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第90話 聖女

 視界の端に見た明滅の一瞬。錯覚じゃなかったのかと聞かれれば、絶対に見たとまでは言えない曖昧な感覚だ。だが明滅を見た気がする。その光った周辺を掘ると手応えがあった。

「お、おお……。こんなことが……」

 30年前に見た祠だ。そこにあった。


 その祠に聖人像を納める。その瞬間、凄まじい力が流れ込んできた。多分だが、30年の魔力が返ってきたのだ。後日、ウィチカートはそのように解釈した。なぜなら最初から、これは貸し借りの話だったのだから。



 ウィチカートは礼拝堂に祠を設置し、聖人像を祀った。それを見て頷くウィチカートのその姿は精力、気力に溢れていた。

 認定聖女の発表を待つ受験者の礼拝堂。現れた男に一同瞠目する、いや目を丸くした。


 一目で分かる。神気が漲っているとでも表現すべきか、全身から発散される雰囲気は神々しいとしか言いようのない不思議な気配。大司祭という位にあるのも納得の貫録だ。ほほえみを絶やさぬその男がとある受験者の付近でそのあゆみをぴたりと止めた。

 な、何じゃい……、いやな予感が……

 そう思って心臓をバクバクさせているのはモルガナだ。何やら一晩で別人の雰囲気を醸し出している大司祭が立ち止ったのはモルガナの前だからだ。


 目と目が合う。ぼろぼろと涙を零す大司祭。30余年の魔力返還を受け、膨大な魔力を五体に漲らせるウィチカートはその少女モルガナの本質を見抜いた。この少女こそ、あの雨の城壁で聖人像を拾ってくれた黒いローブの魔女だ。

 この少女の持つ魔力の特質。それはあの雨の日の一瞬にだけ感じ取った生涯唯一の感覚。


 今、目の前にそれがある。生涯におけるたった一度。見誤ることなどありはしない。

「おお、おおお……」

「うわ、うわああ……、い、いやあ……、ちょ、キモいんですけど!いやあ……、誰かあ……!」

 目を逸らすことなく涙を流し続けるウィチカート。耐え切れずに悲鳴を上げるモルガナ。


 司祭たちがやってきて大司祭の身体を支える。

「大司祭様、いかがされました。一旦下がりましょう」

 そう言われて運び出さられていく。それを呆然と見送るモルガナ達。一瞬の間を置き、やがて礼拝堂は騒然となった。


 ◇◇◇


「今回の国定プリースト、プリーステス選抜試験。受験者番号1のジゼル嬢を国定プリーステスに認定する」

 代理の司祭によって淡々と審査結果が告げられた。今回の聖女が決まった。次点はなんと最下位から大逆転のモルガナ。

 最初の筆記試験さえもう少しマシだったら。本人は悔やんだらしいが、全く勉強せずに試験に臨んだのはモルガナだけだったので仕方ない。


 期待されてやってきた大聖堂のフロレッタだったが、カレンデュラとの同率3位にとどまった。しかし本人は結果以上に気付きや得るものが多かったと見え、サバサバした様子だった。

「フフ、大聖堂に戻ったら何を言われるやら。でも生涯の友人を得た。参加してよかったわ」

 フロレッタはモルガナ達を前に、爽やかにそう言い残して王宮を去った。


「また来てね、待ってるよ」

 そういうレベッカとアン。アガサとリーヴも見送りに来てくれた。挨拶を交わし終えると最後に大司祭ウィチカートがやってきた。

「魔女様。これをくださったのはあなたさまですね?ありがうございます」

 羊皮紙の紙片を持つウィチカート。

「心当たりないね」

 ウソをつくモルガナ。ウィチカートにセクハラだよと言ったとき、そう言われての驚愕の表情を見た瞬間、モルガナにあの日の黒い魔女の記憶が蘇ったのだ。


 そういえば何かやる残したことがあった気がする。そうだ、すっかり忘れてた。

 羊皮紙を忍ばせてやった。その硬骨ぶりに目を掛けてやりたいと思った日もあった、司祭候補の若者。これで今度こそこいつにしてやれることはもう残っていない。そして誰かに何かしてもらうような立場でも、もうあるまい。


 認定者の講習があるというジゼルを残し、一旦城を退去するモルガナとカレンデュラ。まだ何も終わっていない。むしろ始まってさえいない。本番はここからなのだ。レガリナの死の真相を暴くための足場が出来た。次に踏み出すのが最初の一歩。


 なのに、一気呵成に進まなかった。国定プリーステスの講習は国のシステムだからと、相手の都合に合わせ、ジゼルを預けてしまった。踏み出す大事な一歩を他人に預けてしまったのだ。モルガナはこの日の決断を、命が尽きるその日まで悔やみ続けた。


 二日後、ラフカがやってきた。まるで別人のようだ。削げ落ちた頬、隈の浮いた目は泣き腫らしたかのよう。何を聞いてもとにかく王宮に来てくれ、としか言わない。

 焦燥のラフカに連れられ、向かった王宮の一室に安置されていたのは、ウィチカート、そしてジゼルだった。彼女の肌は青黒く、そして冷たくなっていた。蘇生魔法は効果がないだろう。すぐに分かった。魂がそばにいない。すでに彼女はここにいない。


 その体にすがって号泣のモルガナ。するとジゼルに身体から光芒が一つ浮かび、それがモルガナの胸に吸い込まれた。死の間際の記憶。ソウルイーターの彼女は魔力で記憶を残し、それをモルガナに託したのだ。


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