11、emergency
何故か分からないが。
いや。
分かっていたのか?
奴が。
つまり吉鶴が前世の記憶を思い出してきている。
一体何が起こっているのか?
「やれやれ」
そんな事を呟きながら俺はクラスに戻り窓から外を見ていると「大丈夫?」と声がした。
俺はその声の方を見る。
杏奈が心配そうな顔をしていた。
その顔に「まあな」と返事をする。
「死んでないし大丈夫だ」
「そう?」
「ありがとうな。心配してくれて」
「まあね。でも大丈夫なら良いけど。心配だね」
その言葉に俺は笑みを浮かべる。
それから「ああ。まあだよな。溜息ばかりだしな」と言う。
杏奈はそんな俺の言葉に「んー、悩みがあるなら聞きたいな」と返事をした。
「悩みというか。まあそうだな。テストとか悩んでいるんだ」
「あ、そうなんだね」
「それに一応、高二だしさ。だからやれる事はやりたいんだよな」
「それで悩んでいるんだね」
まあ実際は全てが嘘だが。
考えながら俺は杏奈を見る。
杏奈は必死に悩んで居た。
俺はその姿を見ながら無言になる。
それから杏奈を見ていると杏奈は「あ、じゃあ一緒に買い物行かない?」と切り出した。
「買い物?」
「うん。お買い物。気晴らしになるかもよ」
「成程な。たしかにそれは一理あるかもしれないな」
「うん。だから買い物に行かない?」
「それはデートとかじゃ無いよな?」
「違うに決まってるでしょ。君には彼女が居るんだから」
そう言いながら苦笑いを浮かべる俺達。
そして授業のチャイムが鳴った。
俺はそのチャイムを聴きながら「サンキューな」と杏奈に告げる。
杏奈は手を挙げて戻って行った。
☆
杏奈と別れ俺は授業に集中した。
将来的にどうなるかも分からない今。
本当にどうしようか。
過去にタイムリープしたんだ。
その分、結奈の為に頑張りたい。
「やれやれ」
そして授業が終わり。
俺達は放課後を迎えた。
それから俺は教科書を仕舞っていると教室のドアが開いた。
そこに結奈が居た。
「ああ。結奈」
「紗千さん」
そんな会話をしながら居ると「彼氏さん、悩んでいるんだって」と体操着に着替えた杏奈が言ってきた。
余計な事を言うなよ。
そう考えながら俺は苦笑い。
結奈を見ると結奈は眉を顰めて居た。
ヒソヒソと耳打ちする。
「さっきの件ですか」
「ああ。まあ」
すると「?」を浮かべている杏奈に結奈が「大丈夫ですよ。喜多原先輩」と笑顔を向けた。
杏奈は「何を話していたの?」と聞いてくる。
「テスト勉強をするかしないかの話です」
「ああ。成程ね。なら今度集合しない?」
「集合か?」
「テスト勉強だよ」
杏奈の言葉に結奈が「良いですね。2週間後にテストですし」と優しく言う。
7月、夏休み前にテストだな。
そうふと思い出しながら俺はカレンダーを見た。
「だね。じゃあ決まりかな。テスト勉強しよ。みんなで」
「ですね」
そんな話をしてから俺は杏奈に「数学、教えてくれるか?」と言う。
杏奈は「全く。君はそういう部分があるからね。彼女が居るんだから」と話す。
俺は苦笑いで「だな」と言ってから「すまん」と続けて言った。
「あはは。相変わらずですね。紗千さんは」
「確かにね。まあこれが紗千だから」
「まあ確かにですね」
それからクスクスと笑う2人。
俺も苦笑しながら2人を見ていた。
そして杏奈は「じゃあ。部活に行くね」と手を挙げた。
杏奈の言葉に俺達は「ああ」という感じで返事をしてから杏奈を見送る。
「どうしますか」
「どうしますか、だな。本当に」
「私は吉鶴先輩の事、複雑です」
「だな。俺も同意見だが」
そして俺達はクラスメイトに挨拶をしてから教室を後にして帰った。
一緒に下駄箱に来てから靴を出して歩き出す。
「紗千さん」
「?」
「テスト勉強。楽しみですね」
「ああ。まあ確かにな」
そんな感じでゆっくり歩いて帰宅する。
そして俺は陰の分かれ道から来たそいつに会ってしまった。
吉鶴に、だ。
☆
「吉鶴。何をしている」
自宅の近くで結奈と別れてから帰宅していると複雑な顔をした吉鶴に会った。
何をしている。
まるで隠れている様な感じだった。
「あの。つけ回したつもりは無いの」
「そりゃストーカーになるだろうからな。何の用事か聞いても良いか」
「あの。わた、私は貴方と前世でお付き合いしていたのかな?」
「それはどういう意味だ」
「頭痛がずっとしていて。その際に見た世界で、私は」
その言葉を言ってから吉鶴は「私は」と言う。
俺は無言で吉鶴を見た。
すると吉鶴はガタガタ震え始める。
「私は君を裏切ったの?」
「吉鶴。落ち着け」
吉鶴は涙を浮かべる。
確かに愚かなる話だが。
だがその前に。
何かコイツおかしいんだが。
「吉鶴。よく分からない。俺はお前が何を言っているのかが」
そう切り出すと吉鶴はゆっくりと鞄から何かを取り出した。
それは百均の製品でしかも包丁の様に見える。
な。
「吉鶴!?」
吉鶴は包丁を首に添えた。
それから目を虚ろにして吉鶴は「わた、私は」と言ってから「君を裏切った前世があるみたいだから」と言う。
コイツ!
「吉鶴!前世がどうあれ!死ぬべきじゃない」
「どうしたら良いか分からない。だけど私の見たその景色は死に値する」
「お前」
俺は吉鶴を見ながら「確かにお前がやった事は万死に値するのかもしれない。だがお前に今死なれると面倒だ」と言う。
それから「すまない。嘘を吐いた。俺はお前が言っている前世の記憶を持っている」と話した。
吉鶴は見開く。
「だが吉鶴。俺はお前が生きる事が反省と思っている」
「あはは。ありがとう。でも生きる価値は無いのかなって思う」
確かにそうなのかもしれないが。
そう考えながら俺は「だが」と顔を吉鶴に向けてから「吉鶴。必要は無い訳じゃない」と言った。
「現実から甘い考えで逃げるな」
そう言うと吉鶴は包丁を地面に置いた。
その包丁を蹴飛ばしてからゆっくり吉鶴を見る。
吉鶴は涙声で「記憶は半分しか思い出してないけどさ。絶望したんだ」と言う。
それから啜り泣いた。




