第83話 実技試験で名誉を取り戻せ
言えと言われて言葉が出ない。声になれない呻きが聞こえるようだ。
「……」
ラフカの表情が歪む。言えない理由があるのだ。
「ジゼル。キミはさっきから何か能力を使っているな?それが仲間にすることか?」
気付かれた。精神操作を仕掛けながら、それが巧妙にレジストされていた。
「使ってないわよ。私はただ今回の試験に受かりたいだけ。モルガナやカレンとは関係がない。あの二人は私が監視し、何もさせない。そういうふうに協力しましょ?それでいいでしょ?」
感情と思考が、あるいは状況そのものが、溢れて決壊する前に、雨どいを伝わすように効率的に逃がしてやる。絶対的な対立はラフカだって望んでいないのだ。
「分かった。逐一報告をくれ」
「もちろんよ。ところで、二人は牢から出して。でないと今後の辻褄が合わなくなる」
ジゼルはウソをついた。協力はする。協力はするが、それはラフカに対してではない。カレンに対してだ。
なぜか。加害者はラフカとライゼンだから。もしかしたら亡くなった本人も加害者側かもしれない。そして被害者は真相を知らない遺族。
その構造が明確になったからだ。
「いやあ、ジゼル助かったよ。ラフカを操ったの?」
「そこまでは出来なかったよ。彼には精神操作への高い耐性がある。まあ、でもいくつか話を聞けた。全部は分からないけどね」
「じゃあ、カレンにも教える?」
「あの娘は暴走しかねないからね。どうしようか」
牢から出されたモルガナは早速ジゼルと対策を練り始めた。盗み出した書類は没収されてしまったが、成果はあったのだ。
「これで書類が取り上げられなかったら完璧だったんだけどね」
ジゼルはそう言うが、モルガナは首を振った。
「でもこの件はラフカが握りつぶしたんでしょ?そうしてくれなかったら、私たち全員、今頃縛り首だよ」
「そうだね……」
その通りだ。ラフカは三人の命を救ったのだ。
「それにね。記録に残っていた重要な部分は、王妃の病をレガリナさんが祈祷式魔法で救い、その後レガリナさんの容体が悪くなったという部分だけ。あとは特になかったよ」
「え、何で分かるの?」
「羊皮紙あるかな、ま、これでもいいけど」
テーブルクロスに杖をかざして呪文を詠唱すると、文字の形に小さな炎がテーブルクロスの上を走り、焦げ目となって文字を記す。
「これは……」
「杖に全文を覚え込ませた。確認したけど、記録にさえ残せない極秘情報があって、たぶんラフカはそれを知っている」
モルガナの言葉にジゼルが表情を引き攣らせているとカレンデュラが背後から声を掛けてきた。
「なにしてんの?」
ジゼルが口を開き説明を始めた。ラフカとは休戦し、協力すること、試験は継続すること。それを三人でもう一度確認した。カレンデュラはこの二人との共闘が必要なのを知って、ジゼルの言葉に頷いた。
筆記試験の結果を受けて今日は実技試験だ。試験の最初に3人一組のグループ分けがなされた。試験の上位層、中位層、下位層。それらの層からそれぞれ一名ずつで3人グループ。説明はされていないがそういう組み合わせのようだ。結果的に最下位モルガナは筆記試験1位のジゼルと同じグループになった。
「頼もしいわあ~」
嬉しそうなモルガナ。ニコニコと笑顔を絶やさないジゼル。そして中位層のレーネルーナ。この三人で一組だ。
「全部で8組か。なんでグループなんだろうね?」
モルガナの疑問にレーネルーナが自説を唱えた。
「多分だけど、上位の8人はグループが全員別のグループ。特にその8人の協調性とかリーダーシップを見たいんだと思う」
レーネルーナは東部教会のシスターだ。かなり勉強してきたそうで、筆記試験の結果が中位に留まったことにひどく落胆していた。
「ほれ、元気飴だよ」
「元気飴?」
「そ、舐めてみ」
レーネルーナはモルガナに差し出されたそれを舐めてみた。
「うげ、くう~」
鼻を突きぬける辛さに涙が出た。その瞬間、モルガナが精神デバフ解除魔法をレーネルーナに施す。
「ちょっと、モルガナ、なにすんのよ!」
なにすんの、とは辛すぎる元気飴のことだ。施された魔法には気づいていない。
「ごめんごめん。事前に身構えない方が効果あるんだよ。どう?気分は?」
「え?ええ!?ほんとだ……。気持ちが軽くなってる」
ジゼルが絶やさぬ笑顔で、しかし眼だけ笑っていない。目の前で見たプリースト系祈祷式魔法は、ジゼルの知る最高レベルのデバフ魔法だ。




