第4話 クールビューティー、スナイパー!
「じゃあ、とりあえず……俺のことはカザミでいいよ」
「拙者もタクオとお呼びください!」
「私のことも、シュナ、でいいよ」
シュナがついてくると決まれば説明だ。
「かくかくしかじか」
「うんうん──」
収集士のタクオを先頭に、目的地に向かう。シュナは説明にコクコク頷き、最後に「つまり……カザミ君とタクオ君は超能力者?」と首をかしげた。
ミアの声はまるっきり聞こえなくなった。あいつ、説明を俺たちに投げたな。
「全部ミアの力だよ。俺はなんも特別じゃない」
「私だって」
いや、シュナは違う。
俺だって、むやみやたらに付き添わせたわけじゃないんだぞ。
「”その時”がきたら、特殊な力が開花する……?」
「うん」
シュナの能力は大体予想がつく。
俺なんかより確実に役に立つだろう。タクオだって、漫画でもアニメでも探求心がありそうだから《収集士》だろうし、本人の得意分野が能力に直結すると思っている。だから、シュナは攻撃系な気がする。
得意分野……俺は、何なんだろうなぁ。
「むむっ、反応が強まってきましたぞ」
俺たちは、うっそうとした渓谷に足を踏み入れた。
ザーザーと音を立てて流れる川に沿って、砂利道を川上方向に進む。流れで削られた大小の石が散乱し、足場がかなり悪い。
「足元、気を付けるでござるよ~」
「シュナ、大丈夫kぉあっ!?」
不安定な石を踏んでしまい、真っ先に俺が転んだ。
「カザミ殿~!」
「ごめんごめん」
転送時に着替えさせられた服に、膝当てがあるおかげで大したことはない。ダサい服だと思って悪かった。
「綺麗な場所……」
「だな~。マイナスイオンとか出てそう」
「空気が澄んでおりますなぁ」
道は滝つぼで行き止まりだ。
水しぶきがミストになって、歩いて火照った身体にちょうどいい。
「中学の頃、沢登りとかあった?」
「ありましたぞ、全身ずぶ濡れになるやつ!」
「そうそう、ふざけてしょっぱなから川に飛び込むんだよな」
「常に誰かがヒルの餌食になっていたでござる」
シュナが、くすりと笑った。ちょっと安心だ、ずっとふさぎ込むような顔だったからな。
いや、いきなりこんな状況でニコニコ笑うのも無理な話だが。
「お前さんたち!」
突然聞こえた声に、全員びくっと身構えた。
藪をかき分けて出てきたのは、釣竿を持ったおっさんだ。
「ああ、怪しいもんじゃねえ、向こうの沢で釣りをしてたんだ」
「言葉が分かる……!」
「オークを見たから早く逃げた方がいい」
「オーク?」
おっさんはいそいそと沢を下って行った。
タクオが「ゴブリンのような生き物ですかな?」と頭をひねる。
「困りましたな、アーティファクトの反応はこの辺りでござるが……」
「なあミア、オークっていう生き物がいて危険なんだとよ」
《そうなの。それじゃあ、急がないとね》
知ってた。この程度で帰してもらえるとは思っちゃいない。とんだブラック部活だ。
「ちゃちゃっと見つけて戻ろう」
「ですな、昨日のような獣が出てきたら拙者は──」
その直後、キーッという金切り音と共に、二足歩行の何かが襲い掛かってきた。
全身、コケみたいな色をした小人が棍棒を振り下ろしたので、シュナを抱えて倒れ込む。
「タクオ、早くアーティファクトを!」
「了解でござるっ……!」
これがオークか!?
俺の投げた石がちょうど目に当たり、オークは呻いてよろめいた。起き上がろうとシュナに手を貸すと、彼女の手には今までになかった、小さな銃がそれぞれ握られている。
「シュナ! それ、手にあるやつ!」
はっと両手を見たシュナは、ようやく気付いたようだ。
「ぴ、ピストル?」
「それがきっと能力だ!」
「そんな、私、ライフルしか持ったことが……!」
耳をつんざくような鳴き声と共に、オークは走り出す。
「危ないっ!」
狙われたのはタクオだ。
反射的に前に出ると、肩に強い痛みを感じた。
「カザミ殿、血が!」
「いででで……」
まずいまずい、非常にまずい!
そんでもって、ピンチなのに俺はなんで開花しないんだよ!
怒りに任せ、オークの腹めがけて蹴りをかました。体格はこちらが優勢なおかげで、俺の素人キックでもオークは大きく後ずさる。
「シュナ、いけるか!?」
「あ、そんな、でも、二丁持ちなんて……それに早撃ちは苦手で……」
いかん、シュナも動転してる。
俺は馬鹿だ。
こんな、いたいけな女の子に頼ろうとしてたなんて……!
