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第84話 ジゼルは命を救いたい

 黒い魔女はバカにしたように高く笑っていた。当時の大司祭エルゾンがその横で苦笑いしている。

「はっはっは、エルゾンよ、この程度の者たちの中から聖女とやらを選ぶのか?お前も笑ってはいるが、このザマでは人に言えぬ苦労も絶えないんだろうな、はっは」


「ははは……。ウィステリア様から見ればそうでありましょうが、これでも大分マシなほうで……」

「これでか、はっはっは」

「いやあ、所詮はモンスターですから。人間にとって使えるか、使えないか。そこが問題なんですよ。命がどうのこうのではなく」


 エルゾンのいた時代はいまよりずっと魔物が人間によって使役されていた。今も人間による魔物の使役は、たとえば軍隊の中でも、労働の現場でも、いずれにおいてもまだ存在する。ただ、かつてのエルゾンがいた時代よりは、だいぶ減少している。


「あの時代はあの時代で効率を求めていたんだね」

 モルガナの呟きにジゼルが首をかしげた。

「どうしたの?」

「あ、いや、ちょっと思い出したというか、妄想が捗って……」


 初日の実技試験。それは治癒能力の試験だ。3人一組。効率よく行えば、より大きな効果が出る。工夫の余地が成果を変えるという発想。そして実際の治癒現場では複数のプリースト、プリーステスが協力して治癒魔法を使った。それは歴史が証明している。


 8組に分かれた受験者たちだが、一組ごとに試験官がつく。つぶさに確認するためだ。採点基準はあらかじめ決められているらしく、いずれの試験官も手元に幾枚もの字がびっしり書き込まれた羊皮紙を持っている。

「治癒魔法を使うのね……」

 レーネルーナが呟く。当然予想された試験だが、神聖な治癒魔法を施す相手が魔物とは……。


 会場には傷を負った者や病気に冒されたモンスターが多数用意されていた。普段、王国に使役されているモンスターたちだ。傷を負ったことで凶暴化しているモンスターもいた。いずれも鎖と太い杭で地面に固定されている。


「この試験で重要なのは、人間に馴致されていて扱いやすい魔物、また労働力や戦闘力を持つ魔物を優先するか、その判断も同時に見られているのよ。むしろその優先度確認試験ね」

 モルガナの説明に試験官の眉がピクリと動いた。

 モルガナとジゼル、カレンデュラ以外の受験者は全員治癒魔法の能力はあることが地元で証明済みなのだ。


 治癒魔法試験は必ず選抜試験で実施される項目だから、これを欠いた受験者などいない。治癒魔法を使えないもの、そんなものを試験に出せば、スポンサーの貴族や教会の名折れ。当然のことだ。


 マグダ・レガリナのプリーステス、ジゼル。そして聖騎士のジョブラスを持つカレンデュラ。いずれも問題なく治癒魔法を駆使している。大聖堂のフロレッタもその力をいかんなく発揮している。


 フロレッタは治癒魔法の行使を彼女自身が行い、魔力の供給を残った二人の補助で行っていた。変わった方法だが、3人分の魔力の出力を最大化することが出来ている。一方で出力装置に対してバッテリー容量が不足している、そういう欠点も露呈しつつあった。


 フロレッタと反対に、バッテリー側を担うのがカレンデュラだ。仲間二人が治癒魔法を施すのだが、その二人の交替交替で行う。一人が休んでいるとき、その休む一人に回復を施すのがカレンデュラの役目だ。出力は弱め。だがバッテリーが余裕ある大容量。下支えが強固ゆえの高効率。


 彼女らに比べ、異様なのがジゼル達だ。モルガナには明確な治癒の優先基準があるようで、重傷の魔物は思い切って切り捨てている。ここで魔力の消費量が多くなれば他の魔物の治癒に魔力を回せなくなる。最終的により多くの魔物を救う。そのための優先基準であり、効率化なのだが、その基準に外れる場合は、治癒対象からも外す。

 つまりはトリアージだ。


 ジゼルは違う。命の灯が消えそうなものから優先している。

 一つの命の多くの魔力を消費する。いずれ行き渡らなくなる。だが、彼女の魔力が尽きた頃、残っているのは軽傷者だけかもしれない。そうだとしても、治療を受けることのできない人数は、より多く出る可能性があった。


 モルガナはしかし思う、ジゼルは賢く、そしていま必死だ。

 判断ミスではない。選択の結果なのだ。

 選択したというに過ぎないのだ。もし喫緊の状況、たとえば戦力再投入が直ちに必要な戦場でもなければ、時間を掛けた分最終的にはより多くを救いうるのはジゼルの方だろう。そう思い、モルガナはタイミングを見てジゼルの補助を行う。

 笑みを交わす二人。それを見たレーネルーナの胸が熱くなった。


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