第8話「悪役令嬢が、私のことに気づいた」
ヴィンに話した翌日、レイアに呼び出された。
「マリア、少し話せる?」
「もちろんです」
レイアの部屋。いつものソファ。でも今日は、お茶を用意する前にレイアが向かいに座った。
「一つ、聞いていいかしら」
「何でも」
「マリアは、私のことを書いた人を知ってる?」
()
「……何のことですか」
「とぼけなくていいの」レイアが静かに言った。「ヴィンから聞いた。設計者のことを、マリアが知っているかもしれないって」
(ヴィンが話したのか)
「……レイア様は、信じますか。設計者がいるという話を」
「信じる」レイアが即答した。「だって、たまに感じるの。誰かに見られているような、決められているような、でも途中で放り出されたような感覚」
(放り出された)
(私が三話で止めたから)
「……ごめんなさい」
思わず言っていた。
レイアが目を丸くした。
「え?」
「放り出した人間が……この世界にいて、ごめんなさい」
「……マリア、あなたが設計者なの?」
「……設計者というか。書いた人間、です。この世界の物語を、途中まで書いて、止めてしまった」
「そうか」
レイアが少し黙った。
怒るかと思った。でも、怒らなかった。
「どうして止めたの」
「……忙しくて。仕事が大変で。続きを書く気力がなくて」
「そっか」
「ごめんなさい、レイア様」
「謝らなくていい」
「でも、途中で放り出して」
「マリア」レイアが静かに言った。「私、ずっと思ってたの。この先、どうなるんだろうって。でも怖くもあった。誰かに決められた未来があるのかもしれないって」
「……ありました。でも、三話分しか決めていなくて」
「三話分だけ?」
「はい。あとは、何も決めていない」
レイアが少し笑った。
「じゃあ、私たちの未来は、まだ白紙なのね」
「そうです」
「それは……」レイアが考えた。「悪くないかもしれない」
「怖くないですか」
「怖い。でも、決められているより、白紙の方が、自分で決められる気がして」
(自分で決められる)
私は少し目が熱くなった。
「レイア様、お願いがあります」
「何?」
「続きを、一緒に決めさせてください。私が書くより、みんなで決めた方が、ちゃんとした終わりになると思って」
レイアがしばらく黙った。
それから、笑った。
「面白いこと言うのね、マリアは」
「変ですか」
「変だけど、好き」
レイアが手を差し出した。
「一緒に決めましょう。私の物語の続き」
私はその手を取った。
(書いたキャラクターに、手を握られた)
(これが現実だ。私が作った世界で、本物になった人たちがいる)
◇
──柊詩の手記より。
『レイアに全部話した。怒らなかった。「一緒に決めましょう」と言ってくれた。私が書いたキャラクターに手を握られた。泣きそうだった。泣いた』
次話:「キャラたちが「続きを書いてくれ」と言ってきた」




