第65話 王宮が待っている
「でもあなた、黒い魔女に会ったこと無いでしょ?」
モルガナには黒い魔女として活動していた頃に、ジゼルと会った記憶がない。その部分の記憶が失われたままというだけなのか、それとも本当に会ったことがないのか。
「会ったことはない、とうより会わせてもらえませんでした」
「会わせてもらえない?」
「そう。黒い魔女はウィステリア様の下僕。ウィステリア様の許可なしには彼女に会えません」
「下僕なの?でも、さっき罵詈雑言の雨嵐で彼女を罵っていたじゃない」
なら同僚に近い関係だ。いや問題はそこじゃない。対等な関係ではなかったのか?
だとしてそれは意外ではあるが、白い魔女と話した記憶もないのだから否定する材料もない。
「ウィステリア様からそう言って回るように言われてたから」
え、そうなの……!?
正直いって白い魔女に嫌われるようなことをした記憶がない。白い魔女にあった記憶すらないのだから。だが魔法で若返った時に記憶もだいぶ失った。だから都合の悪い部分は忘れているだけかもしれないとも思っている。だが、白い魔女が流布した風説だという可能性も出てきた。
だが下僕ならそんなことする必要がないのでは?
モルガナがそう疑問をぶつけるが、その辺の理由まではジゼルも知らないという。
「知らないけど今分かったこともあります。あなた、黒い魔女の従者ね?」
「そ、それは……!」
イエスと言えばウソになる。別にウソをついてもいいが、ウソをきっかけにこの話を深堀されても困る。ノーと言えば、ではお前は何者となる。
驚愕の表情だけ作って、後は勝手に解釈してもらうのが一番いい。
「ふふん。顔に出てますよ。ま、似た者同士ってとこですね」
そしてジゼルは勝手に解釈してくれた。
その機を捉え、すかさずモルガナは話題を転換した。
「でもあんたが魔女に連れ去られて魔法生物になったのっていつの話?」
「35年くらい前です」
そう。認識は一致している。確かオルネドアが60代の頃の話と言ってたから、今はもう100歳近いのか……。いや、待てよ。大事なことをスルーするところだった。
「あんたって、そんな年だったの?せいぜい二十歳くらいにしか見えないんだけど」
「ああ~。そもそもの寿命が人間とは倍くらい違いますから、見た目も半分くらいなのでは?」
ソウルイーターは人間の倍の寿命があるのだそうだ。それで20歳なら人間の10歳相当、40歳なら人間の20歳相当の見た目。
なるほど、そうなのか。
良く考えたらどうでもいいことなので、モルガナは適当に相槌を打っておいた。
夕飯は持ってきたキノコを焼き燻製肉と共に食べた。キノコは水分が出てきて少しシナっとしたら焼き上がりだ。塩少々にスダチの汁で頂く。
「お、おいひい~」
ほっぺたを膨らせたまま、ジゼルが脚をジタバタさせている。
「いやあ、いい焼き加減だ。余計なことをしない味付けがまたいい」
年配の御者も手放しで褒めてくれる。明日は早い時間に目的地に辿り着くだろう。
「こうしても、美味しいよ」
焼いたキノコをオリーブオイルに浸し、乾パンに乗せてあげるとジゼルも御者も喜んで食べていた。
「これが魔力溜り……」
それは川のほとりに黒い渦が巻くように浮いていた。確かに強い魔力だ。だがこれを再利用する技術があるのだろうか。モルガナなら何とかコントロール出来る。それ以下の技量では扱えないはずだ。
「ふふふ。これですよ」
「う、うろこ……?」
手のひら大のうろこだ。
「魔竜の鱗です」
ジゼルはそれをスプーンのように使い、魔力だまりを小分けにしていく。小分けになった魔力溜りはそれぞれ黒い渦の形状で浮いた状態を維持している。
「この一つを例えば爆発の魔法に使うとします。すると連鎖して全ての小さな魔力溜りが爆発するんです」
「やっていい?」
「どうぞ」
「闇王の力よ、我を助けん、身体強化!」
バフ魔法だ。連鎖してバフの重ね掛けが成立した。
「おお、これは凄い……!」
「でしょお~。もっと有効な使い方、わかりますう?」
!?
分かった。この連鎖性質、もしかしたら魔力溜りの場所をまたいで作用させることが出来るのかもしれない。
「分からない。興味もないわ。人間が使える代物じゃない」
ウソをついた。もしジゼルがこの件に、今後積極的に関わるのであれば、いずれ止めなければならないだろう。そして今現在のジゼルの目的がこの魔力溜りにあるのもまた、明白なのだ。今はまだ対立したくない。彼女がモルガナを仲間に引き込もうとしてる、それもまた明白だ。
王都に戻ると待っていたのはヴェロニカだ。
「ちょっとお、どこ行ってたの?たすけてよお、モルガナ~」
「な、ななな、なに?」
顛末はこうだ。
ヴェロニカはモルガナの不在時に宮廷のリーヴに呼び出された。
「侍女見習いの枠が空いてしまい、枠を埋めねば王室の恥になる。ヴェロニカ嬢、悪いが見習い試験だけでも受けてくれないか?」
リーヴにそう言われてヴェロニカは狼狽した。剣の試験なら受けもいい。狼狽の挙句、そう返答してしまったのだ。
「それは困る。そうだ…、キミの使用人……かな?晩餐会に連れてきていたホワイトグレージュの髪に藍色のドレスの娘、コレクションのナイフも見事だった。彼女はどうだ?聞いてみてくれ」
リーヴはそう一方的に頼みごとをして去ったのだという。




