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第82話 ジゼルの論駁

 ラフカとの距離を一気に詰めたそのカレンデュラの武器はナイフ。武器は当然王宮に持ち込めない。そこで隠して中に入るための最も小さな武器を選んだのだ。一方、ラフカは正式なロイヤルガードの剣を持っている。

 だが、躊躇いのない攻撃はラフカの反撃を封じていた。ラフカはかろうじて鞘から剣を抜き、ナイフの初撃を弾くにとどまったのだ。


 弾かれたカレンデュラはその勢いのまま前転し、ジゼルの能力で傀儡にされたロイヤルガードの横まで行って、その剣を奪うことに成功したのだった。


「形勢逆転だね?あんたは同等の戦闘力を持つマグダ・レガリナの一人を相手にしながら、私とも戦う必要が生じた、私の分だけこちらが有利」

 カレンデュラが不敵な笑みを口元に浮かべる。そうしながらもモルガナを背後に庇うのだった。


 その背後で魔法詠唱の声が聞こえた。

 モルガナの声……?

 次の瞬間、カレンデュラが見たのは自分の身体を貫いた紫色の稲妻が、ラフカを撃って彼の身体が火花を散らした光景だった。その明滅を最後に目の前が真っ暗になった。


「なんで、カレンごと撃ったのよ」

「いやあ、あれなら死角で絶対躱せなかったし……。両方伸びてもらった方が、都合が良かったし……」

「そのおかげで逃げられたじゃん」


「まさか、あれをレジスト出来るとは……。ラフカも化け物だね」

「感心してる場合かよ。すぐに追手を引き連れてやってくるんじゃないの?」

「だよね。逃げよか」


 そんな声がうつろな意識の中で聞こえてくる。そしてすぐに複数の足音。カレンデュラが目を覚ますと、そこは医務室だった。ベッドの上であることを知った。しかし手枷が嵌められていた。


 ジゼルとラフカは2人だけで話をしていた。モルガナも捕縛して牢にぶち込んである。ただジゼルだけは旧知の間柄で、かつこれからもマグダ・レガリナの一員として協力する関係にあるため、一旦説得を試みることをラフカは選んだのだ。


「カレンデュラはレガリナさんの妹よ。私は会ったことがないけど、あなたはよく知ってるわよね、レガリナさんのこと」

「ああ、知っている。それで彼女は姉の復讐のため?」


「いいえ。お姉さんの死の真相を知りたいのよ。そしてそれを調べるため、王宮に潜り込むために今回の試験を受けた。私たちを牢獄に入れたままにすることも、秘密裏に処分することも、あなたなら可能でしょ?でもそれはいずれライゼンさんの知る所となる。そこはどうするの?」

 ライゼンとはマグダ・レガリナのリーダー、ライゼンフロスト・リンドベルグのことだ。


「い、いやあ~……、それはだなあ……」

「なんだ、やっぱりライゼンさんも共犯者か……」

「な、なぜ、分かる?断じて違うぞ」

 そうは言うがジゼルはもう、ラフカの瞳や表情で読み取ってしまっている。


「いいよ、もう。私には分かったけど、ただそれだけ。証拠がないからどうしようもない。でも、あなたがこっち側に寝返ってくれたら、状況は変わる。聞かせて?状況を変える気はある?」

「な、なんだよ、状況って?変わらない方がいいだろ?今のところみんな幸せだ」

「レガリナさんも幸せ?」

「あ、ああ。それは間違いない。本人が望んだことだ」


「そうなのね。それが本当なら私は、あなたにも、ライゼンさんにもギリギリ失望しないで済むかもしれない」

 ジゼルは既にラフカから巧妙に核心を二つ聞きだした。一つはラフカとライゼンの共犯だったこと。

 そしてその二人に対し、レガリナの合意があった可能性。

 三人による合意、またはレガリナによる希望。だがまだまだ不十分だ。


「こっちだってできれば失望はされたくないな」

「どうして?それは自分のやったことが正しいと信じているからでしょ?でなければ他人の失望なんて、いくらでも受け入られる」

「もちろん正しいことをしたさ」

 強靭な意思、確固たる信念を持つ者ほど、その正当性が歪むことは耐え難い。他人に評価されたいのではない。信念とは完遂に至るまでが信念だからだ。歪んだら完遂ではなくなる。


「教えて?あなたの正しさを」

「これ以上は言えん。キミがどう思おうと、これは僕が信じた道だ。それが言える全てだよ」

 だからこそ他人の評価自体はどうでもいいのだ。ただ正しいかと問われれば、正しいと答える。他人の失望なんて、どうでもいい。


「ふうん。あなた、マグダ・レガリナに入る前からロイヤルイクリプスだったの?」

 ロイヤルイクリプスとは王室直属の隠密部隊だ。

「ちが……」

「違わないでしょ?だって、マグダ・レガリナの前身であるブレイブソード時代からの付き合いなんだから、レガリナさん、ライゼンさんとは」

「そうだ、その通り。違わないと言おうとしたのだ」


 ほんとかよ。でもこいつはまた一つ口を割った。こいつは生粋のロイヤルイクリプスだ。

 とうことは、今もロイヤルイクリプスに所属しながら、マグダ・レガリナの活動に参加しているに違いない。

 貴族がお抱え冒険者を持つこと、或いはスポンサーになることは珍しいことではない。地域の問題解決に使うことがあるし、互いに名声も得られるからだ。

 そして実際マグダ・レガリナは王宮の依頼をこなしたことが複数回ある。


「なあ、ジゼル。ボクは協力的だろう?なぜか分かるか?ボクたちは仲間だからだ。話せば分かりあえる。そうだろ?頼むから協力してくれ。ボクは、モルガナを殺したくない」

「そうね。思惑は一致してるわ。なら言うのよ、レガリナさんの死の真相を」


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