第四話『隣人を愛せよ』
「あ、あのね冴島先輩っ♡……あたし、先輩のこと……昔からすっごく尊敬しててっ♡♡……その……っ♡♡♡」
廊下の壁際、あたしは完璧生徒会長・冴島先輩の制服の胸元にしがみつきながら、上目遣いで必死に訴えかけた。
股間のバイブ(神のレーダー)は最高出力の『削岩機モード』で激動中だ。全身の筋肉がガクガクと引きつり、額からは冷や汗が滝のように流れ落ちている。
冴島先輩は目を見開き、耳まで真っ赤にしてあたしを見つめ返していた。
「す、鈴木さん……? 君がそんな風に僕のことを思っていてくれたなんて……正直、驚いたよ。普段はあまり話す機会もなかったから……」
「そ、そうですよねっ♡! でもあたし、先輩の真面目なところとか、メガネが似合うところとか……超イケてるって思っててっ♡♡! だから……その手にある黄金の……それ……あたしにプレゼントしてくれませんかっ♡♡♡!?」
(頼む! 騙されてくれイケメン! 股間がもたない! あたしの理性が弾け飛ぶ前にその金玉をあたしに寄越せぇぇぇっ♡♡♡!)
あたしは震える手で、冴島先輩が持つ【無駄に神々しい木彫りの金玉】へ指を伸ばした。
冴島先輩はボッと顔を赤くし、「き、君がそこまで言うなら……僕の宝物として取っておくより、君に受け取ってもらった方が……」と、黄金のブツをあたしの手元へ差し出そうとしてくれた。
よし! 作戦成功! ハニートラップ完遂!
そう歓喜した、まさにその瞬間だった。
ブッッッブッッッッブブブブブブブブブブッッ!!!!!!
「ひゃうんっっっっっ♡♡♡♡♡♡♡!!??!!」
突如として、股間が爆発的な怪力で『カツンッ!』と前方に突き出た。
あたしの制御を完全に無視した、意志を持った股間の跳ね上がり。あろうことか、あたしの股間の『神の御神体』が、目の前の冴島先輩の太ももをダイレクトに強打したのだ。
ドンッ!
「あぐっ!?」
「へ……?」
冴島先輩が苦悶の声を上げて腰を抜かし、その場に崩れ落ちた。
メガネがズレ、イケメンの顔が困惑で歪んでいる。あたしは自分の股間を押さえながら、目の前の惨状に絶句した。
(な、なにすんのよバカぁぁぁぁっ♡♡♡! あと一歩で金玉手に入るところだったでしょーがぁぁぁっ♡♡♡♡!)
脳内で激怒するあたしに、神様(CV杉田)はふんっと鼻を鳴らし、無駄に重厚な声で吐き捨てた。
『戯けが! 何が『昔から尊敬してて』だ! 何が『イケてる』だ! 年下のヒョロガリ青二才に媚びを売りおって! 俺様という絶対的な神が股間に降臨していながら、他の男にうつつを抜かすとは何事だ!』
(はぁぁぁぁぁっ♡♡♡!? 嫉妬!? なんで股間のジジイが謎にジェラッてんのよバカぁぁぁっ♡♡♡♡!)
『うるさい! 俺様の御神体が不愉快だと叫んでいるのだ! 聖書にも書いてあるだろう? 【隣人を愛せよ】とな!』
(隣人を愛せよの文脈が狂いすぎてんしっ! なんで隣の男を殴り飛ばす理由にしてんのよ!!)
あたしが頭の中で神様と不毛すぎる大喧嘩を繰り広げていると、倒れ込んだ冴島先輩が手にしていた『黄金の金玉』が、コロンコロンと廊下の床を転がっていった。
「あ、あたしのパーツがぁぁぁっ♡♡♡!」
あたしは慌てて四つん這いになり、転がっていく金玉を追いかけようとした。
だが、その金玉は廊下の向こうから歩いてきた「誰かの靴」に当たって、カチッと音を立てて止まった。
黒いローファー。
その上には、清楚な紺色のシスター服(制服の上からなぜかヴェールを被っている)をまとった、一人の女子生徒が立っていた。
「……あら? これは……なんという清らかな、しかし……どこか不浄で冒涜的な聖気の残滓……?」
透き通るような銀髪に、吸い込まれそうな青い瞳。
可憐という言葉を絵に描いたような美少女が、床に転がった黄金の金玉をスッと拾い上げた。
あたしと冴島先輩が呆然と見上げる中、彼女は十字架のネックレスを胸の前で握りしめ、あたしたちに向かって深々と頭を下げた。
「皆様、初めまして。本日より2年B組に編入いたしました、シスター・マリアと申します。実家はカトリックの教会でして……幼少より悪霊退散の修行を積んでまいりました」
「シ……シスター……?」
あたしは呆然と呟いた。
マリアと名乗った美少女は、拾い上げた黄金の金玉をじーっと見つめ、それからゆっくりと視線の角度を上げた。
その青い瞳が、正確にあたしの『股間』を捉える。
「……見つけましたわ」
「えっ……?」
「この学校に足を踏み入れた瞬間から感じておりました。強大な……あまりにも強大で聖なる気配。ですが……どうしてでしょう? その聖なる波動の発祥地が、なぜ……【あなたの股間】から放たれているのでしょう……!?」
マリアがビシッとあたしの股間を指さした。
「ひゃんっ♡! 刺すような視線を股間に向けないでぇっ♡♡!」
『ほう……カトリックの修道女か。フッ、下界の小娘が俺様の神気に気づくとは、なかなか筋が良いではないか』
(関心してないで隠してよバカ! バレたらあたしの高校生活どころか人間性が終わるんだってばぁぁぁっ♡♡♡!)
マリアは黄金の金玉をぎゅっと抱きかかえると、あたしに向かって一歩踏み出してきた。その瞳には、怪しいまでの決意と好奇心がメラメラと燃え盛っている。
「鈴木さん……とおっしゃるのですね。あなたの股間に宿る『神聖なる(そして恐ろしく猥雑な)力』……見過ごすわけにはまいりません! 私は今日から、あなたの【隣人】として、その股間の秘密を解き明かしてみせますわ!」
「隣人って……え、まさか……っ♡!?」
「ええ! 担任の先生にお願いして、あなたの『隣の席』を確保していただきました!」
「ギャァァァァァァッっ♡♡♡♡♡♡♡!!」
あたしの絶叫が廊下に響き渡った。
完璧生徒会長の冴島先輩(金玉の元・所有者)は腰を抜かして失神し、
新たに現れた天然シスターのマリアは「黄金の金玉」を手に抱えたまま、あたしの『隣の席』に降臨することが決定。
そしてあたしの股間では、神様(CV杉田)が「フッ……隣人か。面白くなってきたではないか」と呑気に笑っている。
(全然面白くない! 助けて! あたしの股間と高校生活、これからどうなっちゃうのぉぉぉぉっ♡♡♡♡♡♡♡!?)




