第五話『光あれ』
「はい、じゃあ今日のホームルームはここまで。あ、そうだ。今日からうちのクラスに転校生が来てるから、みんな仲良くするんだぞー」
担任のダルそうな声とともに、教室の扉がガラリと開いた。
入ってきたのは、ついさっき廊下であたしと(そしてあたしの股間と)衝撃的な遭遇を果たした、あのシスター服の美少女——マリアだった。
銀髪を揺らし、清楚な制服の上にヴェールを羽織った彼女が黒板の前に立つと、クラスの男子たちが「うおっ、超絶美少女じゃん!」「シスター? マジで?」と一斉にどよめいた。
「初めまして、シスター・マリアと申します。神の導きにより、本日より皆様と共に学ぶこととなりました。どうぞよろしくお願いいたします」
可憐に微笑みながら深々と一礼するマリア。教室中から大きな拍手が巻き起こる。
だが、あたしだけは冷や汗ダラダラでデスクの下に身を隠すように体を丸めていた。
(ヤバい……ヤバいヤバい! なんでホントにうちのクラスに来てんのよ!?)
「マリアさんの席は……んーと、鈴木の隣の席な」
担任が指さした瞬間、マリアの青い瞳がピキーンと光った。
彼女は優雅な足取りであたしの席へと近づいてくると、隣の机に鞄を置き、あたしの顔を——正確にはあたしのスカートの裾を——じっと見つめて微笑んだ。
「改めてよろしくお願いしますね、鈴木さん。ふふっ……近くで見ると、やはりその股間から放たれる『神聖で猥雑な波動』……素晴らしいものがありますわ」
「声が大きい声がぁぁぁっ♡♡♡! 隣の席だからってそんな大音量で『股間』とか言わないでぇっ♡♡♡♡!」
あたしは顔を真っ赤にして小声で叫んだ。
幸い、周囲の男子たちは「転校生、もう鈴木と仲良くなってんの?」「ギャルとシスターとか正反対じゃん」なんて呑気に噂しているだけだったが、あたしの心臓はバックバクだ。
何より恐ろしいのは、マリアの制服のポケットの中に、あの【黄金の木彫りの金玉】が収められていることだ。
おかげで、あたしの股間の『神の御神体』は、隣の席に宝玉があるという、かつてない至近距離に反応し、授業中もずっと『削岩機レベル』の猛烈な振動を継続していた。
ブブブブブブブブッ!!!!!!!!
「んっ♡……あぁっ♡♡……ちょっと待ってぇ……っ♡♡♡!」
振動が凄すぎて、あたしの机や椅子までガタガタと音を立てて震えだす。あたしは必死に教科書を立てて顔を隠し、全身に力を込めて椅子からずり落ちないように耐えた。ノートを取るなんて100%無理だ。ペンを持った手が震えて、ノートには怪奇現象みたいなうねうねした線しか書けない。
脳内の居候(CV杉田)は、この超振動の中でも優雅に腕を組んでのたまう。
『フッ……素晴らしい! 宝玉との距離が常にゼロに近いこの状態! お前の股間と宝玉が常に共鳴し、かつてない神気が満ち溢れているぞ! 感謝するがいい由佳!』
(感謝できるかバカぁぁぁっ♡♡♡! 授業集中できるどころか、あたしの精神が空中分解しちゃうってぇぇぇっ♡♡♡♡!)
『焦るな。あの小娘は悪霊退散の修道女なのだろう? 滅多な行動を起こせば、俺様の宝玉が『不浄の物』として浄化(物理破壊)されかねん。授業中は耐えろ、慎重機会を窺うのだ』
(耐えられるわけなぁぁぁく♡♡♡! ないでしょぉぉっ♡♡♡♡! 先生! あたしを教室から出してぇぇっ♡♡♡♡♡!)
あたしが脳内で神様と不毛なやり取りをしている間も、隣の席からの視線が痛い。
マリアは授業など一切聞かず、ノートにびっしりと「鈴木さんの股間観察日記」のような怪しいメモを走り書きしながら、チラチラとあたしの下半身を観察してくるのだ。完全にストーカーである。
そんな地獄のような授業時間が過ぎ、放課後。
あたしは「もう無理、早く帰って寝たい……」と魂の抜けた顔で鞄に教科書を詰め込んでいた。股間の振動は隣にマリア(が持つ金玉)がいるせいで、依然として猛烈なままだ。
ブブブブブブッ!!!!
