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第66話 ドアマットにされるんですか?

 つまりはヴェロニカの代わりにモルガナが侍女の見習い試験を受けてくれというのだ。試験を受けるだけでいいという。受験者が少ない、というのが駄目だからだ。

 受験者が少ないと、まるで侍女になりたがるものが少ないような印象を周囲に与えるではないか。だから駄目だ。


「ええ~、やだよお~」

「試験期間だけでいいんだって。そうそう、見返りを用意させて頂きました。あ、リーヴ様が用意するんだけどね、でもすごいよ、なんと!『王国迷宮の食材とその神秘』だよ!」

 あー……。エミリオを買収したやつね。料理に興味があるってことくらいはリサーチ済みか。でもだんだん怒りが湧いてきた。

「いいよ。やってあげる。リーヴの奴が何を企んでいるのか、興味が湧いてきた」

「へ?リーヴの奴って……」


 王国旗が風にはためく王宮。青字に白はプレセペの星々の紋章。王家の象徴だ。侍女見習い試験を受けるのは10名。9では体裁が悪いというよく分らない理由で平民のモルガナがリーヴの推薦で選ばれたのだ。モルガナ以外は貴族令嬢だ。


 試験はかなり厳しいが、簡単に不合格にもしない。貴族の家名に傷がつくし、令嬢の将来にも大きな影響が出るからだ。だから、最低でも厳しく鍛えることで、使える見込みがありそうな令嬢しか試験を受けることはできない。

 つまりはこの10名に選ばれた時点で、合格かまたは、厳しい教育訓練課程を経ての条件付き合格、のいずれかなのだ。


 もっとも、その条件をモルガナが満たしているかはかなり疑問だ。無理だろう、という意味ではない。リサーチが不十分だ。

 今回の筆頭は公爵家のレベッカ嬢だろう。王子の妃の座を狙っている。そう言われる美女だ。


 羨望の眼差しをレベッカが受ける一方で、平民のモルガナに至っては白い目で見られている。

 ち、ちくしょう……、なして、こんなことに……。

 自分で選んだ道だからだ。

 その様子に気づいたらしく、リーヴが集まった10人にわざとらしく言った。


「いずれ劣らぬ名家のご令嬢方だが、モルガナ嬢だけは平民の出だ」

「ひい!」

 ビクッとモルガナが震えた。

「だが、忘れないでほしい。この場において重視されるのは宮廷における礼儀や古典の知識、教養であってそれ以外のものを安易に持ち込むことは許されない。まして、モルガナ嬢は宮廷推薦でこの場にいる。名家出身であるキミたちを差し置いてだ。忘れるな。モルガナ嬢の後見人はこの私だ」


 第一王子の右腕であり、将来の宰相候補と評判高い現家令補佐のリーヴがそう宣言したので貴族令嬢たちは一様に表情を引き攣らせた。

 あ、あれ?辱められるのかと思ったら、案外扱いが悪くない?

 何となく安堵するモルガナだった。


 リーヴの宣言に苦々しい表情を見せたのは現役の侍女頭のアガサだ。平民が混じっていて、その平民がリーヴに贔屓されたから、ではない。

 貴賤を問わず、この場の公平は保たれるべき。

 なのにリーヴ自らそれを破ったからだ。


「リーヴ様、モルガナがいわれなき差別を受ける可能性があり、その芽を事前に摘んだ先見の明は尊重申し上げます。ですが、かえって一人を優遇するようなことにでもなれば本末転倒で御座います。どうか、後はわたくしめにお任せを」

 アガサはリーヴ相手でも釘をさすことを忘れなかった。そして10人に向かって改めて宣言した。


「あなたたちの出自は一切考慮しません。この場においては誰もがただの侍女見習い。あなたたちの中には将来の王室の一員、或いは王の祐筆、宮殿の支配人。そうなる者も含まれているかもしれません。ですが、その日のために今日を無駄にしないように。心して掛かりなさい」

「はい!」

 モルガナも令嬢たちに混じって堂々と大きな声で返事をした。


 その様子に頷くリーヴ。リーヴは知っている。モルガナがハンターフェス会場に出場者として出ていたことを。役には立たなかったようだが、パーティにはかなりの腕前がいたらしく、最下層まで到達している。

 欲しい……。

 そう思ったのは、その時が二度目だ。戦力的にゼロだとしても何もなしに最下層には辿り着けない。きっと只者ではない。


「フフ……」

 その様子を含み笑いをしながら見ているのが王宮近衛騎士、通称ロイヤルガードの一員、ラフカ・パドームだ。彼は警備ためにこの場にいたが、10人の解散後、彼はすぐにモルガナに話しかける。


「やあ、モルガナ嬢。ボクは近衛騎士ロイヤルガードのラフカ。分からないとこがあったら何でも聞いて。できるだけのことはするよ」

 おお……

 これはイケメン。長身で深い青の瞳、その瞳に掛かる黒髪の前髪。だが初めて見る顔だ。黒い魔女としても宮廷で見たことがない。


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