第19話「レイアが、物語の続きを読みたがった」
レイアが部屋に来た。
「読ませて」
いつの間にか、私が書いていることを知っていた。
「まだ途中です」
「途中でもいい」
「……自分が登場しますよ」
「知っている。だから読みたい」
(自分が登場するから読みたい、か)
変わった人だ。でもレイアはずっとそういう人だった。
書きかけの原稿を渡した。
レイアが静かに読んだ。
私は別の紙に書き続けた。
しばらく、静かな時間が続いた。
「マリア」
「はい」
「私、本当にこういう顔をしていた?」
「していました」
「ヴィンを見るとき、こんな顔を」
「していましたよ」
レイアが少し黙った。
「……恥ずかしいわね」
「でも、きれいでした」
「何が」
「好きな人を見るときの顔が、きれいでした」
レイアが少し、赤くなった気がした。
(ヴォルン家の悪役令嬢が赤くなった)
(私が書いた設定には一切なかった)
「続きを書いてくれる?」
「書きます」
「エドガーの話も書くの?」
「書こうと思っています。告白の場面まで」
「楽しみにしている」
「……エドガー本人には言わないでください。プレッシャーになるので」
「あら」レイアが少し笑った。「書く人間も、プレッシャーを感じるの」
「感じます。すごく」
◇
──レイア・ヴォルンの日記より。
『マリアが私の顔を「きれいだった」と書いていた。ヴィンを見るとき、そんな顔をしていたらしい。次からヴィンを見るとき、意識してしまいそうだ。困る』
次話:「物語の中に、知らない場面があった」




