第78話 カレンデュラの罠
いつの間にか四方全てを抑えられた状況。どうしてこうなったのか、アガニケはそれさえも正しく把握していない。
通路を通った先の大きなドーム状になっている空間。大きな結晶が至るところから突き出て仄かな青い光を放っており、ランタンなしでも周囲が見渡さる。その中を何体ものモンスターが徘徊していた。
アガニケはそこで巨大な蜘蛛の形をしたモンスター、ゼノ・アルギエスに周囲を囲まれている。
状況を把握していないが、どちらかというと把握したくないのだ。カレンデュラに誘い込まれた。そうとしか思えないのだから。つまりカレンデュラの仕掛けた罠にはまった。
でも心情的にはそう思いたくない。
花を摘みに付き合って
それは小用を意味する隠語だ。その言葉でベリアスを引き剥がし、ベリアスが異変を察知してやってきたときにはアガニケはゼノ・アルギエスの糸でグルグル巻きにされ、上から吊るされていた。
「カレンデュラ、どういうつもりだ?」
「ベリアス。ここにマグダ・レガリナのラフカとライゼンを連れてきなさい。それまでアガニケは人質よ」
「そうか。だが俺はラフカだのライゼンだのは知らんぞ」
「え」
「だから知らん」
「うそ、インプログレスはマグダ・レガリナのサブパーティでしょ。あんたマグダ・レガリナの補欠じゃないの?」
どうやらカレンデュラは勘違いをしていたようだ。アガニケがベリアスの言うことは本当だと言った。
「ベリアスとは私が勝手にパーティを組んで、その後にエミリオとジゼルにも入ってもらっただけなの。だから、マグダ・レガリナそのもとは関係がない。ラフカが店に来たのだって、モルガナ目当ての下心なのよ」
「こ、このグルグル、黙りなさい!だとして計画に変更はないわ。エミリオやジゼルに言ってそいつらを連れてくればいい話よ。ほら、とっとと行きなさい。じゃないとアガニケが死んじゃうよ」
「アガニケを殺す?お前に出来るのか?」
「で、出来る」
「まあいい。まずは理由を言え。理由次第では協力してやろう。なにしろ、ラフカだのなんだのは俺の知らん奴らだし、庇う理由もない」
カレンデュラとベリアスのやり取りに慌てたのはアガニケだ。
「ちょっとベリアス、何を言ってるのよ」
「だまんなさい!グルグル。いいわ、教えてあげる。ラフカとライゼン。こいつらこそ姉の仇。だからこいつらを殺す!」
「な、何を言っているの?何を根拠に……。あんた、どうかしているよ」
アガニケはかろうじてそう返した。
「だから連れてきて。そいつらの口からはっきり言わせるの。姉を殺したのが俺たちだって」
「あなたのお姉さんって、二人とどんな関係だったの?」
アガニケが胸中にくすぶる疑問を口にした。
「ライゼンと同じパーティ、そしてパーティは王宮の依頼を受けていたけど、その窓口が王宮のラフカ・パドーム。理解した?」
確かに思い当たる部分はある。
ロイヤルガードでもあるラフカは今もマグダ・レガリナに対する王家直属の依頼の窓口をしているし、その関係はラフカがパーティに加入していなかったころからの、マグダ・レガリナの前身ブレイブソード時代からのものだと聞いた。
「まさか……」
「何がまさかなのか知らないけど、姉の名はレガリナ。あんたたち残党の前身パーティのリーダー」
その言葉にアガニケは言葉を継げなかった。
「よし、いいだろう、カレンデュラ。見返り次第ではそいつらを首にして持ってきてやる」
空気を読まずにベリアスが言った。
「ふざけんな。補欠にどうにかできる相手じゃない。というかそれは私がやる。そうじゃなきゃ、意味がない。あんたはとっとと王都に戻って二人を連れて来るんだよ」
「お前なら出来るとでも?」
「自信があるから行動に移したんだ」
「分かった。お前に従おう。だが、その後ろの奴は誰だ?」
「え」
あっさり言葉に誘導されたのは、心当りでもあったか。カレンデュラが振り返った僅かの隙に、ベリアスは2体のゼノ・アルギエスを始末し、アガニケを奪還してしまったのだ。
「あ……」
「ははは。マヌケが。形勢逆転だな。ここまで見事にひっくり返ると、さすがに敵であっても、そのオツムの程度に同情心が湧くものだな。ま、同情されたところで、お前の小さめの脳みそがどうにかなるわけでもねえだろうが」
「き、汚ねえ……」
「はーはっは。嬉しいことを言ってくれる。いいぞ、遠慮せずもっと俺を褒め称えろ」
「ちょっと、あんた、もうやめなさいよ」
ベリアスの小脇に抱えられたアガニケがたしなめる。
悔し涙のカレンデュラ。高笑いのベリアス。
そして眉を顰めるグルグル巻きのアガニケ。




