第11話「未完だった結末を、一緒に決めた」
書き始めた。
部屋の机に向かって、羊皮紙とペンを借りて、書いた。
最初は、うまく書けなかった。
何度も書いて、消して、また書いた。
(舞台を用意するだけでいい。みんなが動ける場所を作るだけでいい)
そう思ったら、少し書けるようになった。
三日後、レイアのところへ持っていった。
「読んでもらえますか」
「もちろん」
レイアが羊皮紙を受け取って、読んだ。
読みながら、何度か表情が変わった。笑ったり、眉をひそめたり、少し目が潤んだり。
読み終えたら、静かに置いた。
「……マリア」
「はい」
「私、ヴィンのこと、好きなのかもしれない」
「今気づきましたか」
「薄々は分かってた。でも、文字で読んだら、はっきりした」
(自分のことを文字で読んで気づく人だった)
「読んでよかったですか」
「よかった」レイアが笑った。「書いてくれてありがとう」
「まだ続きがあります」
「続きは?」
「ヴィン様に読んでもらおうと思って」
「それはいい案ね」
ヴィンのところへ持っていったら、静かに読んだ。
読み終えたら、長い沈黙があった。
「……マリア・ソレン」
「はい」
「これは、俺とレイアのことが書いてあるか」
「書いてあります」
「……具体的には」
「ヴィン様がレイア様に告白する場面が書いてあります」
「……俺が告白する」
「はい」
「成功するか」
「それはヴィン様次第です。私は舞台を用意しただけなので」
ヴィンがしばらく黙った。
「……分かった」
「怖いですか」
「怖い」
「でも、やりますか」
「……やる」
エドガーとミアにも読んでもらった。
エドガーが「俺、迷子にならない場面ある?」と聞いた。
「地図を覚える場面があります」と答えた。
「ありがとう!」と言われた。
ミアは読み終えた後、少し考えてから言った。
「私の結末は、私が決めていいですか」
「どうぞ」
「では、私はこの学院でやりたいことを全部やってから、地元に帰ります。奨学金を使い切って、家族に仕送りして、農地を広げる手助けをします」
「恋愛は?」
「追々」
(追々と言った)
(一番しっかりしているヒロインだ)
「書きます、それも」
「ありがとうございます」
夜、一人で書いた続きを読み直した。
三話だけだったものが、今は十話以上になっていた。
登場人物たちが、それぞれの望む方向に動いていた。
私が動かしたわけじゃない。彼女たちの希望を聞いて、舞台を用意しただけだ。
でも、ちゃんとした物語になっていた。
(これが、小説というものか)
前世で書いていたとき、私はキャラクターを動かしていた。
でも本当は、キャラクターが動きたい方向を見つけて、その道を作るのが、書くということなのかもしれない。
(また書きたい)
前世では忙しくて、疲れて、止めてしまった。
でも今は、書きたいと思えた。
◇
──柊詩の手記より。
『続きを書いた。全員に読んでもらった。ヴィンは告白すると言った。ミアは追々と言った。エドガーは迷子にならない場面を喜んだ。レイアはヴィンへの気持ちを自覚した。書くというのは、道を作ることなのかもしれない』
次話(最終話):「書いた世界が、本物になった日」




