書きたい理由
「――お疲れさま、宵杜さん。はい、どうぞ」
「いつもごめんね、結月さん。そして、いつもありがとう」
「ううん、気にしないで。いつも言ってるけど、私がしたくてしてるだけだし」
それから、二週間ほど経て。
執筆が一段落すると、まるで分かっていたかのようなタイミングで温かなお茶を用意してくれる結月さん。いや、実際に分かってくれているのだろう。僕のことをよく見てくれているし。
さて、あの時の言葉の通り、本当に彼女はずっとそばで僕を支えてくれていて。具体的には、この部屋に一緒に住み、料理や洗濯などの家事を一手に引き受けてくれたり……うん、本当に申し訳ない。なので、せめて僕も何か、と思い声をかけるも――
『――いいから、宵杜さんは執筆に集中して。そのために来たんだから』
そう、柔らかくも有無も言わさぬ微笑で答えを返す結月さん。こんな僕にも一応は人間の心があるので、そんな献身的な彼女に申し訳なさが募るばかりで。……だけど、それ以上に――
『……その、本当にありがとう、結月さん』
そう、心からの感謝を口にする。すると、今度は満足そうに――そして、とても嬉しそうな笑顔でどういたしましてと答えてくれた。
「……どう、かな?」
ある日の昼下がり。
暖かな陽光がほどよく差し込む小さな空間にて、おずおずとそう尋ねてみる。書いていたお話が一段落した辺りで、結月さんに読んでもらっていて。僕としては、できればアドバイスとかもほしいんだけど……でも、助言は絶対にしないとのこと。申し訳ないけど、自分はただ真剣に読んで感想を伝えるだけ、とのことで。
でも、言わずもがな謝る必要なんてない。懸命に書いたお話を真剣に読んで、感想までくれる――それが、僕にとってどれほど嬉しいか。どうすれば、この気持ちを余すところなく彼女に伝え――
「……ねえ、宵杜さん。これって、ほんとに宵杜さんが書きたい展開?」
「……へっ? ……あっ、その……」
すると、顔を上げそう問いかける結月さん。否定的な感想は覚悟してたけど、届いたのは想いも寄らない言葉で。……だけど、それは否定的な感想より鋭く僕を貫いて。と、いうのも――
「……でも、そんなことしたら、それこそきっと誰にも受け入れてもらえないから」
そう、本音を口にする。……うん、分かってる。我ながら何とも情けないって。……でも、ただでさえ誰にも評価してもらえない僕が、本当に書きたい展開なんて書いちゃったらそれこそ――
「…………へっ?」
刹那、鬱々とした思考が止まる。と、いうのも……ふと、彼女が僕の手を取ったからで。そして、
「……お願いだから、書いて。貴方にしか書けないお話を。それは、いつか絶対に届くから。貴方のお話を必要としてる誰かに、いつか」
「……結月さん」
そう、僕を見つめ告げる結月さん。どうしてこんな僕にそこまで言ってくれるのか、未だに全く以て分からない。……だけど、
「……うん、分かった。ありがとう、結月さん」
「……っ!! うん、こっちこそ!」
そう答えると、花のような笑顔を見せてくれる結月さん。まあ、よくよく考えたら、どうせ評価してもらえないのなら本当に書きたいことを書いた方がいいし……それに、何より――
「……ん? どうかした?」
「……ううん、何でも」
すると、僕の様子が気になったのか、キョトンと首を傾げ尋ねる結月さん。そんな彼女に、軽く首を横に振る僕。……うん、言えないよね。……少なくとも、今はまだ。




