第七話『信じる者は救われる』
『グゴォォォォォォォッッ!!!!』
旧校舎の朽ちかけた木造の床を叩き割り、現れたのは黒い霧と不気味な赤目、無数の触手を蠢かせた超巨大な【大悪魔】だった。
教室の半分を丸々呑み込むほどの圧倒的な威容。空気全体が重くなり、呼吸することすら苦しくなるような強烈な圧迫感が、あたしたち三人になだれ込んでくる。
「な……なにこれ……!? トカゲ……? いや、悪魔……!? マジで言ってる……!?」
スマホを片手に動画を撮っていたミリが、腰を抜かして床にヘタリ込んだ。顔からは完全に血の気が引いている。当たり前だ、普通の女子高生が日常で遭遇していい存在じゃない。
「ミリさん、下がってください……! 主の名において、退けぇぇぇいっ!」
マリアが前に飛び出し、胸のロザリオを掲げて聖なる障壁を展開した。
だが——。
バシィィィィンッ!!
「きゃあぁぁぁっ!?」
大悪魔の太い触手が一閃しただけで、マリアの障壁はガラスのように木端微塵に粉砕された。彼女の華奢な体が吹き飛ばされ、激しく壁に叩きつけられる。
「マリアちゃん!」「マリアぁぁっ♡!」
あたしとミリの声が重なる。マリアは苦しそうに胸を押さえ、膝をついた。額から細い血が伝い落ちる。
「くっ……強い……! この大悪魔、学校中に溜まった数百人分の不満や嫉妬……負の感情を吸い上げて完全に実体化しておりますわ……! 私の霊力では……歯が立ちません……!」
『キシャァァァァッ!!』
大悪魔が勝ち誇ったように叫び、無数の触手を振り上げた。標的は、腰を抜かして動けないミリと、ダメージを負ったマリアだ。
「やめろぉぉぉぉぉっ♡♡♡!」
あたしはガクガクと震える足に全身の力を込め、二人の前に立ち塞がった。
だが、今のあたしの股間は、女子トイレの奥から溢れ出る最後のパーツ『聖水(神の力)』の超至近距離反応により、過去最大の爆発的振動を起こしている。
ブッッッブッッッッブブブブブブブブブブッッ!!!!!!
「ひぅんっっっ♡♡! あぁっ♡♡♡! 揺れっ……揺れが激しすぎて前が見えないんだけどぉぉっ♡♡♡♡!」
涙目で両手を広げ、生まれたての仔鹿みたいに腰をガクガクと激しく揺らしながら二人を庇うあたし。
そんなあたしの脳内に、神様(CV杉田)の低く重厚な声が重々しく響いた。
『由佳……逃げろ。今のままでは勝てん。お前のその華奢な肉体では、俺様の神力の1割も引き出せていないのだ。あの化け物の前では踏み潰されるだけだぞ』
(逃げる……!? 逃げられるわけないでしょバカぁぁっ♡♡♡! あたしのマブダチのミリも、あたしのこと信じてくれてる(勘違いだけど)マリアもここにいるんだよ!? あたしだけ逃げてたまるかぁぁっ♡♡♡♡!)
『ふむ……友達を守るために死ぬか。相変わらずお前は、呆れるほどに真っ直ぐな人間だな』
(死なねーよバカ! 勝つの! あたしたち全員で生きて帰って、放課後にタピるの!! そのための神様でしょ!? 股間に居座っといて何の役にも立たないとか許さないからねっ♡♡♡♡♡!)
あたしの叫びを聞き、脳内の神様は一瞬だけ絶句した。
そして——フッ、と低く満足気な笑いを漏らした。
『……くはは! くははははは! 良い度胸だ、鈴木由佳! 聖書にも書いてあるだろう? 【信じる者は救われる】とな!!』
(また格言かよバカぁぁぁっ♡♡♡! でも今の格言は……嫌いじゃないよっ♡♡♡♡!)
『良かろう! お前のその覚悟、受け取った! これより俺様とお前の精神および肉体を極限まで同期させる! 【完全同調】だ! ただし……お前の精神と身体に、尋常ではない負荷と快楽と恥ずかしさが押し寄せるぞ! 耐えられるか!?』
(耐えてやるわよバカぁぁぁっ♡♡♡♡♡! 早くやりなさいよぉぉっ♡♡♡♡♡♡!)
あたしが腹の底から叫んだ、その瞬間。
ズドンッッッ!!!!
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっっっっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!??!!」
全身の血液が沸騰するような、暴風のような神気が股間から全身へと駆け巡った!
視界が金色に染まる。全身の毛穴という毛穴から黄金のオーラが噴き出し、あたしの着崩した制服のスカートが強烈な衝撃波でフワリと捲り上がった。
「ゆ、由佳……!? なになに!? 由佳の股間が超光ってるんだけど!?」
腰を抜かしていたミリが、目を見開いて叫ぶ。
「あぁ……なんという……なんという神々しさ……っ! 聖女様が……神と……おひとつになられた……っ!」
マリアが涙を流して両手を組み、歓喜の祈りを捧げる。
あたしの体はふわりと空中に数センチ浮き上がり、股間の神の御神体は、光り輝く『聖なる黄金の剣(物理)』のような絶対的な存在感を放っていた。
頭の中に、神様の声があたしの声と完全に重なって響き渡る。
『『我が名は神! そして鈴木由佳! 全てを討ち払う聖なる威光とならん!!』』
『キ、キシャァァァァァッッ!??!』
あまりの圧倒的な神気の暴風に、巨大な大悪魔が恐怖で後退りをした。
あたしは黄金の光を全身に纏い、涙目になりながらも、大悪魔に向かって力強く拳(と股間)を構えた。
いよいよ決戦。あたしと神様の、命と股間をかけたラストバトルが始まる——!




