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第80話 なら決着は王宮でつけようか

「他にも方法があります。モルガナ様は王宮で侍女の資格をお持ちなので、自然に王宮深く入りこめます」

 不意に発言したのはベリアスだ。なかなか鋭い。

 つーか、こいつ、いつ知ったんだよ。あ~、しつこく聞かれて根負けしたんだっけか。


「ああ、それは駄目よ。最後、後ろ足で砂掛けるみたいな形で去ったからね」

 そう。そこまでは言ってなかった。

「なるほど、さすがモルガナ様。卑しき人間の宮殿にはそれにふさわしい振る舞いをなさってこそ我らの誉れ」

 何を言ってんだこいつ、という目でアガニケが見ている。

「しかしそれももちろん想定しておりました。つまり対案をご用意して御座います」

「ほお?」

 モルガナが促す。


「この犯人めが言っていました」

 顔を伏せていたカレンデュラがビクッとなる。

「まもなく国定プリーストプリーステス選抜試験があるのだとか。なら、何食わぬ顔で参加すれば王宮に入れる上に砂を掛けられた奴らも意趣返ししかねるでしょう。なにしろ国定試験の妨害になりますからな」


 別に意趣返しはしてこないだろうが、角が立つ程度は大分抑制される。角が立たないわけではないが。

 てか結局あたしがやんのかよ。

「わ、わたしにやらせてください」

 か細い声でいのはカレンデュラだ。

「おい犯人。お前がどうしたいか知らないが、自分で勝手に決めろ。そして勝手にやれ。俺たちは関与しない。なぜだか分かるか?共犯者じゃないからだ」

「う……、うぐっ、びえええ」

「あーはっはっは」


 二人のやり取りにモルガナの表情も引き攣る。そしてポツリと言葉も漏れる。

「な、何がおかしいんだよ……」

 その横でなぜかアガニケまで泣き出し、混沌は一層深まっていく。だが、いやな予感を放置しなかった。だからこの程度で済んだのだ。そうも思うモルガナだった。

 でもこいつら、なぜあたしがここにいるのか、後で聞いてくるんだろうなあ……。

 一時もその思考を休ませることが出来ないモルガナだ。


「ねえ。そっちに座ってもいい?」

「なぜだ?」

「景色がいいから」

 拒否もされなかったので御者台にアガニケも上がる。手綱を持つベリアスの隣だ。

 彼女がしっかり腰を降ろすのを待って、それから馬車が進む。


 今日の安堵感は過去に経験したことの無いものだった。蜘蛛の糸でグルグル巻きにされ、しかし気づいた時にはベリアスの腕に抱かれていた。

 あの恍惚。景色のせいにしてみたが、気づかれるだろうか。

 ただ隣にいたいだけ。

 気づかれたっていい。その時はそう思った。明日になればこの感情は失われいるのかもしれない。

 だから今の感情を、素直な今日に委ねたい。


「たのんます。このとーり」

「もう~」

 翌日。モルガナに頭を下げられ、人の好いジゼルは仕方なくその話を受けた。

 国定プリーストプリーステス選抜試験に臨むのだが、やはり本職のプリーステスに一緒に行ってほしいと頼まれたのだ。


 一緒に行くのはモルガナにジゼル、そしてカレンデュラだ。アガニケはカレンデュラを許した。そのことで話は一気に現実性を帯びて加速したのだ。

 試験と言っても誰で受験できるわけではない。

 身元保証人が必要だ。圧倒的に多いのが貴族が保証人になるケース。そして次に教会。中には大聖堂が保証している者もいるという。


 普通はここでつまずく。なぜならモルガナは平民だ。カレンデュラも平民。ジゼルに至ってはバレてないとはいえ、人間ですらない。

 しかしモルガナには人脈がある。

 オズワルド公爵?それともレベッカのアリューシャ公爵家?どちらもきっと助けてくれるだろう。だが。ここはヴェロニカのアルダンフォーク伯爵家だ。なにしろヴェロニカには侍女試験の件で貸しがある。ここで清算させてやるのが情けと言うものだ。


 というわけでモルガナは三人分の身元保証を二つ返事で貰ってきたのだった。

 試験は王宮で行われる。最初に筆記試験から始まる。しかし足きりはないので誰かが脱落するという事はない。

 一週間の滞在期間中にいくつもの試験があり、全てを受ける必要があった。


 足きりは無い。つまりは試験そのものはどうでもいいという事になる。下手に国定資格を得ては身動きがとりにくくなる。

 この期間中にロイヤルガードの尻尾を掴むのだ。

「キャー。モルガナ~」

 久しぶりの王宮。と言っても王宮を去った日は三か月前。まだ三か月だ。だが冬も終わりに近づいている。


 王宮に着くと、すぐにレベッカとアンがやってきた。

「まさか侍女の次はプリーステス?ほんと、なに考えてるの?あんた」

 そういうレベッカだが、しかし笑っている。モルガナが侍女の試験を王宮で受けていたことを知っているジゼルもその様子に微笑んでいる。


「フフ。プリーステスのレベルも落ちたものね。まるで子供じゃない」

「なぬ!」

 バカにされたと知ってモルガナが声のした方をギロリと睨んだ。

「モルガナ、やめて。大聖堂が身元保証しているフロレッタ様よ。ま、出来レースなのよ」

 レベッカは小さな声で言ったが、相手はどうやら聞き取ったようだ。

「あら、聞こえたわよ。出来レース?」

「いえ、失礼いたしました」

 素直に詫びたところで取り巻きがフロレッタに耳打ちする。それを聞いてフロレッタは態度を改めた。


「いえ、こちらこそ。アリューシャ家のご令嬢様とは知らずに失礼しました。ですがご友人はよく吟味なされた方が……」

 ち、ちくしょう……。

 なんでこんな惨めな気持ちを味合わなければならないのか。フロレッタの後ろ姿を見送りながら、筆記試験で魔女の偉大さを教えてやろうと心に決めるモルガナだった。


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