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第81話 聖女試験

「所詮は筆記試験。上がり過ぎた評価は後から落とせばいいけど、筆記なら点を取り過ぎたところで大して評価も上がらない。フロレッタに目に物を見せるのよ」

 モルガナのその言葉にジゼルもカレンデュラも頷いた。

 200年を翔ける魔女。王国の災厄とさえ呼ばれた黒い魔女の本気が炸裂する講義堂。試験結果は即日張り出された。


「おーほっほっほ」

 笑うフロレッタと目があった。

 う、うおお……。ちくしょう、ちくしょう……。

 如何に最高峰の魔女とはいえ専門外である現代プリーストプリーステスの知識は不十分だ。しかもモルガナ達以外は全員この日のために勉強を重ねてきている。なんの用意もしてこなかったのはモルガナだけだ。

 モルガナ最下位。そしてフロレッタは2位の好成績だ。


「あっらあ~、ええともしかしてえ、モルガナさまあ?」

 あひゃひゃと笑うフロレッタの取り巻き達。そこへ立ち塞がるのがジゼルだ。

「フロレッタ様、ご挨拶が遅くなりました。ジゼルで御座います。モルガナ様には及びませんが、一生懸命励みますのでどうぞよろしくお取り計らい下さいませ」

「ジ、ゼルさん……」

 フロレッタ達は彼女が名乗った途端、言葉を失った。成績一位の名前だ。張り出された紙の一番上に一際太い字で書いてある。恐ろしいことに満点。一問の不正解も無かった。

 まぐれではこうはならない。また誰かの頭の中を覗いたのでもあるまい。

 なぜかといえば満点は彼女一人だからだ。


「ちなみに三位のカレンデュラです」

 カレンデュラもひょこっと顔を出す。さすがはパラディン。刃物を武器として彼女は、その分だけ、より一層敬虔でなくてはならない。


「お友達は優秀なようね。ならあなたも見た目ほど適当な人間ではないということ。そう言えば公爵家のレベッカさまもあなたを擁護していた。認識を改めさせて頂きます」

 モルガナはそう言われても、褒められたのか、けなされたのかよく分らない。

 分からないので「なんだとこのやろう」と言い放ってやったがそれは黙殺されたのだった。


 仄かにランタンが照らす廊下は高そうな絨毯が端から端まで敷き詰められている。おかげで足音はしない。ただ、ロイヤルガードの金色の鎧がガチャガチャと音を金属のこすれる音を放っている。その後をゆっくり歩く二人の女。ジゼルとモルガナだ。ジゼルの能力はカレンデュラには今のところ秘密。それで二人だけでの作戦決行だ。


 書庫室の扉の鍵を開けるロイヤルガード。ジゼルに操られているのだ。こうもあっさりセキュリティを無力化できるなら、別に試験にかこつけて潜入する必要も無かったのではないかと自問自答するが、最初から王宮の中にいる方がはるかに目立たない。見つかっても言い訳が立つ。なら今回のやり方は間違っていない。そう言えるのだ。


 持ち出した記録をスカートの中に隠して元来た道を戻る。

「待て」

 ギクリ。

 振り返るとそこにいたのはラフカ・パドームだ。


 鎧は身に着けず、制服姿だ。金色の縁取り、刺繍の施されたスタンドカラーのジャケットに翻るサイドベンツ。清潔なシャツ。汚れのない真っ白な手袋。はっきり言ってかっこいい。


「精神攻撃か?不思議なことにボクの同僚は意識を失っているのに歩けるようだ。凄まじい精度の魔法だね?ジゼル、キミの仕業か?こんなことまでできるなんて知らなかったぞ」

「よく分ったね」

「キミは意外とバカなのか?満点を取れば、すぐに噂と名前が広がるだろうが。しかもカレンデュラとモルガナまで一緒。すぐにマークせてもらったよ」


「なるほど。話が早くて助かるよ、ラフカ」

 モルガナが前に出た。

「3体1か、ここで戦闘を始める気か?」

「さん?」

「ああ。知らなかったか?背後の角にいるのはカレンデュラか」


「気安く私の名を呼ぶな」

 角から出てきたのはカレンデュラだ。前にモルガナとジゼル。背後にカレンデュラ。


「ジゼル。キミは今の不利を理解できているな?ボクはいつでもモルガナの首を飛ばせる、もちろんボクはそれを望んでいない。どうする?」

 そう。ラフカは決してピンチではない。この場に戦闘の素人が紛れている。弱点を無防備に敵の前に晒しているのはジゼル達の方なのだ。より危険な状況だ。


 そしてジゼルは困惑した。モルガナは弱点などではない。この場における最高戦力だ。もしモルガナとジゼルだけだったどうなっただろうか。ラフカを制圧し頭の中を覗くことさえ可能だったかもしれない。

 だがそこにカレンデュラがいた。それは事前に想定できることだった。彼女は彼女で真相を暴こうとしていたのだから。


 今しかない。叩きのめして、拷問してでも自白させる。

 その決意。そしてすでに覚悟の整っていたカレンデュラだからこそ、行動が早い。モルガナを攻撃することも可能だというラフカの発言が、カレンデュラの覚悟を一層深いものにしたのだ。


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