不思議な少女
「……もう、いいや。僕なんかが……こんなゴミみたいな僕なんかがいくら頑張ったって、何の意味もない。だから……もう、いいや」
どんよりした空が外に広がる夕暮れ時。
陰鬱とした小さな部屋で、投げやりに……いや、そっと鉛筆を置きそう口にする。……いや、鉛筆は何も悪くない。悪いのは、全部ゴミみたいな僕なんだから。
……まあ、とうに分かってたけど。こんなゴミみたいな僕なんかがいくら頑張ったって、何の意味もありはしない。僕の書くゴミみたいなお話なんて、誰にも評価してもらえない、誰にも楽しんでもらえない、誰の役にも立たない。ただ、貴重な紙と鉛を徒爾に消費しているだけ。そう、役に立たないどころか害悪でしかなく。だから、もう――
――トントントン。
すると、ふと扉を叩く音。……誰だろう? 今日……というか、今日に限らずお客さんが来る覚えなんてまるでない。ともあれ、お待たせするわけにもいかないので少し駆け足で扉の前へ。そして――
「――こんにちは、宵杜さん」
「……へっ?」
ふと、ポツリと間抜けな声が。と、いうのも……僕の前には、この陰鬱とした部屋にはまるで似つかわしくない、陽だまりのような笑顔を浮かべる少女の姿があったからで。
「……えっと、君は……?」
ややあって、茫然と尋ねる僕。改めてだけど、眼前には10代半ばくらいの可憐な少女が。……知り合い、じゃないよね? 僕の記憶違いじゃなければ、一度も会ったことがないはずだし。……でも、だったらどうして僕のことを――
「……小説、書いてるんだよね? 宵杜さん」
「……へっ? あっ、うん……」
だけど、僕の質問に答えることなく逆に問いかける可憐な少女。もしかして、僕の小説のファンだから僕のことを知ってて……なんて、そんな愚か極まる思い上がりなんてしない。そもそも、それはまず物理的にあり得ないことで。
何故なら、とにかく小説を書いては色んな出版社にもう数え切れないほど持っていったけど、たったの一度も評価してもらったことなんてない――つまりは、一度も世に出たことなんてないわけで。なので、ゴミみたいな僕のお話を好きになってくれる人なんているわけないけど……そもそも、それ以前にそのゴミの存在を知ることすらないはずだから。
さて、説明がくどくなったけど――なので、この可憐な少女がどうして僕を知っているのかは全く以て謎のままで。……でもまあ、そんなことより――
「……でも、もう辞めようと思ってる。これ以上書いててもしょうがないしね」
そう、小さく付け加える。どうして僕を知っているのか、それは全く以て謎でしかないけど……正直、理由なんて何だっていい。今、僕の胸にあるのは感謝だけ。もう、書くのを辞める――その決意を言葉にして伝える機会をくれたこの少女に、ただただ感謝の念を――
「……そんなの、駄目」
「…………へっ?」
すると、ふとそう口にする少女。それも、声を、身体を震わせながら。……えっと、いったいどうし――
「……お願いだから、書いて。貴方が紡ぐお話は、絶対に多くの人の心に届くから。これからは、私がずっとそばで貴方のことを支えるから、だから……」
「…………」
そう、震えた声で告げる少女。そんな彼女に、ただただ困惑する僕。……どうして、ここまで言ってくれるのか。そんな素敵な言葉を向けるべき相手は、間違っても僕じゃない。だから、本来なら僕が受け取っていい言葉じゃない。……だけど、
「……分かった」
「……っ!! ほんと!?」
「……うん、ほんとだよ」
躊躇いつつも答えると、パッと花のような笑顔を見せる可憐な少女。理由なんて、全く以て分からない。……それでも、こんな僕にここまで言ってくれている――再び筆を取る理由なんて、それだけで十分だから。
すると、ふと何かを思い出したかのような仕草を見せる可憐な少女。そして、ニッコリと微笑み言葉を紡ぐ。
「そうそう、言い忘れてたけど――私は結月。これからよろしくね? 宵杜さん」