(んっ♡……ふぅ……ふぅっ♡♡……マジで……死ぬ……っ♡♡♡)
あたしは震える手で鞄のファスナーを閉めた。マブダチのミリが「由佳ー、今日こそタピりに行こー」と声をかけてきたが、今のあたしにはそんな気力は1ミリも残っていない。
「ごめんミリ……今日ちょっとお腹の調子が本格的にヤバくて……また今度ね……っ♡」
「えー、マジで顔色悪いじゃん。気をつけて帰りなよー」
ミリが心配そうに去っていき、教室にはあたしと、隣の席で聖書を読んでいたマリアの二人だけが残された。
「さて、鈴木さん」
パタンと聖書を閉じたマリアが、すっと立ち上がった。その手にはしっかりとあの黄金の金玉が握られている。
「そろそろ、あなたの股間に隠された『悪しき(しかし尊い)存在』について、じっくりお話しを伺いましょうか。私の実家の教会へお越しいただけますか? 祓魔術の準備は整っております」
「祓魔術とか物総なこと言わないでぇっ♡♡! ていうかその金玉をあたしに返してくれれば全部解決するんだってばっ♡♡♡!」
あたしが半泣きで訴えた、その時だった。
ズズズズ……ッ!
突如として、教室の窓ガラスがガタガタと激しく揺れ始めた。
外はまだ夕暮れ時だというのに、急速に黒い霧が立ち込め、教室内の温度が氷点下まで一気に急降下する。
「な、なにこれ……!? 急に寒くなって……!?」
あたしがガタガタと震え出すと、マリアの表情が一変した。彼女は十字架のネックレスを構え、教室の天井を睨みつける。
「……来ましたわね。この学校の負の感情が集まって生まれた【下級悪霊】……! 鈴木さん、私の後ろへ!」
黒い霧が凝縮し、教室の天井付近に巨大な、黒いドロドロとした化け物が姿を現した。いくつもの赤黒い目が不味にギラギラと光っている。
『キシャァァァァァァッッ!!!!』
化け物が耳をつんざく悲鳴を上げ、あたしたちに向かって鋭い爪を振り下ろしてきた!
「ハッ! 主の名において命じます! 立ち去りなさい!」
マリアが聖書を掲げ、聖なる障壁を展開する!
しかし——ドォンッ! という激しい衝撃とともに、マリアの障壁にバリバリと亀裂が入った。
「くっ……!? 思ったよりも霊力が強い……! このままでは破られますわ……!」
マリアが膝をつき、抱えていた『黄金の金玉』が手元から滑り落ちた。
黄金のブツはコロコロと転がり——あたしの足元へとピタリと収まった。
ブッッッブッッッッブブブブブブブブブブッッ!!!!!!
「ひゃぁぁぁぁぁぁんっっっ♡♡♡♡♡♡♡!!??!!」
直結! ダイレクトコンタクト!!
第一の宝玉があたしの足元に触れた瞬間、股間のバイブが次元を超越したメガトン級の超・超・超振動を起こした!
授業中の削岩機レベルすら可愛く思えるほどの衝撃。あたしはあまりの快感と衝撃に、「あはっ♡♡♡」と脱力してその場に倒れ込んだ。
だが、脳内の神様(CV杉田)は、ここで最高潮にテンションを上げた!
『ふはははは! 宝玉との距離がゼロになったぞ! 見よ由佳! 神の威光の本当の使い方を! 聖書にも書いてあるだろう? 【光あれ】とな!!』
(ひかりあ……れぇぇぇっ♡♡♡♡!?)
次の瞬間。
あたしの制服のスカートの裾から——目もくらむような神聖で眩い黄金の極光が、ドバーッ!! と放出された!
ビカァァァァァァァァァァンッ!!!!!!
「「「きゃああああああああっっっっ!??!?」」」
光! 圧倒的な光!
あたしの股間から射出された聖なるビームが、教室の天井に蠢いていた下級悪霊を一直線に貫いた!
『ギニャァァァァァァァッッ……!?!?』
下級悪霊は断末魔を上げる暇もなく、神聖すぎる股間光線によって一瞬で浄化され、綺麗な光の粒子となって消滅した。
静まり返る教室。
破れかけたカーテンから夕陽が差し込む中、あたしは股間から煙(?)をふぅーっと吹き出しながら、床にへたり込んでいた。
「んぁ……ふぅ……ふぅっ♡♡……助かった……の……?」
そして、一部始終を目撃していたマリアはというと——。
「す……素晴らしい……っ!」
彼女は両手を胸の前で組み、瞳をウルウルと輝かせながら、神を拝むような体勢であたしの股間に向かって膝をついていた。
「まさか……あなたの股間から放たれる聖なる光が、これほどの浄化の力を持っているなんて……! 鈴木さん! いいえ、【股間の聖女様】……! 私は生涯、あなた様とお供いたしますわ!!」
「聖女様って呼ぶなバカぁぁぁぁっ♡♡♡♡♡♡♡!」
あたしの絶叫が、夕暮れの校舎に虚しく響き渡ったのだった。




