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第76話 あんな奴ら

「モルガナさん、忙しそうだね」

「そりゃね。カレンが手伝ってくれたらいいのに」

 店はジゼルとエミリオがいない日でも大繁盛だ。美貌のジゼルは看板娘だが、彼女ほどの妖艶さを備えていないとはいえ、明るく元気なモルガナも多くの固定客を掴んでいる。

 第一モルガナの料理の腕は絶品だ。スイーツだってエミリオ不在でモルガナしかいないという条件でしか出ないメニュー(逆のパターンもあるが)もある。

 それ目当てで来る客もいるのだ。


「え、わたし手伝っていいの?手伝いたーい」

「え、料理できるの?」

「野営メシだけどね」

 そう言うので、客が引けた時間に腕を見せてもらった。


 カレンデュラはキノコに塩をまぶして火であぶり、その間に大胆に指でつぶしたトマトの水煮を作ってそこにオリーブオイルと根菜をカットして加え、煮詰めていく。

 焼き目香ばしいホクホクのキノコを意図して雑にカットした。それを皿に盛りつけると、その周辺に先ほどの根菜ソースをスプーンでちりばめた。

「キャー、美味しそう」

 モルガナはジュルッと舌をなめずった。シンプルで値段も安く、健康的でしかし食欲をそそる。店のコンセプトにも沿っている。こうしてリゼの店は新たな店員を得たのだった。


「ねえ、野営メシて言ってたけど、よく野営するの?」

「お姉ちゃんが生きてた頃にはよく二人でね」

 とういことは、その姉は今……。


「そうなんだ。あたしの質問がいやな思いをさせてしまってたら、ごめんね」

「はは、まさか。大丈夫だよ」


「あたしも何度かは野営の経験あるけど、やっぱりちょっと非日常感があるのに、日常の一部というか、何か特別だよね」

「わかる。お姉ちゃん、冒険者だったんだ。それでいろんなとこに連れて行ってくれたんだよ」

「エミリオ達みたいだね」

「あんなやつらと一緒にしないで」


 え……?

 聞き違いだろうか。しかしカレンデュラが話題を変えたので、確認の機会は失われてしまったのだった。


 日差しの角度とドアの前に並ぶ客を見てエプロン姿のカレンデュラが店を開けた。夕の部のオープン時間だ。

「あれ?カレンちゃん。店員になったの?」

 常連客が話しかけている。


「そ、今日から、というか、今から」

「そっかあ、じゃあ今日は別の店にしようかな」

「えー、ひどーい」

 店は今日も、オープンの瞬間からもう騒がしい。


「モルガナ様、お呼びで?」

 膝をつく魔王の側近。

「ええ、お願いがあります」

 闇の中に魔王の静かな声が響く。

「なんなりと」

 側近は内容の確認などはしない。やれと言われたことをやり遂げる。それだけのことだ。


「カレンが迷宮に食材探しに行くというの。誰に護衛を頼むか迷ったんだけど、ちょっと嫌な予感がするからあんた、やってくれない?」

 なるほど。魔王の口ぶりから最も信頼をおけるものに頼みたい、というわけか。

 だが、待てよ……。

「はて?そのカレンとやらは……」

 やはり確認は大事だ。初めて聞く名前だ。


 ベリアスは考えた。人間のメスガキのお守り。つまりはそういうことだ。

 ちょっとでも厳しいことを言えばすぐに泣き出すに違いない。迷宮でそれをやられると始末がつかなくなる。正直言って自分向きの仕事とは言えない。もしかして魔王は人選ミスをしたのではなかろうか。しかし、それは口に出せないし、思ってもいけないことだ。不敬だ。


 それでベリアスは考えた。アガニケを巻き込もう。人間に頼み事などプライドが許さないところだが、やつなら比較的頼みやすい。

「えー、わたしい?ほかにいないの?」

「いない」

「へー。それで、なんで私に?」

「……。だから、他にツテもない」

「ほお……。ツテ?」

 ツテは伝手だ。手蔓てづる、つまり蔓が絡まる様子を差す言葉の転化、または伝えの略が由来とされる。要はコネクトだ。こいつは自分との間にコネクトがある。そしてそれはこいつにとって他の人間との間にないものらしい。

 そう言ったのだ。

 モルガナとの関係は主従なのでまた違うのであろう。


「あーそう?そうなんだ。なら、いいよー」

「たすかる」

「貸しね」

 受け答えに合理性の欠如が滲んではいるものの、大体二つ返事で受けてくれた感じだ。そこは素直に評価したい。

「お前程度でも役に立つことがあるものだな」

「え?」


 信じられないものを見た時の表情になったアガニケの目にみるみる涙が溜まって行き、ついに号泣となって爆ぜた。

 子供たちが遠目にこちらを指さして笑っている。母親らしき人間がその子供に拳骨をおとして引きずっていくのが見えた。

 冬晴れの王都に注ぐ日差しが明るい。


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