第79話 共闘
「く、くそ、やっちぁぇええ!」
その言葉に残ったゼノ・アルギエスたちが一斉に糸を吐きつける。それをアガニケを抱えたままで、簡単に躱すベリアス。複数のゼノ・アルギエスが四方から糸を射出するが、命中する気配がまるでない。
やがて大きく跳躍し、距離を取るベリアス。
「無駄だ。そんなものが通用するか」
「ほ、補欠で、この技量……」
その身のこなしを目の当たりにし真っ青のカレンデュラ。そのカレンデュラの影が伸びる。伸びた影が大きくなっていく。大きくなった影が立体的に立ち上がっていく。
「う、ウソお……」
ベリアスの小脇に抱えられたアガニケは、見たこともないモンスターに言葉を失った。
「グレターデーモンか……。そんなものを従えていたとは……」
ベリアスのその言葉に反応したのはカレンデュラではなく、モンスターの方だ。
「従えて、だと?勘違いするな。人間を利用していたのは我よ。それに我はグレターデーモンなどではない。アークデーモンよ」
「人間を利用だと、何のために?」
「復讐の相互協力だ。よく見ればお前、こっち側だな?お前も一枚噛むか?黒い魔女を消すのは利害の一致だろう?」
こっち側?どういうこと?
アガニケがベリアスを見るが表情に変化は無く彼の心中はうかがい知れない。だが呟いた言葉ははっきり聞こえた。
「くそ、分が悪いか」
「ピンチなの?」
つい聞き返してしまう。
「ゴーレムやゾンビのドラゴンよりは強敵だ。せめて足手まといがいなければ、倒せない相手ではないが……」
足手まとい……。私とカレンのことか……。
さすがに自覚せざる得ない。しかしそれにしても凄まじい圧力だ。広いドーム状の空間が狭く見えるほどの巨体。3メートルの全長、巨大な翼。鋼の体躯。
「どうする?我に従うか。死ぬか。この場で選べ」
哄笑のその余裕が不意に失われていくのが分かった。
表情が変わったのだ。
「お、お前、黒い魔女の手下か?奴を連れて来たな?い、いや違う……、な、何だ?」
ベリアス達の背後から現れた小柄な影。
その影はベリアスに向けてクイッと顎をしゃくった。そして次の瞬間、目に見えないオーラがその影から発せられ、アークデーモンに浴びせられた。
「御意」
アガニケをその場に横たえ、カレンデュラの横を素通りしてアークデーモンとの距離を詰める。アークデーモンは金縛りの状態に見えた。跳躍と共に身動きできない巨体の首が一刀で宙を舞う。
「お見事ね」
「あれが噂に聞く魔王覇気ですかな?モルガナ様こそ……」
「おい、黙れ」
「はい」
カレンデュラにもアガニケにも、ただベリアスが一撃でアークデーモンを仕留めた。そのようにしか見えなかった。
ただいつの間にか、その場にモルガナが来ていたのだ。ゼノ・アルギエスの残りは壁から落下して地面で落下したままの姿でピクリとも動かない。気絶しているものと思えた。モルガナの魔王覇気に打たれてのことだが、それを知るのはモルガナ本人とベリアスだけだ。
「カレン、大丈夫?」
「はい、申し訳ありませんでした」
地表に出てモルガナに声を掛けられたカレンデュラだが、すっかり絶望し切っている。作戦の失敗ゆえではない。ベリアスの技量を見たせいだ。補欠にしてあの実力。
これでは正規メンバーであるラフカや、ましてやリーダーにして王国最強の呼び声高いライゼンにかなうはずがないではないか。
そう思うとまた涙が溢れる。何のために腕を磨いてきたのか。今日何度目かの号泣。なぜかアガニケがもらい泣きしている。人質にされかけたというのにだ。
「もうそろそろ本題に入りたいんだけど、いいかな?」
モルガナの言葉にカレンデュラが頷く。これは両者、避けては通れない。
ラグニ彗星迷宮にドラゴンゾンビが出現したその日、その付近の別の迷宮にアークデーモンが出現した。アークデーモンは弱っていた。かつて黒い魔女に傷つけられ、力を奪われて封じられた。
その場にいたカレンデュラにアークデーモンはそう言った。
「人間よ、お前の眼には強い復讐の炎が宿っている。どうだ?共闘しないか?我はお前に復讐を果たすだけの知恵と力を貸そう。お前はその後で我の復讐を手伝え」
それがアークデーモンとのやり取りだったという。
そしてアークデーモンはカレンデュラの知らないことも知っていた。
王宮は伝統的に裏で暗躍する王室直属の組織を持っておりそこを通じて冒険者を使役していること。そして用が済めば口封じをしていたこと。
「用って?」
「王室の用など多岐にわたるから一概にはいえん。だが例えば反乱分子の暗殺なども任務だったはずだ」
カレンデュラの問いに、アークデーモンは知っていることを答えてくれた。
「冒険者を使って暗殺……?そんなことが……」
「有名な冒険者ほど使いやすい。警備や護衛に任務に就かせ、標的に近づくのだ」
「姉さんがそんな任務受けるはずがない」
「なるほど。任務内容を聞いてことわったと仮定するなら、その時点で口を封じる必要が生じるな」
姉は死に、その頃頻繁に会っていたというラフカと姉の後釜に収まったライゼンは今も生きている。
そういうことじゃねえのか?
アークデーモンは笑った。
「それでマグダ・レガリナのたまり場になっている店に頻繁に来て、メンバーに近づいたのね。そしてライゼンとラフカとの接触の機会を待った。確かにラフカは店に来たそうね」
モルガナはこれまでの話をまとめ、確認した。たしかにラフカが店にきた話は聞いた。しかしその後、彼は来ていないのだ。そしてライゼンも現れない。
「なら、一人で迷宮に入ると言え。誰かがついてくる。マグダ・レガリナならだれでもいい。そいつを人質にしろ。迷宮まで誘い込めば、後は俺が何とかする」
アークデーモンはそう言ったのだという。
そこまで聞いてモルガナはため息をついた。
「結局アークデーモンの言っていることはただの推測じゃん。それじゃ、何も分からないよ」
「でも本人に直接聞けば……」
「それだって別に迷宮に誘い込む必要は無かった。真実より殺害。それがアークデーモンの目的でしょ」
「こうでもしなきゃ、聞けないよ」
「まあ、分かるけど……、あ、でもこうなった以上、アガニケが聞いてくれるんじゃない?」
「え」
適当なことを言うモルガナにさすがにアガニケは白い目を向けた。




