさん」
「それなのですが……大丈夫ですよね、誰かに聞かれていませんよね?」
「はい、そこでウチのナタリが見張っていますし、エミリはロズリが見ています」
酒場の奥まった所、
まるで通路の行き止まりのような場所に、
二人だけ呑める場所があった、壁際のカウンター。
(ナタリが蓋してて、注文でもしない限り誰も来ないはずだ)
いや、『ここで隠れて呑むのが最高なんだよな』とかいう常連が居そうなので、
ナタリに立って貰っているんだが……アリナかミオスが居てくれたら遮音魔法でもかけてくれそうだが、
まあこの距離なら大丈夫だろう、酒場も酒場で騒がしいし……ヨラン? どっかで剣振ってるでしょ。
「すみません、馬に水を飲ませている間、馬車の様子を窺ったら、
あれはおそらくエミリ様の話をしていたのですよね?」「まあそうだが」
「ということは、ハルラの話を」「必然的にそうなるが」「そのハルラなのですが……」
ナタリの方を見るリンダディアさん、
正確にはナタリの背中を見る事になるな、
大丈夫そうだ、そして俺の顔を見て、神妙な面持ちで語り始めた。
「ハルラがエミリ様を口説き落としたのは……理由がありまして」
「惚れた理由でうか」「いえ、結婚した理由です」「ほう、それは」
「エミリ様は『エルフを超えた弓使い』これがエルフの皆にはいたくプライドを傷つけられて」
まあ、そうだろうな、
十二年前にお城でエミリが演習に加わっているのを見た覚えがあるが、
記憶を想い越せば、確かに気に入らないエルフも居るだろうなって感じた。
「それが結婚の理由に?」
「はい、エルフの妻にしてしまえば実質エルフです、
敵わない人間ならエルフにしてしまおう、エルフ側に取り込んでしまおうと」
随分な話だな、それ。
「そこに愛は」「あるにはあったと思います、
人間に恋するエルフはそこそこ、まあまあ居ます、
それで人間の国に残るのも居れば、エルフの国へ引っ張ってくる者も」
リンダディアさんもそのクチというか、
奥さんは確かハーフエルフだったはずだが。
「つまり魔王討伐後、エルフ相手に記録会とかで、
勝ちに勝ちまくっていた無敵の、無敗のエミリをエルフ側に入れるために」
「ある意味、ハメられたと言えなくもないですね、熱心に口説いてエルフに落としたという」
どれだけ高いんだエルフの弓矢に対するプライド、
鍛錬して追い抜こうというのではなく、敵わないのであれば、
エルフの嫁にしてしまえっていう、確かにこれで人間側としては戦力ダウンだ。
(とはいえ、本人が幸せなら良い気もするが)
何にせよ罠とまでは言わないが、
策略と言って良いものはあった、と。
「それは誰かの指示によるもので?」
「そこまではわかりませんが、そういう雰囲気があったのか、
ハルラ個人の考えなのか、生まれてくる子供もエルフ側に入れると帰国前に言っていたとか」
確かにあの弓矢の能力はエルフ側に取り込みたい、
生まれてきた子がそれを受け継いでいてエルフの血でどんどん塗り重ねていれば、
最高レベルの弓矢の能力を持つ人間、その血をエルフの中へ入れる事が出来ると言う考えか。
「そのためにエミリは口説き落とされた、と」
「エミリ様がそれでも生涯幸せなら、それもまた有りだとは思ったのですが、
こういった状況になったため、真実をラスロ様にお伝えするべきであると」「ありがとう、明かしてくれて」
こうなると話がちょっと変わってくるな、
いや、もちろんハルラというエルフが本当にエミリという人間に恋し、
そういった計画が渡りに船であれば悪い事は無い、のだが……
(人間への対抗心、弓矢の強い人間への嫉妬から、だとしたら)
子供はたまったもんじゃないな、
でもエルフの国では本当に幸せに暮らしていたのであれば、
逆にそれを別れる理由にするというのも……うーーーん、どうしたものか。
「いざとなれば私の名を出しても構いませんので、
真実をエミリ様に告げるか告げないかはラスロ様にお任せします」
「エルフの間では有名な話なのか?」「十二年前の、エルフ王から派遣されたエルフ軍であればおそらく」
後は酒を呑み交わしながら考える、
整理するとエミリは弓矢があまりに強すぎるため、
訓練で歯が立たないエルフがならば嫁に貰ってしまえと口説き落とした、
(俺が死んだと思っていたんだから、傷心に付け入ったんだろうな)
いや本当に死んでいたのであれば、
死んでいたと思っていたのであればそこは悪くはないのか、
半年で口説き落とされたと言っていたが、逆に言えば半年もかかったか。
(これであのハルラという男が『実は愛してなどいない、罠にハメただけだ』とか言い出したら……)
いや、それは無いか、
子供がふたり居る訳だし、
わざわざこちらへ取り戻しに来ているんだし……それもプライドのため?
(ていうか、これ俺はどうすれば良いんだ)
そもそもがちゃんとした恋愛での結婚な場合、
今の情報は余計なことになる、でもわざわざ教えてくれたんだ、
これはエミリを取り戻すための理由にしてくれって事だろうか。
(そもそも取り戻すか決めてないぞ、いや一緒に組んではいるが)
それこそミオス達の作戦、
十二年ぶりにやっと結ばれると思いきや、
新ハーレムを選んで旧ハーレムを絶望へ突き落す『ざまぁ』をするために……
(寝取られた事を、そこまでは恨んじゃいないぞ)
このあたり、
俺はどうすれば良いのだろうか、
そもそもリンダディアさんが言った事が真実かどうか、信憑性は高そうに感じるが。
「エミリが聞いたら、どう思うか」
「それはエミリ様が今、どうしたいかによるでしょうね」
だとすれば、
エミリがハルラと別れる理由に使えるということか、
リンダディアさんも、そう使えと言う意味で教えてくれたのかも。
「……わかった、部屋でじっくり考えるよ、
ところでリンダディアさんのお部屋は」「馬車ですね」
「あっそうか、見張りか」「どうぞお気になさらず、湯はちゃんといただきますので」
うん、お風呂だけはしっかりな!




