第75話 アガニケとその仲間たち
赤煌がまた未踏破迷宮を落とした。その報せにギルドが湧きかえる。マグダ・レガリナの活動が休止している今、最強と噂されるのは、王都の赤煌、そしてニミッツガルドの竜飛とガントレット。この3つのA級パーティだ。
そして未踏破迷宮連続制覇の赤煌は頭一つ抜けた存在なのだが、もう一つ王都に話題のパーティがいる。
破竹の勢いで勢力図を書き換える存在。それがアガニケの新生インプログレスだ。
ハンターフェスの優勝パーティは新メンバーを加え、高難度ミッションを次々とクリアしていた。
「エミリオさんたちは、迷宮ですか?」
「森林でモンスター討伐らしいよ」
迷宮探索が得意な赤煌に対し、モンスター討伐任務成功率100%のインプログレス。二つのパーティにはそれぞれ特徴があった。
ジゼルはモルガナが店に戻ってきた後も店員として残ってくれた。エミリオ、モルガナ、ジゼルでシフトを組んで回すので、自由に使える時間が増えたのだが、そのエミリオとジゼルがモルガナの頼みでインプログレスに協力しているのだ。
なぜ、協力しているかと言えば……。
「ねえ、アガニケ。よく一人で来るよね?」
「それがなにか?」
店に一人で来たアガニケへのエミリオの余計なひと言が発端だった。
「ベリアスと一緒じゃないの?」
「な、なんで私があいつと一緒にいなきゃいけないのよ!」
「だってパーティメンバー……」
「それはもう終わったの!」
アガニケの剣幕にのけぞるエミリオの袖をモルガナが引いた。厨房の奥に引っ張っていかれたエミリオにモルガナが言った。
「あの二人、パーティ活動がないのが駄目なんじゃない?」
「ふむふむ」
ふむふむと言ったのはジゼル。
なぜか二人の会話に参加して、理解しているのか、していないのか分からないまま頷いているのがジゼルだ。
「ジゼル、何の話しか分かってる?」
モルガナの質問にジゼルは頷いた。
「アガニケさんとベリアスさんの関係でしょ?フェスに向かう馬車で一緒だったけど、妙な緊張があったからね。多分だけど、あの距離感は縮まらないね」
なるほど、分かって無さそうに見えて本質を突いている。さすがはソウルイーターだ。
「ジゼルはどうしたらいいと思う?」
エミリオよりはジゼルの方が大分頼りになりそうだ。
「もちろん二人の共有する時間が増えれば増えるほど距離は確実に近くなる。その共通点が冒険者パーティの活動だけってのはネックだよね。ま、でもそこからだよね」
「ふーむ。よし、あんたたち、ひと肌脱ぎない」
「なして?」
「アガニケは友達でしょ?」
そうなのだろうか。そうなら嬉しいな。ジゼルの表情が緩む。彼女の正体は魔物だ。なのに彼女は友達という感覚を理解し始めている。
そうだろうか。そうは思えないな。エミリオの表情が硬い。過去エミリオの方から何度も歩み寄り、そのたびに嘲笑を受けてきた気がする。
あの女は魔法使いこそこの世でもっとも価値のある存在であると信じ、魔法を使えぬものを見下しているのだ。
「エミリオ、聞いてる?」
「き、聞いてるよ」
そうだ、あの女に人間らしい気持を取り戻させてやるのだ。なぜか。その方が彼女にとって幸福だからだ。エミリオの信念は揺るぎない。たまに忘れるだけで揺るぎないのだ。
「オーケー。キミの言う通りだ。ボクは協力するよ」
「わ、私だって」
というわけでインプログレスは新生インプログレスとして再出発したのだ。
で、強いか弱いかで言うと、ものすごく強かった。
前衛ベリアスは他のメンバーの協力など微塵も必要としない真の強者。なのに周囲が良く見えて、連携を阻害しない。
1.5列目はエミリオ。最前列から最後尾までカバーする視野の広いユーティリティだ。プリーステスのジゼルが中衛、そして後衛のウィザードがリーダー・アガニケ。
マグダ・レガリナと同等か、それ以上。アガニケはその実感を得ていた。いや、同等以上とは思いたくない心理抑圧が必要以上の過小評価をもたらしているのかもしれなかった。なぜならマグダ・レガリナは彼女のホームパーティであり、かつアガニケのアイデンティティの根源だからだ。
ジゼルもまたアガニケとは違った観点でこのパーティの強さを評価していた。まずリーダーとエースの関係性が非常にいい。ここが絶対的な特徴。当初思っていたのと大違いなのだ。確かに二人の間には微妙な距離感がある。
しかしそれがすごくいい。
エースであるベリアスはリーダー・アガニケを彼女が泣くほどヒドイ表現で罵ることがある反面、リーダーの判断は必ず尊重するし、アドバイスを求められれば適切な回答を用意している。
というか、アガニケに「だけ」、とても優しい。
エースがリーダーをこまやかな気遣いで支えるのは、逆のほうがいい気もするが、このパーティでは大いにアリだ。
なにしろマグダ・レガリナではエースの座を他人に譲ろうとしないエミリオが、ベリアスのアガニケへの対応を見て、エースの座を主張しなくなったのだ。二人の関係性は、パーティ全体に好影響をもたらしている。
向こうから何やら泣き声が聞こえてくる。みやると、またベリアスがデリカシーに欠けた発言をしたのだろう。アガニケが声を上げて泣いていた。もちろんアガニケを罵る姿こそベリアスの本質で、その反面アガニケに優しいのはモルガナの言いつけを守っているだけに過ぎないのだが、そのことをジゼルは、いやそれは全員が知らないことだ。




