第六話『狭き門から入れ』
「……ん? なんか、軽くなった……?」
夕陽が差し込む放課後の教室。
あたしは床にへたり込んだまま、自分の股間をそっと触ってみた。
ついさっきまであたしを悶絶させていた、あの工事現場の削岩機レベルの猛烈な振動が、嘘みたいに収まっていたのだ。
第一の宝玉(黄金の金玉)があたしの足元に触れ、股間光線を放って下級悪霊を撃破した瞬間、あの黄金のブツは光の粒子となってあたしの股間へ吸い込まれて消えた。
『ふはははは! 素晴らしい! 第一の宝玉が本来の場所へと還ったぞ! 見よ由佳、俺様の御神体のこの勇姿を!』
脳内に響き渡る、あの重厚で無駄にいい声(CV杉田)。
あたしは青ざめながら、恐る恐るスカートの裾を持ち上げて下着越しに確認した。
「……え? 待って……なんか大きくなってない!?」
「はい? 聖女様、何が大きくなったのですか?」
あたしの目の前で恍惚の表情を浮かべ、膝をついて拝んでいたシスター・マリアが、首をかしげてあたしの股間を覗き込んできた。
「見るな見るな見るなぁぁぁっ♡!」
あたしは悲鳴を上げてスカートを必死で押さえた。
そう、第一の宝玉を吸収したことで神様のパワーが戻り、あたしの股間に居座る『神の御神体』は、以前のただの突起から、あからさまに存在感を主張するアレへとビルドアップしていたのだ。
しかも、第一の宝玉がセットされたことで、股間からは常に『低音の規則正しい振動(常時バイブモード)』が響いている。
ブルル……ブルル……ブルル……
「んっ♡……あぁっ♡……これ、常時この感じなのぉっ♡♡……!?」
あたしは壁に手をつき、涙目で腰を震わせた。
削岩機レベルよりはマシだが、常に弱〜中モードのマッサージガンを股間に押し当てられているような状態だ。立っているだけで腰が砕けそうになる。
『当たり前だ! 第一の宝玉を取り込んだことで、俺様の神気とレーダーの感度が劇的に跳ね上がったのだ!』
(自慢してないでこのブブブってやつ止めてよバカぁぁぁっ♡♡♡! てか次のパーツの場所は分かったわけぇっ♡♡♡♡!)
『うむ! 集中しろ由佳! 感度が上がった今なら、学校全体のどこに最後のパーツが眠っているか感知できるぞ!』
神様が威厳たっぷりに宣うと同時に、股間の振動パターンがキュイーンと高音に変化した。神様がレーダーの広域サーチを行っているのが直接股間に伝わってくる。
ブルル……ブブブッ……ビビビビッ!
『む……捉えたぞ! 校舎の最果て……狭く、暗く、湿り気のある『不浄のエリア』だ!』
「不浄のエリアぁっ♡!? どこよそれ探す範囲広すぎでしょっ♡♡!」
『うむ! 聖書にも書いてあるだろう? 【狭き門から入れ】とな! あの古く、狭く、立ち入り禁止となっている『旧校舎』……その奥にあるボロい女子トイレの周辺から強力な神気を感じるぞ!』
(旧校舎の女子トイレぇぇぇっ♡♡!? あそこ、幽霊が出るって噂の超ヤバい心霊スポットじゃん!)
あたしが頭を抱えていると、「由佳〜? まだ教室にいたの?」とマブダチのミリが戻ってきた。さらに隣には、すっかり『股間の聖女様』の信者と化したシスター・マリアが目を輝かせて立っている。
「ミリ……? なんで戻ってきたの……っ♡?」
「いや、マリアちゃんが『これから鈴木さんと聖なる探訪に向かいます』とか怪しいLINE送ってきたからさ。気になって見に来たんだけど……何? 噂の旧校舎にでも行くの?」
「違いますミリさん! これは聖女様の聖なる儀式ですわ!」
「聖女様って何!? てかミリ、来ちゃダメだってぇぇっ♡♡♡!」
あたしの制止も虚しく、「面白そうじゃん! アタシも行く〜!」とノリノリのミリ。こうして、常時バイブ状態のあたし、マブダチのミリ、狂信者シスターのマリアという最悪の3人組で、探知した旧校舎へと潜入することになってしまった。
キィィィィ……と嫌な音を立てて、旧校舎の重い扉が開く。
昼間でも暗い木造の廊下は、夜になると完全にホラー映画の舞台だ。足元を踏みしめるたびにギシギシと床が鳴る。
「うわ、マジで雰囲気あるじゃん。映えそう」とスマホで動画を撮るミリ。
「この不浄な気配……悪霊の巣窟となっておりますわね」とロザリオを構えるマリア。
そして——。
ブブブブブブブブッ!!!!!!
「ひゃうんっっっっっ♡♡♡♡♡♡♡!!??!!」
旧校舎の奥へ進み、レーダーが示した女子トイレに近づくにつれて、あたしの股間のバイブは『常時バイブ』から『特大掘削機モード』へと牙を剥いた。
「んぁっ♡……あぁっ♡♡……ちょっと待ってふたりともぉっ♡♡♡! 揺れが……揺れが激しすぎて歩けないぃぃっ♡♡♡♡!」
「由佳、さっきからお腹痛い痛いってずっと股間押さえてガクガク震えてるけど大丈夫? 漏れそうならこの辺のボロトイレでしなよ?」
「そういう問題じゃなぁぁぁいっ♡♡♡♡♡!」
壁に両手をつき、生まれたての仔鹿のように膝をガクガクと激しく震わせながら前進するあたし。
レーダーの反応がピークに達し、旧校舎の最奥にある古い女子トイレの前に辿り着いた、まさにその瞬間だった。
ズズズズズズズ……ッ!
旧校舎全体が激しく揺れ、床からどろりとした漆黒のモヤが立ち込めた。
「……来ますわ! 聖女様! この旧校舎の闇の底に眠る、本物の邪悪が……!」
マリアが叫び、ミリが「え、ヤバいこれ本物の怪奇現象!?」と青ざめる。
そう、神様の最後のパーツ『聖水』が放つ強大な波動に引き寄せられて、学校中の負の感情を吸い上げた【大悪魔】が、いま目の前で目覚めようとしていたのだった——!




