6、abyss
俺は屋上に無数に立っている自殺防止用の鉄の柱を皮肉じみて見ながら空を見上げた。
横に同じ様に横になっている瀬本を見る。
瀬本は口をもごもごしながら「...先輩。私の事好きって事ですか?」と言い辛そうに尋ねてくる。
その言葉に俺は仰向けになり空を見上げる。
「...好きって感情が分からないから確かめたかった、という感じかもしれない」
「じゃあ明確に好きって事じゃないって事ですよね」
「そうだな。俺はお前を利用してしまったかもしれない。謝る」
「いえ。良いんですよ。私...先輩が好きですから」
その言葉を聞きながら俺は仰向けで目を閉じながら瞼の内側を見る。
どんなに暗くても晴れているので太陽で一応は明るい。
ホメオスタシスを感じる。
「先輩」
「...ああ。どうした」
「私は先輩が好きです。その上で考えてみました」
「?」
「私、子供も欲しいんですよね」
「早すぎるわ。馬鹿か」
「ですね。アハハ」
それから俺は起き上がってから瀬本の髪を梳いた。
瀬本はゆっくり俺の手に手を添えてくる。
横になったまま俺をつぶらな瞳。
赤い顔で見てくる。
俺はその姿を穏やかに見ながらまた空を見上げる。
「どうしたら先輩に好きって感情が伝わるでしょう?」
「...もう伝わっているから気にするな。あとはベクトル的に俺が好きになれば良いんだよ」
「相対的理論みたいに歪んでいますね」
「おう。...アインシュタインかお前は」
「私、そういう哲学的なものが好きなので」
俺は青い空を見上げたまま「俺は福祉だな」と言う。
そんな呟いた言葉に「先輩のお父様の関係ですか」と聞いてくる瀬本。
俺は答えに迷う。
だが。
「そうだな。父親が病気で視力が落ちたからな。この世界でも変わらなかった」
「素敵ですよ。先輩。それで福祉関係を目指すのも」
「お前はこの世界ではどうなりたい?」
「私ですか?私は...貧困を解決するような職業に就きたいですね」
「...そうか」
「先輩と同じ福祉も良いかもしれません。前世ではろくな職業に就職出来なかったので」
そんな複雑な思いの言葉に「瀬本は一生懸命にやってる」と瀬本に真剣な顔をして答えた。
瀬本は「え?」と俺を見る。
そして俺は立ち上がる。
それから俺は瀬本に手を伸ばした。
「前世がそんな感じならこの世界では変えたら良いんじゃないか」
「変える...」
「そうだな。せっかく10年前に戻って来たし。俺は好きな様にやるつもりだ」
「...吉鶴先輩の事を忘れて、ですか?」
「ああ。吉鶴はもう忘れる」
そう答えながら俺は瀬本を起こす。
それから俺達は見つめ合い互いに柔和な笑みを浮かべた。
そしてチャイムが鳴る前に教室に戻る。
男子達に詰め寄られてしまった。
だけどチャイム寸前だったので難は逃れた。
☆
放課後になってから俺はゆっくり教科書を纏め鞄に詰め席から立ち上がる。
終業の挨拶も終わった。
後は帰るだけだな。
そう思いながら居るとドアがゆっくり開いた。
瀬本が直ぐに顔を見せる。
「先輩」
「?...おま。...どうしたんだ。瀬本」
「はい。一緒に帰りましょう」
教室が凍る。
そして教室に残っていた男子達が「くそぉ!!!」と言ってから涙混じりに出て行った。
女子達は「キャーキャー!」と言っている。
俺は苦笑いを浮かべその周りの景色を見てから最後に瀬本を見た。
「瀬本。いい加減にしないと。お前は学校で人気者なんだぞ」
「アハハ。確かにですね。...さっきもラブレター貰いました」
「そういうこった。だから...」
「でも」
そして俺にゆっくり近付いて来る瀬本。
それから俺にハグをしてきた。
教室にまだ女子生徒が居るんだぞ!
何をしているんだ!
「先輩。やはり私は先輩が好きです」
「お前なぁ...」
教室の残っている女子生徒は「やっぱり好きなんだ」とか。
「凄い!お互いにラブラブ」とか言っていた。
俺は額に手を添える。
そして「瀬本...気持ちは分からんでもないが...人の目が」と言う。
瀬本はゆっくり俺から離れた。
「えへ」
「...ったく」
周りを困惑して見つつ。
最後に時計を見る。
それから俺は「帰るぞ」と言いながら瀬本を連れて行く。
教室は「キャーキャー」と叫び声が上がっていた。
☆
「先輩」
「なんだ」
「呼んでみただけです」
「ったく...お前のせいで大騒ぎだぞ」
「えへへ」
この瀬本という後輩は前世でもこの世界でも本当に扱いが大変だ。
考えながら俺は苦笑する。
そして俺達はオレンジ色の夕日が差し込む坂道を歩く。
ゆっくり下っていた。
「先輩」
「何だ。お前な。また呼んでみたとかだったら...」
「いえいえ。好きって事を言いたくて」
「止めろって。というか容赦が無くなってきたな!」
「気のせいですよ♡」
俺はその言葉を聞きながら歩く。
そうして歩いていると路地裏から「止めて」と声がした気がした。
瀬本は目をパチクリしてから路地裏を見る。
「何か聞こえましたね」と眉を顰めた。
俺は「だな」と言いながら路地裏を覗く。
そこで...とんでもない景色を見た。
「...吉鶴?」
俺は眉を顰めた。
路地裏で吉鶴深春が不良集団に囲まれ青ざめていた。
そう。
これは...俺が吉鶴に好かれるきっかけになったあの景色そのままだった。
イベント発生と言った所だが。




