第5話 激闘!風紀委員会
私は門陽学園高等部の一年生、鶏山ササミ。
中等部から学園に通っていて、風紀委員長も務め上げた私は、進学後ももちろん風紀委員になったわ。高等部はよそ者も入ってくるから、風紀の乱れにはいっそう注意しないとね。
初日からさっそく問題児が一人。門陽学園の伝統ある制服を汚して登校し、授業中は先生の話も上の空。髪をオレンジに染めて、根元は真っ黒でプリンになっているのがだらしない。
「ねー、風見ってこのクラス?」
はっ、あの赤いリボン。三年生のギャル軍団!
「あ、俺ですが」
「やっと見つけたー! これ、この前コーヒーこぼしちゃったお詫び!」
学園はメイクもオシャレも自由とはいえ、爪長すぎ、バッグにストラップ付けすぎ! 私が三年になったら、もっと厳しく取り締まるつもりよ。
「そそそそんな、お詫びなんて大丈夫ですよ」
「いーから!」
「なんですかこれ、テレホンカード?」
「違うよぉ、スターボックスのギフトカード!」
「わ~、ありがとうございます」
「じゃ!」
問題児とはまさに、たった今ギャル軍団と話していた、外部生の風見満。
あんな不良女子とも知り合いだなんて、やっぱりろくな奴じゃなさそうね。
「カザミ殿、大丈夫でござったか!?」
「おう!」
「あんな肉食系ギャルに捕まるなんて、カザミ殿は何をやらかしたでござる!?」
「どっちかと言うとやらかされた側だけど……」
外部生の寿司川卓夫も。
パッとしない男子だけど、風見と仲が良いならこいつも要注意ね。
「でも俺、スタボとか行かないんだよなぁ」
「拙者も、あんなイケイケな店になど近づけもしないでござる」
「そうだ。シュナにあげようかな」
懸念点はまだまだあるわ。
こいつら、冴えない男子二人でコソコソやっているだけならまだしも……。
「え、これを私に?」
「貰ったけど、俺は使わなそうだから」
「いいの?」
容姿端麗、品行方正な皆の憧れ、木蓮さんにまで手を出すなんて!
内部生の彼女は、中等部の頃からよく知っている生徒。常に一人で大人しかった彼女が、高等部で変な男に引っかからないか不安だったけど、心配は現実になってしまったわ。
「じゃあ、放課後三人で行かない?」
「え゛、俺たち店の入り方とか注文の仕方とか飲み方とか分からないぞ」
「別に普通だけど……」
「練習してから行った方がいいのではござらんか?」
「わ、私が教えるよ……」
もう、我慢ならない!
「ちょっといいかしら、風見満!」
「うおっ!? 鶏山さん?」
「……あなたたち、『読書部』に入ったらしいわね?」
そこら辺は調査済みよ。でも、とても読書なんてしているようには見えないわ。
「本当に本を読んでるの? 遊んでるんじゃなくて?」
「う、うぐ」
「どうなの? ええ?」
「任せるでござるカザミ殿。鶏山殿、拙者は文豪には詳しいでござるよ!」
ほう、例えば?
「中島敦の『山月記』! 獰猛な虎に変身し戦うのでござる」
「そんな話ですっけ?」
「太宰治の『人間失格』。あらゆる攻撃を打ち消す無類の力でござるが、太宰自身にいささか問題がありまして──」
「違くない? 何の知識?」
何を言っているかは分からないけど、有名どころは知っているようね。
でも、風見はどうかしら?
こんなちゃらんぽらん男、どうせ漫画しか読んでいないんでしょう。
「読書部なら当然、司馬遼太郎なんかも読んでいるんでしょうね?」
「しば……?」
「た、確か”竜馬がゆく”の作者でござる……!」
「ああ、あー! 坂本龍馬! 知ってる知ってる」
……これは。
「坂本龍馬といえば幕末? てことは新選組?」
「そうでござるか……?」
「土方歳三とかかっこいいよな」
「沖田総司も!」
「高杉晋作……は違うんだっけ?」
「それは敵キャラでござる……!」
くそっ、こいつら!
私はこう見えて読書家なのよ。だから……。
「あなたたちみたいに、新選組かっこいい~とか言ってるミーハーが大嫌いなのよーーー!」
「やばい」
「逃げるでござる!」
「行くぞ、シュナ!」
あ、逃げた!!
