第20話「物語の中に、知らない場面があった」
書いていて、気がついた。
私が書いていない場面が、浮かんでくる。
レイアが一人で図書室にいた夜。ヴィンが廊下で立ち止まった理由。エドガーが迷子になりながら、なぜ笑っていたのか。
(私が書いた設定にない)
(でも、確かに起きていた気がする)
レイアに聞いた。
「一人で図書室にいたことがありますか、夜」
「……なぜ知っている」
「書いていたら浮かんできました」
レイアが少し眉を動かした。
「あった」
「何をしていましたか」
「泣いていた」
(泣いていた)
「私が来る前ですか」
「そう」
「……何で泣いていたんですか」
レイアが少し間を置いた。
「一人だったから」
(レイアが一人で泣いていた夜が、あった)
(私は知らなかった)
(設定に書いていなかった)
(でも、確かにそこにあった)
「書いてもいいですか」私は聞いた。「その夜のこと」
レイアが少し考えた。
「……書いていい」
「本当に?」
「でも、一つだけ条件がある」
「何ですか」
「ちゃんと、続きも書いて」
「続き?」
「一人じゃなくなった続きを」
(一人じゃなくなった続き)
(それは今、ここにある)
「書きます」
「約束ね」
「約束します」
レイアが頷いた。
「マリア」
「はい」
「あなたが来てよかった」
(また言ってくれた)
(前と、少し違う言い方で)
◇
──柊詩の手記より。
『私が書いていない場面を、レイアが教えてくれた。一人で泣いていた夜の話。書く。続きも書く。一人じゃなくなった場面まで』
次話:「ミアが、春に帰ってきた」




