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第77話 聖騎士

 嫌な夢を見た気がする、なのにその内容が思い出せない。まだ明け方前だ。

 今日って言ってたよね。しかもベリアスだけじゃなくてアガニケも行くらしいから万全だよね。

 あの二人が同時についているなら、A級パーティフルメンバーが同行するよりも安全性が高いと思う。

 なのに不安が胸中で少しずつ成長していく。


 カレンデュラ達は昨夜のうちには現地に入っているはずだ。今から向かって意味があるかは分からないが、飛行魔法を使えば、普通の移動よりずっと早く着く。昼前に到着することも可能だろう。

 モルガナは自室のドアを開けた。放射冷却で夜明け前の王都は凍えるような冷気に包まれている。


 スーと上空にモルガナの身体が浮かんでいき、そこから見ると山の端を朝日がピンク色に縁取っていた。

 夜明けが近い。モルガナは先を急いだ。


「へえ、そうですかあ。まあいいけど」

「あら、私たちじゃ不満?」

「アガニケさんはいいけど、そいつは?」


 三人の出発前にこんなやり取りがあったのだ。

「大丈夫なの?獣みたいな目をしてるけど」

 カレンデュラが警戒を露わにアガニケに言った。

「え、ええ。実は口は悪いけど、そんなに悪い男じゃないのよ」


 自分でも意外だった。まさかベリアスを擁護する日が来ようとは。というよりちょっと恥ずかしい。

「え、何で赤くなってんの?え、ちょっと……、キモいんですけど……」

「う……、あ……」

 ベリアスは一切口を開かない。

 アガニケだけがアタフタするのだった。


 三人が王都を発ったのは、昨日日が昇った後だ。現地到着時には陽が落ちているので、最初から野営前提だ。

 目的は冬に迷宮内でとれる根菜。深くまで潜る必要はない。

 第一階層で採取可能だ。


 途中でカレンデュラがよく分らない鳥の巣を見つけ、そこから卵を持ち出して料理にしてくれた。ちなみにその際に親鳥も仕留めて両方晩御飯になったのだ。

「何か……」

 スプーンを構えたままのアガニケが一言呟く。親鳥と卵、両方揃って皿の上……。

「何かってなに?可哀そうとか言いそうなの?」

 店で一緒にいるときはそのような気配は無かったが、こうしてみるとカレンデュラは意外に性格がきつそうだ。


「ここまで見てきたが、お前の動きには無駄がない。経験豊富の証しだ。パーティに入ってたのか、それとも単独か?」

 ベリアスが会話に割って入り、カレンデュラに聞いた。聞きはしたが、もう明白だ。戦闘力の有無までは見る機会がなかったが、冒険者としては素人ではない。


「お姉ちゃんに教わった。もういないけどね。冒険者登録だってしてあるんだよ。C級だけど」

 ちらっと見せてくれた冒険者カード。ジョブクラスにパラディンとあったようにアガニケには見えたがベリアスの次の言葉でそれを聞く機会を失った。

「迷宮とかモンスターとの戦闘で死んだのか?」

 ベリアスはずけずけと聞いた。アガニケが眉を顰めている。


「仲間を庇って、敵の攻撃に巻き込まれたみたい。断片的な情報しかないからそのくらいしか分からないんだよ。当時その現場にいた人間を、拷問してでも聞き出したいけどね」

「まるでその対象の目途が立っているかのような言い方だな?」

「ええ。そうよ」

 焚火の炎がメラメラと燃え、それをカレンデュラの瞳が映す。まるでその瞳の奥に、炎が燃えているかのようだ。

「知ってる人だったら、どうしよう。名前を聞いてもいいかな?」

 恐る恐るアガニケが聞いた。


「ふふふ、冗談よ、本気にしないで」

 名前の代わりに笑顔とその言葉が返ってきた。でも。多分、彼女は冗談を言っていない。

「もうすぐ宮廷プリースト、プーステス選抜試験だね。出てみようかな」

 話題を変えた彼女が呑気そうに言った。


 合格者はたったの一名。別名「聖女試験」。なぜかと言えば女性しか合格した実績がないからだ。そして合格者は聖女と呼ばれる。パラディンならプリーストの祈祷式魔法も使えるだろう。


 昼前だ。予定通り現地に到着した。結構魔力を使ってしまったのが気になるが、そこは気にしても仕方がない。普通に馬に乗っていたのではこの時間には辿り着いていないのだ。モルガナはそう自分に言い聞かせた。


 根菜の採取。第一階層で事が足りる。つまり短時間で任務完了だ。野営の痕跡と、残された馬車。御者はベリアスが勤めたのだろう。人はいない。


 つまり状況はこうだ。三人は迷宮に入り、そして戻ってきていない。第一階層で根菜を採取する。たったそれだけのことなのに、だ。


 昼前の到着にこだわったのには意味がある。第一階層で事足りる以上、昼には地上に戻って昼食をとるはずだからだ。

 或いは昼食をとってから迷宮に入る。しかし彼らは既に迷宮に入ったようだし、戻ってくる気配もない。進むか、もう少し待つか?


 モルガナは枯枝を拾い。迷宮の入口に縦にして立てた。石を集めてその上から石の隙間に差し込むことで倒れないようにしてだ。そして親指を掌で握るようにして詠唱する。

「行く先を占わん。我が向かう先を示せ」

 民間祈祷式魔法だ。効力は証明されていない。


 迷った挙句そんな魔法に頼った。すると石を敷いて立てたはずの枯枝が、パタリと迷宮の入り口に向かって倒れた。

 一説には本当はどうしたいか、ただ術者自身の本音を可視化するだけの魔法とも言われる。


 モルガナは先に進むことを選んだ。


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