***
ひえー、エライ目にあったぜ。
「フラペチーノとやら、美味でござる!」
放課後、学園内のスターボックスでひと休みした。この学園、施設が充実しているのはいいが、普通にチェーン店も入ってるから、うっかりしてるとお金が溶けていく。
ギフトカードには二千円入っていたが、三人で注文したら一瞬でなくなった。恐ろしい店だ。
「にしても、なんだったんだ。さっきの」
「鶏山殿は、確か風紀委員でござったか」
「俺らは真面目な生徒だっつの。まったく……」
さて、今日もクエストに行かされるのか。
身体は回復するといえど、毎日だと頭が疲れてしまう。
「お疲れ様でーす」
扉を開けると、ミアが一人机に向かっている。
「よっしゃ、今日はどんなクエストかな~」
「今日は行かなくていいわ」
「え、ほんと?」
どうやら、既に向こうに行った部員がいるらしい。
その時、ものすごい勢いで扉が開き、仁王立ちの鶏山が姿を現した。
「ふふ……やっぱり」
「な、なんだよ!?」
「読書部というのに本がまったくないわ! 部活動の名を借りてだらけるのは許されないわよ?」
「いや、これは……」
「ちょっと失礼するわ」
鶏山はずんずんと部室に乗り込んだ。つけてやがったのか。俺はどうしたもんかとミアを横目見るが、こいつはいたって冷静だ。
ミアが、ちょんちょんと俺の袖を引いて、耳打ちする。
「今から一人、呼び戻したいんだけど」
ああ、なるほど。
とりあえず任せろ。
「あっ、校舎の隅で煙草吸ってる奴が!」
鶏山は「なんですってー!?」と窓に駆け寄った。
よしミア、今のうちだ。
ポン、と現れたのは、赤のネクタイをしめた三年生の男子生徒。
そういや、俺たち以外の部員を見たのはこれが初めてだ。こんな真面目そうな生徒も、ミアの犠牲になっているのか……。
「装備はひと通り直しておいた。レイジに、次破いたら買い替えだと伝えておいてくれ」
「ご苦労様。ガトウ、この子たちがさっき話した新入生」
ガトウって名前なのか。ガトウ先輩は俺たちを見て、「よろしく」とだけ呟いた。
鶏山は「ちっ、見失ったわ……」とぶつぶつ言いながら振り向く。
そして、
「が、我頭委員長!? いらっしゃったんですか!?」
と、ガトウ先輩を見て目を丸くした。
「私、風紀委員の鶏山です! 聞いてください、こいつらは読書部のくせに、本も読まず遊びほうけているんですよ!」
「あー、うーん……」
ガトウ先輩はネクタイを締めなおし、ポリポリと頭をかく。
「読書部は大丈夫だ。ちゃんと読書をしている」
「で、でも、本なんて全然ありませんよ?」
「個人で本を持ち寄って読んでいる」
「そうなんですか……?」
「何しろ俺が読書部なんだ。読書部の風紀は心配しなくていいぞ、うん」
鶏山は「はっ、そういうことであれば……!」と姿勢を正した。
「大変失礼いたしました!」
「いいや。今日もご苦労」
「では私、先ほどの喫煙野郎を探しに行ってまいります!」
「気を付けて」
ふう、嵐は去った……。
ガトウ先輩、まさかの風紀委員長だったのか。
「な、なぜ読書部に?」
「なぜって……こんな学校で風紀委員長なんかやってたら、まともな部活はできないだろう」
くたびれたサラリーマンみたいな表情だ。
確かに、ただでさえ生徒数が多いのに加えて、肝心の風紀委員にもあんなのがいればな……。
とはいえ、ただ読書部にいるだけというのをミアが許すはずもなく、アーティファクト集めには協力しているんだそう。こんな風紀とはかけ離れた存在、よくも受け入れたもんだ。
ガトウ先輩は、「ところで」と、俺たちの手にあるスタボのフラペチーノを指さした。
「校舎内に持ち込んでいいのは、門陽学園が運営する飲食店の商品だけだ」
はっ、そうだった!
俺たちは、急いでフラペチーノを飲み干す。
「うぷ……」
「甘いでござる……」
「一気飲みは初めて……」
三人で目を見合わせ、苦笑した。




