第6話 気を取り直して・・・
「うおー! 武器がいっぱい!」
俺とタクオ、シュナの三人は、今日は異世界にある「拠点」を訪ねに来た。
「これは拙者の服ではござらんか?」
「すごい……こんな場所があるなんて」
アホほど巨大な木をくりぬいて造られたツリーハウスに、俺たちがクエストで使う物──武器や装備のすべてが保管されている。今日はクエストは休んで、ここを見学しろとのミアからのお達しだった。戦いはしないので、制服のままやってきた。
案内役は、学園の三年生で《修繕師》のガトウ先輩。ここにある装備の管理を担当し、修理はもちろん、希望すれば新しい武器の調達もやってくれるとのこと。
「この、ムチ? みたいなのは?」
「二年のレイジの物だ」
「この黒いローブはどなたの服ですかな?」
「三年のハノイだな」
誰だかはまったく分からんが。
戦闘時は、ここにある武器が使用者に「転送」される仕組みだ。服もそう。てっきり俺は、不思議な力で生み出していると思っていただけに、ちゃんと実体が存在していたことに驚いた。
「これ、シュナが使ってた銃じゃないか?」
「ほんとだ」
作業台に置かれた二丁のピストル。ガトウ先輩は、「修理済みだ」とシュナに向かって言った。
渓谷のクエストで投げ捨てた際に、壊れてしまっていたみたいだ。クエスト後、拠点に戻ってきたピストルにガトウ先輩が気づき、直してくれたんだという。
「すみません、私のせいでお手数おかけして……」
「いや、俺も、たいして手入れをしていなかった。銃を使う生徒が現れるとは思ってなくてな」
「あの──」
シュナは、何か言いにくそうに言葉を切る。
「ライフル……は、あるでしょうか」
「長銃か? ちょっと待ってろ」
ガトウ先輩は奥の部屋に入っていった。去り際に、「それは絶対触るなよ」と、壁にかかった藍色の双剣を指さした。
鉱石のように鈍く輝く刃に、金の彫刻。
かっけぇ~……!
「もしかして、ガトウ先輩の武器だったり?」
「くう~! 双剣使いとは男のロマンでござる!」
「幻術とか使いそうだけどな」
「意外と前線イケイケキャラなんでござるな」
銃を抱えて戻ったガトウ先輩が、「俺のじゃない」とぶっきらぼうに答えた。やべ、聞こえてたのか。
「木蓮は、現実でも射撃をやってるんだってな。ミアから聞いた」
「はい、そうなんです」
「競技のライフルに似ているのは、ここら辺かな。あとはガチのスナイパーライフルみたいな武器しかない」
「わあ……!」
シュナの表情は、ピストルを見た時よりも明らかに嬉しそうだ。ガチのスナイパーライフルってやつも見てみたいけどな。
《あなたたち》
「!?」
ミアの声だ。気を抜いていたから驚いてしまった。
《やっぱり今からクエストに行ってくれない? 今日はレイジに任せようと思っていたんだけど、なかなか部室に来ないのよ》
「おお。俺は大丈夫」
「拙者も!」
「私も。この武器、使ってみたいし」
ガトウ先輩は、「じゃ、俺は戻ろうかな」と伸びをした。
*
「って、なんだココ!?」
ミアの力で移動させられた先は、辺り一面が真っ青な空だ。
もちろん雲もある。ただ、それは”下”にも見える。
《浮島ペプロス。その名の通り、空に浮いている島よ》
「天空の城ラ──」
《それくらい大きいかもね》
服はしっかり着替えさせられ、クエストの準備は整った。
大小さまざまな浮島を眺め、タクオは「本当に異世界なんですなぁ」と感嘆する。俺も異世界耐性はついてきたと思ったが、今回は想像の斜め上をいく光景だ。
「ここにも魔物が出るのか?」
《もちろんよ》
何を今さら、って反応だ……。
心の準備ってもんがいるだろ。
「むむっ。さっそくアーティファクトの反応を感じますぞ」
「よっしゃ、行くか」
タクオが指さす先には、古びた遺跡がそびえ立つ。
《ちょっとだけ、今の読書部の状況を話しておくわ》
向かう途中で、ミアが語り掛けてきた。
《今年の二年生、三年生には、戦闘要員が少ないの。他の部活や委員会と掛け持ちしていて、滅多に顔を出さない生徒もいてね。毎日参加できる戦闘要員といったら、二年生のレイジ、一人だけ》
ちょくちょく話に出てくる、レイジ先輩か。
《魔物のいないエリアにも、アーティファクトは生成されるわ。でも、そこは戦闘ができない部員に任せたいの。あなたたちはタクオの能力で探索できるし、シュナという戦力もいる。魔物が出る危険なエリアを、今後も任せることになると思うわ》
なるほど、そういった事情が。
「アーティファクトの探知は、他の先輩方はできないのでござるか?」
《ええ。二年に《探索士》のクロエがいるけど、大まかな位置しか分からないし。普通は、探知するための道具が必要なのよ》
タクオ、意外と凄い能力だったんだな。
いや、能力すらない俺が「意外」なんて言うのは失礼だが。
《去年の三年生は戦闘要員ばかりだったから、困ることはなかったの。私としたことが、彼らが卒業した後のことをまったく考えていなかったわ》
はぁ、と小さなため息が聞こえる。
「となると、もっと部員をスカウトしたいな。シュナも、前線でバリバリってタイプじゃないし」
「そうね……この前みたいな戦い方は、あまり上手にできないかも」
「確かに、シュナ殿のような可憐な女性に、魔物を押し付けるのも申し訳ないでござる」
タクオの言う通り。
いくらシュナが攻撃要員と言ったって、じゃあヨロシク、なんてわけにはいかない。気持ち的に。
「ごめんな二人とも……俺が、剣とかハンマーとか使えればいいんだけど」
「焦る必要はないでござる!」
「そ、そうだよ。私も頑張る」
《この前は悪かったわね。私は、シュナがいけると思って戻さなかったけれど、本当に危ない時は呼び戻すわ》
「マジで頼むぞ~?」
《そっちの世界で死んでしまったら……ね》
「え、ど、どうなんの……?」
そういや考えたことがなかった。
いや、考えたくなくて、あえて目を逸らしていた。異世界で死んだらどうなるのか?
《それは……もう、ね……》
「嘘ー!?」
《だから気を付けて》
「異世界では肉体が強化されて、実は簡単に死なないってことは……?」
《現実世界と同じ。落ちたり、切られたり、潰されたり──》
詳しく言うな!!
「念のため聞いとくけど、今までにそんな人は……?」
《いないわよ》
「ほっ……ちょっと安心した」
《一人目にならないでね》
「うるせーー!」
そんな悲しい第一人者になってたまるか。
いざという時はミアが呼び戻してくれるとはいえ、調子に乗ってはいけないな。
「はは……ミア殿、迅速なご判断を願いますぞ? 拙者は階段を二段飛ばしで降りて骨折したことがありますゆえ……」
「ス○ランカーかよ」
次々と明らかになる、異世界の秘密……。
毎回異世界にぶち込んだ後で説明するのも、なかなかたちが悪い。
「シュナ、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫……早く、長銃を使ってみたい……」
ああ……俺らなんかより全然大丈夫そうだ。目がこえーよ。
「反応は上の方でござる」
タクオは遺跡の入り口で立ち止まり、遺跡のてっぺんを指さした。
よし、さっさと見つけて生きて帰ろう。




