第7話「キャラたちが、私の書いた運命を知っていた」
その日の夕方、ヴィンに呼び出された。
「マリア・ソレン。話がある」
人気のない中庭の隅。ヴィンが静かに立っていた。
「何でしょう」
「お前に確認したいことがある」
「はい」
「お前は、この世界の外から来たか」
(ドキッとした)
「……何を仰っているのか」
「誤魔化さなくていい」ヴィンが静かに言った。「お前が来てから、様子が変だ。全員を観察している。知っているはずのないことに気づいている。外から来た人間の目をしている」
「……外から来た人間の目、とは」
「この世界の人間は、この世界を疑わない。お前は疑っている」
(見抜かれた)
私は少し黙った。
「……驚きました。なぜ分かったんですか」
「俺にも、似たような記憶があるから」
(え?)
「似たような?」
ヴィンが少し目を伏せた。
「夢を見る。この世界ではない場所の夢を。薄い記憶だが、確かにある」
(ヴィンも転生者?)
「……それは、いつ頃から?」
「物心ついた頃から。ただ、夢の中の記憶は断片的で、多くは思い出せない」
「設定に、そんな描写は……」
「設定?」
しまった。
「いえ、なんでも」
ヴィンが私をじっと見た。
「お前は、この世界を作った人間を知っているか」
(この世界を作った人間)
(私だ)
「……どういう意味ですか」
「この世界には、設計者がいると思っている。誰かがこの世界の枠組みを作った。そしてその設計者は、途中で筆を止めた」
(途中で筆を止めた)
(私が三話で更新を止めたことを、言っている?)
「なぜそう思うんですか」
「この世界には、未完成の部分がある。未来が、霞んで見えない場所がある。設計者が決めていないから、霞んでいる」
(霞んでいる未来)
(私が書いていない続き)
「……ヴィン様」
「何だ」
「その設計者が、もしいたとして。その人に何か言いたいことはありますか」
ヴィンが少し間を置いた。
「続きを書いてくれ、と言いたい」
静かな、でも確かな言葉だった。
「続きを書けば、未来が見える。俺たちが、どこへ向かうのかが分かる」
「……怖くないですか、知るのが」
「怖い。でも、霞んでいる方が怖い」
私はしばらく黙った。
(ヴィンは、知っていた)
(設計者がいることを、続きがないことを)
「マリア・ソレン」
「はい」
「お前が設計者なら、続きを書いてくれ。俺たちは、ちゃんと生きている。終わりを、ちゃんと迎えたい」
私は何も言えなかった。
ただ、目が少し熱くなった。
◇
──柊詩の手記より。
『ヴィンに見抜かれた。この世界に設計者がいることを知っていた。「続きを書いてくれ」と言われた。私が書いた人物が、私に続きを頼んできた。どうすればいい』
次話:「悪役令嬢が、私のことに気づいた」




