第85話 暴力で解決だ
レーネルーナを送り出した東部教会のあるその地方では、今もモンスターによる市民への被害が多い。だから東部教会のシスターは早い段階から治癒魔法の習得と実践の機会を多く持ち、そしてモンスターへの憎しみの感情もまた大きい。
現場を知るレーネルーナの目から見てモルガナの判断はより現実的であり、ジゼルのそれは感傷的に感じはするものの、より生命への慈愛に溢れている。
その慈しみは伝わるものなのだろうか。周囲のモンスターたちがジゼルに対し、尻尾を振ったり友好的な姿勢を見せている。
先ほどまで唸り声を上げていたモンスターさえ、従順なペットのように。
対照的な二人が微笑みを交わす姿。それを見た瞬間、とても崇高なものに思えたのだ。
試験の時間がタイムアップになり、試験官が三人に質問をした。
「あなたたちは、最初に王国に役に立つ魔物から治癒すべきという方針を確認し合っていた。しかし、実際はそうではなかった。理由があれば聞かせてほしい」
「放置すれば絶え行く命。ただ、それがしのびなかったので」
ジゼル。
「短時間で効率よく、よりたくさんを救う。これからの常識よ」
モルガナ。
結果的に試験の採点基準は王国にとってより役に立つ魔物の治癒がポイントになるという公表されていない基準があったため。モルガナ達の得点は伸びなかったという。
点数を伸ばしたのがカレンデュラ。聖騎士である彼女は職業軍人的思考の訓練も受けている。そしてその場の機能性を事務的に評価できる思考を備えていた。その結果だ。
大聖堂のフロレッタはより広く施しを授ける。その姿勢と志は正しくとも、この試験の基準ではカレンデュラ程得点を伸ばさなかった。
「基準で言えば、王国の戦力を増強したと言えるキミが最高得点であるべきだけどな」
そういうのはラフカだ。ラフカと共にテーブルを囲むのがジゼル、カレンデュラ、そしてモルガナの三人だ。治癒という観点に加えモンスター馴致の功績を含めれば、ジゼルの行動こそがもっとも王国の利益にかなう。そういう理屈らしい。
「役に立つか……」
ジゼルはラフカの評価にあまりうれしそうではない。むしろ寂しそうな気配さえ漂わせる。すかさずモルガナが話題を転換した。
「それで、ラフカ。話に来たんでしょ?言いなさいよ」
本題に踏み込むのも怖いが、どうせ避けては通れない。
「ああ、その前にあの雷撃魔法はキミか?モルガナ」
ラフカは今日目撃した。モルガナは治癒魔法を使える。そして昨日の雷撃魔法。あの攻撃はジゼルではない。となれば残る可能性はモルガナだけだ。
「そ、そうだよ!なんで私を撃った!?」
それがきかっけで思い出したカレンデュラも食いついてくる。
カレンデュラの間にはジゼルが入ってくれた。
「あれは仕方ないでしょ、カレン。あのままだったらあなた、ラフカに斬りつけていたわ」
「ぬ……。でもそれだって仕方ない」
すかさずその展開にモルガナが便乗した。
「ほら、ラフカ、あんたがはっきりしないせいだよ。どうすんの、これ?」
「キ、キミこそ、だ。キミは魔術式スペルも祈祷式スペルも両方使う。そんな奴はまずいない。何者だ?何が目的だ?」
また口を挟むのがジゼルだ。
「ちょっとお、それってロイヤルイクリプスとしての仕事の一環でしょ?そんなのいま、いいじゃない。あなた、昨日は仲間として話をするって言ったよね?そうは言っていなかったか。でも仲間かどうかを判断の理由にした。そうでしょ?」
「私にとってこいつは仲間じゃないよ」
「ちょっと、カレン」
いよいよ4人の会話は混沌としていく。そこでモルガナがカードを切った。
モルガナは膝をついてラフカに言ったのだ。
「お願いです、ラフカ。真相を教えて。このままじゃ誰も幸せになれない」
ジゼルもカレンデュラも言葉を発せず、ただ視線をラフカに注ぐ。
き、汚ねえ……、これは拳を使わない暴力だ。ガキのくせに大人の暴力を……!
そう思ったらラフカだが、抗する術がない。
「分かった。だが条件がある。ボクが条件を提示するというより、その状況までもっていければ、正当な形での情報共有者になれる可能性がある。そういう意味の条件だ」
「はやく言いなさいよ」
さっきの殊勝な態度はどこへやら、モルガナが強めに督促する。
「最高成績をとってくれ。そうすれば次の舞台に立てる。そこでなら、言える。かもしれない」
「なんだよ、かもしれないって」
「分かってくれ、そうなるようには必ず努力するから」
こいつは王宮で唯一の協力者、または協力者候補だ。まあ容疑者でもあるが。それはさておいても真相に辿り着くルートにこの男の案内は必要。ここは一旦妥協するモルガナ達だった。