「大丈夫か、シュナっ」
「吸って、吐いて……吸って、吐いて……」
「ミア、聞こえてんだろ!」
俺だって、何の力もないくせにシュナだけに期待していた。
こんな状況でも開花できない俺ごときが……。
《三人とも。続行不可能ならこちらに戻すわ》
「無理だって! 早く帰してくれ!」
《でも、シュナはもう開花しているわ。私は信じてるけどね》
「マジで危な──」
「カザミ殿──! シュナ殿──!」
ーーーーー
ーーー
その時、守名は父の言葉を思い出した。
『守名。撃ちたくないなら銃を持つんじゃない』
『だって、ひぐっ……吸って吐いて~しても、震えるんだもん……』
撃てども撃てども、狙った場所に飛んでくれない。
『どうせ守名は、お兄ちゃんみたいにできないもん……!』
銃口を向けたら、余計な雑念は振り払う。
振り払いすぎるあまり、自分が何者かも分からなくなってくる。
『守名』
父は決して慰めず、毎回のように同じ説教をした。
『銃を持ったお前が、言っていい言葉はひとつだけだ』
『ううっ……でもぉっ……』
『言ってみなさい、守名』
『ぐすっ、ひぐっ……』
守名がぐずると、父はいつもその言葉を言わせた。守名は泣き言も屁理屈も断ち切って、それを言わなければならなかった。
幼い守名は、やけくそになりながら教えられた言葉を口にする。
ーーー
ーーーーー
ひるんだオークが起き上がり、棍棒を振りかざした。避けられない──直感した俺は、せめてもとシュナに覆いかぶさる。
シュナが、スウっと大きく息を吸ったのが、肩の上下で伝わった。
「木蓮守名に、狙えぬ的はございません!」
シュナは左手のピストルを投げ捨て、一丁を両手で構えて引き金を引いた。
「ギィーーーッ!」
オークはよろめいたが倒れない。シュナは次々と弾丸を撃ち込み、暴れるオークをその場にとどめるように、腕や足を狙った。
たまに外れた弾が地面に当たると、小石と土が巻き上がる。俺は肩の傷を抑え、タクオの元に走った。
「どうだ、タクオ!?」
「あった! 見つけたでござるよ!!」
タクオは、前回よりも大きく、輝きも強いアーティファクトを拾い上げた。
《三人とも、ご苦労様》
ミアの天の声が響き、瞬きした次の瞬間には、俺たちは平和な部室に座り込んでいた。
「はぁ、はぁ……」
「カザミ殿、怪我は!」
「はっ……!」
肩に当てた手をそっと上げる。傷は綺麗さっぱり、痛みもない。
「よかったでござるぅ~!」
「お、おう……」
「拙者が、見つけるのが遅かったせいでござるぅ~」
鼻水たらしまくりで近寄るな、暑苦しい……。
無事にクエストも達成して、戻ってきたんだから何よりだ。それに。
「シュナ、凄いな!」
「助かったでござる!」
「いや……いえ、力になれてよかった。あと、二人を誤射しなくてよかった……」
シュナもどっと大きな息を吐き、その場で脱力する。確かに、傷も元に戻るとはいえ、銃で撃たれた痛みは想像するのもためらわれるな。
「ていうか、ミア~!?」
「カザミ殿、どうどう、深呼吸でござる……!」
アーティファクトを受け取ったミアは、素知らぬ顔で席につく。
はあ、情けない……。この怒りは自分に対してもだ。またもシュナに先を越された焦りと、巻き込んで怖い思いをさせてしまった不甲斐なさ。
……嫌われたかな。
「カザミ君、タクオ君」
そりゃ、ちょっとはカッコイイところを見せたい下心もあったけど。
「その……これからもクエストに協力させてほしい」
まさかの一言に、俺とタクオは顔を見合わせた。
「いいのか!?」
「いいんでござるか!?」
「私でよければ……」
……。
前言撤回。
貴重な攻撃職だもん。いいに決まってる!
「スナイパーだ、スナイパー!」
「いえ、私はスナイパーとは呼べないような……」
「シュナ殿、今度あの銃を構えて、”狙い撃つぜ!”と言ってみてくれませぬか!?」
「よく分からないけど嫌だ……」
わいわいと騒ぐ俺たちの横で、アーティファクトが光を放ち、水晶に溶け込んだ。
シュナは窓から夕焼けの空を見上げて、ちょっとだけ涙ぐんでいるように見えた。




