第23話「マリアの物語が、完成に近づいた」
原稿が厚くなっていた。
レイアの章。ヴィンの章。エドガーの章。ミアの章。
そして最後に、マリア・ソレンの章。
(どう書けばいい)
自分のことを書くのが、一番難しかった。
「何が難しいの」レイアが聞いた。
「自分のことを、どこから書けばいいか分からなくて」
「最初から書けばいい」
「最初というのは」
「転生したとき」
「……あの瞬間の話を書いていいんですか」
「書いていい」レイアが言った。「あなたがここに来た理由を、ちゃんと書いて」
「書いたら怖くないですか」私は聞いた。「知らない人間が世界に入ってきた話を、住んでいる人が読んだら」
「怖くない」
「なぜ」
「あなたが来てよかったから」
「それだけで?」
「それだけで充分でしょう」
(そうか)
(よかったと思ってくれているなら、書いていい)
その夜、マリア・ソレンの章を書いた。
前世の話。死んだこと。目が覚めたら見知らぬ世界にいたこと。設定と全員違ったこと。戸惑いながら、でも少しずつここが好きになっていったこと。
(書くのが止まらなかった)
(自分のことを書くのは難しいと思っていたのに)
夜明けに、最後の一文を書いた。
『この世界で、私は書き続ける』
ペンを置いた。
◇
──柊詩の手記より。
『マリア・ソレンの章を書いた。「この世界で、私は書き続ける」で終わった。これが今の本当のことだ。あとは最後の一章だけ』
次話:「書いた世界で、また書く」




